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第14話 救出・作戦

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 時間は少し遡る。
  それはタカヤ達が眠りに付いて少しの時間が経過した頃だ。

 「では行きます。イミアちゃんはタカヤ様の救出を」

 「はい! タカヤ様を見つけたらアリシア様に合図を送って合流、そして脱出ですね」

 「ええ、それでは出撃です!!」

  アリシアの全身が純白のオーラに包まれる。
  瞬く間に巨大な騎士となったアリシアはイミアを手に乗せて鉱山に突撃する。
  手の上のイミアは振り落とされないようにアリシアの手に必死でしがみついていた。
  鉱山内に轟音が轟く。
  鉱山の入り口を塞ぐ門をアリシアが飛び越えた音だ。
  足元の篝火が破壊され炎が散らばる。
  アリシアはバランスが崩れた振りをしてイミアを地面に下ろす。
  そしてイミアの姿を見られない様にすぐさま鉱山の奥に駆け出した。

  鉱山の中の建築物を倒壊させない様に破壊していく。屋根を破壊し、壁を破壊して中を確認していく。
  アリシアは意図的に篝火を破壊し明かりを周囲に撒き散らす。そのまま建物に移る火もあるがタカヤがいなければそのまま無視する。
  うっかりタカヤをつぶさない様に、そしてこちらの狙いを気取られないように細心の注意を図って破壊活動を行っていく。

 (タカヤ様、どうかご無事で)

  アリシアは後悔していた。あの時タカヤと離れるべきではなかったと。
  敵兵に見つかる危険を冒してでも共に行動していればよかった。
  その思いがアリシアから慎重さを奪っていく。 

  ◆

 鉱山の中で最も立派な建物の窓からアリシアの姿を見ている者達がいた。

 「見覚えの無い騎士ですね」

 「メ・ガドランかガキューブの者でしょうか?」

 「さて、どうだろうな。分かっているのは……」

  窓から飛び出さんばかりに身を乗り出す影。

 「捕獲すれば分かる、だ!」

  その言葉と共に建物の外へと身を躍らせる陰。
  高層建築ほどの高さは無いにしても、うかつに飛び降りれば大怪我する可能性の高い高度である。
  だが影には焦りも恐怖も無い。
  その全身から紫のオーラを立ち上らせ、やがて自らの肉体すらオーラの中へと消えていった。
  巨大なオーラの柱の中から現れたのは巨大な鎧の姿。そう、騎士だ。
  その騎士は緑の鎧を身に纏い、額には鬼のような二本の角が生えていた。
  両手にはそれぞれ手斧を持ち、守りを捨てた攻撃特化スタイルである事が窺える。
  緑の騎士は破壊活動を続けるアリシアに向けて獣の様に駆け出した。
  そして、アリシアが気付いた時にはすでに緑の騎士の攻撃圏内となっていた。

  ◆

(油断しました!)

  タカヤを探す事に夢中になっていた為に警戒が疎かになっていた事を悔やむアリシア。
  突然現れた緑の騎士は怒涛の勢いでアリシアを攻撃する。
  剣とバックラーで何とか攻撃をいなしていくが、その勢いに押されて反撃がおぼつかない。
  コレはアリシアの実戦経験の少なさから来る苦境であった。

 (落ち着いて、相手は私と同じナイトクラス。その動きも決して見切れないモノではありません。まずは相手の武器を封じます!)

  アリシアは緑の騎士の攻撃をいなしながら積極的にバックラーを相手の手にぶつけていく。

 「この!うっとおしいんだよ!!」

  緑の騎士がアリシアの攻撃に痺れを切らし更に深く懐に潜りこんでくる。
  相手の懐深くに潜り込む間合いは、緑の騎士の手斧にとって最高の間合いだった。
  相手の威力を減らしつつも自分だけは最大威力で攻撃できる。
  リスクに見合った効果を上げるこの戦法を緑の騎士は非常に好ましく思っていた。 
  今もまた目の前の騎士が自分の攻撃で自慢の装甲を破壊される。
  それは相手の衣服を剥ぎ取るようで緑の騎士を非常に興奮させた。

 「貴様も裸に剥いてやるぜ!!」

  緑の騎士が逆袈裟の要領でアリシアの装甲に手斧を叩きつける。
  緑の騎士はその手に響くアリシアの装甲の悲鳴を楽しんだ。

 「…………ん?」

  だがいつまでたってもアリシアの装甲の悲鳴は聞こえてこない。
  それどころか手ごたえすらなかった。

 「はぁ!」

  緑の騎士の手に激痛が走る。

 「がぁぁぁあぁぁぁっ!!!?」

  それはアリシアの攻撃だった。
  見れば緑の騎士の腕が切り落とされ無くなっているではないか。
  それは単純な事だった。
  緑の騎士の突撃をアリシアは脚部羽飾りから放たれるオーラをスラスターの要領で噴出し回避したのだ。
  そして攻撃を外して隙のできた緑の騎士に対し自分の間合いで攻撃をお見舞いした。
  アリシアは油断無くもう片方の手も無力化するべく攻撃を再開する。
  しかしそこで新たな乱入者が現れた。

