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第9話 検査結果と授業の続き
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「ちくっとしますよー」
ちくりとした痛みと共に、血が抜かれていく。
うーん、魔法のある世界でも注射は無くならないんだなぁ。
「はい、終わりですよー。泣かなくて偉いですね」
いやまぁ、中身は中学生ですから。
しっかし、本当に普通の検査ばっかりだなぁ。
もっと魔法っぽい検査とかは無いのかな? 魔法陣の中に立って鑑定魔法を使うとか、不思議な力を持った水晶に触れるとかさ。
「あとはこちらの宝玉鑑定で検査は終わりですよ」
って思ったらほんとにあったよ!?
「こ、これどうするんですか?」
あれか? 触るとピカーッ! って光ったりするヤツだよね!
「宝玉に触れて魔力を注ぎ込んでください。注がれた魔力の量によって宝玉の色が変わりますので」
なるほど、色が変わるのか。
けどあれだね。最後の最後に魔法的な検査を持ってくるあたり、中々もったいぶってくれるじゃないか! ……うん、ちょっぴりはしゃいでます。
「じゃあ、いきます」
僕は内心ワクワクしながら宝玉に触れると、魔力をゆっくりと注ぎ始める。
以前灯りの魔法を使った時にやらかしたからなぁ、もうあんな眩しい思いはコリゴリだよ。
魔力を注ぎながら様子を見ていると、透明だった宝玉が青く染まっていき、次いで緑色に変わってゆく。
「お、おおー!?」
凄い凄い! ホントに色が変わった。
「もう緑に。咲良さんは中学生並みの魔力を持っていますね」
へぇ、中学生は緑色なんだ。って事は青は小学生レベルって事かな?
さーって、まだ魔力に余裕はあるし、どんどん注いでいくよー!
更に魔力を宝玉に注いでいくと、今度は黄色に変わってくる。
「小学生で……黄色!?」
宝玉は更に赤に変わり、紫に変わっていく。
「え? 嘘? 紫? そんな筈は!?」
職員の人の反応を見ると、赤色が大人の魔力で、紫はそれ以上かな?
でもまだまだ余裕はあるし、もっと魔力を注いでみよう。
宝玉は紫を越えて黒に近い色になっていく。
「ちょっ!? 黒!? いくら何でも何かの間違いでしょ!?」
まだまだいけそうなので更に魔力を注いでいくと、真黒になっていた宝玉の色が今度は虹色に変化した。
「うわぁ!」
宝玉の光はまるで生きているように動きながら輝きを増していく。
これ以上魔力を注いだら今度は何色になるんだろ? 金色とかかな?
よーし! 行ける所までいってやるぜー!
「ちょっ! これ以上は駄目です!!」
「え?」
更に魔力を込めようと思ったら、職員の人に止められてしまった。
「これ以上は宝玉が持ちません!」
え? マジ? 爆発とかしちゃう!?
慌てて宝玉に魔力を注ぐのを止めると、職員が宝玉に保護カバーのようなものをかぶせ金属製の箱に厳重に仕舞い込む。
「と、とりあえず検査はこれで終わりですので、結果が出るまでお待ちください」
「あっ、はい。分かりました」
なんだか尻切れトンボな感じで終わっちゃったけど、とりあえず検査は終わった。
検査室を出ると、鈴木さんがやってくる。
「お疲れ様でした。お疲れでしょうから、昼食にしましょうか。魔法の勉強は午後から再開しましょう」
「はい!」
あー、そういえばお腹が減って来たかも。
ご飯も用意して貰えるなんて、教育委員会って太っ腹だなぁ。
◆
「これは驚いた。本当に一年生で学ぶ魔法は全部使えるのですね」
昼食を終えた僕は、ようやく魔法の勉強を再開する事が出来た。
春野先生は急用ができたらしく、自然魔法の勉強はお休みになり、代わりに杜若先生のエネルギー魔法の授業になった。
まずは僕がどのくらい魔法を使えるのかを確認する事になったので、一年生の教科書で学ぶ魔法は全部使えると応えて実際にやって見せたら凄く驚いていた。
「一年生で習う魔法は他の学年に比べると数が少ないのです。その理由は生まれて初めて魔力を自分の意志で操るという行為が大変だからです。そうですね、自転車に乗る練習のようなものと言えば分かりやすいでしょうか。あれも乗れるようになるまでは大変ですが、一度乗れるようになればその後は苦労せずに乗れるようになるでしょう?」
なるほど、魔法を使う感覚に慣れないから一年生で覚える魔法は少ないのか。
「ですがこれだけ魔法が使えるなら、二年生以降で覚える魔法を教えても問題ないでしょう」
やった! 早く新しい魔法を教えてよ杜若先生!
「咲良さんに教えるエネルギー魔法ですが、この魔法は力そのものです」
「力そのもの?」
正直抽象的過ぎて良く分からん。
僕が良く分かっていないのが伝わったらしく、杜若先生が苦笑する。
「難しく考えなくて大丈夫ですよ。物を動かす力、機械を動かす力、そう言った何かをするための力がエネルギー魔法の本質です」
うーん、それってもしかして超能力でメジャーなサイコキネシスとかそういうヤツの事かな?
「何かをする時に必要なエネルギーを魔法で肩代わりするって事ですか?」
「ええ、そうです! 良く分かりましたね。エネルギー魔法は様々な事に使えます。例えば電池の切れた家電製品やガソリンの切れた車だって動かせます。まぁ、使い方をマスターしておく必要はありますけどね」
へぇ、そんな事にも使えるんだ。
電池の切れた携帯電話とかも動かせるのかな?
「咲良さんには基本である電力代替魔法を覚えてもらいましょうか。こちらの電球に繋がったコードの端を持ってください。そして自分の魔力を電気に変換するつもりで電球に流すのです。魔力はほんの少しで良いですよ」
なんか魔法の授業っていうよりも科学の授業みたいだ。
僕は電球から伸びたコードの端から出ている中の金属糸をつまむと、魔力を少しだけ流し込む。
すると電球がほのかに輝いた。
「おおーっ!!」
「昔は魔力を電球のエネルギーである電力に変換する手順が必要だったのですが、最近の家電製品はエネルギー魔法に対応した蓄魔構造になっているので、昔に比べるとだいぶ魔力で動かすのが楽になったんですよ」
へぇ、魔法が社会に根付いた世界だから、家電製品も魔法に対応した仕組みになってるんだな。面白いなぁ。
◆
「咲良さん、検査結果が出ましたよ」
先生達から魔法の授業を受けていたら、鈴木さんが検査結果のプリントを手にやって来た。
「どんな感じだったんですか?」
「ええと……結果から言いますと、とんでもない事になっていました」
「とんでもないこと?」
「はい。咲良さん、貴女の魔力量ですが……常人の1000倍です」
へぇ、1000倍か。結構多……い?
「って、1000倍!?」
なんだそれ!? ちょっとインフレし過ぎでしょ!?
「せ、1000倍って……あっ、小学生の1000倍ですか!?」
高等魔法は小学生の魔力じゃ使えないらしいし、大人レベルだと結構凄いとかそういうのだよね!
「いえ、成人の1000倍です」
「ふぁっ!?」
普通に凄かった!?
「ただこれは小学生である今の咲良さんの魔力なので、これから成長していくことで更に増える事が予測されます」
「まだ増えるの!?」
予想外に多い自分の魔力に流石にビックリする。
そりゃそんだけ魔力があったら子供じゃ使えない筈の高等魔法を使える筈だよ。
「あの、魔力が多いと何か良くない事が起きたりしませんか?」
ゲームや漫画だと魔力が多すぎるせいで体が弱くなるみたいな弱点展開あるよね。
「いえ、その心配はありませんよ。魔力が多い事でトラブルになったという話はありませんので」
よ、良かったぁー。退院して即入院とかにならずに済みそうだ。
「ですが魔力が多すぎると制御が大変になる場面が出て来るでしょうから、杖を用意した方が良いですね」
「杖?」
聞き覚えのない単語に僕は首を傾げる。いや、さっき春野先生と魔法の勉強をしてた時に出たような気が。
「はい、魔法の杖です」
「魔法の杖っ!?」
そんなものあるの!? 明らかに現代文明のこの世界にいかにもファンタジーな魔法の杖が!?
