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15話 来客

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 もちろん、この教会の裏にも孤児院があり、欠食児童達はヒイロが夕飯を作っていると匂いにつられキッチンに現れた。

「お兄ちゃん誰? 」

「こんばんわ、旅をしていて今日ここに泊まらせてもらうんだよ」

「なに作ってるの?」

「今夜の夕食だよ」

「なにそれ、いい匂い」

「沢山入ってる、美味しそう」

「なら食べる?みんなの分も一緒につくるよ」

「「「ヒャッホーーー」」」

 ヒイロは調理していたものを、キッチンにあった炊き出し用の大鍋に移し、魔法袋から材料を足していく。色々なモツの部位と野菜を入れ、農村で交換したトマトをベースにトリッパ風の具沢山スープを作ったのだ。

「どうぞ」

「「「わぁ~い」」」

「お前達、ちゃんとお礼を言いなさい」

「「「お兄ちゃん、ありがとう」」」

「全く…… 」

「子供達に手を焼くのはどこも一緒ですね」

 教会で食べる分を小鍋にとりわけ、孤児達は残った大鍋ごと担いで持っていってしまった。これでモツの美味しさがわかってくれれば解体も捗るというものだ。



 三人が用事を済まし教会に帰ってくると、奥から良い匂いが漂ってくる。既に夕食は出来上がっていたので早速、皆で取ることにした。

「ヒイロ君、まさか孤児院の分まで作ってくれるとは本当にありがとう。助かったよ」

 礼を言いながらも匙が止まらないロック。

「時間はあったのでついでに。それより口に合いましたか?」

「いや~まさか内臓がこんなに美味いとは。それに臨時収入を得られる方法まで教えてくれるなんて」

「喜んで貰えて僕も嬉しいです」

 ヒイロは、前世で部費だけでは足りないロボの改造資金を稼ぐため、飲食店でバイトをしていた。その時教わった料理の知識や技術が、まさかこんな形で転生後も活かせるとは思ってもみなかった。

「これはイケるのう」

 食べては飲むを繰り返すドモン。

「たまにはいいわね、帰ってきて料理が出来上がってるっていうのは」

 いつもは作る側のレインが嬉しそうに食べ、ドモンのジョッキが空くと酌をする。

「なるほど、煮込みなら子供達でも調理が楽ですね。しかし個人的には焼きが好みです」

 そう言いながらも食べる速度が早いセツナ。

「最初は驚いたがこんなに美味いのか…… もっと早く知っていれば…… 」

 知るのが遅かったことを後悔しながら食べるガロード。おかわりのペースが早い、しかも大盛りで。

「うん、美味く出来たかな」
(次はもつ煮や土手煮だよね。調味料が高いから大量には作れないけど…… )



 夕食も食べ終わり、食事の後片付けをしていると聖堂の入口が騒がしい。既に日は沈んで扉は閉めている。急患かとロックが出てみると、知った顔がいて驚くが顔には出さず対応した。

「セルゲイ、急患かね?」

「おお、ロック様。いや、今日ここに客人は来てないですか?」

「ここ数日、客人は来てないな」

「そうですか…… 遅くにすみませんでした」

「尋ね人かね?」

「ええ、まぁ、そんなところです…… 」

「おそらく一月後ぐらいに、その尋ね人と出会えるかもしれんぞ。それまでは大人しく待っているのが吉。焦っては功を逃がす。これは女神様からお告げだ」

「わかりました」

「私からも祈っておくよ」

「ありがとうございます…… 」

 二人の会話が終わり、セルゲイという男は肩を落として部下と思われる者達と共に大人しく帰っていった。

 扉を閉め聖堂の中にロックが戻ると、広間にはドモンとガロードが武器を持ち構え、その後ろにはセツナがいつでも魔法が発動出来るように陣形を組んでいた。

「帰りましたか」

「うむ、残っている気配もないのう」

「ふう~食後の運動はお預けか」

 血の気が引くロック。もしセルゲイを招き入れていたらどうなっていたか……

「しかし嘘を言って良かったのですか?」

 そう微笑みながら訪ねてくるセツナに、鼻で笑いながら言葉を返すロック。

「ふん、嘘は言ってない。客人ではなく友人なら遊びに来たがな」

「「「ははははは」」」

「しかしずいぶんと深刻そうじゃったのう。なにか知っていれば話してくれるかロック殿」

「ああ…… 別の部屋に行こう」

「なら俺はレイン姐とヒイロの所に手伝いに戻るぜ。三人は別の部屋で飲んでるって言っておくさ」

「ずいぶんと気が利くようになりましたねガロード」

「いつまでも子供扱いしないでください師匠」



 別の部屋に移動した三人、早速セツナが話を切り出す。

 「それで、あのセルゲイという男はどんな目的だったのですか?」

「ああ、それは恐らくヒイロ君だ」

「やはりのう」

「理由を聞いても?」

「彼はこの領地の騎士団長でな。息子が父親に憧れ騎士見習いになったんだが、魔物討伐の任務中に大怪我を負ってしまい、運良く生き残りここに運ばれた。私が回復魔法で治療し一命は取り留めたが、右腕と右足を食われていてな…… 残っていれば繋げることも出来たんだが、食った魔物には逃げられたらしい…… 」

「そうですか…… 」

「不憫じゃのう…… 」

「恋人との婚約は解消となり、しばらく塞ぎ込んでいたが立ち直り、今では内政官の勉強を始めたそうだが、母親は彼の介護で心身共に疲れて果てているみたいだ。そして妻は息子に起きた悲劇を夫であるセルゲイに当たるようだ」

「恐らく、そうでもしないと奥様の心か壊れてしまうのでしょうね…… 」

「理屈じゃないからのう…… 」

「ああ…… だからセルゲイは妻からの叱咤を受け止め続けている。それに自分が騎士であることも後悔している…… 自分が騎士じゃなければ息子はこんな事にはならなかったのではないか?妻にこんな辛さを味合わせなかったんじゃないかと…… 」

「しかし、ロックはよくそこまでご存知ですね」

「古くからの知り合いだ。私が聖騎士を引退してここに赴任したばかりの頃、まだ騎士になりたての彼に稽古をつけてやっていた。結婚式もここでして、出産にも立ち会った。その息子にも稽古をつけた。独り身の私には息子夫婦と孫のような家族だ。それにここは教会。懺悔を聞くのも仕事だ…… 」

「おいおい、懺悔の内容は誰にも言っては駄目じゃろう?」

「まぁ、そうなんだが…… 頼む、騒動が落ち着いたら彼の息子に義手と義足をお願いできないだろうか?頼む…… 」

「頭を上げてくださいロック」

「そうじゃ、恐らくヒイロは受けてくれるじゃろう。しかし今はタイミングが悪かろう」

「ああ、だから断り、待てと告げた…… 」

 少し考えドモンが言う。

「ふむ、明日秘密裏にその息子とヒイロを会わせるかのう」

「いや、ドモン。それはまだ早いですよ」

 慌てて止めに入るセツナ。

「しかしのう。どんな感じなのか直に見て置かなければドワーフ国で作れんじゃろ?向うなら工房を貸してくれる友人は多いぞ」

「それはそうですが…… 」

「なぁに、会った後、直ぐに旅立てば問題なかろう」

「それにセツナ。お主の友の頼みとあらば儂らも力になりたいからのう」

「ドモン…… 感謝します」

「なのでロック殿。明日の朝、どうにか秘密裏にセルゲイ団長の息子さんに会えるように手配してくれんか?」

「ドモン殿、ありがとう」

「そうかしこまらんでくれ。セツナの友は儂らの友じゃ」
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