  背後から刃が近づく。
  寸前で気付いたアリシアは足の羽飾りのオーラを全開にして回避する。
  気付けたのは偶然だった。自分がばら撒いた篝火の火が燃え移った事で周囲の建物が燃え、背後から忍び寄っていた騎士の影を映したのだ。
  もしかしたらその偶然もクークスとの戦闘の教訓が活きていたのかも知れない。

 「避けたか。なかなか良い勘をしている」

  闇の中から藍色の騎士が現れる。
  その姿は緑の騎士よりも細身で、右手に槍、左手の盾が握られていた。

 (2対1、コレはよくありませんね。早くタカヤ様と合流しないと)

 「何処の国の者だ? 大人しく吐いた方が身の為だぞ」

  藍色の騎士が武器を構える。アリシアもまた剣を構えなおして迎撃の態勢をとる。

 「ダンマリか、ならば力づくで答えてもらおうか!」

  藍色の騎士が槍を突き出しながら飛び込む。
  アリシアはその攻撃を回避すると無防備になった槍を掴む腕に剣を振るうが、左手に持った盾に阻まれてしまう。
  更に藍色の騎士はアリシアに向けて縦を構えたまま突撃してくる。
  アリシアは慌てる事無く脚部の羽飾りから放たれるオーラでホバー回避を試みる。

 「成る程、そうやって回避するのか。なかなか便利だな」

  どうやら藍色の騎士の目的はアリシアの戦力分析だったらしい。
  藍色の騎士は再び槍を構えて攻撃の姿勢を見せる。

 「回避に優れているというのは、相対的に見て防御と攻撃が弱いという事だ。俺は防御も攻撃も優れているぞ!」

  藍色の騎士の攻撃が始まる。今度の攻撃はそれまでの様子見の攻撃とは違い本気の攻撃だった。
  槍を突く速度は先ほどとは比べ物にならない程速くなり、盾の守りもオーラによって強固になっていた。

 (コレが正騎士の実力!)

  アリシアは藍色の騎士の戦いぶりに驚愕していた。
  藍色の騎士は攻撃を行う際に武具にオーラを纏って攻撃を加えてくる。
  槍を突く際にはアリシアの緊急回避の様に槍の石突きからオーラをジェット噴射の様に放ち突きの速度を上げ、守りの際は盾の表面にオーラを纏わせて防御力を上げていた。
  もちろん同じ騎士であるアリシアにも同様の事はできる。
  だが相手は練度が違った。
  藍色の騎士はアリシアよりもオーラの操作が正確で、そして早かった。
  逆に緑の騎士はオーラの操作が雑だといえた。彼は攻撃にのみオーラを集中させて守りには大してオーラを裂いていなかったのだ。
  藍色の騎士の槍裁きによって徐々に追い詰められるアリシア。
  気が付けばアリシアは鉱山の壁際まで追いやられていた。

 「もう逃げ場は無いぞ」

  藍色の騎士は油断泣く槍を構える。

 (こうなったら……)

  一か八か、アリシアが最後の賭けを行おうとしたその時だった。

  藍色の騎士の後ろ、その足元に小さな灯りが動く。
  その灯りはぐるぐると回って己の存在を主張している。

 (見つけた!!)

  アリシアの心に火が付く。
  窮地に追いやられていた筈の戦況が一転して希望に満ち溢れる。
  いつの間にか追い詰められた獲物は姿を消し、其処にいるのは反撃の狼煙が上がるのを待つ戦士へと変貌していた。

 「むっ!?」

  突然雰囲気が変わったアリシアを警戒する藍色の騎士。
  だが幸運は続けて起きた。

 「よくもやってくれたなぁぁぁぁぁ!!」

  緑の騎士である。
  腕を断ち切られた衝撃から回復した彼は怒りの感情の赴くままにアリシアに襲い掛かった。

 「まて! うかつに近づくな!」

  しかし緑の騎士は聞く耳を持たない。オーラを足に込め最大の速度でアリシアに突撃する。
  そしてアリシアに接敵した所でオーラを手斧に注ぎ込む。手斧の数が減った事で一本に込められるオーラの量は増えている。
  しかしそのオーラの動きは藍色の騎士に比べれば稚拙。
  更に言えばアリシアは運動性に優れた騎士。頭に血が上った単純な攻撃を回避するのは容易であった。
  緑の騎士の攻撃を回避し、その勢いを利用して緑の騎士を藍色の騎士に向けて放り投げる。

 「うぉっ!?」

  巻き添えを喰らってはたまらないと慌てて回避する藍色の騎士。
  しかしそれがアリシアの狙いだった。
  アリシアは転がった緑の騎士を盾にする様に背を低くしながら走り出し、地面をこそぎ取るように両手で土を救い上げる。
  もちろん目的は土などではない。
  アリシアの手には3つの人影が乗っていた。 
  タカヤ達だ。
  アリシアはタカヤ達を回収し全速力で鉱山の外に向かって走り出す。

