98 / 139
リライトトライ3.5
如月京一郎は変態である⑦
しおりを挟む「俺は戸山秋色。十七歳。ゲス魔王などと呼ばれてはいるが、その実態は天使の如く穢れを知らぬピュアボーイだ」
「どうしたの急にwww」
「いや、ごめん。何か急にもう一人の俺に見られてるような気がして」
「いつから二重人格キャラにwww」
まるで語り手のポジションを奪われてしまうような謎の感覚を覚えたぞ。
「で、何だって?」
俺は気を取り直し、まるで鬼の首でも獲ったかのように傲慢不遜な態度で、教室の床に土下座しているケーツーを見下ろしながら言った。
「自分の過ちに気づくのが遅すぎたこの哀れな虫けらにどうか慈悲を……」
「えぇっ!? どうしてまた急にやる気になっちゃったのぉ!?『大好きだよ。でも僕は彼女に想いを伝えない』な~んて言ってらしたのに~?」
「自分なんかに愛想を尽かさず声を掛け続けてくれた彼女に報いたいのです」
「へー! ビックリ! じゃあアレか? 彼女は僕のことが好きに違いないってか? 随分と自信がおありですなぁ~?」
「倍返しは甘んじて受けます」
「今更行動して何とかなると? やめて! クール眼鏡の行動力で、兎川副会長がトゥンク……ってきちゃったらケーツーの精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないでケーツー! あんたが今ここで倒れたら、兎川さんや俺との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、クール眼鏡に勝てるんだから! 次回『ケーツー死す』デュエルスタンバイ!」
「秋……ソレくらいにしとけ」
「小物くせーぞ。そもそも約束とかしてねーし」
俺の物言いに宗二はヤレヤレといった困った顔で、賢は若干楽しそうにニヤニヤしながら言ってきた。
「だってこいつアレっスよ!? 俺がドレだけ心のまま魂の叫びを浴びせても闘牛士の様にヒラリとかわしてくれやがったんスよ!? あーお兄ちゃん傷ついちゃったな~。心の治療費億千万だな~♪」
「で、どうして急に考えを改める気になったワケ? よかったらその辺聞かせて欲しいんだけど」
「うんうん」
あ、俺を無視して進めるなよ、と言う間もなく宗二がケーツーに質問してしまう。
「実は昨夜、こんなことがあったんだ」
日曜の夜、ケーツーは何気なしに部屋のカーテンを開けたらしい。
するとそこから見える景色の中に兎川さんがいたそうな。
ケーツーに気づいた兎川さんは自室の窓を開け、窓越しの会話が始まったのだとか。
「お前ら家が隣同士なだけじゃ飽き足らず部屋も向い同士だったの?」
「うんwww言わなかったっけ? ベランダ伝いで忍び込もうとしたってwww」
……あぁ、そういやそんなこと言ってたか。そういうことか。
「幼馴染みの女子と窓越しの会話とかソレだけでムカつきが止まらねーけど続けろ」
「はいwww」
「……ごめんなさい」
窓越しの会話は兎川さんのそんな言葉から始まったらしい。
「長谷川くんが無茶な行動に出たの……あたしが未練たらしかったせいだ……」
「…………」
「長谷川くんにも京ちゃんにも……色んな人に迷惑を掛けちゃった。こんなんで生徒会長になんてなっちゃっていいのかな……?」
「……僕は気にしてないよ」
ケーツーはいつものニコニコでそう言ったらしい。うん、目に浮かぶ。
「…………」
「…………」
「少なくとも僕が副会長として……支えれてたかは分からないけど、支えたいと思ってた生徒会長は尊敬できる素晴らしい人であり、自慢の幼馴染みだったよ」
「……え」
「僕が高校で生徒会に入らなかったのは、君が嫌になったからじゃない。ソレだけは……絶対にない」
……アレ? 誰だこいつ? このちょっとカッコいいこと言ってるのは俺の知っている如月京一郎その人?
「…………」
「…………」
「初めてだね……そんなこと言ってくれたの」
「そうだっけ?」
「うん……ありがとう」
兎川さんは涙ぐみながらそう言ったらしい。
「来年から受験で忙しくなる……だから、コレが京ちゃんと一緒にいられる最後のチャンスだと思ったの」
「最後って……一緒だったじゃないか。そりゃ昔みたいにいつでもってワケにはいかなくなったけど、カーテンを開ければ顔が見れる。窓を開ければ声が聞けるじゃないか。僕はソレで――」
「ううん……あたし、県外の大学受けるつもりだから。この家、出るんだ」
「――!」
「何だかんだで京ちゃんに甘えてたのかな? 窓を開けて、話を聞いてもらって、いざとなったら勉強教えてくれて……ソレで、本当に弱った時は……さっきみたいに励ましてくれる。あたし多分心のどこかでソレを分かってたの」
「……いいでしょ。ソレくらい」
「ううん……駄目だよね。こんなんじゃ」
「…………」
「あたし、コレからは頑張るから。生徒会長になって、みんなのお手本になって、勉強も、もっと、もっと頑張るから」
「…………」
「…………」
「…………」
「ねぇ……京ちゃん」
「……何?」
「……何でもない。おやすみなさい」
そう言って彼女は窓を閉め、カーテンを閉じた。
二人の間に隔たりを作った。
「――といったことがありまして」
「……ソレでそこで初めて彼女の弱いところを見て、お前は彼女は自分や周囲の思っていたような完璧超人ではない、と気づいたワケだ」
「その通りにございます」
「そんで彼女にも弱ってしまう時があって、誰かにもたれ掛かりたくなる時がある……誰かに支えて欲しくなる時があるのだ、と知ったお前は……今まで彼女は完璧で、支えてくれる人なんて欲してねーんだよと勝手に勘違いしてたお前は! そこで初めて焦り始めたんだな!?」
「その通りにございます!」
「そこでやべ、このままじゃマジであのクール眼鏡に取られちまうと思った! つまり俺の魂の忠告を! 叫びを! お前は何の根拠もねー思い込みでスルーしてたってワケだなオラぁああ!?」
「その通りにございますうぅ! 平に、平にぃぃぃぃ!」
ガンガンとケーツーが床に頭突きをする。
「極めつけに彼女が支えを欲しているのなら、その時、そこには自分がいたいとか欲を出してきたワケだなサラマンダぁぁぁあああっ!!」
「一切の相違なくその通りにございましゅうぅぅぅ!!」
「はぁっ……はぁっ……」
「ふぅ……ふぅ……」
「で、どうして兎川さんは支えを欲してる、とか思ったんだ? 彼女がハッキリそう言ったワケでもないし、またお前の思い込みかもよ? そう思った根拠は?」
「……女の娘が『何でもない』って言ってて何でもなかった試しがないので」
……おぉ、意外と分かってんじゃねーか。ギャルゲーでしか知らねーくせに。だがここで甘い顔をするワケにもいかん。
「十中八九ないんじゃなかったっけー?」
「例えそうだとしても、残された一二に賭けてみたいのです」
「……ふむぅ」
「誠心誠意頑張ります! オナ禁願掛けもします!」
「やめろ」
ソレよくやるけどきっと神様は受け付けてねーぞ。
……てか、願掛け自体が自己満足みたいなモンだし。
自分からやっといて思い通りにいかないと「どうしてさ」みたいな考え方が俺は気に入らない。
まぁ自分はその辺完璧かと言われたらちと苦しいので言わないけど。
「お望みとあらばこの場で色々漏らしてその姿を写真に残してもらっても構いません!」
「てめーは家康か! お前が漏らしたとこ見て誰が得すんだよ!」
「ソレを盾に脅して色々いやらしい要求をしてもいいんだよ!?」
「女の娘ならともかく男友達にそんなことするか気持ち悪い! いや女の娘でもキツいけど!」
「いやぁwww女の娘相手にアッキーがそんなことする度胸はないと思うなぁwww」
いらっ、ときたが見れば宗二も賢も腕組みしながらウンウンと頷いている。
「だから代わりに僕を好きにしてもいいですからぁ!」
「やめろアホ! 分かったよ!」
「分かっていただけましたか! お許しいただけましたか!」
「あぁ……でもいいか。コレだけは言わせろ。現実世界での恋愛はギャルゲーやアニメとは全くの別物だ。自分から何か行動を起こさないと本当にビックリするくらいになんっっっにも起こらないんだよ」
「はい」
「何もしてないのに何故か自分に好意を寄せる異性なんて有り得ないからな?」
自分を棚に上げまくって俺は上から言ってやった。
お前はどうなんだよって罵りは後ほどまとめて承ることにした。まずはこいつの恋を決着させるのを優先させる。
「世の中に腐る程いるカップルはみんな行動を起こした勇者なんだ。行動を起こしたけどフラれて独りのヤツと何もしないで独りのヤツとじゃ勇者と腐った死体くらい違うからな?」
「……僕は勇者になりたいです」
「……分かった。例え討ち死にしても骨は拾ってやる。誰が何と言おうと俺達だけはお前を勇敢な変態だと語り継いでやる」
「ありがとう。僕は戦うよ」
「うむ。よく言った」
「僕は……生徒会選挙に出馬する……!」
『おぉ~~♪』
「……で、お願いがあるんだけどwww」
「……?」
くるりとこちらを振り返りながらケーツーはそんなことを言ったのだが、この時の俺にはよく意味が分からなかった。
「副会長にwww僕はなるっ!! ドン!!」
このお願いとやらのせいで、一生モンの恥をかくことになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。
出来れば忘れたい。この記憶を知らないでいれたら未来の俺はどんなに幸せだろうか、と思うほどだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる