29 / 45
迷探偵・神乃ヶ原天の事件簿
しおりを挟む分からない。何故神原がハナのことを知っている?
実は僕の知らぬところで二人は仲良くなっていたのか?
いやいやソレはないだろう。
だって僕ですら、部活に忙しいハナとあまり顔を合わせる機会がないんだ。
神原は部活に入っていない。そして休み時間は大体クラスの女子と喋っているのを見掛ける。
二人に接点はないはずだ。
おそらく今、ハナと一番接点があるのは同じ女子テニス部で活動している人間だろう。
次点でコートを共有している男子テニス部の部員ってところか。
……あれ、何故だ。酷く不愉快な気分になってきた。
とにかく! 高校に入学してから神原とハナに接点があるとは思えない。
……高校入学以前は?
駄目だ。だとしたら分からーん!
「何をウンウン唸ってますの?」
背中に声を掛けられる。声の主は今僕の考えの渦中にいる神原天乃、その人だ。
気がつけば、いつの間にやら授業は終わっていたらしい。
勿論考え事をしながらもしっかりとノートは取っているのだが。
「授業どころかHRも終わってますわよ。あなた掃除の時間も机に向かってウンウン言ってましたのよ」
確かに教室に残っている生徒の数がまばらになっている。なんてこった。そんなに熟考していたとは。クラスメイト達に悪いことをしたな。
「……神原、分からないぞ」
「何がよ」
「お前とハナの接点」
僕が忌々しげにそう言うと、何を思ったのか神原は愉快そうにいたずらな笑みを浮かべた。
「ふふふ、教えない」
「ええい、教えろ。癪な事実だが、正直気になるぞ」
「自分で突き止めなさいな。迷探偵さん♪」
精神的な優位にいることを自覚したのか、ますます神原はニマニマと口許を弛める。
……もう怒ってはいないみたいだ。自分から声を掛けてきたし。
「お前今、絶対迷う方の『迷』を使ったろ! いいだろう! 暴いてやる!」
だが挑戦されたのなら、ソレとコレは話が別だ。
「あなたに出来ますでしょうか、おニブのテンちゃんには荷が重いと思われますわよ」
何だか本来の関係性を取り戻したかのように、僕達はお互いに挑戦的な笑みを浮かべた。
「やってやるさ。でもこの勝負に僕が勝ったら、この間のことは水に流すって約束しろよ」
「約束しますわ。神原の名にかけて」
いつかのように、いつものように神原が腕を組み、胸を逸らし、僕を見下ろしながら言った。
「ただの仲直りに随分と大仰で面倒な手順を踏むね、二人とも……」
いつの間にか隣にいた小太郎が面白がるように呟く。
「うるさい。関係ないヤツは引っ込んでろ、小太郎」
「関係なくもないさ。アマツくんが探偵なら、俺は助手の小太郎、てポジションだし。二人の共通の友達だし。面白いし」
「最後のは聞き捨てならない気もしますが、いいでしょう。風間くんの手を借りることも認めましょう。鈍いあなた一人ではいつまで経っても話が進みませんわ」
何だとこんにゃろ……
「あ、じゃあ早速だけど何かヒント頂戴よ。さすがにノーヒントはちょっと何をしていいか分からない」
僕が反論するより先に、小太郎がペラっとヒントを求めてしまう。
「コラ、勝手に敵にヒントを求めるな! ソレは負けを認めるようなモノじゃないか」
「じゃあアマツくん手がかり掴んでるの? 何から取りかかるつもり?」
「…………」
小太郎の返しに僕は閉口した。ぐぐぐ……! ソレはコレから考えるんだ!
「ホラ! いるじゃんヒント」
「はぁ……仕方ないですわね。ヒント1――」
あ、コラ待て。と僕が制止する前に神原が口を開いてしまう。
「私が二人に出会ってから、コレまでの言動にヒントが隠されています」
「ソレは、僕達二人が聞いている言葉?」
小太郎がさらに追い打ちを掛ける。
こいつ……何気に頭いいな。一瞬で『言動』から『言葉』に絞らせたぞ……!
「そうです。さらに言うならば、私は、その……答え自体を、少し恥ずかしく思っています」
「……は?」
僕が口をあんぐりさせて神原を見ると、彼女は少し気まずそうに目を逸らした。
「だから自分から答えを口にするのは嫌だし、正直答えに辿りつけなくてもソレはソレでアリ、と思っています」
「くうぅ、女心だね! 口にするのは恥ずかしい、でも気づいて! ああ、でも気づかないで!」
「うるさいですわよ! じゃあ精々頑張りなさい! ソレじゃ、さようなら!」
小太郎がアホなことを言ったので、神原はぷんすかと怒って出て行ってしまった。
いや、コレはいつもの調子だな。もうすっかり普段通りの風景だ。
「いやあ、本当に可愛いなぁ、神原さん」
嬉しそうに頭をかく小太郎。こいつの趣味も良く分からん……が、今はソレはいい。
「ようし、やるぞ小太郎。あの女の鼻を明かしてやる!」
「お、神乃ヶ原先生、やる気満々! じゃあお腹も減ったし寄り道しながら作戦会議しようぜ!」
「うむ!」
挑戦、友達、寄り道、買い食い。
かつては考えもしなかったことが、こんなにも簡単に我が身に降りかかって、嬉しくて堪らない。
勿論、挑戦されたからには全力で応えるし、今言った言葉に嘘はない。
その一方で、結果は別にどちらでもいいなんて思っている自分にも気づいていた。
そして、こんな日々がいつまでも続けばいいなんて思っている自分にも、僕は気づいていたのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【完結】後宮の化粧姫 ~すっぴんはひた隠したい悪女ですが、なぜか龍皇陛下に迫られているのですが……?!~
花橘 しのぶ
キャラ文芸
生まれつきの顔の痣がコンプレックスの後宮妃、蘭月(らんげつ)。
素顔はほぼ別人の地味系女子だが、他の誰にも負けない高い化粧スキルを持っている。
豪商として名を馳せている実家でも、化粧スキルを活かした商品開発で売上を立てていたものの、それを妬んだ兄から「女なのに生意気だ」と言われ、勝手に後宮入りさせられる。
後宮の妃たちからは、顔面詐欺級の化粧と実家の悪名により、完全無欠の美貌を持つ悪女と思われているのだった。
とある宴が終わった夜、寝床を抜け出した先で出会ったのは、幼いもふもふ獅子の瑞獣、白沢(はくたく)。そして、皇帝―漣龍(れんりゅう)だった。
すっぴんを見せたくないのにも関わらず、ぐいぐいと迫ってくる漣龍。
咄嗟に「蘭月付の侍女である」と嘘をつくと、白沢を保護して様子を定期報告するよう頼まれる。
蘭月付の侍女として、後宮妃として、2つの姿での後宮ライフが始まっていく。
素顔がバレないよう、後宮妃としてはひっそり過ごそうと決めたものの、化粧をきっかけに他の妃たちとの距離もだんだんと縮まり、後宮内でも目立つ存在になっていって——?!
すっぴんはひた隠したい化粧姫蘭月と、そんな彼女を自分のものにしたい皇帝の中華後宮恋愛ファンタジー!
無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~
そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。
王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。
中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。
俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。
そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」
「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
ヤンデレ男の娘の取り扱い方
下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】
「朝顔 結城」
それが僕の幼馴染の名前。
彼は彼であると同時に彼女でもある。
男でありながら女より女らしい容姿と性格。
幼馴染以上親友以上の関係だった。
しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。
主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。
同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。
しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。
――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。
現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」
本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。
こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる