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高校デビュー①
しおりを挟む入学式から土日を挟んで月曜日。登校初日。
今日から僕の新生活が、高校生活が始まる。
僕だってコレまで何も考えずに過ごしていたワケではない。失敗から学んだこともある。
まず、ここに僕の新生活に懸ける思いを表明しておこう。
僕はサル共に媚びるつもりはない。コレからもくだらない嫌がらせや中傷を加えてくる阿呆は無視するし、度合いによっては見せしめの意味も込めて、容赦なく叩き潰すつもりだ。
中学の時は媚びるように友達を求め、迫害されても我慢した末に大爆発を起こしたのが失敗だったのだ。
今度は媚びず、だが決して自分から敵対したり、距離を取るつもりもない。
所謂来る者拒まず、去る者追わずの精神だ。
そしてあわよくば……ほんの数人、友達と呼べる人間が出来たらいいな……と思っている。
色眼鏡で人を判断するヤツはノーサンキューだ。なので少々周囲を牽制させていただく必要がある!
「そんなワケで……金髪にしてみましたっ!」
真新しいブレザーにネクタイ、そして輝くゴールドヘアー。
朝の食卓に僕は新しい出で立ちで現れた。
「あーっはっはっは!!」
母さんは爆笑した。
「……ふふっ」
父さんは苦笑いした。いつもと役割が逆……だと!?
「……いただきます。……へ、変……かな?」
「あー……笑った。いいんじゃない? 髪を染めて教師に怒られるのも、ソレを鬱陶しいと思えるのも、きっと今だけよ」
「大人になると染めようという気もなくなるからなぁ」
「そうなの? プロアスリートとか結構いない?」
「アレは特殊。あと逃げ道を断ったりファンに印象付けする為とか……色々あるな」
「ふうん……結構考えてのことなのか……わっ」
僕が首を捻っていると、父さんがまだブリーチ剤の香りの残っている頭に掌を乗せた。
「今しか出来ないことを目一杯やるといい。たくさん成功して、ソレ以上に失敗してこい」
「……うん」
「あたし達は別に口出ししないけど……ハナちゃんは何て言うかしらねー?」
母さんの発言に僕は口を尖らせる。
「は、ハナは別に関係なくない?」
「さてどうだか……高校生になったら一緒に学校行かないの?」
「……朝練だってさ。放課後も部活だし、あまり接点ないよ」
「ふぅん……『でも大丈夫。心で繋がってるんだ』って?」
「言ってない!」
僕は即座に否定するが、母さんはとても楽しそうにニヤついた。
「照れちゃってぇ。あ、そういえば週末、明井さんのご両親いないらしいからハナちゃん夕食に誘ってあるからね」
「……ふぅん?」
僕は敢えて興味なさそうな声を意識する。
「嬉しい?」
「別に!」
「ねぇあの雨の日に一体何があったの? ママ気になっちゃって」
「ごちそうさま! 行ってきます!」
「母さんソレくらいにしときな」という父さんの声を背に受けながら僕は玄関を出た。
そして今、僕は自分の教室の自分の席に座っていた。
滅茶苦茶見られている。周囲からの視線が凄い。
……なあに、想定通りだ。むしろ周囲への牽制が目的なのだから予定通りだ。
担任の先生からは困ったヤツが来たな、という視線を注がれている。随分と若い女性の先生だが、新任教師だろうか? 少し挙動不審だ。
……おそらくこの後職員室にでも呼ばれるんだろう。
そこで、僕はまた『学年一位でいる内は見逃せ』という条件を突き付けるつもりだ。
まぁ、ソレはあとでいい。
今はクラスメイトへの挨拶の時間だ。
現在も出席番号に倣って並べられた席順に、サル共がありきたりな、或いは何と戦っているんだか知らんが、何にも興味ないです的な、無気力アピール混じりの斜に構えたありふれた挨拶をしている。
「……ふっ」
最初の挨拶は決めてある。いつか母さんが言っていたアレを実践する時が来たのだ!
――神乃ヶ原天! 天才です! 僕、天才ですけどあなた達を見下すつもりはありません、嫌味に感じることもあるかもしれないけれど、ソレでも構わない人は友人になってくださいな!
っっっっってね!!!
僕の前の席のヤツが自己紹介を終えて席に着く。
さぁ、僕の番だ、父さんの言う通り、今しか出来ない青春とやらの為に、いっちょうかましてやろう。
行くぞ……っ!
その時、僕の後ろからガタっと椅子を押し退け、立ち上がる音が聞こえた。
「神原天乃! 天才です!」
「……は?」
予想外の声に僕は思わず振り返る。
「私、天才ですけどあなた達を見下すつもりはありません、嫌味に感じることもあるかもしれないけれど、ソレでも構わない人は友人になってくださいな!」
「…………」
「…………」
『…………』
……かみ、はら?
いや、僕の頭の中の台詞パクってるこいつ、誰よ!?
見上げれば僕の後ろにいたのは、パーマなのか元々なのか知らないが、少し癖のかかった金髪をボブカット……エアリーボブというヤツか? ソレにした女子が自信満々の顔で大きな胸を反らしてふんぞり返っていた。
「えー……神原さん。順番飛ばしてますよ」
「あら、ソレは失礼しましたわ!」
気まずそうに指摘する担任教師の言葉に、なおも傲岸不遜とばかりに、えー、と……神原天乃とかいう女は偉そうに答えた。
「えー……ソレでは順番前後しましたが、前の席の……神乃ヶ原くん」
「……あ、はい」
「!?」
「えー……と、あー……」
僕はおずおずと席を立つ。
……言えるワケがない。既にコレ以上ないと言っても差し支えない程の周りの引きっぷりを見ろ。
こんなところで同じ挨拶をしたら、この後ろの女とセットで変人としてインプットされること間違いなしだ。
……もしかして僕の金髪もこの女みたいにヤベーヤツ扱いされているのか!?
「……神乃ヶ原天です。よろしくお願いします」
無難・オブ・無難! ありがとう後ろの変人! 君の失敗から僕は学んだぞ!
「あなた……!」
「ぐえっ……!」
散々教室の空気を荒らしたにも拘わらず、まだ飽き足りないのか、神原とかいう女は後ろから僕の襟首を掴んできた。
「あなたが……神乃ヶ原天なの!?」
「何なんだお前は! いい加減にしろ!」
「私? 私は……神原天乃! 天才ですわ!!」
聞かれるのを待ってましたとばかりに、変人女は瞳を輝かせながらそう答えた。
「そうじゃない! 何考えてんださっきから! 周り引きまくってるだろ!」
「ふふ! 私、天才ですから! 凡人が付いてこれないのも無理ないですわね! コレぞ正に『燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや』ですわ!」
「何なんだこいつは! 初っ端から人の予定を狂わせまくって!」
言い争っている内にすっかり変人セット扱いされてしまった僕達は、職員室に呼ばれることとなった。
……僕の高校デビューは、物の見事に失敗した。
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