上 下
309 / 328
続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

25話 事前準備 ※

しおりを挟む
その日の夕方。
占い師の所へ行った後は適当に街を回って、特に何の問題も無さそうだと判断し、早めに城へと戻った僕らは。
最近、時折すれ違ってしまっていたベルティーナ様やソフィア様とまた夕食を共にした。
殿下は見回った街の様子を話し、ベルティーナ様は時折頷いて微笑まれる。
が、ソフィア様にその視線が向いた途端、殿下ってば急に口籠って、口数が減ってしまうものだから。
気を利かせて代わりに僕が多めに喋って、変に気を使っちゃったよ。

夕食を終え、僕らはベルティーナ様のお部屋を失礼したが、自室へソフィア様をエスコートする殿下、なんかぎこちなかったな。
その背中をサフィルはサフィルで無表情で見つめているし。

……仕方ない、此処は一肌脱ぎましょうか。
なーんて。
本当は自分の事情だけどね。

同じく自室へ戻った僕は、先にお風呂を失礼して、ただ今入浴中のサフィルが此処に居ない間に、ナイトテーブルの引き出しを開け、その中の物を再度確認する。
そして、もう少ししたら出て来るであろうサフィルのあの色っぽい姿を脳裏に浮かべ、失礼ながら引き出しから彼の物を少し拝借する。
いつもそれを使う相手は僕なんだし、ちょっとくらい…いいよね?

風呂上がりでバスローブは羽織っているものの、その下は何も身に着けていない。
随分即物的な気もするが、まあいいだろう。
分かり易さ重視でいく、今夜は。

(はぁー…うん。よし、や、やってやるっ)

やると決めたものの、いざその小瓶を手に取ると、やっぱり迷いが出て躊躇してしまうが、のんびり考えてもいられない。
彼が戻って来る前に、準備しようって決めたんだから。

引かれないかなぁ……。
なんて不安が心をよぎったが、やると決めたからにはこのタイミングを逃せば、次はいつ決心出来るか分からない。

いい加減に腹を決めると、小瓶の蓋を開けて傾け、中から香油を少し手のひらに垂らした。
それを反対の手の指先に掬い取って、バスローブの裾をめくり上げ、自身の臀部へそっと這わせる。
お風呂で念入りに洗っておいたけど、やっぱりそれだけは足りないから。
興奮より羞恥心でどうにかなってしまいそうだったが、それでも、いつも彼がやってくれている手の感触を思い出して、すぼまりへと触れて。
でも、いざ自分でやってみると、先へ進むのが怖くなって、その縁をゆるゆると香油を塗りたくるのでいっぱいいっぱいだ。
そうしたら、扉の向こうでガタッと音がしたのが聞こえた。

(ど、どうしよ…)

せっかく準備万端で迎えようとしたのに、こんなゆっくりじゃ、間に合いそうにない。
僕は手のひらに残っていた香油を全て指先の方に移して、縁をなぞっていた指先を思い切ってその中へ埋めた。

「う“う”っ……。」

へ、変な感じ…。
違和感が半端じゃない。
サフィルが後ろをほぐしてくれる時は、すんなり受け入れられるのに。
自分でやっても全然上手く出来ない。
もうすぐ彼が来ちゃうのに、こんなんじゃ……。

「……シリル?」

自分の後孔と格闘していると、もう戻って来ちゃっていたサフィルは。
ベッドの上でお尻を突き上げて、グズグズの涙目になりながら後孔をいじくっている僕の間抜けな姿を目にし、びっくりして固まってしまっていた。

「うっ…うぇっ…サフィルぅ……っ」
「え。まさか、自分で後ろの準備してるんですか?」
「うん…。でも、サフィルみたいに上手に出来ないぃ……。」
「そんな、無理しなくても、ちょっと待ってて下されば。」

やっぱり引かれたかも。
僕はもう自分でするのはやめて、香油でベタベタになった手を洗いに行った。
その様子をサフィルは呆気に取られた様子で見送ってて。
でも、トボトボと戻って来た僕をサフィルは無言で抱きしめてくれた。

「戻って来るなり扇情的な貴方の姿を目の当たりにしたから、とてもビックリしましたよ。」
「違うよ。あんなの間抜けな格好なだけだよ……。」
「私の為に、準備しようとしてくれたんですか?」
「いつもサフィルがしてくれてるのを思い出して、やってみようとしたんだけど、上手くいかなかった。……萎えちゃった?」

事前準備が失敗してしょげる僕に、サフィルは乾ききっていない髪を梳く様に撫でてくれながら、優しく答えてくれた。

「いいえ。」
「本当?」
「ええ。だから…」
「本当だね?!じゃあ、待って。」

大丈夫だと言ってくれた彼の返事に気を取り戻した僕は、彼の腕からパッと顔を上げると。
その腕をすり抜け、またあのナイトテーブルの引き出しからもう1個の小瓶を引っ張り出して来た。

「この前、サフィルに寂しい想いをさせてしまったから、今日はその穴埋めもしようと思ってさ。それに、色々気を揉んでいたし。だから、その分も羽目外して、気が済むまで楽しもうよ。」

そう言って、前にお世話になった娼館のリアーヌさんオススメの、前より効力がある媚薬の蓋を勢い良くキュポンと外し。

「って、あ“ぁ———っ!それはダメです!!シリル!」

また媚薬の力を借りようと、小瓶に口を付けようとしたら、物凄い勢いでサフィルに奪い取られてしまった。
ちょっと険しい顔になって怒る彼の顔を見て、僕はまた弱気にしょげてしまう。

「?何で。やっぱり引いちゃった?」
「~~~~違いますっ!むしろ余計火ぃ付けられたというか…」
「だったらいいじゃん!返してよぉっ!」

なんだ、サフィルはその気になってくれてるんだ。
だったら、何も問題ないじゃない。

取り上げられたソレを返して欲しくて、僕は手を伸ばしたが。
サフィルは慌ててソレを持った手を高く上げて、僕から離そうとする。

「もう、媚薬は勘弁して下さいっ!ただでさえ貴方の色香にやられっぱなしなのに、コレまで飲まれたら、もう目に毒なんです!飲むにしたってせめて半分とか…。一気飲みは貴方の体にも良くありませんって。」
「半分じゃ効き目足りないよ。やるなら徹底的に…」
「もー!何処まで私のなけなしの理性ぶち壊せば気が済むんですか?!貴方は!」
「そんなの全部吹っ飛ばせばいいんだよ!」

何故か返してくれないサフィルに対して、売り言葉に買い言葉ではないが、自分でもよく分からないまま言い返して手を伸ばしていたら。
遂にサフィルがキレた。
というか、開き直った。

「あ“ー!でしたらそうしますっ!貴方のお望みでしたら!貴方も一度、その目でご覧になった方がいいかもしれない。美しい貴方の足元にも及びはしませんが、それでも、好いた相手にあられもない姿で容赦なく迫られ続けば、貴方も少しは分かって下さるでしょうっ!」

そう言って、奪った僕の媚薬をサフィルはグイッと飲み干してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

もしかして俺の主人は悪役令息?

一花みえる
BL
「ぼく、いいこになるからね!」 10歳の誕生日、いきなりそう言い出した主人、ノア・セシル・キャンベル王子は言葉通りまるで別人に生まれ変わったような「いい子」になった。従者のジョシュアはその変化に喜びつつも、どこか違和感を抱く。 これって最近よく聞く「転生者」? 一方ノアは「ジョシュアと仲良し大作戦」を考えていた。 主人と従者がおかしな方向にそれぞれ頑張る、異世界ほのぼのファンタジーです。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...