「本来なら中学生以降の中等魔法の授業で必要になるものなんですけどね。小学校で覚える魔法は個人の技量で何とかなる魔法を教えますが、中学校以降では複雑な魔法や準備の必要な魔法を教える関係上、安全のために魔法の補助器具が必要になって来るんですよ」
「おおーっ!!」
ヤバイな、杖を持って高度な魔法を使うとかかなり興奮するよ!!
などとはしゃいでいた僕だったけど、ふと不安要素が頭をよぎる。
「あの、もしかして杖って高かったりしますか?」
そう、問題はお金だ。
魔法の杖が高価な品だったばあい、母さんに買ってもらえない可能性が高い。
「その心配は無用ですよ。咲良さんの魔法訓練は我々にとって貴重な全属性使いのデータですからね。当然魔法の杖についてはこちらで全額負担させて頂きます」
「い、良いんですか!?」
あまりにも都合の良い展開に、流石に不安になってしまう。
「大丈夫ですよ。研究に関する出費ですから、必要経費として落とせますしね」
何か良く分からないけど、大丈夫っぽいみたいだ。
ともあれ、ここまで良くしてもらえるならせめてお礼くらいは言っておかないとね。
「鈴木さん、ありがとうございます!」
「ははははっ、お気になさらずに。……どうせあの人が張り切って用意するでしょうから」
「はい?」
「いえ何でもありません。杖についてはこちらで用意しますので、咲良さんは魔法の訓練に戻って結構ですよ」
「分かりました!!」
その後は特にトラブルに遭う事もなく順調に魔法の訓練を行う事が出来た。
「まさか一年生の魔法を全部覚えているとはねぇ」
「咲良さんはとても優秀な生徒なのですね」
「特に呪術は一年生以降の範囲も学んでいるよね。誰かに習ったのかな?」
「空間魔法のセンスも良いな。俺も教え甲斐があるぜ!」
楽しく魔法を学ばせてもらったからか、先生達の反応も悪くなかった。
お陰で電力変換魔法以外に脚力強化、初級治癒魔法、それに呪いを逸らす身代わり魔法に収納空間魔法を覚える事が出来た。
特に収納空間魔法は便利な魔法だ。
これはいわゆる四次元な感じの倉庫を空間内に作って物を自由に入れることが出来る魔法で、荷物を別の空間に入れるから荷物の重さも気にしなくていいんだ。
ちなみにこの魔法は習熟度によって倉庫の広さが変わるらしくて、今はまだ段ボール一箱分くらいの分量しか入らなかった。
それとこの魔法は収納している間ずっと魔力を消費し続けるという欠点があるらしい。
高等空間魔法ならその心配もないらしいんだけどね。
けどまぁ、僕に限ってはその欠点も特に問題にはならなかった。
何しろ僕には大人の1000倍の魔力があるから、収納空間魔法を使い続けていても魔力切れになる心配がないからだ。
あとは転移魔法を覚える事が出来たらよかったんだけど、あれは難しいからまだ駄目って言われたんだよね。
そして夕方になると、鈴木さんが家まで送ってくれた。
「魔法の杖は来週の授業で用意しますので、それまではあまり魔力を込めて魔法を使わないでくださいね」
「分かりました!」
念のためと魔法を使う際の注意を受けると、僕は鈴木さんを見送って我が家のドアをくぐった。
◆
「でね、土曜日は新しい魔法を一杯覚えたんだよ」
月曜日、学校に登校した僕は燐瑚ちゃんに土曜日の魔法訓練の話をしていた。
「一日で沢山魔法を覚えたの!?」
「うん。自然、エネルギー、身体強化、回復、呪術、空間全部覚えたよ! まぁ一個ずつだったけどね」
二年生から覚える魔法は一年生の魔法よりちょっと難しかったけど、その分色々使えそうな魔法が多くてワクワクしたよ。
脚力強化魔法は遅刻しそうな時に便利だしね。
「ええっ!?」
一日で6つの魔法を覚えた事に燐瑚ちゃんが驚きの声をあげる。
「わ、私以外の人から呪術を習ったの!?」
「え!? そっち!?」
と思ったら燐瑚ちゃんがショックを受けていたのは僕が呪術を別の人から習ったことに対してらしかった。
「咲良ちゃんに呪術を教えるのは私の役目だったのに……」
何やら譲れないものがあったのか、燐瑚ちゃんがプルプルと悲しそうに震え始める。
あーそう言えば燐瑚ちゃんは噛呪院家のお嬢様だもんね。
呪術に関して並々ならぬプライドがあるのかもしれない。
「あ、いや、そうじゃなくてね、えっと、ほら教育委員会の人が全部の魔法の先生を連れてきてくれたから、その先生にだけ習わないのは流石に失礼かなって!? それに燐瑚ちゃんに頼ってばかりだと迷惑でしょ?」
「そんな事ないよ! 私咲良ちゃんといっぱい呪術のお勉強したかったんだもん!」
おおう、まさか燐瑚ちゃんがそこまで僕に呪術魔法を教えるのを楽しみにしていたなんて……
「その教師、排除しなくちゃ。咲良ちゃんの初めて(の呪術)は私のものなんだから……」
かなりショックが大きかったのか燐瑚ちゃんは俯いてなにやらぶつぶつ独り言まで呟き始めた。
ええと、何か燐瑚ちゃんの機嫌を直す良い方法は……そうだ!
「じゃ、じゃあ呪術の勉強は先に燐瑚ちゃんから習うのはどうかな!?」
「先に……お勉強?」
よし! 燐瑚ちゃんが乗って来た!
「そうそう! それで週末の魔法勉強の時に呪術の先生をびっくりさせるんだよ!」
「先生を……ビックリ……」
燐瑚ちゃんは口元を押さえて考え始める。
これならいける……か?
「それ、良いかも……呪術の勉強を教える必要がないなら、その先生は用済みになって呪術のお勉強は私だけのものになる……くふふ」
あっ、燐瑚ちゃんが笑った! 良かった機嫌を直してくれたんだ!
「うん、分かった! じゃあ呪術のお勉強は私としようね! お勉強する日は金曜日とかどうかな? 週末なら遅くなっても私の家に泊まれるし」
「うん、僕もそれで良いよ!」
「やった! 咲良ちゃんが毎週お泊り!!」
「ん? 何?」
「な、何でもないよ!」
燐瑚ちゃんの声が小さくて良く聞こえなかったんだけど、ただの独り言かな?
ともあれ、何とか燐瑚ちゃんも機嫌を直してくれたみたいで良かったよ。
ちくりとした痛みと共に、血が抜かれていく。
うーん、魔法のある世界でも注射は無くならないんだなぁ。
「はい、終わりですよー。泣かなくて偉いですね」
いやまぁ、中身は中学生ですから。
しっかし、本当に普通の検査ばっかりだなぁ。
もっと魔法っぽい検査とかは無いのかな? 魔法陣の中に立って鑑定魔法を使うとか、不思議な力を持った水晶に触れるとかさ。
「あとはこちらの宝玉鑑定で検査は終わりですよ」
って思ったらほんとにあったよ!?
「こ、これどうするんですか?」
あれか? 触るとピカーッ! って光ったりするヤツだよね!
「宝玉に触れて魔力を注ぎ込んでください。注がれた魔力の量によって宝玉の色が変わりますので」
なるほど、色が変わるのか。
けどあれだね。最後の最後に魔法的な検査を持ってくるあたり、中々もったいぶってくれるじゃないか! ……うん、ちょっぴりはしゃいでます。
「じゃあ、いきます」
僕は内心ワクワクしながら宝玉に触れると、魔力をゆっくりと注ぎ始める。
以前灯りの魔法を使った時にやらかしたからなぁ、もうあんな眩しい思いはコリゴリだよ。
魔力を注ぎながら様子を見ていると、透明だった宝玉が青く染まっていき、次いで緑色に変わってゆく。
「お、おおー!?」
凄い凄い! ホントに色が変わった。
「もう緑に。咲良さんは中学生並みの魔力を持っていますね」
へぇ、中学生は緑色なんだ。って事は青は小学生レベルって事かな?
さーって、まだ魔力に余裕はあるし、どんどん注いでいくよー!
更に魔力を宝玉に注いでいくと、今度は黄色に変わってくる。
「小学生で……黄色!?」
宝玉は更に赤に変わり、紫に変わっていく。
「え? 嘘? 紫? そんな筈は!?」
職員の人の反応を見ると、赤色が大人の魔力で、紫はそれ以上かな?
でもまだまだ余裕はあるし、もっと魔力を注いでみよう。
宝玉は紫を越えて黒に近い色になっていく。
「ちょっ!? 黒!? いくら何でも何かの間違いでしょ!?」
まだまだいけそうなので更に魔力を注いでいくと、真黒になっていた宝玉の色が今度は虹色に変化した。
「うわぁ!」
宝玉の光はまるで生きているように動きながら輝きを増していく。
これ以上魔力を注いだら今度は何色になるんだろ? 金色とかかな?
よーし! 行ける所までいってやるぜー!
「ちょっ! これ以上は駄目です!!」
「え?」
更に魔力を込めようと思ったら、職員の人に止められてしまった。
「これ以上は宝玉が持ちません!」
え? マジ? 爆発とかしちゃう!?
慌てて宝玉に魔力を注ぐのを止めると、職員が宝玉に保護カバーのようなものをかぶせ金属製の箱に厳重に仕舞い込む。
「と、とりあえず検査はこれで終わりですので、結果が出るまでお待ちください」
「あっ、はい。分かりました」
なんだか尻切れトンボな感じで終わっちゃったけど、とりあえず検査は終わった。
検査室を出ると、鈴木さんがやってくる。
「お疲れ様でした。お疲れでしょうから、昼食にしましょうか。魔法の勉強は午後から再開しましょう」
「はい!」
あー、そういえばお腹が減って来たかも。
ご飯も用意して貰えるなんて、教育委員会って太っ腹だなぁ。
◆
「これは驚いた。本当に一年生で学ぶ魔法は全部使えるのですね」
昼食を終えた僕は、ようやく魔法の勉強を再開する事が出来た。
春野先生は急用ができたらしく、自然魔法の勉強はお休みになり、代わりに杜若先生のエネルギー魔法の授業になった。
まずは僕がどのくらい魔法を使えるのかを確認する事になったので、一年生の教科書で学ぶ魔法は全部使えると応えて実際にやって見せたら凄く驚いていた。
「一年生で習う魔法は他の学年に比べると数が少ないのです。その理由は生まれて初めて魔力を自分の意志で操るという行為が大変だからです。そうですね、自転車に乗る練習のようなものと言えば分かりやすいでしょうか。あれも乗れるようになるまでは大変ですが、一度乗れるようになればその後は苦労せずに乗れるようになるでしょう?」
なるほど、魔法を使う感覚に慣れないから一年生で覚える魔法は少ないのか。
「ですがこれだけ魔法が使えるなら、二年生以降で覚える魔法を教えても問題ないでしょう」
やった! 早く新しい魔法を教えてよ杜若先生!
「咲良さんに教えるエネルギー魔法ですが、この魔法は力そのものです」
「力そのもの?」
正直抽象的過ぎて良く分からん。
僕が良く分かっていないのが伝わったらしく、杜若先生が苦笑する。
「難しく考えなくて大丈夫ですよ。物を動かす力、機械を動かす力、そう言った何かをするための力がエネルギー魔法の本質です」
うーん、それってもしかして超能力でメジャーなサイコキネシスとかそういうヤツの事かな?
「何かをする時に必要なエネルギーを魔法で肩代わりするって事ですか?」
「ええ、そうです! 良く分かりましたね。エネルギー魔法は様々な事に使えます。例えば電池の切れた家電製品やガソリンの切れた車だって動かせます。まぁ、使い方をマスターしておく必要はありますけどね」
へぇ、そんな事にも使えるんだ。
電池の切れた携帯電話とかも動かせるのかな?
「咲良さんには基本である電力代替魔法を覚えてもらいましょうか。こちらの電球に繋がったコードの端を持ってください。そして自分の魔力を電気に変換するつもりで電球に流すのです。魔力はほんの少しで良いですよ」
なんか魔法の授業っていうよりも科学の授業みたいだ。
僕は電球から伸びたコードの端から出ている中の金属糸をつまむと、魔力を少しだけ流し込む。
すると電球がほのかに輝いた。
「おおーっ!!」
「昔は魔力を電球のエネルギーである電力に変換する手順が必要だったのですが、最近の家電製品はエネルギー魔法に対応した蓄魔構造になっているので、昔に比べるとだいぶ魔力で動かすのが楽になったんですよ」
へぇ、魔法が社会に根付いた世界だから、家電製品も魔法に対応した仕組みになってるんだな。面白いなぁ。
◆
「咲良さん、検査結果が出ましたよ」
先生達から魔法の授業を受けていたら、鈴木さんが検査結果のプリントを手にやって来た。
「どんな感じだったんですか?」
「ええと……結果から言いますと、とんでもない事になっていました」
「とんでもないこと?」
「はい。咲良さん、貴女の魔力量ですが……常人の1000倍です」
へぇ、1000倍か。結構多……い?
「って、1000倍!?」
なんだそれ!? ちょっとインフレし過ぎでしょ!?
「せ、1000倍って……あっ、小学生の1000倍ですか!?」
高等魔法は小学生の魔力じゃ使えないらしいし、大人レベルだと結構凄いとかそういうのだよね!
「いえ、成人の1000倍です」
「ふぁっ!?」
普通に凄かった!?
「ただこれは小学生である今の咲良さんの魔力なので、これから成長していくことで更に増える事が予測されます」
「まだ増えるの!?」
予想外に多い自分の魔力に流石にビックリする。
そりゃそんだけ魔力があったら子供じゃ使えない筈の高等魔法を使える筈だよ。
「あの、魔力が多いと何か良くない事が起きたりしませんか?」
ゲームや漫画だと魔力が多すぎるせいで体が弱くなるみたいな弱点展開あるよね。
「いえ、その心配はありませんよ。魔力が多い事でトラブルになったという話はありませんので」
よ、良かったぁー。退院して即入院とかにならずに済みそうだ。
「ですが魔力が多すぎると制御が大変になる場面が出て来るでしょうから、杖を用意した方が良いですね」
「杖?」
聞き覚えのない単語に僕は首を傾げる。いや、さっき春野先生と魔法の勉強をしてた時に出たような気が。
「はい、魔法の杖です」
「魔法の杖っ!?」
そんなものあるの!? 明らかに現代文明のこの世界にいかにもファンタジーな魔法の杖が!?
「本来なら中学生以降の中等魔法の授業で必要になるものなんですけどね。小学校で覚える魔法は個人の技量で何とかなる魔法を教えますが、中学校以降では複雑な魔法や準備の必要な魔法を教える関係上、安全のために魔法の補助器具が必要になって来るんですよ」
「おおーっ!!」
ヤバイな、杖を持って高度な魔法を使うとかかなり興奮するよ!!
などとはしゃいでいた僕だったけど、ふと不安要素が頭をよぎる。
「あの、もしかして杖って高かったりしますか?」
そう、問題はお金だ。
魔法の杖が高価な品だったばあい、母さんに買ってもらえない可能性が高い。
「その心配は無用ですよ。咲良さんの魔法訓練は我々にとって貴重な全属性使いのデータですからね。当然魔法の杖についてはこちらで全額負担させて頂きます」
「い、良いんですか!?」
あまりにも都合の良い展開に、流石に不安になってしまう。
「大丈夫ですよ。研究に関する出費ですから、必要経費として落とせますしね」
何か良く分からないけど、大丈夫っぽいみたいだ。
ともあれ、ここまで良くしてもらえるならせめてお礼くらいは言っておかないとね。
「鈴木さん、ありがとうございます!」
「ははははっ、お気になさらずに。……どうせあの人が張り切って用意するでしょうから」
「はい?」
「いえ何でもありません。杖についてはこちらで用意しますので、咲良さんは魔法の訓練に戻って結構ですよ」
「分かりました!!」
その後は特にトラブルに遭う事もなく順調に魔法の訓練を行う事が出来た。
「まさか一年生の魔法を全部覚えているとはねぇ」
「咲良さんはとても優秀な生徒なのですね」
「特に呪術は一年生以降の範囲も学んでいるよね。誰かに習ったのかな?」
「空間魔法のセンスも良いな。俺も教え甲斐があるぜ!」
楽しく魔法を学ばせてもらったからか、先生達の反応も悪くなかった。
お陰で電力変換魔法以外に脚力強化、初級治癒魔法、それに呪いを逸らす身代わり魔法に収納空間魔法を覚える事が出来た。
特に収納空間魔法は便利な魔法だ。
これはいわゆる四次元な感じの倉庫を空間内に作って物を自由に入れることが出来る魔法で、荷物を別の空間に入れるから荷物の重さも気にしなくていいんだ。
ちなみにこの魔法は習熟度によって倉庫の広さが変わるらしくて、今はまだ段ボール一箱分くらいの分量しか入らなかった。