 「くっ、逃がすか!」

  藍色の騎士が緑の騎士を飛び越え追いかけてくる。
  アリシアもまた足のオーラを最大限に噴出して鉱山の外へと急ぐ。
  しかしタカヤ達を手に乗せた不安定な走り方ではアリシアもその本領を発揮できない。

 「アリシア!俺を乗せろ!!」

  タカヤが叫ぶ。意味など考えるまでも無い。
  即座にアリシアはタカヤの乗った右手を胸のコクピットに誘導する。
  ゆれるアリシアの腕を伝いながらタカヤがコクピットに入っていく。
  直後アリシアは己のうちからあふれ出る熱とオーラに全身を浸らせる。
  ヘヴィナイトへの変身だ。

  オーラの中から更に巨大になったアリシアのナイトボディが現れる。

 「な、何ぃ!?」

  予想外の出来事に困惑する藍色の騎士。
  その隙を見逃さずタカヤは藍色の騎士に向けて回し蹴りをお見舞いする。
  圧倒的なオーラの加速により回避するまもなく藍色の騎士が地面に叩きつけられる。

  ◆

「コレなら鉱山を開放する事もできるか?」

  相手を圧倒した事でコクピット内のタカヤに余裕が生まれる。

 「駄目です、まだ騎士が出てきます」

  アリシアの言うとおりだった。鉱山の置くから巨大な影が現れる。
  スクワイヤクラスの小型騎士にナイトクラスの巨体も見える。

 「イミアちゃん達を乗せたまま戦うのは危険過ぎます」

 「欲を張るのは禁物か。分かった、撤退しよう」

 「はい!」

  手の上に載っているイミア達に負担をかけない様にタカヤはアリシアを操縦する。
  まもなく鉱山の出口という所でタカヤは気になる物を見つけた。

 「あれは……よし!」

  アリシアの体が出口から逸れていく。

 「え? タカヤ様?」

 「大丈夫、すぐそこだから」

  タカヤは壁際に置かれた巨大な容器をわし掴みにする。
  人間にとっては巨大でもヘヴィナイトであるアリシアにとってはペットボトル位のサイズでしかなかったからだ。

 「さぁ脱出だ!」

  アリシアの巨体が鉱山の門を飛び越える。
  後方から騎士達が追いかけてくるがへヴィナイトとなったアリシアのオーラホバーの速度に追いつけずどんどん引き離されていき、遂にはその姿を見失ってしまった。

  ◆

「どうやら撒いたみたいだな」

 「はい」

  アリシアの声からも緊張が消えかけている。

 「アリシア、助けに来てくれてありがとう。ほんとに助かったよ」

  タカヤはアリシアに礼を述べる。

 「そ、そんな。私が悪いんです。私が無理にでもタカヤ様と共に行動していればこんな事には」

  泣きそうな声でアリシアが謝罪する。

 「そんな事無いって。今回は俺がヘマしたのが悪いんだ。アリシアは悪くない」

 「タカヤ様……」

 「それよりも早く帰って飯にしようぜ、あの中じゃ碌なモン食わせてもらえなかったから腹減っちゃってさ」

  おどける事で場の雰囲気を和らげるタカヤ。

 「分かりました、お城に帰ったらすぐにお食事の用意を致します!!」

  アリシアの機嫌が良くなった事に安心すると、急に眠気が襲ってくる。

 (あー、結局碌に眠れなかったからな)

 「悪い、ちょっと眠っていいか? 体、自分で動かせる?」 

  操縦桿から手を離してタカヤが問いかけると、数秒遅れてアリシアが答える。

 「はい、大丈夫です、自分の意思で動かせます!」

 「じゃ任せるわ」

 「はい、おやすみなさいタカヤ様」

  タカヤは操縦席のシートにもたれかかって目を瞑る。
  暗闇の中で彼は鉱山で別れたウルザの事を思い出していた。

 「同じ釜の飯を食った仲間か……」

  それは同じように鉱山に閉じ込めれていた労働者達に対しての言葉だった。
  それと同時にタカヤは、自分達の軍備が整っていたら鉱山を開放できたのだろうかとも考える。

 (そうなってたらあの人達も町に帰って家族と再会できたのにな)

  だがウルザはそれを強要しなかった。結果、共に脱走する事を選んだのはエルだけだった。
  実際の所、全員で脱走を図っていたら確実に何人かは捕まっていただろう。

 「同じ釜の飯を食った仲だって言ったのに冷たいよな」

  自分の言葉で空腹も思い出してにお腹をさする。

 「……あれ?」

  と、そこである疑問に思い至る。

 「同じ釜の飯を食った仲って日本の格言じゃねーの?」

  思わぬ所で新しい疑問に突き当たるタカヤであった。 
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