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3話 訓練

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 次の日の夜ドレン工房での一日の仕事を終えた後、裏庭では三人がそれぞれ昨日ヒイロから貰ったプレゼントを装備し、訓練を始めていた。

「なかなか力加減が難しいわね……あっ」

 レインはリンゴを掴み、籠から籠へと義手で移し替えているのだが、魔力操作を間違えると握りつぶしてしまう。もちろん潰してしまったりんごは、後で皆で美味しくいただく予定だ。

「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ」

 ドモンは自分で掛け声を出しながら、中庭を右回りでゆっくり走って、三周すると左回りでまた走る、を繰り返している

「なかなか、調節が合いませんね。おっ!これが魔力を可視化した世界!実に興味深い」

 セツナは義眼に流す魔法の組み合わせを色々と試しているようだ。

 ヒイロは、彼らの訓練を順番に見て回り、気になった所をメモに書いている。しばらくすると、

「ふう~もうそろそろ魔力切れになるわね」

「そうだな。わしもそろそろ限界か」

「私はまだ魔力に余裕がありますがキリがありません、二人に合わせましょう」

「それじゃ、また明日にしましょう。整備調整するので回収しますね」

「お願いします、ヒイロ」

「わしに手伝えることがあったら遠慮なく言ってこい」

「…………」

 素直に渡す二人と出し渋るレイン。不思議にヒイロが思い尋ねる。

「レインさん?」

「こら、レイン。気持ちはわかるがヒイロに渡さんと」

「そうね……」

「どうしたんですか?」

「いやな、レインは嬉しくて、昨日その義手を抱いて寝ていてな。今日も抱いて寝たかったんだろうよ」

「ドモン!余計なこと言わないでよ」

「「「ははははは」」」

 セツナは教会へと帰り、ドモンとレインは訓練の疲れから直ぐに眠りについた。
 ヒイロは自室で魔道具の灯りをつけて、三人から回収したアイテムの、緩みや歪みをチェックし、ブラシで汚れを取り、布で磨いてから寝るのだった

「凄く喜んでもらえて良かった。三人共リハビリに積極的で安心。よし、終わったぁ~ 僕も早く寝ないとまた怒られちゃうな」





 プレゼントを渡した日から二週間が過ぎた。今では裏庭での訓練では物足らず、、近くの森へと出て訓練を行う三人と付き添うヒイロ。

 日が昇っている間は冒険初心者向けの優しい恵みの森だが、日が沈むと一変して厳しさが増す夜の森。しかし、三人はそんな夜の森で子供のようにはしゃいでいた。

「よっ、ほっ、はっ」

 土蜥蜴アースリザードからの爪攻撃を、バク転で躱し距離を取るレイン。

「とどめよ」
――グシャ

 土蜥蜴が舌を伸ばしてきたので、義手で掴み絡み取り、相手が舌を戻そうとする力を利用し、自ら大蜥蜴に飛んでいき、脳天に右手での一撃を叩き込むと大蜥蜴は倒れ動かなくなった。



「ふん」

 オーガの一撃を大斧で受け、しっかりと踏ん張るドモン。

「おりゃ」
――ザシュ

 攻撃をしたオーガのほうがよろけると、踏み込み距離を詰めて、大斧を横薙ぎに振るい一撃で首を跳ねる。



「ハッキリ見えてますよ」

 幻影魔法を使う難敵黒狐ブラックフォックス。しかしセツナは義眼でサーモグラフを発動し、相手の動きが手に取るようにわかる。

「そこですね。聖なる矢ホーリーアロー
ーーシュン

 スコープのように義眼で狙いを定め魔法を放つと、黒狐の眉間を撃ち抜き、倒れる音が草むらから聞こえた。



「みんな凄いです。こんなに強かったなんて」

 三人から少し距離を取り、後ろから見ていたヒイロは、驚いている。ドモン、レイン、セツナがこんなにも強かったのを知らなかったのだ。

 ドモンは、気の優しいこだわりのある職人。
 レインは、世話焼きで数字にうるさい女将。
 セツナは、理論派の何でも知ってる魔法の先生。

 そんな印象しかなかったのが、眼の前で図鑑でしか見たことのない魔物を、それぞれソロで余裕で討伐する光景に興奮していた。そんな光景に見とれていると、ヒイロの後で藪がガサガサと音をたてる。

「えっ………… 」

 後ろを振り向くと、そこには体高が自分の身長の三倍はある馬鹿デカい猪が顔を出して、ヒイロを見下ろしている。

「うわ~~~超巨大猪グレードビッグボア!」

 余りの恐怖で頭を抱えその場でうずくまるヒイロ。
しかし、いつまで経っても自身に攻撃が来ないことを不思議に思い、恐る恐る顔を上げると、既に倒され、その上にはレインが立っていた。

「あれ?」

「ヒイロ、大丈夫か?」

「あ、はい……」

 自分を庇うように、いつの間にか超巨大猪との間に入っているドモンが振り向き声をかけるが、何が起きたか今だ理解が追いついてないので、生返事しか返せないでいた。

「セツナ、流石ね」

「いやいや、レインも速かったですよ」

 どうやら、会話からしてレインではなくセツナが魔法で先に仕留めたらしい。その直後にレインが攻撃したようだが、過剰攻撃により、超巨大猪グレードビッグボアの顔は、牙が折れ、片目は潰れ、顔全体に無数の打撲痕が刻まれていた。

「もう~ 少しは戦闘訓練も頑張りなさい」

「はい……」

「相変わらずヒイロは戦闘が苦手ですね。もっと魔法の訓練を厳しくしないと」

「…………」

 レインとセツナの言葉に厳しい訓練を想像し、背筋が寒くなるヒイロ。

「ほれ、他の獲物は全部そのまま魔法袋に入れて、こいつはデカすぎるから解体して回収するぞ」

「わかったわ」

「それなら血抜きですね。水球アクアボール

 ドモンの言葉に直ぐに動き出す二人。レインは腰から短剣を抜き首と胸を突き刺すと、セツナは巨大な水球で包み、その水が徐々に赤く染まってく。

「ヒイロも覚えとおいて損はない。よく見ておけ」

「はい、ドモンさん」

 肉はいつもブロック状の物しか見たことのなかったヒイロ。超巨大猪の皮が剥がれ、肉と骨になっていくのを興味深く見ていた。そして疑問を口にする。

「あれ、内臓は埋めちゃうんですか?」

「そうよ。食べてもお腹を壊すからね」

「新鮮だし、ちゃんと処理すれば美味しいのに……」

 ヒイロは不思議に思い尋ねると、レインから返事が帰ってきた。そして残念そうに呟き諦めたヒイロ。  
 しかし三人はその言葉を聞き取っていた。

「ヒイロ、どう処理すればいいんですか?」

「方法を知っとるようじゃのう」

「ヒイロ、一緒に試してみる?」

 セツナは興味津々。ドモンはその工程に興味があるらしい。レインは捨てようとした内蔵を、剥いで干していた毛皮をとり地面に裏返し広げで、その上にドサッと内蔵を置いた。

「いいんですか?久しぶりにモツが食べれる~♪」

「「「モツ?」」」

「鑑定」

 ヒイロは、三人の問いかけに答えず早速内蔵に鑑定魔法かけた。すると、

【ハツ(心臓)レバー(肝臓)マメ(腎臓)は、しっかり血抜きされていて浄化魔法により寄生虫を除去すれば安心安全で美味。ガツ(胃)、ヒモ(小腸)、ダイチョウ(大腸)は綺麗に洗浄後、浄化魔法をかければ超美味。推奨調理 焼き 煮込み】

と、頭に世界の声が流れてきた。

 ヒイロは、魔力も少なく戦闘センスもなかったが、ユニークスキル【鑑定魔法】を持っていた。そのおかげで、この世界でわからないものはない。その鑑定の情報に前世の知識が加わる事によって、とてもチートなモノになっていた。
 それを知るのはこの三人だけ。とても珍しい貴重なスキルで、防犯のためヒイロにも他言無用をキツく言いつけている。

 もちろん鑑定のお陰で、義手、義足、義眼、の開発が順調に進んだのは言うまでもない。


 
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