175 / 328
第5章
175話 貴方だから
しおりを挟む
「———はぁ!暑いっ」
まだ春の息吹は遠く、晩冬の寒空の中。
僕は綺麗に編み込まれた付け髪を乱雑に引っぺがした。
あんなに連続で踊ったのは初めてで。
色々疲れた僕は、会場を抜け出し、外の空気を吸いに来たのだった。
「その衣装で寒くないですか?」
僕のすぐ後ろを付いて来たサフィルが、少し心配そうに尋ねてくれたが。
「大丈夫です。踊りすぎて汗かいたくらいですから。」
フワリと風になびくスカートからスースーと風が入って来る感覚に戸惑いながら、僕は白い息を吐いた。
少し火照った頬に、この冬の澄んだ空気が今は心地良い。
頭上に目をやると、十六夜月が輝いている。
僕はまたほう~っと白い息を吐くと。
「わっ」
「ほら、やっぱり冷えてる。風邪をひいてしまいますよ。」
後ろから抱きしめて来たサフィルは、僕の冷たくなった体に触れると、そう言って自身の上着を脱いで、僕の肩にかけてくれる。
「あ、ありがとう。でも、それじゃサフィルが寒いでしょう。」
「大丈夫ですよ。貴方を抱きしめたら温かいので。」
そう笑って、今度は正面から抱きしめられた。
また顔を真っ赤にして、僕は身を固くしたが。
サフィルに抱きしめられる感覚が心地良くて、抱きしめ返す。
すると、僕の首元に顔を埋めていたサフィルは顔を上げて、僕の顔に近付いて来たから。
「?」
「これ以上は困ります。誰が見てるかもしれないのに。それに……この格好では嫌です。」
キスをしようと迫って来た彼の唇に、僕は自身の手を押し当てて拒んだ。
ただでさえ、いつ誰が来てもおかしくないのに、キスしようとするなんて。
ましてや、女性の格好をしている今のこの状態では勘弁して欲しい。
……だって。
「やっぱり女性の方が良かったですか?」
そう、悩まずにはいられなくなるから。
やっぱり、僕なんかより、女性の方が良いのではないかと。
不安に俯く僕に、サフィルは優しくそっと頬に触れて来た。
「いいえ。貴方だから良いんです。」
そう言って、ただただ嬉しそうに笑ってくれて。
…あぁ、好きだな。
って、改めて思った。
まだ春の息吹は遠く、晩冬の寒空の中。
僕は綺麗に編み込まれた付け髪を乱雑に引っぺがした。
あんなに連続で踊ったのは初めてで。
色々疲れた僕は、会場を抜け出し、外の空気を吸いに来たのだった。
「その衣装で寒くないですか?」
僕のすぐ後ろを付いて来たサフィルが、少し心配そうに尋ねてくれたが。
「大丈夫です。踊りすぎて汗かいたくらいですから。」
フワリと風になびくスカートからスースーと風が入って来る感覚に戸惑いながら、僕は白い息を吐いた。
少し火照った頬に、この冬の澄んだ空気が今は心地良い。
頭上に目をやると、十六夜月が輝いている。
僕はまたほう~っと白い息を吐くと。
「わっ」
「ほら、やっぱり冷えてる。風邪をひいてしまいますよ。」
後ろから抱きしめて来たサフィルは、僕の冷たくなった体に触れると、そう言って自身の上着を脱いで、僕の肩にかけてくれる。
「あ、ありがとう。でも、それじゃサフィルが寒いでしょう。」
「大丈夫ですよ。貴方を抱きしめたら温かいので。」
そう笑って、今度は正面から抱きしめられた。
また顔を真っ赤にして、僕は身を固くしたが。
サフィルに抱きしめられる感覚が心地良くて、抱きしめ返す。
すると、僕の首元に顔を埋めていたサフィルは顔を上げて、僕の顔に近付いて来たから。
「?」
「これ以上は困ります。誰が見てるかもしれないのに。それに……この格好では嫌です。」
キスをしようと迫って来た彼の唇に、僕は自身の手を押し当てて拒んだ。
ただでさえ、いつ誰が来てもおかしくないのに、キスしようとするなんて。
ましてや、女性の格好をしている今のこの状態では勘弁して欲しい。
……だって。
「やっぱり女性の方が良かったですか?」
そう、悩まずにはいられなくなるから。
やっぱり、僕なんかより、女性の方が良いのではないかと。
不安に俯く僕に、サフィルは優しくそっと頬に触れて来た。
「いいえ。貴方だから良いんです。」
そう言って、ただただ嬉しそうに笑ってくれて。
…あぁ、好きだな。
って、改めて思った。
51
お気に入りに追加
1,593
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
もしかして俺の主人は悪役令息?
一花みえる
BL
「ぼく、いいこになるからね!」
10歳の誕生日、いきなりそう言い出した主人、ノア・セシル・キャンベル王子は言葉通りまるで別人に生まれ変わったような「いい子」になった。従者のジョシュアはその変化に喜びつつも、どこか違和感を抱く。
これって最近よく聞く「転生者」?
一方ノアは「ジョシュアと仲良し大作戦」を考えていた。
主人と従者がおかしな方向にそれぞれ頑張る、異世界ほのぼのファンタジーです。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる