リライトトライ

アンチリア・充

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リライトトライ3

第十四話

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 最悪の初対面の翌日。俺は練習用のアコギを背負って屋上へと続く階段を上っていた。

 あのクソ生意気な女を俺にイカれさせ、音楽の道を諦めさせるには格の違いを見せつけるしかない!

 そしてソレには特訓しかないのだ!

 得意分野で完全に屈服させてやる! そして俺好みのメス豚にたっっっぷりと調教してくれるわっ!

《さっそく修行ってワケ? 前時代的ねぇ。単純過ぎない?》

《努力家なのわアキーロのいーところですよ! アキーロわ予習を怠らねータイプなんです! こないだだってリライのブラヂャーをぬいぐるみにつけて片手で外す練習をしてたですよ!》

「げぇーっ! 何でお前がソレを知ってんだぁ! お、お前あん時お昼寝してただろ!?」

《起きてたですよ。何してるですよって声掛けようとしたらググリ先生に止められたですよ。アレわ明日の為のその1や、邪魔したらあかん、て》

「…………」

 俺は言葉が見つけられず口をパクパクと動かしながら絶句していた。あ、あのアマ……!

《そんなワケでアキーロわ今日も特訓ですよ! 分かったですか!》

 リライの色々と分かってない声がなおも続ける。

「ち、違うんだアルル! アレには深い事情があって……!」

 制約のせいで効果のほどは怪しいモノではあったが、考えるよりも先に口が弁解を始めた。

《いえ……いいんじゃないですか? あたしには関わりのないことなので。どうぞご自由に》

「敬語はやめてぇっ! 出来心だったんだ! いつもみたいに僕をナジっていいんだよ!?」

 俺は特訓に入る前からボロボロになってしまったメンタルを抱えながら、屋上へと通じているドアに手を伸ばした。

「……さむっ」

 少し冷たい風が俺の髪をなびかせる。

《ソリャ屋上だしね》

「……むぅ」

《やっぱりくつろぐには中庭が一番よ。校舎に囲まれてるから風も強くないし》

 ……アルルがその場所を見出した自分の慧眼を主張するように誇らしげに言う。

「だがこの厳しさが修行には必要なのだ。ソレにハートに火が着けば寒さなど気にならん!」

 俺が寒さに縮こまりそうな身体と心を無理矢理奮い立たせたその時だった。

「……っくしゅんっ!」

「んあ?」

 ……頭上から何か聞こえた。リライでも、アルルでもない、女性の声。てか、くしゃみだ。

「……っ!」

 俺がくしゃみのした頭上――梯子の先に続く給水塔の方へ視線をやると、一瞬だけ人影のようなモノが見えた気がした。

 ……誰か、いるのか?

 気になった俺は梯子に手を掛け、足を掛け、声のした方へと登ってみた。

「すー……すー」

 そこにいたのは、ウチの高校の制服を着た一人の女子生徒だった。この寒いのに、コンクリートの床へと身体を投げ出し寝息を立てている。

「……アレ?」

 隠れるように動く人影が見えた気がしたんだけどな……?

 そう思って俺は目の前に横たわる女生徒へとマジマジと視線を送った。

 ……変わった髪形だな。

 少し長すぎる前髪で顔の半分が覆われ、目が見えない。

 俺も人のことは言えないが不便じゃないんだろうか?

 おかげで目を閉じているのかも分かりにくい……が、どうやら寝ているらしい。規則的な呼吸音から俺はそう判断した。

「……胸、デカ」

 俺はボソ、と呟いた。事実、目の前に横たわる少女のソレは並々ならぬモノであった。

《デケーですね。何でユノやこいつわデケーのに自分やマヒルやアルルわ小せーですか?》

《あんたホントアホね。みんなが同じ顔してたら気持ち悪いでしょ? ソレと同じで、みんなが同じ大きさの胸だったら気持ち悪いのよ。そしてそこに固執するこいつも気持ち悪いのよ》

 ……こ、固執なんてしてないやい!

《大きくても何もいいことないのよ? 頭悪そうに見えるしデブに見えるし、全っ然いいことないのよ? 分かったわね、リライ?》

《……ほへ? 分かったですよ》

「……ごほん」

何かこいつらが見てると思うと目の毒だ。ソレに眠ってしまうには少し寒いし。

 俺は脱いだブレザーを目の前で寝ている少女の身体に掛けた。

《っか~~。キザったらしーったらありゃしないわね。あんたが風邪引いても知らないわよ?》

《そーですよ。アキーロが風邪引いちゃうですよ?》

「仕方ないだろ? このまま放っといたら確実に風邪引いちまう。ソレに、俺は今からバーニングヒートモードに入るから大丈夫だ」

《ばぁにんぐ?》

《……よーするに、アホは風邪引かないってことよ》

《そーなんですか?》

「違う。ウチの妹に嘘教えんじゃねー。そいつアホだから信じちまうだろ」

《ソレもそうね。アホのあんたでも風邪は引くのよ。だからこんな寒い屋上で上着を脱ぐなんて行為を行うアホが一番アホなのよ? 分かったわね、リライ?》

《……ほへ? 分かったですよ》

 少なくとも知らぬ内に自分と自分の兄がアホ呼ばわりされたことは確実に分かってないリライがアホな声で相槌を打つ。

 ……何か姉妹みたいになってきたなこいつら。

《そして見知らぬ女子に上着を掛けるなんて行為は気持ち悪くて偽善的な自己満足の――》

「うるせー!」

 ええい。邪気に構わず練習開始だ。

 俺はケースから取り出したギターのネックを掴む。

「あの……」

「ん?」

 振り返ると、床に寝そべっていた彼女が上体を起こし、多分……俺に視線を送ってきていた。

「アレ? ごめん。起こしちまったか」

「いえ……あの、ソレより……コレ」

「あぁ、俺のブレザー」

「ど、どうも」

「あぁ、ほとんど役に立たなかったみたいだけどな」

「ソレでも……一応」

「まぁギター弾くのに邪魔だから脱いだだけだよ。いらんかったらその辺に置いといてくれ」

「……はぁ」

「…………」

 座り直した彼女が俺のブレザーを膝掛けのように使い、素肌を隠す。

 ……よかった。『キモっ』とか言われたらどうしようかと思ってたんだ。ちょっと安心。

 しかし、やっぱ変わった髪形だな。身体を起こしても前髪で目が見えない。

 大丈夫なのか? 日常生活に支障をきたすのでは?

「……えと」

 ……俺のこと見えてるんだろうか?

 普段女の娘の目をマジマジと見れない俺はコレは助かるとばかりに彼女の顔に視線を注いだ。

「な、なん……です? いやらしい目で舐め回すように見ないで下さい」

「いや見てねーよ! 初対面でひどくない!?」

「どうしよう。誰もいない屋上で無理矢理手篭めにされて……写真を撮られちゃうんだ……」

「はいぃ?」

「そして今度はソレをタテに脅されて……下着を着けないで登校しろとか……」

「おーい! 帰ってこーい! 超鼻血出てんぞ!」

「……えっ?」

「……鼻血、すげー出てる。ホラ、コレ使って」

 俺は内心引きながらもポケットからティッシュを取り出し、彼女に差し出した。

《何ですよこの女わ……》

《危ないヤツね……》

 アレ……鼻血? 何か思い当たる節が……割と最近……何だっけ?

「あ、ご、ごめんなさい……あなたが劣情に囚われたような目をしていたので、つい」

 そんな『つい』は聞いたことがない……ほとんど謝った意味がない気がするが……。

「うん……キミは?」

「あ、わたし……一年の高橋愛理たかはしあいりって言います」

「そっか……俺は――」

「知ってます。二年の……戸山先輩……です、よね」

「アレ? 知ってるの?」

「はい……ゲス魔王って有名ですから」

「…………」

 絶句。俺その名前を頂戴した事件のこと、知らないんだけどな……。

「中学の時、本来の演奏者が被る迷惑を考えもせずに文化祭のステージを奪って自己満足な歌を聞かせた挙句、取り押さえに入った教師の頭にギターを振り下ろした、とか」

 ……う。中学の時のことまで。ソレばっかりは知っているけど事実だから否定もできない。

「球技大会で小汚い謀略を駆使して全校男子を敵に回して、優勝した暁にはどこかの女性にセクハラをするつもりだったとか」

 ……球技大会? どこかの女性って誰? 俺は一体何をしたんだ? 誰か教えてくれ!

