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リライトトライ4(上)
第八話
しおりを挟む「さぁ次だよ! やってやんよ! やんよやんよ!」
「やんよですよ!」
先日の落ち込みようはどこへやら。やる気を出しているくるりと嬉しそうにソレに同調するリライ。
そして俺の目の前にはそんな二人の合作……ケチャップで『アキーロ』と書かれたオムライス(リライはケチャップで文字書いただけ)。
前に買った鶏肉がまだまだ残ってるからな。考えてみりゃ親子丼とオムライスって材料同じだね。すっご~い。
「うめーですよ! やべーですよ!」
目の前の『リライ』と書かれた……って言ってももう三分の一程平らげられて読めないけど、オムライスを食べながら上機嫌なリライがはしゃぐ。前にファミレスで食べてから気に入ってたモンなぁ。作り方教えてもらえてよかったよかった。
「おいしいです……やばいです」
その向かいでは『リトラ』と書かれたソレを頬張り涙する少年……何でこいつはメシ食うと泣くのか。確かにメチャ美味いけどさ。
「ふふん……実は、ボクのオムライスはまだコレから。中程まで食べてから生まれ変わるのだよ」
俺の向かいで『クルリ』と書かれたオムライスを誇らしげに掲げ、渾身のドヤ顔を晒している少年のような少女。彼女がこちらに来て初めて料理を作って以来、我が家の台所を取り仕切ることとなったのだ。こう言うと何かぽっと出の強キャラに厨房を乗っ取られた駄目料理長みたいだな俺。
「生まれ変わるですか?」
「うむ。実は卵とチキンライスの間にスライスチーズを敷いてあるのさ。今頃閉じ込められた熱でトロっトロになっているだろうねぇ……」
「ふおぉ~っ! スゲーですよクルリ!」
「凄いですクルリさん」
「ふっふっふ」
リラトラズの胃袋をガッチリ掴んだクルリがあんたはどうなんだい? と言わんばかりにこちらに視線送ってくる。
「……美味いよ。いや……スゲー美味い。トレビアン。ボーノ」
俺は多少苦々しく思いつつも、正直に彼女を賞賛した。
「ふっふっふ! 成敗! この調子で次こそは浄化してやる!」
何か最近妙に元気だな。こないだは失敗して鼻水垂らして泣いてたくせに。勿論教える側としてはやる気ないよかある方がいいに決まっているが。
「でも実際コレは活かせそうな特技だな。もし次のターゲットが料理の出来ないヤツだったら『ちゃんと栄養摂らなきゃ駄目だよ』とか言ってお弁当作ってくとか、有効かもしれん」
「え……」
「……? 何だよ?」
「いや、何か、ソレ……ボクのキャラじゃなくない?」
「いやぁ、むしろ料理出来そうにないのにこんだけのモン作れたらギャップでかなりキュンときそうだが……少なくとも男は」
「……んん」
「何だよ?」
「……何かボク、ここの人達にしか、ご飯作りたくないなぁ」
「……何で?」
「わ、分かんないけど、何となく」
「ふーん? アレか。『大好きな人にしか美味しいの作れないの』みたいな?」
「そ、そんな感じ? ……て、リライとリトラがメインだからね! あんたはついで! 勘違いすんなよ!」
「急にツンデレ属性を付与するなよ。キャラが定まらないだろう!」
「いや、まぁ必要とあらば作るけど、さ……」
「ふーん……? じゃあ、アレだ。誰かに何か作ったら、同じの俺達に作ってくれよ。てか、どうせリライが『自分もアレ食べてーです! 覚えてーです!』て言うから」
「言うですよ!」
「な。で、俺にも作ってくれよ。ついででいいから」
「……うん。分かった」
少し恥ずかしそうに言うくるりだった。
コレまでのことを思い返すに、俺達は急ぎ過ぎていたのかもしれない。故にくるりは失敗した……の、かもしれん。
俺だって今まで浄化をする際は、浄化対象に出会って、話して、そいつのことを理解して、ソレから浄化をしていた。
言いたかないが、ソレこそギャルゲーでヒロインを攻略するかのようにそいつの居所に足繫く通い、好感度を稼ぐかのように情報を手にしたのだ。勿論ゲームとは違うということは嫌って程思い知らされたけどな。
優乃先輩は中学の屋上。まひるはあいつの家の近くの街を見下ろせる公園。愛理は高校の屋上。あと……浄化対象ではなかったがアルルは中庭……て具合にな。
……何か、年頃の女の娘って縄張り意識があるのかしら? 少年が秘密基地を作るようなアレか?
まぁソレはいい。要するに俺が言いたいのはだ。即日で浄化をやろうなんてのは無茶なのではないかということだ。
微に入り細を穿つ、とまでは言わんが、その人が何を好み、何を嫌うのかくらい分かれば、幾分かやりやすくなるだろうて、と思ったワケだね。
そんなワケで俺はソレをリトラに進言し、ならば事前調査に赴きましょうぞと話が運び、今、俺達は次の浄化対象を調べるべくファミレスに来ているのである。
「入州香奈(いりすかな)。ソレが次のターゲットの女性の名です」
メロンソーダに挿されたストローから離したリトラの口から出たその名前に、何だか妙な既視感……この場合既聴感か? ええい、そんなことはどうでもいい。とにかくその既知感に、俺とくるりは顔を合わせた。
「…………」
「…………」
イリスカナ……イ、リスカナ……。
「リ……リスカな女じゃん。まさかその女、自分で手首切って死んじゃうの?」
「……その確率が高いようです」
ま~た確率か。何だか聞き慣れつつあるフレーズだが聞き慣れても全っ然心地良くないぞ。
「ソレより……入州って……最初、くるりが敵前逃亡したリストラマンと同じ名字じゃないか。もしかして……娘さんとか?」
「あ、ホントですよ」
「はい。親子です」
ま、マジか……。もしかしてここで彼女を救えないと娘の死がショックで親父もこの世を……ってパターンになるんじゃないだろうな? アレ? ソレがあり得るとしたら逆パターンもあり得る? 彼女を救えば親父も助かるのか?
「どうやら彼女はとても繊細かつ激情を爆発させるタイプのようで、自分の趣味に時間と財を注ぐことに躊躇いを持たない人間のようです……所謂、? フジョシ? と上司が――」
「ググリ先生が言ってるですよ。ヒジョーにキョーミブケー人間だとか」
「――です」
「ふ、腐女子……か。何かあんま関わったことない人種だな。いやまぁ俺が関わるワケではないが」
大丈夫そうかくるり……と問いかけようとそちらに視線をやると、くるりは口許に手を当て考え込んでいた。
「ふむ。そっか……まぁでも、男の相手するよりはいいかな。ソレに腐女子の嗜好なら読めそうだし! 多分腐女子ネタの二つや三つブチ撒ければ簡単に懐に潜り込める気がする」
コレは予想外だ。意外にもくるりはたじろくどころかやる気を出しているみたいである。
「でも気を付けろよ。仲良くなろうと共通の話題を振ったつもりがうっかり勘違いで別の話題を振っちまうと大恥をかくぞ。俺も相手がタイ◯ニの話してんのに対◯忍の話してるって勘違いして『感度三千倍とかやばいよね』とか言っちまったことあるからな。もう赤っ恥だよ」
「……そんな特殊な上に特大の赤っ恥のかき方はそうそうできないから心配無用だと思う」
「ほほう。理解したような口振りだが……何で十五歳のお前が18禁ゲームの内容を知っているのかな?」
「も……黙秘権を行使するっ!」
「?」
何てリライとリトラには理解出来ていないであろうアホな会話を繰り広げていたその時だった。一人の女性が俺達の横を通り抜けて、俺とくるりの背後の席に腰掛けたのだ。
「お待たせ~☆ ごっちん久し振り~♪」
「おうカナカナ。久し振りよのぅ。遅いから先にビーフシチューハンバーグ頼んじまったわぃ」
先に対面側に座っていた友人にテンション高い割に妙にか細い声で挨拶をした、カナカナと呼ばれたその女。
……イリスカナ。ぜってーこいつだ。
俺とくるりは謎の圧力……無理矢理言葉にするのなら、腐女子力? その圧倒的な特殊女子オーラを浴びて汗だくだった。どう特殊なのかと言うと……だ。
この女の出で立ち……パニエにガーターベルトにヘッドドレス……コレは所謂、ゴスロリだ! コリャすげぇ! やべぇ!
「カナカナ相変わらず青っ白いな。ちゃんと外出とるんか?」
カナカナの向かいに座った恰幅のいい女性が妙に男らしい口調でそう言った。
「やっぱごっちんには分かっちゃう? 実はここ一週間くらい外に出てなかったんだ~☆」
うーわ……カナカナ超アニメ声だな……しかも何か作り声っぽい。
「一週間? 何でよ?」
俺もそう思ってた。ナイスだごっちん。役に立つなこの娘。
「ゴスロリでバイト行ったら怒られた。ソレでもゴスロリやめなかったらクビになった。クソコンビニ超ムカつく」
おいおいやべーなカナカナ。その格好でコンビニのレジに立たれたら目立ち過ぎだし絶対窮屈だろ。『後ろ失礼しま……後ろ……通れねぇ!』てなるぞ絶対。
「いや、その格好で品出しとかできんやろ。しゃがんで立ったら周りの商品棚から落ちまくりだわ」
おお。何か向かいに座ってるのがやべーヤツだからなのかエラくまともに見えるぞごっちん!
