上 下
36 / 69
第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達

泥の剣鬼

しおりを挟む
 戦いは続く。

 高速で振るわれる泥の騎士の剣。それをタクマは受け流して別の泥の騎士に叩きつけさせる。

 上半身が吹き飛んだが、再生の兆しアリ。

 イレースが放った7つの矢。それが泥の騎士の7つの急所を射抜いた

 まだ立ち上がる。再生の兆しアリ。

「一旦下がれ!」

 ロックスが再び命を燃やした生命転換ライフフォースにて通路を高重力で止める最高密度の重力場で一人の泥の騎士を押しつぶす。

 泥の騎士の筋力は、当然それを跳ね除けることができるが、イレースの重力を見切った矢により両膝両肘を撃ち抜かれ、動きを止められ圧死させられた。

 回復の兆しは、ない。

「再生パターンはコア型に確定だ! 体のどこかのコアを潰せばこのゲートは死ぬ!」

 しかし、代償は大きく、ロックスは二人の泥の騎士に狙いをつけられて、全力の重量でなければ防げなかった攻撃を2発ももらいかねないその時に

 タクマは、その二人の騎士の丹田を狙って切り裂いた。

 それは、何か泥でない別のものを切った感覚とともに、二人の騎士は絶命した。

「二人とも引きましょう! コアを切っても命の総量が減りません! コアだけ殺しても再利用されます!」
「面倒なのは身体能力だけにしてよね!」
「同感、だ!」

 そう言いながらタクマは前にでて魂視を深く使う。だいたいの者は丹田に命の源泉があったが、魔物型や明らかに別格の騎士型はそれぞれコアの位置が違う。
 コアは丹田だ! と勢いに乗って反撃してきた者を喰い殺すトラップだろう。そうタクマは考えて、本気のヒョウカよりは性格がまともだなとも考える。酷い風評被害である。

 しかし、現状敵の数は増え続けている。目算で50以上。通路の広さの問題で3~4体ずつくらいしか攻めてくることはないが、50近くの敵がこちらの技をしっかりと目に焼きつけ続けているのである。タクマの存在をズラしての暗殺はもう見切られているし、イレースの曲射も対応されている。

 ここいらが引き時だろう。現在も引きながら戦っているが、限界だ。

「……子供を見殺しにはしたくないのだがな!」
「わかってるでしょロックス! タクマが望んだの! だったら誰が残るかは!」
「わかっているとも! 生き残れる可能性があるのは身軽なタクマだけだ! だが!」

「ありったけの援護程度はしてやるさ!」
「そんなのは、当たり前でしょうが!」

 そうして放たれる矢と重力の嵐。ある矢は重力で軌道が曲がり、ある矢は風で軌道が曲がり、あるところでは重力だけがかかり、ある所では真っ直ぐに飛んだ矢が突き刺さる。

 これが、戦士団のエースである二人のコンビネーションだった。

「タクマ! 生き残れよ!」
「死んで傀儡になったらちゃんと殺してあげるから、安心して逝きなさい!」

 その言葉を残して、武器を捨てて二人は全力で撤退を始めた。

 それは速度を上げる為であり、タクマに武器の選択肢を与えるものでもあった。

 しかし、そんな悠長に動きはしない。彼ら泥の騎士達の身体能力は凄まじい。機動力はそれほどでもないためにどうにでもできるが、かと言って無視できるほど遅くはない。

 だから、風を踏んでそれぞれの丹田を切り裂く。

 だが、3体とも特別性であり、丹田にコアは存在しなかった。そして、タクマの攻撃の隙を狙って何者かの投剣によりその命を狙われた。

 そこを、剣にこめていた生命転換ライフフォースを爆発させる緊急回避軌道にてどうにか避けるも、すぐに次の泥の騎士が襲いかかってくる。

 その騎士の剣はとても綺麗で、静かな意思を感じた。

 それを躱せないタクマは剣でそれを受けると。


 

 

『マスター! これは!』
『傀儡の中にはある程度動ける人も居るって事か! 自分から死んでくれるともつとありがたいんだがな!』

 そして、動けない空中にて魂視。3人の騎士のコアの位置を把握する。右手の先、左手首、右足首だ。

 馬鹿じゃ無いのかとタクマは思う。そんなところでは再生など不可能ではないかと思うが、そんな理不尽をやってのけるのがこのゲートだった。

 他者に同一特性のゲートを潜らせる外法、他者に命令を強制する外法。他社の死体を操る外法。

 どいつも核となっている人を操る力と同じゲートを潜らせる力の繋がりが見えない。マリオネティカというのが真実で、他人に泥のゲートを潜らせる使い手がそれしようしているのだろうか? 

