21 / 64
呪いという魔術5
しおりを挟むしかし何日もかけて、知らなかったとはいえマルガレーテがそれこそ命を削って解き続けた結果が全体に比べたらほんの少し……。
いったいどれほど強力な魔術だというのだろうか。
「マルガレーテも最初に私の呪いを解いてほぼ全魔力を使い果たした後だったからねえ。動けるようになったとはいえ、そんなに早く元の完全な状態には戻らない上にずっとクラウスがマルガレーテの魔力を奪い続けていたということだ。親子してマルガレーテには迷惑をかけてしまってすまない。これからは気をつけないといけないな。ところで先生、クラウスの呪いを解くにはどれほどの白の魔力が必要なのだろうね?」
王妃様がイグナーツ先生に聞いた。
「王妃様にかけられていた魔術も途方もないものでしたが、クラウス様にかけられているものも同等かそれ以上のものだと思われます。しかもクラウス様への馴染み方が普通ではありません。これを分離して消すというのは……いかにマルガレーテ様が希有な魔力をお持ちだとしても、正直非常に厳しいかと」
イグナーツ先生は難しい顔をして言った。
「私にかけられた呪いを消した時、マルガレーテは死にかけたからな……」
王妃様が暗い顔をして言うと、イグナーツ先生はさらに暗い顔をして言った。
「前にも申し上げましたが王妃様への魔術も消えたわけではありません。魔術の核までは消えていないのです。つまりは魔術がかけられた当初の状態に戻っただけ。しかしそのために必要な魔力はマルガレーテ様が持てる最大に近い量かと」
「王妃様の呪いは、消えてはいないのですか」
マルガレーテは驚いて聞いた。
「私が診たところ、魔術の核がまだ王妃様の中に存在してます。少しずつ体を蝕むように効果を発揮する魔術のようなので、また何年かしたら最近までと同じ状態になる可能性は高いですね」
「でもその時はまた私が消すことはできますよね?」
「残念ながらこの国にいる限り、今回のようにたとえその指輪をしていても、常にマルガレーテ様は魔力を削られ続けることになるでしょう。つまりは、魔力が最大になることはもうないかと。この国は、あまりにも悪い魔術にあふれています」
そう言ってイグナーツ先生は、また失礼、と言ってマルガレーテに手をかざしたのだった。
「今まではマルガレーテ様の魔力を作る量とこの指輪が放出出来る魔力の量とでは、若干放出する量の方が大きかったようです。しかし先ほどさらに制限をしましたから、これからは少しずつでも魔力は戻っていくと思います。しかし……最大になるには長い年月が必要になるでしょう」
「いっそ指輪で魔力の流出を止めるか」
王妃様が言った。しかし。
「魔力を止めることが、魔術師にとって窒息するようなことだということは王妃様もご存じでしょう。それに……マルガレーテ様が本来持てる魔力の量はとても大きいのです……とても……ああ、すごいですねこれは……だからこそその量を作り出し満杯にするのには時間がかかります。なのに今は……ほとんど使い果たしている」
「一番効率的に調整してどれくらいかかる」
「この場所でならばおそらくは年単位。それもクラウス様を遠ざけた状態で」
「キュウン」
クラウス様が悲しげに鳴いた。
「もっと早く魔力を戻す方法はないのか。正直年単位でクラウスをこのままには出来ない。しかしクラウスを戻すにも今はマルガレーテに頼る意外に何も案が浮かばない」
「唯一白の魔術師として生き残っているマルガレーテ様が今この状態ですので……。たとえ国中のルルベ草を買い占めたとしても、一年でいけるかどうか」
「ルルベ草を買い占めればいいのか?」
「たとえばの話ですよ。それにそんなことは普通に買えても国家予算並みの資金が必要になりますし、そもそも本当に言われているほどの在庫がこの国にあるのかもわからないのですから、現実的には不可能かと。それよりもこの魔術をかけた人物を特定して解かせるか殺すかした方が早いでしょう」
「そんなこと出来るならやってるんだわ! 見つけてたらとっくに八つ裂きにしているんだよ!」
王妃様が明らかに怒りの形相で両手の指をワキワキさせていた。
きっと王妃様も自分にかけられた魔術の元を調査したに違いない。そしておそらく、わからなかったのだ。
「ルルベ草とはなんですか?」
マルガレーテは聞いた。なにしろ母国レイテでは聞いたことがない草の名前だったから。
王妃様が答えてくれた。
「魔力の補給に良い草だ。少しの量でたくさん魔力が湧くからとても重宝されているのだが、残念ながら栽培方法が確立されていなくてね。たまたま生えているのを発見したものを摘むくらいしか収集できない。おかげで乾燥させて効果が減ったものでも法外な値段がついて少量流通しているくらいでなかなか手に入らないんだ」
「まあ、とても貴重な草なのですね」
「生える所が限定的で、移植してもまず枯れてしまうのです。とても栽培して増やすということがしにくいのに手に入れたい魔術師が山ほどいるものですからすぐに盗掘されてしまう。その上その土地を巡って権力者同士で争うものだから、やはり一般には出回らないのです」
悲しげに言うイグナーツ先生。
10
お気に入りに追加
656
あなたにおすすめの小説
救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~
日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。
そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。
優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。
しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました
ユユ
恋愛
気が付いたら
大富豪の第三夫人になっていました。
通り魔に刺されたはずの私は
お貴族様の世界へ飛ばされていました。
しかも初夜!?
“お前のようなアバズレが
シュヴァルに嫁げたことに感謝しろよ!
カレン・ベネット!”
どうやらアバズレカレンの体に入ったらしい。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
小学生の働き方改革
芸州天邪鬼久時
児童書・童話
竹原 翔 は働いていた。彼の母は病院で病に伏せていて稼ぎは入院費に充てられている。ただそれはほんの少し。翔が働くきっかけ母はなのだがそれを勧めのたのは彼の父だった。彼は父に自分が母に対して何かできないかを聞いた。するとちちはこう言った。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる