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戯言から催事
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しおりを挟む撮影飲み会翌日。
午前中には皮膚科行って、お薬ぬりぬりしてやってきましたSPHY事務所。
なぜか、困惑気味の健吾君と、楽しそうな清牙に、死んだ目のミーがいた。
「えっと、お疲れ様です?」
なにの、どんな集まり?
なんかあるんなら、会議室使えよ。
そんな思いのまま健吾君を見たら、なぜか、私を見て溜息。
「何を言ったんですか?」
いきなり、私の所為ですか?
「身に覚えがないんだけど?」
「清牙が、鈴鹿に曲を提供するそうです」
「は?」
思わず清牙を見て、なんかぶつぶつ言っている清牙に何を言っても無駄だと、ミーを見る。
ああ、鈴鹿は、ミーの芸名ね。
あのホラー映画の時、ミーの本名そのまま使うのもあれだしとなった結果、とっさに出てきた名前が現在も使われている現状。
ミーを見れば、ウルウルの目で訴えて来る。
「私、事務所通して、打ち合わせがあるって呼び出されて、今聞いたの」
清牙?
あんた、いきなり何してんの?
「清牙、順序立ててお話ししなさい。皆、訳分かってないからね」
「んん? 最近なんか、マンネリな感じがして、なんか、やる気出ねぇしで、昨日の飲みで楓に言われたから、ミー呼んだ」
色々省かれ過ぎである。
作詞家にあるまじき、日本語能力の低さが、際立っているし。
「健吾君。清牙が余計なこと考えないように仕事詰め込んだ方が良いんじゃない?」
「……爆発して、後が大変になるんですよ。目新しい仕事も、現状難しいですし」
まあ、まだ、清牙、20歳なってないので、言動制限かかってるからね。
清牙の言動がそれに準ずるんならまだしも、全く伴って無い事も、まあ、あるわな。
つーか。全体的にアウト。
間違いなく、トーク系の仕事は絶対に無理。
それだけでも、制限がデカ過ぎる。
「清牙? ミーは新人女優。なぜに、歌を提供する発想になった?」
「ああ? 他の奴らよりマシだろ。多少下手でも、なんとかするし」
清牙の多少下手の線引きが、私にはよく分からない。
なにより、天下の人気大爆発バンドのVo様。
上手い下手いの線引きの前に、なぜにそうなると突っ込み満載である。
まあ、案外人見知りが激しいので、知らない歌い手さんに、いきなり曲を提供しますってのはハードルが高かったのかもしれない。
しれないけど、なぜに、そこに行きつくのか?
「昨日、私が何か違う事をって言って、何かが触発されたのは分かった。分ったけど、そこで、どうして、こうなった?」
「黙れって言った煩いブスが、歌に自信があるから曲書いてくれって言ってたんだよ。ド下手の癖に」
ああ、そこに、繋がる訳ね?
そこで、対抗意識なのか、何かが、燃えちゃったと。
「言っちゃ悪いけど、ミーはそこらのアイドルよりマシ程度だからね」
生だと音を外しまくって踊ってるアイドルよりはマシ。
単調で代わり映えしてない安定キーで歌って、激しくなく可愛く踊っているアイドルと同程度くらいと思えば、分かり易いか?
間違いなく、激しく踊れば外すどころか歌えない。
あ、大抵の人達がそうか…。
口パク音源あり、それ、もう、音楽番組である必要性なくない?
ダンス番組作れよ。
それはともかく、だ。
「どうせなら、巧く歌ってくれる人がイイんじゃないの?」
「歌える知り合いって、あのアバズレぐらいしか思い浮かばなかったんだよ」
それが誰かとか、本気で聞きたくないんですが?
「つまり、今まで誰にも楽曲提供をしてこなかったから、気分転換に誰かにしてみたい。それは、誰でもいいけど、最低限知り合いだったり、ある程度歌えたりの条件があるのね? なに?」
「何って、まあ…ド下手は無理」
清牙基準のド下手が、分からない。
分からないけれど、アイドルが引っ掛かるなら、歌番組出てる大抵の女子が引っ掛かりそうである。
ミーも当然危うい。
「どうせなら、歌で出てない奴?」
自分でプロデュースがしたいのか?