「分かってっけどさー。自分を偽りたくなかったのー。でも注意しつつもあの店長絶対カナのことエロい目で見てたよ気持ちわりー。『最近の若い子はこういうの好きなんだ?』とか言って超興味津々だったモンあの親父」
そらカルチャーショック受けるでしょうよカナカナ。
「んでクビになって一週間引きこもり? メシは?」
「ん。食欲もないし水だけ飲んでた」
「だからまたそんな痩せちまったのか。食え食え奢るから」
「あーんありがとーごっちーん☆ 一応カロリーライトとか栄養補給食チビチビ食べてたよー?」
そう言ってメニューを開くカナカナ。何か感覚大分ぶっ飛んでる気がするこの娘……。
「最初は『また自分否定されたー』って手首切ってはヌルヌル弄って、カサブタになってはカリカリ弄ってたんだけどー」
……!? こいつサラっとすんげーこと言ってんな! ガチでカナカナリスカな女だった! 韻踏んでる場合じゃないが。
「リスカってる内に声が聞こえたの。『やめてカナカナお姉ちゃん。自分を傷つけないで』って!」
「……?」
俺はくるりに『意味分かる?』と視線で問う。
「……?」
くるりは『いや意味分からん』と首を振る。
「PC見たらね。以前くっっっそハマったショタゲーのアイコンからね、ショウタくんがカナカナに語り掛けてきたの!」
……もう言葉が出ないぜ。俺はげっそりした表情でくるりを見る。くるりは自分が同じショタコンとして同類に見られるのが嫌だったのか『一緒にすんな』と言いたげに首を振っていた。
「んじゃそのままショタゲー三昧?」
「そう! もう家にあるショタゲー全部の全キャラ全ルート完全制覇してた! もう次から次にで乾く暇ねーっつーの!」
「…………」
「……っ! ……っ!」
俺はまたもげっそりした表情で隣を見る。先程よりも高速で首を振るくるり。筋肉痛になるぞ。
「アキーロしょたって何ですよ?」
チリリンと音を立ててリライが首を傾げる。ううん、あんまりこの娘に聞かせたくないなぁ。
「後で教えてやるから。ドリンクバーお代わりしてこい。俺メロンソーダね」
「はいですよ。行くですリトラ」
「はい。くるりさんはオレンジですね」
「ん、ありがと」
遠ざかるリラトラズを見ながらも俺達の耳は後ろの席にアンテナを向けたままだ。
「……そんで明日そのショタゲー作ってた会社の最新作が出るの! モチソッコー予約したし明日開店と同時に秋葉行って買ってくるし!」
「通販でポチったのかと思ったわ」
「カード全部停められたから無理! ソレに通販は散々待たせた挙げ句発売日に届かないことがあるんだから!」
……一瞬、公園のブランコでワンカップ片手に項垂れてたおっさんの姿が脳裏に浮かぶ。
「バイトクビになったのにゲーム買う金あんのか」
本当に役に立つなごっちん。ソレとも俺の心が読めるのか?
