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第三章 迷宮と王編
第38話 レオンの野望
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◆リジェ◆
「成程、町の住民はそう動きましたか」
果実兵からの報告を受け、レオンが町の住人達によって排斥されつつある事を知りました。
そして遂に町からも追い出され、今では町の外で野宿を余儀なくされているようです。
町中で野宿をしようとしたら、果実兵達が不審者として追い出しにかかりますからね。
私は町の外の植物達とリンクして、レオンの現状を確認する事にします。
植物達とリンクを繋げると、早速町の外で野宿をしているレオンの姿が見えました。
「クソッ! なんでA級冒険者のこの俺がこんなみすぼらしい暮らしをしなきゃならねぇんだ!」
レオンは悪態をつきながらたき火にむかって乱暴に薪を放り込んでいます。
「あちゃあ!」
その振る舞いが不満だとでも言わんばかりに薪が爆ぜて、レオンが悲鳴を上げます。
ふふ、生木をたき火にくべてはいけませんよ。
それにしても、こうやって見るととても冒険者の頂点であるA級冒険者とは思えませんね。
「リシーナもアマリも帰ってこねぇ! アイツ等何やってやがるんだ!」
おやおや、まだあの二人が帰ってくると思っているんですか?
しかしあの二人は既に正式にパーティ脱退の旨を冒険者ギルドに通達しています。
ええ、正しい判断かと。これ以上あの男と一緒に居てもあの二人にとってはマイナスにしかなりませんからね。
「それに何で誰もメンバー募集にやってこねぇんだ! A級冒険者が募集してるんだぞ! これじゃダンジョンに潜る事も出来やしねぇ!」
ああ、この件については冒険者ギルドから確認がきていましたね。
レオンがパーティメンバーを募集しているがどうすればいいかと。
あの男は白昼堂々我が王に暴言を吐きましたから、冒険者ギルドとしても対応に困るのでしょう。
何せ下手にあの男に利する行動をすれば、ダンジョンを擁する町の長である我が王に敵対したと思われる危険があります。
冒険者ギルドの支部長としては、巨大な利権を持つダンジョンの町の支部長の地位は大切なものですからね。
お伺いを立てるのは当然と言えました。
しかし私は敢えてメンバー募集の申請を受理するよう返しました。
つまらない妨害行為は我が王の名に傷がつきますからね。
まぁダンジョンを巡回している果実兵達は意図的に彼を避けていたみたいですが、忠誠心故の行動なので不問としましょう。
それに我々が手を下さずとも、悪名高いあの男と組みたがる冒険者はこの町には居ないだろう事は現状を見れば明らかです。
そして悪名ほど長く執拗に残るもの。この男はいずれ他の町でも冒険者としてやっていけなくなることでしょう。
そう考えながら様子を見ていた私でしたが、ふとレオンが気になる事を口走りました。
「くそっ! ダンジョンに眠るエリクサーさえ手に入れば、俺は貴族になれるってのによ!」
「ほう、エリクサー、それに貴族ですか」
どうやらこの男がダンジョンにこだわるのはそれが理由みたいですね。
しかしエリクサー狙いとは……
「あのババァの話じゃ、このダンジョンにしかエリクサーはない筈。なんとしてもダンジョンに潜らねぇと!」
ふむ、女性ですか?
……ああ、そういえば果偵兵が王都で集めた情報の中に、A級冒険者を擁する大貴族の女性当主が居ましたね。
ええと、確かこの報告書に……やはりそうです。女当主が囲っているA級冒険者の名前はレオンと。
そして……レオンと女当主は男女の仲? ですが二人の年齢はそれなりに離れている筈ですが……
ああ、女当主は性格に難があるせいで夫は家に寄りつかず、そのストレスを若い男を囲う事で発散していると。
そしてレオンの方も女当主の権力と情報を求めて受け入れた訳ですか。
ふふっ、ある意味お似合いの二人ですね。
そしてこの女当主から、エリクサーの情報を得たと。
ですが何故エリクサーを? ……ああ成程、国王がらみですか。
おや? さっそくレオンの方に動きがあったみたいですね。
彼に近づいてくる人物が現れましたよ。
◆レオン◆
「荒れておりますなレオン殿」
「っ!? 誰だ!?」
突然声をかけられた事に驚いた俺は、即座に剣を構えて周囲を警戒する。
マズイ、エリクサーの事を聞かれたか!?
