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三章「奴隷と大規模戦闘」

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「倒しても倒してもきりがない……!」

 何匹倒したとしても、この数が減っていく気配がまるでない。これでは何ともならん。

『あとどんだけいるんだよ! 多すぎじゃないか⁉』

 随所からそんな声が聞こえてくる。先の見えないことと、倒しても倒してお現れ続ける魔物が冒険者たちの体力と精神力を疲弊させているのだ。これでは長くはもたないかもしれない。始まったばかりの時、ついさっきまでは、あれほどやる気に満ち溢れていたというのにこの体たらくだ。恥ずかしいとかそんな感情ではなく、ただただ情けない。でも諦めたらだめだ。ここで踏ん張らなかったらどの面下げて街に戻ればいいんだ。

「諦めるな! 俺たちにできるのは倒して倒して、ひたすらに倒し続けることだ! そうすれば必ず勝ちが見える。気張れよお前ら!!」

 叫ぶ。喉がヒリヒリする。息も上がってきているし、そろそろ剣での攻撃は限界かもしれなうい。でも、この状況で魔法の攻撃はちょっとマズい。クソ……分かり切ってはいたけど、なんて不利な戦いだよ。

「ひゃ……やめて、こっちこないで。やめてよぉ……」
「ルナ!」

 俺の後ろにいたルナから弱い声が聞こえてくる。内容的に何かが起こったらしい。すぐさま振り向くと、地面に膝をついたルナがいた。その目の前にはオークが何体もいて、ルナを下賤な表情をして見下ろしていた。なぜ、膝をついているのかは明確だ。ルナの横には魔物の首がいくつか転がっているし、本人もいつの間にか血まみれになっている。これを意識してしまい動けななっていたところをオークに囲まれてしまったというところだろう。
 正直、この状況はよくない。動けない獲物をただ傍観しているほど、魔物は優しくないし、そんな状況なら間違いなくもっと近寄ってきて、より動けなくなってしまい最悪の結果を招くことだってあり得る。

 そんな状況だったから、どうやって助けるかということを考えるよりも先に身体が動いていた。

「お前ら、そんな目でルナのことを見るなんじゃねえ!」

 オークたちを剣でさばいていく。よし、あと少しだ!

「ご主人様危ない!」
「くっ……」

 ルナの声で後ろから攻撃が来ていることに気が付くことができ、ギリギリのところで受け止めることが出来た。しかし、その攻撃を受け止めるので精一杯だ。普段ならここから持ち直して倒すことも出来ただろう。しかし体力的な疲労によって、それが出来ない。たった一体のはずなのに受け止めている攻撃を押し返すことができない。

「くっそお、なめやがって……」

 一人で倒し切るのが理想だ。でもそれも出来そうにない。だったら誰かに助けてもらうしかない。
 身体を動かしたら俺の胴体が真っ二つになるだろうからできないが、首と視線は少しだけなら動かすことが出来る。さっと周囲を見てみると皆、必死に戦っておりその様子は死闘だ。もう倒れかけで血まみれでそれでもなお戦っている。分が悪く、そして俺のことをどうにかできる者など皆無であることは明らかだ。いや、一人だけこの事態を打開できる奴がいるじゃないか。

「ルナ! お前がコイツをやるんだ。短剣があるだろう。俺が抑えている間に早く!」
「……」

 沈黙だ。しかし、この場で動けるのはルナだけだ。俺を助けることが出来るのはルナただ一人だ。もうそれしか道は残されていない。

「ルナ!」

 ルナの杖は動けなくなった間に吹き飛ばされている。だから魔法でオークを倒すより短剣で突き刺す方が確実だ。俺が動けないようにオークだって動けないのだ。背後から胸とか首とかの急所を突けばオークを倒せる。これが俺とルナが二人とも確かるたった一つだけの方法だ。

「お前が怖がっているのは分かる。でもそれでもルナしかいないんだ!」

 ルナが血液に対して恐怖感を持っている。しかも、家族がオークに襲われている過去を持っているというのに、その凄惨な光景と同様のことをされるかもしない可能性があるという場面に遭遇してしまったのだ。戦意の喪失は仕方がないのかもしれない。

「私には、無理です。やっぱり魔物には勝てないんです」

 もう諦めてしまっているというのか。でもまだ諦めるのは早いんだ。

「心を折るな! まだ勝負はついていない。俺もルナもまだ生きているじゃないか! うっ……」

 そろそろ腕がちぎれそうだ。相手はオークだ。身体の大きさ自体があるから俺より素の力は強いし体力だって強化魔法なしでは勝てない。そのバフがあっても、もう俺が持たなくなってきている。時間がない……。

「ご主人様……!」
「そうやって心配してくれているんならコイツをやれ! 俺と一緒にやられるか、一緒に助かるのかの二択しかないんだ!」

 生きる道を選んでくれ。なあルナ、お前が俺に話してくれたことを嘘にしないでくれよ。

「はぁ! やってくれるなマジで……」

 つばぜり合いが解けて剣の打ち合いになる。即座に反応して流しているが、もう身体が思うように動いてくれない。倒すために剣を入れたが、思い切り受け止められてしまった。結局さっきとあまり変わらない状況になってしまい、窮地を抜け出したのは一瞬に過ぎなかった。もうこの状態では自力で倒すのは不可能だ。

「ルナ……俺はお前の過去のこと、聞くことしかできないしどうすることも出来ない。でも、これからルナと一緒にいて家族になることはできるんだ。なあルナ、お前は俺ともう少し一緒にいたくないのか? 俺のこと少しは信用しているって嘘だったのか?」
「そんなこと、ないです。でも怖いんです」
「俺はお前ともう少し一緒にいたい。色々なことしてさ。だからとどめをさせ!」

 ルナの目は光を取り戻しつつある。絶望と、そしてトラウマによる震えは収まり自らの足で立ちあがった。

「ルナ、俺にお前の横にいる権利をくれ!」
「私はご主人様のものです。だから好きにすればいいじゃないですか」

 ルナは笑っていた。穏やかで、でも手には短刀を持っていた。
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