「仕送りまだ残ってるモン! 他に使い道ないし」
いやあんだろ! と心の中でツッコむ。危うく声に出るとこだった。
しかし哀れリストラマン。娘はあんたの仕送りでショタゲー買おうとしてんぞ。
「カナカナのとこに届いてないのに他のメス豚共がもうプレイしてるんだとか思ったら手首傷だらけになっちゃう!」
この娘は何かっつーと手首切ろうとするな。多分気に入らないこととか思い通りにいかないとこうやって意見を押し通そうとするクチなんだろう。
今をときめく芸人さんの言葉で、俺の好きな名言だが、弱さも振りかざすと暴力になるんだぞ。しかも『自分を傷つけるぞ』なんて言って自分を人質に取るなんて、俺が親なら泣いちゃうぞマジで。
「あー……あんま無茶すんなよ。傷残るぞ」
「この傷がショタを愛する誓いの聖痕なの。ショタゲーをやればやる程に癒されていくの」
「……もう現実(リアル)の男は好きにならんの?」
少し困ったような声でごっちんはぼそりとそう言った。瞬間、空気が張り詰める。
「……ごっちん」
……目が座ってる。声もさっきのアニメ声とはかけ離れてる。
「や。分かってる。聞いてみただけ」
ごっちんは溜め息を吐きながら澱んだ空気を散らすように手を振った。この話は終わりだという合図なのだろう。
「……ならないよ。もうあんな思いしたくないモン」
自分を取り戻したのか、カナカナは少し拗ねたような声を出す。可愛く聞こえるようなあざとい声、つまり平常運転に戻ったということだろう。
「分かった悪かったわい。ホラ料理きたぞ。食え食え」
「わーい。いっただきまーす」
「…………」
「…………」
そこから先は、今期のアニメの誰が好きとかそんな話ばかりで、彼女の内面が垣間見えるような会話は特になかった。
とりあえず分かったのは、この女はやべぇ、てことだ。
「ごちそうさまでした~♪ ねぇごっちん、カラオケ行こ?」
「金ないんじゃないのかぁ?」
「あぁん。だってごっちんのアルトが聞きたいんだモ~ン♪」
「自分のソプラノを聞かせたいんだろぉ? しょうがねぇな」
「わ~い♡ ごっちん大好き♡」
そんな会話をしつつ退店していくイリスの背中を見送りながら、俺はボソリと呟いた。
「……俺のバリトン聞かせてやろうか?」
「いやあんたテノールだろ」
「バカ野郎どっちもイケるっての。俺の音域なめんなよ」
「ソレはどーでもいいよ。ソレより……何か、かなり難易度高そうじゃない?」
「確かに。危険な匂いがする女だ」
「全然心開かなそうだし開いても選択肢誤ったら即刃傷沙汰になりそうな気がする……」
確かに……賽の出目次第で危険な橋を渡ることになってしまいそうだ。
目の前でリライとリトラの顔をふやけさせているパフェグラスに乗っかった生クリームを見ながら俺はまたも煙草が吸いたいと思っていた。
「……どうする? やめとく?」
あのターゲットはアプローチに失敗して下手に刺激したら本気で死にかねない。その結果くるりは消えない傷を心に負うだろうし、くるりもソレは分かっているだろう。俺は半分諦めを誘うような心持ちでくるりに問い掛けた。
「……やる。やるよ」
しかし意外なことにくるりの闘志は衰えてはいなかった。
「……大丈夫か? 無理すんなよ」
……マジか。絶対撤退すると思ったのに。
「まだしてない。無理だと思ったら逃げるし」
……どうやら彼女は入れ込み過ぎという程熱くなっているワケではなく、されど決して冷めているワケでもないようだ。
「……ふむ」
……腰が引けてたのは俺の方か。
「立ててよ、作戦。ソレに従うから」
そう言って少し恥ずかしそうにそっぽを向いて唇を尖らせるくるり。
……アレ? もしかして前より信頼されてる?
「ズバリ、男装で行こう」
夕食時。俺は今まで練っていた作戦を伝えることにした。
「ええっ? 同じ腐女子として近づいた方がよくない? ソレに現実(リアル)の男嫌いって言ってたじゃん。むしろアレ絶対男絡みでリスカしたでしょ……!」
夕食を作っていてエプロン姿のくるりがお玉を持ったまま慌てた声を出す。今日はシチューか。できれば野菜がドロドロに溶け込んでくれていると助かるんだが。
「だからこそだよ。女友達は既にいた。あんな性癖開けっ広げの親友がな。女として、友達として彼女の支えになっても効果はないのかもしれん。彼女が命を殺めるとしたら、やっぱりリストカットが一番に思い浮かぶ……だよな? リトラ」
俺は視線を落とし、俺の膝枕で猫みたいにウトウトしていたリトラに声を掛ける。
「その可能性が高いです。父親絡みの可能性は低いかと」
眠そうなとろんとしたその瞳を無理矢理に律して、いつもの調子でリトラが答える。いや、やっぱりいつもよかまどろみを帯びた声な気がする。前の俺じゃ気が付かなかったろうけど。
