4 / 8
ドリア
しおりを挟む
「もしもあと一年しか生きられないって医師から宣言されたら、花田はどうする?」
新しいバイト先を紹介するために、僕は花田をランチに誘った。花田は、注文したナポリタンを、フォークとスプーンで上手にまとめ上げながら、
「なんでいきなりそんなこと聞くんだよ」
と、何かに勘づいたかのようにチッらと僕の方を見て言った。僕はその視線に気づかないふりをして、熱々のドリアに息を吹きかけ、口に運ぶ。まだ熱さがしっかりと残った、良い色に焦げたチーズが、口の中で皮膚にくっつき、急いで水を口に含んだ。
「まあ、やることは何も変わらないかな。普通の人なら仕事辞めて、家族や恋人とかと過ごすんだろうけど、俺には家族や恋人はいないからな。」
花田は僕と同じような境遇だ。幼い頃に両親を亡くし、中学生の頃から一緒に暮らしていた祖母も5年前に亡くなった。
花田は高校を卒業してから、消防士をしている。
「火事とか地震って本当に人の命を奪うんだ。だから俺は一人でも多くの命を救いたいんだ。」
と、以前花田が目を輝かせながら話していた。仕事に打ち込む花田は女っ気がひとつもなく、先輩から誘われる合コンにも断ってしまうほどだった。
ケチャップが花田の口についている。それに気づかずに花田は話し続けた。
「それに、人が死ぬ時に一番幸せな状態って、どんな形であれその人にとって人生を全うした時だと思うんだよね。俺は仕事が生き甲斐だから、少しでも自分の使命を全うするために、仕事は辞めずに、いつも通り過ごすかな」
なるほど、と僕は思った。僕の生き甲斐ってなんだろう。
幼いころの夢は野球選手だった。地元では有名なピッチャーで、全国大会も経験した僕は、冗談ではなく本当に野球選手になれると思っていた。怪我さえなければ、甲子園も目指しただろうし、もしかしたらプロを目指す人生もあったかもしれない。
高校で野球を辞めてから、僕は今も路頭に迷っている。
何に打ち込めば良いかもわからない。
何が楽しいかもわからない。
生き甲斐といえば、チャイを飲みながら、もし小学生に戻れるならという妄想を繰り広げる時間を得ることだけだろう。
恥ずかしくて花田にも言えない。
またドリアを口に運ぶ。今度は水を飲む必要はなかった。
新しいバイト先を紹介するために、僕は花田をランチに誘った。花田は、注文したナポリタンを、フォークとスプーンで上手にまとめ上げながら、
「なんでいきなりそんなこと聞くんだよ」
と、何かに勘づいたかのようにチッらと僕の方を見て言った。僕はその視線に気づかないふりをして、熱々のドリアに息を吹きかけ、口に運ぶ。まだ熱さがしっかりと残った、良い色に焦げたチーズが、口の中で皮膚にくっつき、急いで水を口に含んだ。
「まあ、やることは何も変わらないかな。普通の人なら仕事辞めて、家族や恋人とかと過ごすんだろうけど、俺には家族や恋人はいないからな。」
花田は僕と同じような境遇だ。幼い頃に両親を亡くし、中学生の頃から一緒に暮らしていた祖母も5年前に亡くなった。
花田は高校を卒業してから、消防士をしている。
「火事とか地震って本当に人の命を奪うんだ。だから俺は一人でも多くの命を救いたいんだ。」
と、以前花田が目を輝かせながら話していた。仕事に打ち込む花田は女っ気がひとつもなく、先輩から誘われる合コンにも断ってしまうほどだった。
ケチャップが花田の口についている。それに気づかずに花田は話し続けた。
「それに、人が死ぬ時に一番幸せな状態って、どんな形であれその人にとって人生を全うした時だと思うんだよね。俺は仕事が生き甲斐だから、少しでも自分の使命を全うするために、仕事は辞めずに、いつも通り過ごすかな」
なるほど、と僕は思った。僕の生き甲斐ってなんだろう。
幼いころの夢は野球選手だった。地元では有名なピッチャーで、全国大会も経験した僕は、冗談ではなく本当に野球選手になれると思っていた。怪我さえなければ、甲子園も目指しただろうし、もしかしたらプロを目指す人生もあったかもしれない。
高校で野球を辞めてから、僕は今も路頭に迷っている。
何に打ち込めば良いかもわからない。
何が楽しいかもわからない。
生き甲斐といえば、チャイを飲みながら、もし小学生に戻れるならという妄想を繰り広げる時間を得ることだけだろう。
恥ずかしくて花田にも言えない。
またドリアを口に運ぶ。今度は水を飲む必要はなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる