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34話 歓談
しおりを挟むマリアがヒイロを連れ立って一緒に白い豪華な馬車へと乗り込み、その後からティエリアが続いた。
その馬車の後ろにドモン達の馬車が続き、二台の馬車を聖騎士達が取り囲むように護衛に付く。
「出発」
一人の聖騎士の号令と共に、馬車がゆっくりと進み始めると、マリアは行儀悪くドサッと馬車の中のソファに腰掛けた。
「ふぅ~ 疲れたぁ~ ティエリア、ジュースある?あっ、ヒイロ君にもね」
「かしこまりました。どうぞ」
「ありがとう。うん、これ好き♪」
先程までの厳かな雰囲気は消え、神々しい衣装に身を包んではいるが、あどけない表情の少女が、そこにいた。
「えっ!マリア様?」
チグハグな感じに驚くヒイロ。
「そんな直ぐに崩されては駄目ですよ教主様、ヒイロが驚いてます」
ヒイロの表情を見て察したのか、ティエリアから柔らかな注意が入るも、
「え~ 他所行きのポーズは疲れるんだもん」
マリアは一向に態度を直す気配がない。
「はぁ~ もう少し我慢はできなかったのですか?」
「普段、滅多に外に出ないし、基本直接喋らないんだから、仕方ないじゃない!」
なんとも酷い言い訳だ。
(マリア様って引きこもりなんだ……)
二人の会話を聞いていたヒイロが、そっと心の中で思うと、
「そうなのよ。外に出るのは年に数回かなぁ~」
何故か言葉にしていないのにマリアから返事が返ってくる。
(えっ! 心を読まれた?)
「あっ、ごめんごめん。私、勝手に相手の心が読めちゃうのよ。だから基本引きこもっているんだけどね。今日も周りの心の声がうるさくってさぁ~ この馬車とか、いつもいる部屋は魔法で結界を張ってるから静かなんだけどね~」
「た、大変ですね…… 」
再び心の声への返答が来て、ヒイロは思った事をそのまま口に出した。
「ありがとう。ヒイロ君はわかってくれるんだぁ。流石は転生者ね」
そして、まさかの自分の秘密を暴露されるヒイロ。
「そっ、そこまでご存知なんですか?」
「うん、会って確信出来たかなぁ。そもそも今回の技術なんて、かなりそれを匂わせてたし。さっき直接会って君の深層心理を少しだけ覗かして貰ったのよ。ごめんね~」
「は、はぁ……」
驚くも心が読めるなら仕方がない事だと納得し、ため息にも似た返事を返すのがやっとだった。
「前にもいたのよ。彼は召喚者だったけどね。えっとね~ 昔ね、女神様に呼ばれてこちらの世界に来た男の子がいたの。私は彼の仲間になって一緒に旅をしてこの大陸を救ったんだ。結構有名な話なんだけど知ってる?」
なんとも軽い感じで聞いてくるマリア。
「それってまさか!」
子供なら誰でも聞いたことがある英雄譚を、自分達の話だと言い出すマリア。そして、その物語の主人公がまさかの同郷かもと驚くヒイロ。
「うん、勇者」
「勇者様は召喚者だったんですね!?」
「うん。脚色されてるけど物語は概ねその通りよ。それでね、最後に邪神を倒して平和になった後も、彼はみんなの生活の為に、色々とあっちの世界のモノを再現したの。調理方法や調味料、薬とか魔道具、建築方法や法律とかね」
「法律?ってことはもしかして…… 」
「ええ、この国の初代国王よ」
「そうなんですか!」
「まぁ、秘密ってわけじゃないけど、かなり昔のことで、もうみんな忘れてるけどね。物語でも何処で国を起こしたかなんてちゃんと明記しなかったからなぁ。あっ、でも王家にはちゃん伝わっているはずよ」
「勇者様は何処の世界、いつの時代から来たんですか?」
「確か20〇〇年っていってたわね。同郷の同志には、俺の歌を聴け~って言えばわかるってさ。本人はオンチで歌が下手だったのにね。ふふふ♪」
(まさかのセブン?ということは一回り上の日本人なのかな?)
マリアの言葉に思い当たる記憶があるヒイロ。召喚者が超時空をネタにするとは、わかる人が聞けば、なんとも洒落が効いている。
「そうそう、ニホンとかニッポンって国だったはずよ。で、ヒイロ君はその十年後ぐらいから来たの?」
「はい、僕は向こうの世界でも義手や義足を作る職人を目指してました。だからそれを義父さんや、義母さん達の役に立てればと思って…… ごめんなさい」
ここまで大事になったことに謝罪するヒイロ。
「謝ることはないのよ。少しだけ大変だけどみんな喜ぶ事だし救われることだから胸を張って自慢していいことよ」
そう優しく誇っていい事だと褒めるマリア。
「自慢だなんて…… でも不幸な人達が救われるなら嬉しいです」
「いい子ね」
(彼もそんな感じだったなぁ)
ヒイロと話し、勇者を思い出すマリア。
「もう間もなく、到着いたします」
二人の会話を邪魔しないよう、黙っていたティエリアが口を開いた。
「あら、早いわね。もっと色々と話したかったのに…… さて、ヒイロ君?」
「は、はい!」
「これからこの国の王族や貴族達との謁見があるけど、貴方は聞かれたことに正直に答えるだけでいいからね。返答に困ったら必ず黙ること。いい?」
「は、はい」
「大丈夫よ。後は私達が上手くやるから」
「よ、よろしくお願いします…… 」
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