『不明です。が、何はともあれマリオネティカとこの通路の事を調べるのが重要なのでしょう。……ダイナ様が、プレイヤーを助ける側の者であるならですが』
『それは大丈夫だろ。あんな剣の使い手が外法を使うとは思えない。そんなものに頼るより自分で行った方が強いし確実なんだから』
『……その通りですね』

 そんな会話をしながら、2人を追う三体の泥の騎士のコアを切り裂く。風を踏んでの高速移動はなかなかにスリリングだったが、ここでの戦いでだいぶ慣れたタクマには、それなりに難しい程度の事に収まっていた。

 タクマは知らないが、それは近接型の風の生命転換ライフフォース使いの奥義なのにだ。

 タクマは、魂を使い戦う者としても天才的な、あるいは狂気的なセンスを持っていた。

「だけど、こっからどうするよ」
『お二方はお逃げになられましたし、あともう少し時間稼ぎをしましょうか?』
「だな。あの二人がゲート使いになって敵になるとなゾッとしない。だから……“守らないと”」

 その言葉は、タクマが思った言葉ではなかった。自然に、本当に自然に出てきてしまった意図しない言葉。

 その暖かさを胸のどこかで感じながら、戦いを続ける。

 だがしかし、50を超えてまだ増える泥の騎士の数には太刀打ちできずに、次第に押し込まれていった。

 それでも、落とされていた大盾を跳ね上げて防壁にしたり、矢筒をそのまま風で散弾にしたりと、あれやこれや取りうるすべての手段を用いて抵抗をしたが、結局それ以上誰を殺すでもなくタクマは取り押さえられた。

「……これは、あかん、ヤツだ」
『かも知れません。ログアウトを実行しますか?』
「……どうせだし、連れて行かれてみるよ」

 そんな言葉と共に、タクマは泥の騎士達に連れられて門の奥へと入っていった。

 そこにいたのは、生命転換ライフフォースにて泥を抑えている女性と、それを守るために戦い続けている益荒男だ。

 その益荒男をタクマは見たことがある。前回の戦いにおいて、シリウスの北からの襲撃の際に見た高貴な男だった。

 その優しげな風貌はアルフォンスに似ている。

 アレが、この国の王なのだろうか? 


 いや、アレがこの国の王だ。閃光剣レイブレードにて薙ぎ払われる泥の騎士達を見て、王国としての常識である“最強は王である”という意味のわからないソレを思い出した。

 そうして、敵があらかた消しとんだ後に、王は呟いた。“すまない”と。

 アレは、間違いなく自分を殺すつもりだ。人質など無意味であると示さなくては守れないから。

 そしてその事に対して、“ありがとうございます”と目で返す。

「残念だが、そうはいかない」

 そうして俺を殺そうと放たれた閃光剣レイブレードは、闇色の閃光剣レイブレードにより弾かれた。

 出力では王の方が勝っていたが、技がそれを覆したのだ。

 それは、光の剣による斬り合いの技術差だった。

「貴様!」
「言の葉を吐き出すことすら地獄の苦しみだろうに。ここ一週間闘い続けたことは効いているようだな、ラズワルド」

 そう言い放つのは、闇の泥で整えた鎧の胸に邪悪な黄金の目のアクセサリーを整えた男。

 彼が、泥のゲート使いだろう。

「では、貴様を殺すとしよう。この稀人は泥を纏った多くの騎士崩れ相手に奮戦した強者だ。二人がかりなら貴様とて狩れるだろうよ」

 その言葉と共に、琢磨を抑えていた二人の泥の騎士が崩れてタクマの体に纏わり付く。

 それは、精神を、魂を犯す毒。

 常人には決して耐えられない邪心を植え付けるものだ。

 だが、それはタクマの精神の一部しか崩すことはできなかった。

 プレイヤーに施されている精神防壁のためだ。

 が、崩れたのは一部あるのだ。

 それは、タクマの中の殺人への理性的な忌避感。

 それが消えたタクマは、己の心のままに剣を振るった。

 泥により強くなった出力と、戦い磨かれた剣技にて



 この世界の最強である、ラズワルド王に対して。

「強くなるために、糧に!」
「……少年!」

 そうして、タクマの心が望んで、しかし他に世界の誰も望んでいない戦いが始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...