「さっきチラッと話に出てたけど、最初彼女は現実の男に恋をして、失恋したことからそんな癖がついちまったんだと思う。そんで今じゃ嫌なことがある度にやっちまってるんだ。あのままじゃその内にうっかりいつもより深めに自分を傷つけて取り返しがつかなくなる日がくるのも時間の問題な気がする」
「何でそんなことするですか? いてーですよぉ……」
くるりの傍で料理を教わっていたのだろう。最近買ってきた猫のエプロンの裾をぎゅっと握りながらリライが呟く。
「あぁ、だから彼女にもう少しタフになってもらう必要がある。失恋や嫌なことがあると手首を切るなんて悪癖も、そんな思考回路も治す必要があるんだ」
リライの頭を撫でに行こうとリトラを起こし、立ち上がりながら俺はそう言った。
「でもさ、あーゆー手合いのリスカってファッションみたいな、新しい自分に生まれ変わるスイッチみたいな意味合いがあるんじゃないの? 切った後に水に浸けなきゃすぐに止まるって話だし。ちょっと分からないでもないって言うか……」
くるりが先にリライを撫でながらそんなことを言う。
「お前、やってねぇだろうな?」
「や、やってないよ……」
「目を逸らすな……! ちゃんと答えろ!」
くるりがびくっと身体を震わせた。隣のリライもだ。
「やってないってば! 大きな声出さないでよ!」
「……分かった」
何か知らんが妙に頭に血が昇った。深呼吸だ。
「……そういう自傷行為をするバカってのは、その行為が周りの人間を傷つけるっていう当たり前のことを分かってないんだよ。もしくは周りに爪痕を残して死んでやろうって考えにまで至っちまってるヤツだ。後者だったらかなり厄介だな。そいつを矯正するだけでなく、そいつにそうさせた周囲の環境を矯正しなきゃならない場合がある」
「今まで秋色兄さんがこなしてきた案件のようにですね」
「うん。でも見たところ彼女はまだそんな追い込まれてるように見えないし、むしろ人生を楽しんでいるようにさえ見える。比較的接触しやすいんじゃないかな?」
空気が悪くなっていたのを自覚していた俺は努めて明るい声でリトラの声に答えた。
「そ、そうかな?」
くるりも俺に釣られて少し弾んだ声で乗っかってきた。
「ああ。だからお前はロリくるりとしてではなく、ショタくるりとして彼女をオトせ」
「ボク、十五なんだけど。ロリでもなければショタでもねーし」
俺がビシっと指を差すとくるりはジト目になってそう言った。
「お前見た目はもっと幼いぞ。ソレに十五と言っても高一か中三かで大分印象変わるぞ」
「高一です。学校行ってないけど」
「知ってる。さっきの娘は二十二、三てとこか。丁度いいんじゃないの? ショタ好きでありつつも、実際リアルな恋愛対象となるギリギリってとこじゃん?」
「ギリギリ恋愛対象って……」
「うむ。リトラだとちょっと犯罪の匂いがしちゃうからな」
当初リライをエロい目で見たことがある自分を棚に上げて俺はしゃあしゃあと言ってのけた。
「?」
リトラが首を傾げる。あぁ、リライの癖が移っちゃったな。
「んー……」
くるりが不満そうとまでは言わないが、どこか腑に落ちきっていない様子で小さく唸る。
「何だよ」
「な、何か、さー……『ギリギリ恋愛対象だ。頑張れ』って、萎えるなー、て」
一瞬流し目で俺をチラッと見てからくるりがぎこちない声を出す。
「はい?」
「何かもっとこう、やってやんよ! って気分になるような、気持ちが奮い立つような言葉は掛けれないのかなー、と」
「…………」
「…………」
「……くるり、お前は美形だ」
そう言って俺はくるりの両肩に手を置き、その瞳をじっと見つめた。
「ま、またぁ!?」
「俺はそんなに顔に自信あるワケじゃないからな。お前が妬ましくて知らず知らずの内に冷たい言い方になってしまったのかもしれない」
「そ、そんなんじゃ騙されない!」
俺に両肩を掴まれながらもくるりがそっぽを向く。
「お前は可愛い。かつカッコいい。おまけに料理もできるし絵は上手いしゲームも強い。何だこの万能っぷり。趙雲かお前は」
「ぶはっ!」
「カワカッコいいよくるりくん。くるりくんカワカッコいい。もしお前が学校に通って制服を着てJKくるりになっていたら男子からも女子からもモテまくりのスーパーハーレム状態間違いなしであったろう……」
「ああ……もう……!」
「そうだろうリライ、リトラ?」
「クルリかわかっこいーですよ!」
「カワカッコいいと思います」
「……駄目?」
ちょっと困ったような声を出して俺は再びくるりの瞳を見つめた。
「……やるよ。でも次は、もっとやる気になる言葉を考えといてよね」
「うんうん。偉いぞくるり」
俺はそう言ってくるりの頭を撫でてやる。
「見てるから、みんな見てるから……!」
くるりは真っ赤になってそう言うモノの、俺の手を払い除けようとはしなかった。
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