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第三章 迷宮と王編

第44話 最下層への出陣

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 エリクサーを手に入れる事を決めた俺は、まずはブランクを取り戻すべく冒険者としての活動を再開した。
 ラシエルのお陰で傷が治ってからも鍛錬は積んでいたが、やはり実戦を久しく行っていないのは大きいからな。

 とはいえ今の俺は街の顔役であり、限りなく貴族に近い立場にある。
 そんな俺が大々的に冒険者として活動するわけにもいかないので、そこはこっそり顔を隠して動くことにした。

「はぁっ!!」

 俺は近づいてくる魔物達を剣で一閃する。

「グギャアァァッ!!」

 流石にゴブリン程度ならブランクがあっても数匹程度でも対応できるな。

「「「「っ!!」」」」

 俺が勝利すると果実兵達がやんややんやと喝采を上げる。
 うーん、緊張感が無い。
 まぁ数十体の果実兵に周辺を警戒させておいて緊張感も減ったくれもないが、そのくらいしないと皆が魔物狩りに行くのを許可してくれなかったんだよな。

「御身はお母様の主なのですよ!? せめて100体の果実兵の護衛をお連れ下さい! 寧ろ私達をお連れ下さい!!」

 って感じで。
 顔を隠しているとはいえ、食事の時には兜を外さないといけないし、何かの拍子で顔が見えてしまう可能性もある。

 またかつてレオンによってパーティを追放されたこともあって、どこの馬の骨とも知れない冒険者と組むことを許容できないとリジェ達に強弁された結果、俺は果実兵達と組んでダンジョンの上層に挑むことになった訳だ。

 とはいえ果実兵達も戦わせると絶対接待狩りみたいな光景になるのは間違いないので、俺が危なくなるまでは手を出さないように命じてある。
 これはあくまで俺の訓練な訳だしな。
 他の冒険者達の邪魔が入らないように、果実兵達が周囲を見張ってくれているのもありがたい。

「よし、次はオーク辺りと戦ってみるか」

「っ!!」

 俺の言葉を聞いた果馬兵が任せろと胸を張ってオークを求めて駆け出す。
 果実兵達はダンジョンのそこかしこを探索しているので、彼等からの情報提供を得た果馬兵は探す必要すらなくあっさりとオークをこちらに追い立てる。

「よし、行くか!!」

「ブモォ!!」

 逃走する先に立ちはだかった俺を見たオークが、邪魔だどけとばかりにボロボロの剣を振りかざす。
 俺は盾を斜めに構えると、その攻撃を受け流しつつオークの後ろに回り込む。
 そして攻撃を流されてバランスを崩したオークを背中から袈裟切りにする。

「グモォォォッ!?」

「よし、良い感じだ!」

 危なげなくオークを倒し、現役時代の感覚が戻ってきている事を実感する。

「「「っ!!」」」

 そして倒したオーク果実兵達が改修していく。
 多分アレを解体してラシエルの肥料にするんだろうな。

「それにしても、本当にこいつらは凄いな」

 俺は自分の身に着けた装備の凄さに今更ながらに感心する。

 これらの装備は一見すると木製の剣や鎧だが、その正体は世界樹であるラシエルから生まれたモノだ。
 勿論世界樹を削ったのではなく、果実兵のように実の形で生まれたものだ。

『!!』

『!!』

 俺の言葉に反応するかのように剣と鎧がブルブルと震えた。
 見れば剣の鍔と小手の内側に浮き出た丸い装飾の中に、果実兵の顔のようなものが浮かんでいる。
 そう、コイツ等はただの武具じゃない。
 果実兵達と同じ存在、その名も果鎧兵と果剣兵なのだ。

 ダンジョン探索に同行すると言った時、果実将達はかなり困惑した。
 それもまぁ当然ではある。

 ラシエルの主である俺は世界樹にとって王様みたいなもんだ。
 その王様が危険なダンジョン探索に同行するというのは、戦争の最前線に参加すると言っているのと同じなのだから。

 しかし事はエリクサーだけの問題じゃない。
 ダンジョンは世界樹であるラシエルにとって天敵と言っていい存在。
 そんな奴がいつまでもラシエルの傍に居てはあの子が怖い思いをし続ける事になる。

 なら俺は兄としてラシエルを怖がらせる奴は早々に対峙しないといけない。
 まぁこれでもダンジョンを制覇したパーティの一員だった訳だしな、ダンジョン探索に関して言えば皆の先輩だ。何かしら役に立てることもあるだろう。

 そう言って説得した結果、ラシエル達が悩みに悩んで考えたのがこの果鎧兵と果剣兵という直接俺の力になってくれる果実兵達だったのだ。

 そんな訳なのでコイツ等の性能はかなり高い。
 まず軽い。
 装備として軽いと言うのは凄く有利だ。
 戦いでは常に動き回らないといけないし、探索中は何時間も歩き回る必要がある。
 