もし聞かれたのなら、口封じをしねぇと! あれは俺のモンだ!
「おお、これは驚かせて申し訳ありません。ご安心ください。私はあの方から貴方のお手伝いをするように命じられた者です」
そう言って物陰から現れたのは、フードで顔を隠した怪しい男だった。
「あの方……まさかリティ……」
「しっ! みだりにあの方の名を口にしてはなりません。誰が聞いているとも限らないのですよ」
「お、おう! 悪い」
男に制止された俺は、慌てて口を閉じる。
だがやはりこいつはあのババァの部下か。
へっ、俺が貴族になる為の手伝いに部下を寄越すたぁとは可愛い所があるじゃねぇか。ババァだけどな。
「それよりもおま……アンタ、何か知ってるのか?」
「はい、実は町の者達が貴方と取引をしないのは、どうやら町長であるセイル殿が関係しているようです」
「なんだと!?」
ここ最近のおかしな出来事は全部セイルの奴が原因だったのか!?
「セイル殿とレオン殿は以前冒険者ギルドで口論となったそうですね。どうもそれが原因で町の住民は貴方との取引を避けるようになったみたいですよ」
「はぁ!? 俺は事実を言っただけだろ!? 逆恨みじゃねぇかよ!」
野郎、なんて心の狭い野郎だ!
「アイツには冒険者のプライドってもんがねぇのか! 誰のおかげで一流パーティに所属出来てたと思ってるんだ!」
「……あー、続き、良いですか? そういう訳ですのでセイル殿が町の住人に妨害を止めるよう命じない限り彼等は貴方に何も売ってくれないでしょう」
「あの卑怯者が! すぐに命令を止めさせてやる!」
仲間にしてやった恩を忘れやがって!
「お待ちを! さすがにそれは辞めた方がよろしいかと。正面から陳情に向かっても向こうは知らぬ存ぜぬを通すだけですよ。何しろ証拠がないのですからね」
そう言って男は夜になっても明るく照らされたハーミトの町を見る。
くそ、俺はこんな薄暗い場所で野宿だってのに、セイルの野郎はあそこでふんぞり返りながら俺を笑ってやがるのか! むかつくぜ!
「それじゃあどうしようもねぇってのかよ!」
「いえ、一つ手があります」
「何だと!」
おいおい、いい方法があるのならさっさと言えよ! 回りくどい事真似をしやがって!
「この町にはセイル殿の妹君が暮らしております」
「妹? アイツの妹は死んだって聞いたぞ?」
まぁ他人の不幸話なんて興味ないからほとんど聞いてなかったけどな。
「おやそうなのですか? しかし町の住人達の話では妹君と仲睦まじく歩いている姿を見たとこの事ですよ?」
「どういう事だ?」
妹は死んでいる筈なのに生きている? セイルの奴が俺達に嘘をついたのか?
だが何のためにそんな意味のない嘘を?
「まぁ妹君の生死の真偽はどちらでも良いでしょう。ともあれ、セイル殿の命令を撤回させるなら、その妹君を使うのが有効かと」
妹を使う?
