アッサムCTCが切れるころ

チャッピ

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ドリア

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 「もしもあと一年しか生きられないって医師から宣言されたら、花田はどうする?」

 新しいバイト先を紹介するために、僕は花田をランチに誘った。花田は、注文したナポリタンを、フォークとスプーンで上手にまとめ上げながら、

「なんでいきなりそんなこと聞くんだよ」

と、何かに勘づいたかのようにチッらと僕の方を見て言った。僕はその視線に気づかないふりをして、熱々のドリアに息を吹きかけ、口に運ぶ。まだ熱さがしっかりと残った、良い色に焦げたチーズが、口の中で皮膚にくっつき、急いで水を口に含んだ。

「まあ、やることは何も変わらないかな。普通の人なら仕事辞めて、家族や恋人とかと過ごすんだろうけど、俺には家族や恋人はいないからな。」


花田は僕と同じような境遇だ。幼い頃に両親を亡くし、中学生の頃から一緒に暮らしていた祖母も5年前に亡くなった。

花田は高校を卒業してから、消防士をしている。

「火事とか地震って本当に人の命を奪うんだ。だから俺は一人でも多くの命を救いたいんだ。」

と、以前花田が目を輝かせながら話していた。仕事に打ち込む花田は女っ気がひとつもなく、先輩から誘われる合コンにも断ってしまうほどだった。


ケチャップが花田の口についている。それに気づかずに花田は話し続けた。

「それに、人が死ぬ時に一番幸せな状態って、どんな形であれその人にとって人生を全うした時だと思うんだよね。俺は仕事が生き甲斐だから、少しでも自分の使命を全うするために、仕事は辞めずに、いつも通り過ごすかな」

なるほど、と僕は思った。僕の生き甲斐ってなんだろう。

幼いころの夢は野球選手だった。地元では有名なピッチャーで、全国大会も経験した僕は、冗談ではなく本当に野球選手になれると思っていた。怪我さえなければ、甲子園も目指しただろうし、もしかしたらプロを目指す人生もあったかもしれない。

高校で野球を辞めてから、僕は今も路頭に迷っている。
何に打ち込めば良いかもわからない。
何が楽しいかもわからない。
生き甲斐といえば、チャイを飲みながら、もし小学生に戻れるならという妄想を繰り広げる時間を得ることだけだろう。
恥ずかしくて花田にも言えない。

またドリアを口に運ぶ。今度は水を飲む必要はなかった。
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