 更に緊急時には重い装備を纏ったまま全力で逃げなきゃいけない。
 そんな状況で装備が軽いと言うのはとても有利な事なんだ。
 それでいて鋼鉄並みに硬くてある革鎧程度の柔軟性もある。
 はっきり言って反則の様な装備だった。

 そして果剣兵、コイツもやばい。
 見た目は木剣なんだが、これまた軽くなにより木製とは思えない程切れ味が良かった。
 木剣に偽装した名刀と言われても信じれるくらいの切れ味だ。

「っ!!」

 果鎧兵達の性能に感心していると、果実兵が俺の腕を引っ張る。
 そろそろ帰ろうという合図だ。

「分かった。冒険の勘も戻って来たしそろそろ帰ろうか。皆、手伝ってくれてありがとうな」

「「「「!!」」」」

 果実兵達がどういたしましてと誇らしげに自分達の胸を叩いたのだった。

 ◆

「我が王、果実兵達が最下層に到達しました」

 世界樹の屋敷に戻ると、リジェが緊張した面持ちで最下層へ到達したとの連絡が入った。

「最下層についたと分かるのか?」

「はい、フロア全体から濃いダンジョンの気配がするとの事です。それはすなわち、ダンジョンの心臓である核がその階層に居る事にほかなりません」

 成程、世界樹から生まれた果実兵達だからこそ、天敵であるダンジョンの気配に敏感と言う事か。

「分かった。果実兵達にはフロアの探索と雑魚の掃討を頼む。ダンジョン核を守るボスが見つかっても戦力が整うまで迂闊に仕掛けるなと伝えておいてくれ」

「はっ!」

 果実兵達が戦いの準備に走り回り、リジェやカザード達は隊長格の果実兵達と作戦会議を行う為席を外す。。

 この時が来るのも意外に早かったな。
 いや実際に本気で早い。ダンジョン探索は数年、ダンジョンの難易度によっては数十年かかるのもザラだからな。
 このダンジョンが発見からこれ程短期間で探索が進んだのも、果実兵達による冒険者の救助サポートがあったからだろう。

「久しぶりのダンジョンだな……」

 あの日、ダンジョンの最下層で遭遇したダンジョンのボスとの戦いを思い出し、俺は武者震いに包まれる。
 今の俺はどこまで戦えるのだろうかと。

「行っちゃうのお兄ちゃん?」

 そんな俺の姿を見て不安を感じたのか、ラシエルが俺の服の袖を引っ張る。
 ……いかん、忘れるところだった。
 今の俺が優先するのはラシエル達の事だ。
 冒険者として無茶をするのはほどほどにしないとな。
 ダンジョンでお宝探しと聞いてちょっと浮かれていた。

「ラシエルや皆が安心して暮らせるようにな」

 俺はラシエルを抱っこして頭をガシガシとちょっと乱暴に撫でる。

「やぁーだぁー!」

 強引に頭を撫でられた所為で髪の毛が乱れたラシエルはちょっと怒った顔になるも、俺の胸に頭突きする勢いで頭を寄せる。

「……分かった」

 心配してる顔を見られなくないって感じだな。
 ふと俺はその姿に、亡き妹との最後の別れの時を思い出す。
 あの日村の外の畑に作業に行こうとした俺に妹はぐずってしがみ付いてきたんだよな。
 だけど俺は仕事で行くんだからって説得したらようやく手を離した。
 あの時、妹を連れて行ったらどうなっていたんだろう。

「大丈夫だ。俺は戻ってくるよ」

 俺は益体もない妄想を振り払い、ラシエルに約束する。
 そうだ、過ぎた事を悔やんでも仕方がない。
 俺は今度こそ妹を守るんだ。

「うん。気を付けてね。あの中から凄く怖い気配がする。皆を待ち構えている気がするの」

 世界樹の聖霊としての予感がするんだろう。
 ラシエルは真剣な表情で俺に気を付けろと警告の言葉をかけてくる。

「分かった。気を付けるよ。なに、俺にはコイツ等が付いてるしな!」

 そう言って果剣兵を掲げ、果鎧兵をコツンと叩いてみせる。

『『!!』』

 果剣兵達が自分達にまかせろと声を上げると、ラシエルはようやく少し安心したのか笑顔を見せた。

「お母様、我が王、私達を忘れては困ります」

 そう言って現れたのはリジェとカザードだった。

「我々も全力で我が王をお守りいたしますよ」

「「「「「!!」」」」」

 果実兵達も俺達にまかせろと自分の胸を叩く。

「うん、お兄ちゃんをよろしくね!」

「「はっ!!」」

「「「「「!!」」」」」

 ◆

「いってらっしゃーい! お兄ちゃーん、皆ーっ!」

「ああ、行ってくる!」

 全ての準備が整った俺達は、ダンジョンに向けて出発した。
 目指すはエリクサーの入手とダンジョンの核の破壊!!

「今度こそ、お前の元に戻ってくるよ……エリル」
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