「空手部で一番乱暴者だった先輩と喧嘩をして負かした翌日、敗者に鞭を打つが如く土下座を強制した、とか」

 ……ほぼ事実。ぐうの音も出ない!

「エッチな本を貸してくれなかった、とか一方的な言い掛かりをつけて同級生を殴って停学になった、とか」

 ……完璧に事実!

「わたし、あなたのこと大っ嫌い……です」

「……うん。言われる前から確信してました……調子コイてブレザーなんて掛けてホントすみません。虫の分際で何カッコつけてんスかね、僕」

「な、何でわたしに謝るん……ですか」

「いえ、声掛けてすみません」

「な、何なんですか。コレじゃわたしが悪者みたいじゃないですか」

「いや、キミは何も間違ってないよ。間違ってるのは俺の存在なんだ……あはは」

《アキーロ! ちゃんとセツメーするですよ! こいつ分かってねーです!》

《何卑屈になってんのよ! そういうのはあたしに対してだけにしなさいよ!》

「ふ、普通あんなこと初対面の小娘に言われたら怒って言い返すモンでしょう!?」

「すみません……言い返さなくてすみません」

「もうやめてくださいそのキャラ! わたしが悪かったですから!」

「いや、はい。じゃあ、ここでギター弾いててもいい、ですか?」

「あぁもう、敬語もやめてください」

「じゃあ、弾いててもいい……かな?」

「……はい」

「ありがとう。じゃあちょっと邪魔するよ」

「何でこんなとこで……わざわざ学校にギター持ってきて……やっぱりカッコつけですか?」

「はい……カッコつけですみません」

「あぁ、だから……ごめんなさい」

「家だと気が緩んじゃって集中できないんだよ。ソレに、煮詰まった時に目の前に空があると最高なんだ……って前に言ってた人がいてさ。ソレに習おうかと」

「……はぁ」

 分かってくれたんだか分からないが、そう返事した彼女は俺に習って空を見上げた。

「そんで今度は下。ここから見るとさ、どんなガリ勉も天才ピッチャーもみんなおんなじ……おんなじ、豆粒みたいに見えるだろ? 自分が小さく見えちまった時とか、安心するんだ」

「……はい」

「ふははは! 見ろ! 人がゴミのようだ! ……ってな」

「……はぁ」

 あ……『はい』だった返事がまた『はぁ』に戻っちゃった。仕方ないだろ。一応言っとかないとって思ってさ。

《あらあら……人のようなゴミが何か言ってるわ》

 なんってこと言いやがるんだこの毛長猫。おのれ。同調してもらってる恩がなかったらスカートの中に両手を突っ込んでストッキングだけ引き下ろしてやるところなのだが……もちろんスカートの中は見ずになっ!!

《ちょっと……何か変なこと考えてない? 寒気がしたんだけど》

 危ねっ。もし何を考えてたかバレたらどんな罵りを受けるか……くわばらくわばら。

《アキーロ! 人にゴミとか言っちゃダメですよ!》

《わっ、びっくりした》

「あ……」

 やべ、リライがいた。確かに今の言葉は教育上大変よろしくなかったかもしれん。

「いや、今のはラ◯ュタ王の言葉であって俺がそう思ってるワケでは――」

《ちゃんとごめんなさいするですよ!》

「はい! ごめんなさい! すいませんっしたー!」

 観念した俺はズバッ! と頭を振り下ろした。

《よし、です》

「……何一人で喋ったり頭振ったりしてるんです……? 発作……ですか?」

「ねーよそんな発作!」

「あ、ごめんなさい……そういった頭のカワイソーな人なのかと……」

「ハッキリ言うなぁ、おい」

「あ、ごめんなさい……です」

 多分、あまり他人と会話をしない娘なんだろう。明らかに話すのに慣れてない感じがする。俺は鼻で溜息を吐きながら愛理の横に再び腰を下ろした。

《ソレにしても……言われっぱなしじゃない。ちょっとは言い返しなさいよ!》

《アキーロわホント怒らねーですねぇ》

 ……え、そうか?