「って……まさか人質にとるって事か!?」
男の提案したとんでもない作戦に、俺は声を荒げる。
「はい。町の住人の件を正面から談判してもしらばっくれることでしょう。そして暴力で従わせようにも向こうにはあの果実兵と呼ばれる魔法生物がおります。あの生物は個々の力も侮れないですが、何より数が多い。一人で戦うのは無謀かと。ですが無力な小娘を人質にすればいかにセイル殿といえど抵抗出来ないでしょう」
「おいおい、さすがにそれはヤバいだろ!?」
マジで誘拐は不味い。
喧嘩なら酔っ払いもやるからそこまで罰則も厳しくないが、誘拐は完全な犯罪だ。
バレたら町どころか国に追われる危険すらある。
俺は犯罪者になりたいわけじゃない。
「おや? ですが貴方は貴族になりたいのではないのですか?」
「っ!?」
「しかもその為には時間を惜しんではいられないのでは?」
そうだ、俺は権力が欲しかった。
例え冒険者として力と名声を手に入れても、権力の前には勝てねぇからだ。
この世界で最終的に強いのは圧倒的な権力なんだ!
権力があれば金も力も全て手に入る。
だから俺は貴族になる事を望んだ。誰よりも優れた俺に相応しい地位を得る為に!
幸い、仕事で知り合った大貴族のババァが俺に惚れ込んだおかげで、若くしてA級冒険者に昇格する事が出来た。
これも貴族の権力の力があれば出来た事だ。
俺だけだったら、ギルドの長ったらしい審査の為に何年も実績を積み重ねないといけないところだった。
といっても不正をさせたわけじゃねぇ。俺の実力ならいずれはA級冒険者になる事は確実だったからな。
あくまでも後見人の様な立場になって貰って前倒しで昇格する手助けをさせただけだ。
A級冒険者になる事は、平民が貴族になる為に一番手っ取り早い方法だ。
現に過去にA級冒険者から貴族になった前例がある。なにより貴族は前例がある事に弱いからな。
そして次に必要だったのは貴族になる為の功績だ。
それもセコイ活躍じゃだめだ。
貴族になるには国に多大な貢献をする様な、誰も文句を言えないような活躍が必要だった。
その功績を探していた俺にババァは言った。
国王がエリクサーを探しているみたいだと。
エリクサー、それは伝説の薬の名だ。
曰くどんな怪我も病気も治り、失った体の一部すら再生するとんでもない代物らしい。
事情は知らねぇが、そんな薬を国王は求めていた。
まぁ王様だからな。長生きしたいとかそんな理由で薬を欲しがってるんだろ。
何でも治る薬だ。寿命を延ばしたって不思議じゃない。
まったく権力者って奴は強欲な生き物だぜ。
そしてババァの話では、過去に野生のダンジョンの最下層でエリクサー発見されたという情報があるとの事だった。
それも発見されるのは一つのダンジョンにつきたった一個だけ。つまり早い者勝ちだ。
へへっ、俺に惚れ込んでいるババァは俺に気に入られるために様々な情報を集めてくれたのさ。
まぉ俺は良い男過ぎるからな。ババァが貢ぎたくなる気持ちも分からなくはない。
そんな事情もあって、俺は他の連中が最下層に到達する前に探索を再開したかった。
「そうだ、いつ誰にエリクサーを奪われるかわかんねぇ」
「ええ、貴方の望みを早く叶えるためにも、速く探索を再開しませんとね」
エリクサーが欲しければ手段を選んでる暇はねぇか。それこそヤバい手段に手を染めても。
そうだ、貴族にさえなれば、都合の悪い事実をもみ消しにする事だって自由だ。
「ご安心を。そちらに関してはわたくし共の手の者がお手伝いいたしますので」
なおも決めかねている俺に対し、男が安心しろと笑みを浮かべる。
「我らだけでは妹君を確保したくてもあの魔法生物が邪魔をして阻止されてしまいますが、セイル殿の元仲間である貴方ならば、以前の件を謝罪したいという名目で近づくことが出来ます。仮にも元仲間ですからね。そして貴方が心底反省していると思わせ油断を誘えば、近く妹君を紹介してもらう事が出来るでしょう。その際に我々が囮となってあの魔法生物を誘いその隙に貴方が妹君を確保すれば……」
「はぁっ!? アイツに頭を下げろってのか!?」
ふざけんな! 誰がセイルなんかに謝るかよ! あの件はアイツが弱っちかったのが原因だろうが!