それとこの魔法は収納している間ずっと魔力を消費し続けるという欠点があるらしい。
高等空間魔法ならその心配もないらしいんだけどね。
けどまぁ、僕に限ってはその欠点も特に問題にはならなかった。
何しろ僕には大人の1000倍の魔力があるから、収納空間魔法を使い続けていても魔力切れになる心配がないからだ。
あとは転移魔法を覚える事が出来たらよかったんだけど、あれは難しいからまだ駄目って言われたんだよね。
そして夕方になると、鈴木さんが家まで送ってくれた。
「魔法の杖は来週の授業で用意しますので、それまではあまり魔力を込めて魔法を使わないでくださいね」
「分かりました!」
念のためと魔法を使う際の注意を受けると、僕は鈴木さんを見送って我が家のドアをくぐった。
◆
「でね、土曜日は新しい魔法を一杯覚えたんだよ」
月曜日、学校に登校した僕は燐瑚ちゃんに土曜日の魔法訓練の話をしていた。
「一日で沢山魔法を覚えたの!?」
「うん。自然、エネルギー、身体強化、回復、呪術、空間全部覚えたよ! まぁ一個ずつだったけどね」
二年生から覚える魔法は一年生の魔法よりちょっと難しかったけど、その分色々使えそうな魔法が多くてワクワクしたよ。
脚力強化魔法は遅刻しそうな時に便利だしね。
「ええっ!?」
一日で6つの魔法を覚えた事に燐瑚ちゃんが驚きの声をあげる。
「わ、私以外の人から呪術を習ったの!?」
「え!? そっち!?」
と思ったら燐瑚ちゃんがショックを受けていたのは僕が呪術を別の人から習ったことに対してらしかった。
「咲良ちゃんに呪術を教えるのは私の役目だったのに……」
何やら譲れないものがあったのか、燐瑚ちゃんがプルプルと悲しそうに震え始める。
あーそう言えば燐瑚ちゃんは噛呪院家のお嬢様だもんね。
呪術に関して並々ならぬプライドがあるのかもしれない。
「あ、いや、そうじゃなくてね、えっと、ほら教育委員会の人が全部の魔法の先生を連れてきてくれたから、その先生にだけ習わないのは流石に失礼かなって!? それに燐瑚ちゃんに頼ってばかりだと迷惑でしょ?」
「そんな事ないよ! 私咲良ちゃんといっぱい呪術のお勉強したかったんだもん!」
おおう、まさか燐瑚ちゃんがそこまで僕に呪術魔法を教えるのを楽しみにしていたなんて……
「その教師、排除しなくちゃ。咲良ちゃんの初めて(の呪術)は私のものなんだから……」
かなりショックが大きかったのか燐瑚ちゃんは俯いてなにやらぶつぶつ独り言まで呟き始めた。
ええと、何か燐瑚ちゃんの機嫌を直す良い方法は……そうだ!
「じゃ、じゃあ呪術の勉強は先に燐瑚ちゃんから習うのはどうかな!?」
「先に……お勉強?」
よし! 燐瑚ちゃんが乗って来た!
「そうそう! それで週末の魔法勉強の時に呪術の先生をびっくりさせるんだよ!」
「先生を……ビックリ……」
燐瑚ちゃんは口元を押さえて考え始める。
これならいける……か?
「それ、良いかも……呪術の勉強を教える必要がないなら、その先生は用済みになって呪術のお勉強は私だけのものになる……くふふ」
あっ、燐瑚ちゃんが笑った! 良かった機嫌を直してくれたんだ!
「うん、分かった! じゃあ呪術のお勉強は私としようね! お勉強する日は金曜日とかどうかな? 週末なら遅くなっても私の家に泊まれるし」
「うん、僕もそれで良いよ!」
「やった! 咲良ちゃんが毎週お泊り!!」
「ん? 何?」
「な、何でもないよ!」
燐瑚ちゃんの声が小さくて良く聞こえなかったんだけど、ただの独り言かな?
ともあれ、何とか燐瑚ちゃんも機嫌を直してくれたみたいで良かったよ。
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