《どこがよ。昨日だって怒ってたし、あたしにはしょっちゅう言い返してくるじゃない》

《ソレわただのノリか、怒ってるんぢゃなくて叱ってるだけですよ。アキーロわ基本相手が間違ってないと怒らねーです》

 ……リライ。ちゃんと成長してるんだな。いかん、何か嬉しいぞ。

《……怒るんじゃなくて、叱る……ね》

《はいですよ》

《まぁ、分からないでもないわね……あたしだってエルを怒ったことなんてないモノ》

 ……そうか。アルルも弟がいるモンな。

「……わたし、ここにいていいんですかね?」

 どこか居心地が悪そうな声に気づき、俺は目の前の彼女に意識を戻した。

「最初にいたのはお前の方だろ。聞き苦しいかもしれないけど、ちょっと我慢してくれ」

「……はぁ」

 ソレから数十分間、ようやく俺は予定通り、特訓タイムに入った。隣に腰掛けた彼女も黙って聞いていてくれた。

「……ふう、まあこんなとこか」

 空が夕焼けに染まり、少し肌寒くなってきた。そろそろ帰るか。

「練習……て言うか、努力とか……するんですね」

 今まで黙って隣に座っていた愛理……だっけか? がぽつりと言った。

「ちょっと、どうしても見返したいクソ生意気なヤツがいてな……」

 俺は昨夜のイリアの見下し顔を思い返して口許を歪める。

「…………」

「まぁソレがなくても努力は必要だよ。てか、好きなこと上手くなろうとするのに努力なんて重々しい言葉は使わん」

「…………」

「いや、天才に努力が加わったら恐ろしいことになってしまうから周りの為に慎むべきだな」

「…………」

 ……聞こえてないか? ちょっと現実に胸が痛くなるぞ。

「……知らなかった」

「何が?」

「…………」

 ……? どうしたというのだろう?

 彼女は突然俯いて喋らなくなってしまった。先程までとは違う、どことなく気まずい沈黙。

 ……いかん。俺何かマズイこと言ったか? どの言葉に対して反応してしまったんだ? 全然分からん。

「……お前さ」

「……はい?」

 俯いていた愛理がこちらを見上げる。相変わらず前髪で表情は窺えないがやはり元気がない。

 ……考えても仕方ないことは……考えても仕方ないな。

「……犬派? 猫派?」

「……は?」

 彼女の動きが止まったまま動かなくなる。が、俺は構わず同じ質問を繰り返した。

「だから犬派? 猫派?」

《いきなり何言ってるですか。トーゼン猫ですよ》

《ふふん、当然猫ね》

「い……犬……です」

「おお! お前も犬派か! だよな!」

《何がだよな、ですよ! どー考えても猫ですよっ!》

《アホね》

「どういうとこが好き?」

「そ、そうですね……。猫より……何考えてるか分かりやすい……から? 遊びたい時はハッキリ擦り寄ってくるし、お腹減ってる時も素直にねだってくるし……?」

「分かる分かる! あいつらって正直に好き好きオーラ出すよな!」

《何が好き好きオーラですよっ! どー考えても猫ですよっ!》

《分かってない。分かってないわ。あぁムシャクシャするわね。命令よ。飛び降りなさい》

 ……そんなフワっとした理由で殺されてたまるか!

