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怒涛の催事
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しおりを挟む希望的観測って言うのは、あくまでも希望で合って、世の中そんなに上手く行かないのである。
「受付出来ません」
嫌そうに、汗をものともしない完璧メイクのお姐さんにダメ出しされました。
「関係者以外、立ち入り禁止です」
「だから、コレあります!」
希更が掲げるスタッフ証を、チラリと見て鼻で笑う。
「スタッフ証には裏書があり、顔写真付きの身分証になっておりますし、お子様の枚数は少なく、こちらで全て確認済みです」
お前らの話はこっちには来てねぇよ。
どうせ、遠くの関係者の悪あがきだろ?
会場入りスタッフ証と関係者ブーススタッフ証は違うんだよ。
便乗して、当たり前に入り込もうとしてんじゃねぇよと、言いたいらしい。
「そもそも、飲食物の持ち込みは厳重に管理されており、受付は別です」
そこらで、フェスに来ているお客様が当たり前に買って口にしている物なんですがねぇ。
「関係者スタッフはバックヤードで用意されたモノしか、口にしない決まりですから」
そんな事も知らないで、スタッフ証掲げられてもねぇ…と、実に分かり易い立ち入り拒否を鼻で笑われて言い渡される現状。
「セイちゃんが持って来いって言ったのにっ」
ぷーっと膨れる希更の言い分も分からんでもない。
その通り、なんだけどねぇ。
「多分、このお姉さんが言ってることが正しいんだよ」
清牙は唯我独尊の我が儘猪王子様だから。
決まり?
俺が言ってるんだよ、文句あるならかかってこい…な人である。
ルールなんてもんは、破る為にあると思っていても不思議ではない。
まあ、この対応は厳密過ぎるけど。
融通が利かな過ぎ。
頭ごなしに却下出せるだけの権限あるにしてもさぁ…。
って言うか、関係者であれば、普通これくらいの目こぼしは…ってのを、この人は許せない質なんだろうね。
「だって」
希更よ。
気持ちは分かるが抑えなさい。
これで、このまま、本日のステージ巡りが恙無く進みそうだし。
「健吾君に…」
連絡したら最後、このお姐さんを丸め込んで何とかしてしまいそうだな。
逃げる所か、確実に捕まる。
「牙の人探すか?」
そしてこれら丼押し付ければ、勝手に健吾君に連絡とってくれそうな気がする。
なにせ、清牙への貴重な貢ぎ物だ。
下僕がなんとかするのが道理なような、気がしないでもなく?
「もう、宜しいですか? 後ろの方がお待ちですので」
さっさと帰れと言わんばかりの、勝ち誇ったにこやかな笑顔。
ここまで言われては、仕方あるまい!
私はちゃんとここに来たし、約束守ろうとしても出来なかったのよと言い訳を浮かべ、ニンマリしながら背を向けようとした瞬間だった。
「カエちゃん。顔」
ミーの呆れたような声に、思わず頬を撫でて、表情筋を整えようとしたが、時既に遅し。
「ああ、あぁ。セイちゃん来ちゃった」
希更の恐ろしい言葉に、どんな人垣でも頭二つは抜け出てている、超身長の麗しいご尊顔が。
いや、お綺麗でちっさく整った顔だけに、3つくらいは抜けているかもなぁと遠い目になる。
「ミー。楓逃がすなっ」
うちらの中で一番背の高い美凉華が一番先に見つかったらしい。
幾ら私でも、娘達置いて逃げませんがな。
相変わらず良く通る、良いお声。
声が響けば、天下の芸能人様オーラをばら撒く清牙が歩けば、注目の的。
本来、メイン様が、客が来場中の開場中に、こんなステージ受付入り口まで出てくることこそがあり得ない。
ぎょっとしつつ、道が開ける十戒仕様。
我が道を遮るもの無しと言わんばかりに、長い足でセカセカやってきた清牙は、笑顔で…目が笑っておりません。
「随分、遅ぇなぁ」
にこやかに、希更の手から荷物を奪い、ミーの手からも荷物を奪い、人の鼻先に顔近付けてくるの、止めてくれませんかね?
「セイちゃん。私達はちゃんと、セイちゃんの言った通り、ご飯買って、ここから入ろうとしたんだよ。でも、その人が入れてくれなかったの。ご飯も持って入るなって」
希更ちゃん。
その通りだけどね、止めてあげて。
お姐さん真っ青な顔でプルプル震えてるから。
本気で、偽物とか、他会場の回し者とか色んなことをゴチャゴチャ考えちゃっただけで、きっと悪気はないんだよ?
多分間違いなく、飲食物受付は別エリアに、本当にあるんだろうし。
この規模だと、差し入れも半端ないだろうからね。
差し入れ持って来た人が、疑いようもない、異物混入や危険物が入り様もない安全確実なモノなら良いんだけど、送り主不明の奴なんかは、どうしてもチェックが必要になってくる。
人の疑いから、持ち物チェックまで一か所でしてたら、何時まで経っても列がさばけない。
それでは、本当に急いでいる人が入れない困った事態にだってなりかねない。
ただ、私達の呪いのスタッフ証は健吾君SPHY事務所社長の用意したものなので、間違いなく偽造も誤魔化しもないんだけどね。
健吾君がそんな馬鹿なミスする訳ないし。
なによりお姐さん、チラリと見ただけで手にも取りもしなかったし、裏返すこともなかったんだから、裏書確認もしていない。
そこはどうかとは思うけど、初めから偽造と信じて疑ってなかった訳で。
案の定、清牙が獰猛な笑みを浮かべて、吼える。
「へぇぇ。お前どこの? こいつらの裏書、総監と俺の、なんだけど?」
清牙君や、止めてあげなさい。
この人はちゃんとお仕事しようとして…まあ、忙しさのあまり、子供とオバチャンの組み合わせに、色々難しく考えちゃっただけなんだろうし。
「健吾!」
そして急遽呼ばれる、清牙の一番の下僕。
ついて来てたのね、健吾君。
「此奴らに飯頼んでるから、話通しとけっつったよな?」
にこやかに一歩前に出てきた健吾君を見て、清牙が目を眇める。
ご立腹です。
不機嫌です。
それを受けても、健吾君がにこやかなままだけど。
怖っ!
それよりも、だ。
幾ら清牙でも、事前連絡は入れてた模様。
我が儘王子でも、やっていい事とやるべき事は、一応弁えているらしい。
「申し訳ありませんでした」
健吾君が当たり前の事務処理をやっていない筈もない。
なにしろ、清牙の忠実な僕なのだから。
当然のように、言い訳一つなく、笑顔で深々と頭を下げた健吾君は、お姐さんをチラリと見た後、私の荷物と清牙の荷物を当たり前に受け取る。
それ、結構重いよ?
フェスランチ、舐めちゃいけなかった。
見た目ちっさいと思ったら、結構重量嵩張りました。
重いとは言ってもまあ、子供でも大丈夫だったんだけど。
現状、どうやって逃げようか?
「清牙。見るからに忙しそうだし、行き違いは出てくるって。遅くなってごめんってば」
このまま不機嫌に、おかしな言動で振り回されたくありません。
「とにかく、戻るぞ」
私らの目的地は、清牙達のバックヤードではないんですがね?
そんな意見が通る筈もなく、大人しく連行されるのだった。
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