いや、清牙がそんな細かい事を考えているとは思えない。
知り合いの歌える女性が、あまりまともでない可能性が高い。
だから、知らなくてもまともな人間性も求め?
自分棚上げで?
「つまり、女性ボーカル探してんのね?」
「野郎に歌わせる、意味ねぇじゃん」
ですよねぇ。
男に歌わせるぐらいなら自分で歌う。
清牙は、SPHYは基本、男にはかなり厳しい。
「ちょっと電話する」
まずかけるのは、ウチのお姉様。
『ンン? カエちゃんどうしたの?』
相変わらずおっとりと聞こえるけれど、結構根に持つ怖い女なんだけどな。
周りには一見して、そうは思われないけど。
「タテと連絡とりたいんだけど?」
『あぁぁ、大君かぁ。連絡先、教えちゃっていいの?』
「イイよ」
『今日中が良いのかしら』
「出来ればなる早」
『分かったわ。直接連絡するように伝えるわね』
「助かる」
それだけ言って、姉との連絡終了。
面倒臭いと思いつつ、バックに放り込んである手帳を取り出す。
それを見て携帯確認。
番号代わってなければ良いけどなと連絡し、この番号知らないだろうし、大丈夫かなと思っていたら案の定、留守電に。
「姐さん、楓です。お久しぶり過ぎて申し訳ないんですけど、連絡下さい」
そう告げて、取り敢えずの連絡終了。
集まる視線に、溜息一つ。
「取り合えず、ミーよりマシな歌い手に、連絡付けた。それがどうなるかはまだ分からん」
「楓さん。何気に、こっちの世界、知り合い多いですよね?」
健吾君?
一応は片足突っ込んでいたんだから、それなりには、あるもんでしょ。
「それで」
そこにスマホが震える。
連絡早。
取り敢えず耳に当ててみれば、恨みがましい声。
『今更何?』
まあ、そうなるよね。
「いや、まあ…」
どう言ったところで、今、宥める方法が思いつかねぇ。
「まだ、歌える?」
『だったら?』
即答か。
そんな気はしてたけど。
「楽曲提供のチャンスって、言ったらどうする?」
『…それって、今、カエちゃんが……行く!』
話が早くて助かる。
「いつならこれる?」
『今日はさすがに無理。拓斗預けらんないし』
それはそうだ。
「今週は明後日以外なら、SPHYの事務所に私がいる」
『なら、明日』
早いな。
まあ、神奈川だしね。
直ぐ来れるか。
「何時頃になる?」
『あんまり早くは…』
「いや、私が何時までに来ていればいいのかなと思って。場所分かる?」
『HP出てるよね?』
住所は載っていた筈。
「多分? 着いたら連絡して」
『分かった。明日、いるんだよね?』
「いるよ」
『行く。また明日』
そして切れる電話に注目が集まる。
「取り合えず、明日、歌い手が一人来る」
またもや震えるスマホに慌てて出る。
『もしもし、楓ちゃんの携帯ですか?』
相変わらずの優しい声に、妙に、ほっとする。
「そうです。お久しぶりです。突然すみません」
『それは全然。って言うか、嬉しいわ。どうしたの? 映画見たけど? 何がどうなった?』
「話せば長い事情があるんですが、酒も飲まずに話せないって言うか?」
『それは飲みのお誘い?』
「いえ、楽曲提供チャンスです」
『は?』
「まだ、チャンスなんで、姐さん次第なんですけど」
『いや、乗るよ。当たり前じゃない。それって、もしかしなくても、SPHYだよね?』
やっぱ、色々バレてるか。
「えっと、事務所の関係とかあると思うんですけど」
『なんの仕事も紹介してくれない事務所より、そっち取るわ。喜んで、宜しくお願いします』
まあ、そうなるよね。
「いつこれそうですか?」
『今から行こうか?』
早い。
早過ぎではあるが、色々苦労してるからなぁ。
気持ちは分かる。
「明日、もう一人も来るんで、その時に」
『つまり、候補がまだいるのね』
「そうなります。その中から決まるとも限りませんけど」
『イイわイイわ。そうでなくちゃ。明日、SPHY事務所? 何時に行けばイイ?』
この調子だと朝も早よから来そうだな。
「昼頃で」
『ザックり過ぎ。不安になるわ。丁度でいいの?』
「まあ、お任せします」
『おっけ。じゃあ、明日ね』
「ああっと、待って。ついたら、連絡ください。普通に来ても扉開かないんで」
『ああ、流石、売れ筋。やっぱ違うわ。じゃあ、明日ねぇ』
にぎやかな姐さんの携帯も終了。
「明日、歌い手もう一人確保」
周りを見て言えば、健吾君に溜息吐かれる。
「名の知れてない歌い手、いきなり2人確保ですか?」
「それはまあ。でも、清牙がお気に召すかどうかは知らんし」
だが、私が知っているあの2人は、今テレビに出てる大半の奴らより巧い。
そこらのアイドルなんざ、絶対に横並び出来ないレベルにはある。
ていうか、今の女性歌い手でも、あのレベルはまあ、いない。
巧いんだけどねぇ、アレなんだよ。
色々。
「と云う事で、健吾君、1週間後にライブハウス確保」
「貴方、いきなり何言ってるんですかね?」
「ほら、清牙退屈しきってるみたいだし、イベントにしちゃおうよ」
「何を?」
べったり肩にのしかかってくる清牙はご機嫌だ。
楽しい事、好き、だからねぇ。
イベントごとって、始まる前の計画段階の方が、妙にワクワクするし。
「清牙の楽曲チャレンジライブ。一番人気に、楽曲提供…的な?」
「俺に、歌わず見てろと?」
「それは、終わった後にでも歌えば?」
そこまでは知らん。
「同時に動画配信して、人気投票やろう。それで一番人気に楽曲提供」
「序に、俺らがバックで演奏して、テレビ出るくらいはしてやる」
え?
清牙がバック?
「アンタ、演奏出来るの?」
「駆郎に習ったから、ギターは多少出来る。そうなると、駆郎がベースかキーになるけどな」
それだけで、結構面白い絵面。
注目は十分じゃね?
ご褒美としても、考えていたよりデッカイ話になって来たし。
「さて、ミーよ。どうする? 相手は確実に、アンタより巧いよ?」
飽く迄も新人女優。
事務所の色々もある。
あるけれど、ここに、意味の分からないまま、1人送り出されるぐらいの信用はある。
SPHYとの繋がりの黙認。
それで取れてる仕事も、かなり、あるからね。
「なんか、悔しいからやる」
そんなに負けず嫌いではない筈なんだけど、やっぱ、そこで煽られなきゃ嘘だよね。
「条件は、SPHYの曲縛りの、歌バトルなんてどうよ?」
「それ、キーの問題もあるだろ」
まあね。
タテが確実に不利。
だけど、それくらいどうにかしなきゃ、話にならない。
そういう世界で名を売って行こうって言うんだから。
ナニカがなければ、話にならない。
煽って勢いと、その場のノリで勝ち上ろうよ。
「イベントは楽しんでこそ、じゃない?」
「それは同感」
ふふんとご機嫌になった清牙を尻目に、ミーのジト目。
カエちゃんが味方になってくれないと訴える、その目の意味は分かるけどね。
何時までも、私の応援が役に立つと思うなよ?
「また、仕事が増えますね」
黙って見ていた岡野さんの苦笑いつつの言葉に、健吾君も笑う。
「まあ、実益のあるイベントは大歓迎ですよ。金は如何に引き出すか、ですから」
また、なんか色々考えている模様。
それ以上は、私の関知したところではございません。
この話を後で聞いた舞人君は笑い、仕事が増えると唸る駆郎君のご機嫌が悪くなるのも、私の知ったことではございません。
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