「俺も犬派だな。妹達は断然猫派みたいで、孤立無援だけど」

《どー考えても猫ですよっ!》

《ちょ、ちょっと、妹達って……こいつと同列にすんじゃないわよ……!》

「そうなん……ですか」

「うん。猫も好きだけど、飼うなら犬がいいな」

 ……どっちみちあのアパートじゃ飼えないし、リライが却下するだろうけど。

「ウチ……犬飼ってますよ」

「マジで!? 種類は? オス? メス? 名前は?」

「え、えっと……柴犬で、オスです。名前は……」

「うんうん」

「……シュウくん、です」

「おぉ!」

「……最近、付けたばかりなんですけどね。みんな、その時ハマってる関係の言葉で好き勝手に呼んでるから」

「ふーん」

「……最近、あんまりお散歩連れていってあげてないから、わたしのこと見ると吠えてねだるんです。昨日は、ソレで夜遅くに帰ったのがバレちゃって、怒られちゃいました」

「はは、自業自得だ。犬を寂しがらせたお前が悪い」

「今日帰ったら、一緒にお散歩行こうかな……」

 そう呟く愛理の口許に笑みが戻った……ふう。どうやら建て直しに成功したみたいだな。

「いいなぁ。俺も散歩いきたいなぁ」

《散歩なんてメンドーですよ! どー考えても猫ですよっ!》

《……ふん》

 ……とか言いつつも、楽しそうに散歩してるお前らの絵が容易く浮かぶぞ。何だかんだで飼ったらメロメロになりそうだ。

 まぁ、もしもの話だけどさ。

「……い、いや、その……今からですか?」

「……え?」

「い……家は……ちょっと……」

「……は?」

 ……あ、もしかして今から家まで行って一緒にお散歩デートに誘ってると思われたのか?

《やーいフラれたですよ! どー考えても猫ですよっ!》

《セバスニャンには会おうとしなかったくせに……自業自得ね》

「ち、ち、違う! そういう意味じゃなくて! 勘違いすんな!」

「……ツンデレ、ですか?」

「違う! そんな図々しい意味で言ったんじゃない……いきなり自宅にお邪魔なんてされたら誰だって嫌だろ」

 ソレに、嫌ってる相手にこんなこと言われたら普通引くだろ。俺はアホか。

「あ……はい。あ、でも……先輩だから嫌とかそういうワケじゃなくて……ウチが……その」

「あ、あぁ……」

 ……何だ? 俺のこと嫌ってるんだと思ったら、そういうワケでもないのか?

 とすると、彼女は自分の家を他人に見られるのが嫌、なのか?

 うーん? 謎だ。

「え、と……ごめんなさい」

「…………」

 うーん……分からん。

 て……いかん。愛理がまた俯いてしまった。一体何なんだ?

「……お前さ」

「……はい?」

 またも俯いていた愛理がこちらを見上げる。表情は窺えないがやはり元気がない。

 ……考えても仕方ないことは……考えても仕方ない!

「醤油派? 味噌派?」

「……は?」

「ラーメン。醤油派? 味噌派? ソレとも豚骨か?」

《いきなり何言ってるですか。トーゼン味噌ですよ》

《ふふん、当然味噌ね》

「……醤油……です」

「おお! お前もか! だよな!」

《何がだよな、ですよ! どー考えても味噌ですよっ!》

《アホね》

「俺も醤油派だな。妹達は断然味噌派みたいだけど」

《どー考えても味噌ですよっ!》

《だ、だから……一緒くたにすんじゃないわよ……!》

《大体アキーロだっていっつもリライと行く店でわ味噌頼んでるぢゃねーですかっ!》

《え……?》

 ……あの店では味噌が最高なんだよ。基本は醤油派なの。

「そうなん……ですか」

「おう。つーかこんな話してたら腹減ってきたな……」

「…………」

「ラーメン……食いに行かね?」

「……え? え、ええっ!?」

「な、何だよ?」

「わたしを……誘ってるんですか?」

「他に誰がいる?」

「…………」

「犬派で醤油派……趣味が合うみたいだから誘ってみただけだ。深い意味はない。嫌か?」

「…………」

「もちろん断ってもいいぞ。思いつきで言っただけだし。お前俺のこと嫌いとか言ってたし」

「い……いえ……ご一緒します。ほん、本当にいいんで――」

「おし、んじゃ行くか! もう腹減っちゃって辛抱溜まらん!」

「は、はい!」

 俺は愛理の珍しく張った声を背中に受けながらギターをケースにしまい、梯子に足を掛けた。

「で、でも……!」

「あん?」

 梯子を降りる途中の俺の頭上から声が降ってきた。

「ちょっと趣味があったからって『きっとベッドでの相性も合ってるに違いねーぜゲヘヘ』とか思わないで下さい!」

「……ラーメン屋じゃなくて、病院行くか?」

 俺は呆れ顔のまま平板な声でそう言った。

《そうゆうことね……ズルい男》

《ふへ? 何がですよ?》

《どっちも嘘にはならないってことよ》

 どこか楽しそうなアルル達の声が聞こえたが、俺は無視した。

 返事するワケにもいかないし、ソレに、コレくらいのことしたからって、何が変わるってワケでもないだろ?


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