上 下
29 / 64

東屋3

しおりを挟む

 マルガレーテの言葉に王妃様とイグナーツ先生がぎょっとした顔をしたので、マルガレーテの方が驚いてしまった。

「え? あの、ルルベ草を抜いた後の土が、ちょっとキラキラした感じになっていましたよね……?」
「いや?」
「あら?」
「んんん?」

 思わず顔を見合わせて首をひねる三人。
 王妃様が目で侍女たちにも聞いてみたが、全員一様に首を横に振るのだった。

「あら……?」

 驚いたのはマルガレーテである。
 キラキラしていた……わよね……?

 それはまるで小さな妖精が舞っていたような、ほのかだけれど綺麗な微粒子が漂っているように見えたのだけれど……。

「……姫様。もしかして、こうしたら何か見えますか?」

 そう言ったのはイグナーツ先生だった。
 そして右手の手のひらを上に向けて差し出す。

 その手のひらの上を、まさしくマルガレーテがルルベ草を抜いた後に見たような金色のキラキラした微粒子が舞っていたのだった。

「同じようなキラキラが見えます」
「全く同じですか?」
「そうですね、全く同じに見えます」
「この魔術師の手が何と一緒なんだ?」

 王妃様がしきりに不思議そうにしていたのが妙に印象的だった。

「おそらくですが。マルガレーテ様は、魔力を見ることが出来るのだと思います」

 イグナーツ先生が静かに言った。

「魔力を? そんなもの見えるものなのか?」

 王妃様が驚いたということに密かに驚くマルガレーテ。しかしイグナーツ先生は続けた。

「実はレイテの魔術師には、魔力が見える者がいると聞いたことがあるのです。実際に今、私の手から魔力を放出してみたのです。それをマルガレーテ様はご覧になりました」

「まさかそれが見えたのか。聞いたこともなかったぞ。そしてマルガレーテには、ルルベ草を抜いた後にも魔力が見えたということか」

「はい。同じように見えました」

 マルガレーテがそう答えると、王妃様は考え込みながら言った。

「ルルベ草が魔力を生んでいるのか魔力のあるところにルルベ草が生えるのか……」
「魔力のあるところに生えると仮定すると、ルルベ草を移植しても根付かない理由として納得できます」
「では魔力のあるところに生えるのか」
「可能性はあります。昔から、魔力の湧き出るところに魔術師ありという言葉もありますから、魔力が地面から湧いている場所もあるかと」
「そんな素晴らしい場所がわかれば苦労はしないのだがな。一体誰が見分けられると言うんだ。聞いたことないぞ」
「レイテの一部の魔術師ならば、あるいは」
「レイテの?」
「はい。先ほども申し上げたとおり、レイテの魔術師には魔力が見える者が希にいると聞きます。すでにもう見えているらしいレイテの方がここにいらっしゃるのがその証拠でしょう」

 そして一斉に注目を浴びてしまったマルガレーテだった。なぜか我感ぜずといった感じで寝そべっていたクラウス様までが首を上げてマルガレーテの方を見ていた。
 ただ静かに会話を聞いていただけなのに、突然話題を振られて驚くマルガレーテ。

「え? あの……?」

「マルガレーテ様はすでに魔力を感じる目をお持ちですから、訓練次第ではさらによく見えるようになるのではないかと。姫のお気持ち次第ではありますが」

「おおもしそうなれば、とても貴重で素晴らしいスキルだな」

 もちろん、そんな二人から熱い視線を向けられて、それを無視出来るようなマルガレーテではなかった。

「私がお役に立てるのでしたら、頑張ります」

 ついつい張り切ってしまったマルガレーテだった。
 
「ありがとうマルガレーテ。そなたは本当に優しい子だのう」

 王妃様が温かな微笑みをマルガレーテを見た後に、イグナーツ先生の方に向いて言った。

「では、すぐに始めてもらおうか。特別手当は好きなだけ言うがいい」
「承知いたしました。最優先でやらせていただきましょう」

 そしてイグナーツ先生は、その場の誰もがうっとりするほどの極上の微笑みを浮かべたのだった。

 
 結論から言うとこのイグナーツ先生は、さすが本当は齢八十才の大魔術師様なのだった。
 この国最大の貴族ラングリー公爵家お抱えなだけあるのだ。

 そのおかげでマルガレーテもめきめきと頭角を現し、あっという間に「魔力を見る」ことができるようになった。

「姫の素質がよろしいのですよ。大変教え甲斐があります」

 そう相変わらず美麗な微笑みで満足げに言うイグナーツ先生ではあるが、それでも教え方が上手だということもあるだろう。
 マルガレーテも頑張って日々復習して最大限早く成長できるように頑張った。

 王妃様からは興味津々で「魔力が見える」とはどういう感じなのか聞かれることもあったので、本当に王妃様には見えないのだとマルガレーテは不思議な気がした。

 なにしろマルガレーテには、今やそれは普通に見えるものだったから。

 でもイグナーツ先生の教えを受けるうちに、それはますますはっきりとした姿に見えるようになって、そして今まで見えなかった弱い魔力も見えるようになってきた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...