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たまごサンド(1)
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1週間後、早速黄色いカフェでのバイトが始まった。健康診断の結果を踏まえての来院を翌日に控え、少し不安な気持ちで、初めてのバイトを迎えた。
僕の仕事内容は、キッチンで作られた料理をお客様に持っていく。ただそれだけのこと。
9時ちょうどにお店は開店し、ゾロゾロと人が流れ込んできた。僕がよくこの店でチャイを嗜む時間は夕方頃であるため、自然と客足は少なく、いつも僕とあと1組客がいる程度だったから、こんなにも客が店に入ってくることに驚いた。
僕が思っていたよりも忙しく、何往復もモーニングの料理を運ぶために、ホールとキッチンを行き来した。看板メニュー「たまごサンド」が30オーダーを超えた頃、店長からオーダーストップがかかった。開店2時間で、オーダーストップがかかるなんて、こんなに忙しいお店だったのかと、汗を拭った。
たまごサンドの追加の仕込みを店長が始め、僕に
「味見してみる?」
と、具を少し分けてくれた。
正直僕はたまごサンドは好きではない。
僕が小学生の頃の遠足で、母が作る弁当は決まってたまごサンドだった。周りの同級生が、唐揚げや卵焼きを嬉しそうに頬張っているのを横目に、僕はうんざりした気持ちでたまごサンドをかじった。
後で分かったことだが、母は僕の好物がたまごサンドだと思っていたらしい。それもそうだ。僕は幼い頃から、出されたものは美味しいという主義だし、文句は何一つ言わない。
まだ父と一緒に生活していた頃、僕がゴーヤチャンプルを残して、父にひどく叱られたことがある。父に叱られてなお、僕が残そうとしたので、しまいには家の裏の山に連れていかれ、ここに捨てるぞと脅された。僕は泣き叫びながら、謝ったのを覚えている。
父は当時、農家の野菜と小売店をつなぐ仕事をしていたから、食に関してかなりの思い入れがあったのだ。
当時のことがトラウマで、その時から僕は食事に関して一度も愚痴を言ったことがない。母はそんな僕のトラウマを知ることなく、弁当が必要な日は決まって朝早起きをしてたまごサンドを作った。
「味見してみる?」
客に出せないパンの耳と一緒に食べてみた。想像以上の美味しさに、僕は驚いた。味付けはマヨネーズと塩と胡椒だけなのに、こんなに美味しくていいのだろうか。そんな疑問が浮かぶほど美味しかった。
母はなぜあんなに早起きをする必要があったのか。簡単に作れるじゃないか、と当時のことを思い出しながら、少し寂しい気持ちになったが、口の中に残った味を再び感じるたびに、幸せな気持ちへと変換してくれた。
僕がたまごサンドを好きじゃなかったのは、変わり映えのない弁当だったからなのだろうか。いつもたまごサンドを作る母に何か言いたい僕と何も言えない僕。まさにジレンマにある僕自身とたまごサンドが重なり、それにいい印象をもたらすことが出来なかったのだろう。
でも母は僕の好物だと思って作ってくれた。あんなに簡単に作れるものを、あんなに早起きして作ってくれていた。今日食べたたまごサンドより、何倍も美味しかったかもしれない母が作った味を、もはや思い出すことができず、悔しい気持ちに包まれた。
僕はコンビニのたまごサンドに手を伸ばし、レジへ持って行った。
僕の仕事内容は、キッチンで作られた料理をお客様に持っていく。ただそれだけのこと。
9時ちょうどにお店は開店し、ゾロゾロと人が流れ込んできた。僕がよくこの店でチャイを嗜む時間は夕方頃であるため、自然と客足は少なく、いつも僕とあと1組客がいる程度だったから、こんなにも客が店に入ってくることに驚いた。
僕が思っていたよりも忙しく、何往復もモーニングの料理を運ぶために、ホールとキッチンを行き来した。看板メニュー「たまごサンド」が30オーダーを超えた頃、店長からオーダーストップがかかった。開店2時間で、オーダーストップがかかるなんて、こんなに忙しいお店だったのかと、汗を拭った。
たまごサンドの追加の仕込みを店長が始め、僕に
「味見してみる?」
と、具を少し分けてくれた。
正直僕はたまごサンドは好きではない。
僕が小学生の頃の遠足で、母が作る弁当は決まってたまごサンドだった。周りの同級生が、唐揚げや卵焼きを嬉しそうに頬張っているのを横目に、僕はうんざりした気持ちでたまごサンドをかじった。
後で分かったことだが、母は僕の好物がたまごサンドだと思っていたらしい。それもそうだ。僕は幼い頃から、出されたものは美味しいという主義だし、文句は何一つ言わない。
まだ父と一緒に生活していた頃、僕がゴーヤチャンプルを残して、父にひどく叱られたことがある。父に叱られてなお、僕が残そうとしたので、しまいには家の裏の山に連れていかれ、ここに捨てるぞと脅された。僕は泣き叫びながら、謝ったのを覚えている。
父は当時、農家の野菜と小売店をつなぐ仕事をしていたから、食に関してかなりの思い入れがあったのだ。
当時のことがトラウマで、その時から僕は食事に関して一度も愚痴を言ったことがない。母はそんな僕のトラウマを知ることなく、弁当が必要な日は決まって朝早起きをしてたまごサンドを作った。
「味見してみる?」
客に出せないパンの耳と一緒に食べてみた。想像以上の美味しさに、僕は驚いた。味付けはマヨネーズと塩と胡椒だけなのに、こんなに美味しくていいのだろうか。そんな疑問が浮かぶほど美味しかった。
母はなぜあんなに早起きをする必要があったのか。簡単に作れるじゃないか、と当時のことを思い出しながら、少し寂しい気持ちになったが、口の中に残った味を再び感じるたびに、幸せな気持ちへと変換してくれた。
僕がたまごサンドを好きじゃなかったのは、変わり映えのない弁当だったからなのだろうか。いつもたまごサンドを作る母に何か言いたい僕と何も言えない僕。まさにジレンマにある僕自身とたまごサンドが重なり、それにいい印象をもたらすことが出来なかったのだろう。
でも母は僕の好物だと思って作ってくれた。あんなに簡単に作れるものを、あんなに早起きして作ってくれていた。今日食べたたまごサンドより、何倍も美味しかったかもしれない母が作った味を、もはや思い出すことができず、悔しい気持ちに包まれた。
僕はコンビニのたまごサンドに手を伸ばし、レジへ持って行った。
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