「そうおっしゃらずに。一時の恥を耐えれば、貴方は全てを手に入れる事が出来るのですよ」
「全て?」
男が落ち着けと言いながらセイルに頭を下げれば、俺が多大な利益を得る事が出来ると告げる。
「ええ、全てですとも。妹君を確保する事さえできれば、セイル殿に命じて件の魔法生物をレオン殿の命令に従うように命じさせることが出来ます」
「俺の命令に!?」
町の連中を操って俺を陥れたセイルの野郎を逆に利用できると聞いて俺の心は沸き立つ。
俺がアイツを良い様に使う事が出来る……
背中がゾクリとした。
俺に屈辱を味あわせたアイツを同じ目に、いや、それ以上の目に遭わせる事が出来ると聞いて。
「へ、へへ。良いじゃねぇか」
確かにあの生き物を自由に従えさせるというのは魅力的な話だ。
アイツ等町で暴れるクズ冒険者共を軽々と捕まえやがる力があるからな。
いや、なんならあの生物だけでダンジョンを探索をさせて俺は町で悠々自適に過ごすのもアリかもしれねぇ。
そしてあの生き物が発見したエリクサーを届けさせれば、労せずして俺は貴族になれるじゃねぇか!
へへっ、俺に恥をかかせたセイルを利用してダンジョンを攻略してやるぜ!
それだけじゃねぇ。俺を笑ったクズ冒険者共も町から、いやギルドから追放してやる!
「くくくっ、俺を敵に回した事を後悔させてやるぜセイルゥ」
だが、俺は気づいていなかった。
俺達の話をこっそり盗み聞きしている奴が居た事に。
「成程、町の住民はそう動きましたか」
果実兵からの報告を受け、レオンが町の住人達によって排斥されつつある事を知りました。
そして遂に町からも追い出され、今では町の外で野宿を余儀なくされているようです。
町中で野宿をしようとしたら、果実兵達が不審者として追い出しにかかりますからね。
私は町の外の植物達とリンクして、レオンの現状を確認する事にします。
植物達とリンクを繋げると、早速町の外で野宿をしているレオンの姿が見えました。
「クソッ! なんでA級冒険者のこの俺がこんなみすぼらしい暮らしをしなきゃならねぇんだ!」
レオンは悪態をつきながらたき火にむかって乱暴に薪を放り込んでいます。
「あちゃあ!」
その振る舞いが不満だとでも言わんばかりに薪が爆ぜて、レオンが悲鳴を上げます。
ふふ、生木をたき火にくべてはいけませんよ。
それにしても、こうやって見るととても冒険者の頂点であるA級冒険者とは思えませんね。
「リシーナもアマリも帰ってこねぇ! アイツ等何やってやがるんだ!」
おやおや、まだあの二人が帰ってくると思っているんですか?
しかしあの二人は既に正式にパーティ脱退の旨を冒険者ギルドに通達しています。
ええ、正しい判断かと。これ以上あの男と一緒に居てもあの二人にとってはマイナスにしかなりませんからね。
「それに何で誰もメンバー募集にやってこねぇんだ! A級冒険者が募集してるんだぞ! これじゃダンジョンに潜る事も出来やしねぇ!」
ああ、この件については冒険者ギルドから確認がきていましたね。
レオンがパーティメンバーを募集しているがどうすればいいかと。
あの男は白昼堂々我が王に暴言を吐きましたから、冒険者ギルドとしても対応に困るのでしょう。
何せ下手にあの男に利する行動をすれば、ダンジョンを擁する町の長である我が王に敵対したと思われる危険があります。
冒険者ギルドの支部長としては、巨大な利権を持つダンジョンの町の支部長の地位は大切なものですからね。
お伺いを立てるのは当然と言えました。
しかし私は敢えてメンバー募集の申請を受理するよう返しました。
つまらない妨害行為は我が王の名に傷がつきますからね。
まぁダンジョンを巡回している果実兵達は意図的に彼を避けていたみたいですが、忠誠心故の行動なので不問としましょう。
それに我々が手を下さずとも、悪名高いあの男と組みたがる冒険者はこの町には居ないだろう事は現状を見れば明らかです。
そして悪名ほど長く執拗に残るもの。この男はいずれ他の町でも冒険者としてやっていけなくなることでしょう。
そう考えながら様子を見ていた私でしたが、ふとレオンが気になる事を口走りました。
「くそっ! ダンジョンに眠るエリクサーさえ手に入れば、俺は貴族になれるってのによ!」
「ほう、エリクサー、それに貴族ですか」
どうやらこの男がダンジョンにこだわるのはそれが理由みたいですね。
しかしエリクサー狙いとは……
「あのババァの話じゃ、このダンジョンにしかエリクサーはない筈。なんとしてもダンジョンに潜らねぇと!」
ふむ、女性ですか?
……ああ、そういえば果偵兵が王都で集めた情報の中に、A級冒険者を擁する大貴族の女性当主が居ましたね。
ええと、確かこの報告書に……やはりそうです。女当主が囲っているA級冒険者の名前はレオンと。
そして……レオンと女当主は男女の仲? ですが二人の年齢はそれなりに離れている筈ですが……
ああ、女当主は性格に難があるせいで夫は家に寄りつかず、そのストレスを若い男を囲う事で発散していると。
そしてレオンの方も女当主の権力と情報を求めて受け入れた訳ですか。
ふふっ、ある意味お似合いの二人ですね。
そしてこの女当主から、エリクサーの情報を得たと。
ですが何故エリクサーを? ……ああ成程、国王がらみですか。
おや? さっそくレオンの方に動きがあったみたいですね。
彼に近づいてくる人物が現れましたよ。
◆レオン◆
「荒れておりますなレオン殿」
「っ!? 誰だ!?」
突然声をかけられた事に驚いた俺は、即座に剣を構えて周囲を警戒する。
マズイ、エリクサーの事を聞かれたか!?
もし聞かれたのなら、口封じをしねぇと! あれは俺のモンだ!
「おお、これは驚かせて申し訳ありません。ご安心ください。私はあの方から貴方のお手伝いをするように命じられた者です」
そう言って物陰から現れたのは、フードで顔を隠した怪しい男だった。
「あの方……まさかリティ……」
「しっ! みだりにあの方の名を口にしてはなりません。誰が聞いているとも限らないのですよ」
「お、おう! 悪い」
男に制止された俺は、慌てて口を閉じる。
だがやはりこいつはあのババァの部下か。
へっ、俺が貴族になる為の手伝いに部下を寄越すたぁとは可愛い所があるじゃねぇか。ババァだけどな。
「それよりもおま……アンタ、何か知ってるのか?」
「はい、実は町の者達が貴方と取引をしないのは、どうやら町長であるセイル殿が関係しているようです」
「なんだと!?」
ここ最近のおかしな出来事は全部セイルの奴が原因だったのか!?
「セイル殿とレオン殿は以前冒険者ギルドで口論となったそうですね。どうもそれが原因で町の住民は貴方との取引を避けるようになったみたいですよ」
「はぁ!? 俺は事実を言っただけだろ!? 逆恨みじゃねぇかよ!」
野郎、なんて心の狭い野郎だ!
「アイツには冒険者のプライドってもんがねぇのか! 誰のおかげで一流パーティに所属出来てたと思ってるんだ!」
「……あー、続き、良いですか? そういう訳ですのでセイル殿が町の住人に妨害を止めるよう命じない限り彼等は貴方に何も売ってくれないでしょう」
「あの卑怯者が! すぐに命令を止めさせてやる!」
仲間にしてやった恩を忘れやがって!
「お待ちを! さすがにそれは辞めた方がよろしいかと。正面から陳情に向かっても向こうは知らぬ存ぜぬを通すだけですよ。何しろ証拠がないのですからね」
そう言って男は夜になっても明るく照らされたハーミトの町を見る。
くそ、俺はこんな薄暗い場所で野宿だってのに、セイルの野郎はあそこでふんぞり返りながら俺を笑ってやがるのか! むかつくぜ!
「それじゃあどうしようもねぇってのかよ!」
「いえ、一つ手があります」
「何だと!」
おいおい、いい方法があるのならさっさと言えよ! 回りくどい事真似をしやがって!
「この町にはセイル殿の妹君が暮らしております」
「妹? アイツの妹は死んだって聞いたぞ?」
まぁ他人の不幸話なんて興味ないからほとんど聞いてなかったけどな。
「おやそうなのですか? しかし町の住人達の話では妹君と仲睦まじく歩いている姿を見たとこの事ですよ?」
「どういう事だ?」
妹は死んでいる筈なのに生きている? セイルの奴が俺達に嘘をついたのか?
だが何のためにそんな意味のない嘘を?
「まぁ妹君の生死の真偽はどちらでも良いでしょう。ともあれ、セイル殿の命令を撤回させるなら、その妹君を使うのが有効かと」
妹を使う?
「って……まさか人質にとるって事か!?」
男の提案したとんでもない作戦に、俺は声を荒げる。
「はい。町の住人の件を正面から談判してもしらばっくれることでしょう。そして暴力で従わせようにも向こうにはあの果実兵と呼ばれる魔法生物がおります。あの生物は個々の力も侮れないですが、何より数が多い。一人で戦うのは無謀かと。ですが無力な小娘を人質にすればいかにセイル殿といえど抵抗出来ないでしょう」
「おいおい、さすがにそれはヤバいだろ!?」
マジで誘拐は不味い。
喧嘩なら酔っ払いもやるからそこまで罰則も厳しくないが、誘拐は完全な犯罪だ。
バレたら町どころか国に追われる危険すらある。
俺は犯罪者になりたいわけじゃない。
「おや? ですが貴方は貴族になりたいのではないのですか?」
「っ!?」
「しかもその為には時間を惜しんではいられないのでは?」
そうだ、俺は権力が欲しかった。
例え冒険者として力と名声を手に入れても、権力の前には勝てねぇからだ。
この世界で最終的に強いのは圧倒的な権力なんだ!
権力があれば金も力も全て手に入る。
だから俺は貴族になる事を望んだ。誰よりも優れた俺に相応しい地位を得る為に!
幸い、仕事で知り合った大貴族のババァが俺に惚れ込んだおかげで、若くしてA級冒険者に昇格する事が出来た。
これも貴族の権力の力があれば出来た事だ。
俺だけだったら、ギルドの長ったらしい審査の為に何年も実績を積み重ねないといけないところだった。
といっても不正をさせたわけじゃねぇ。俺の実力ならいずれはA級冒険者になる事は確実だったからな。
あくまでも後見人の様な立場になって貰って前倒しで昇格する手助けをさせただけだ。
A級冒険者になる事は、平民が貴族になる為に一番手っ取り早い方法だ。
現に過去にA級冒険者から貴族になった前例がある。なにより貴族は前例がある事に弱いからな。
そして次に必要だったのは貴族になる為の功績だ。
それもセコイ活躍じゃだめだ。
貴族になるには国に多大な貢献をする様な、誰も文句を言えないような活躍が必要だった。
その功績を探していた俺にババァは言った。
国王がエリクサーを探しているみたいだと。
エリクサー、それは伝説の薬の名だ。
曰くどんな怪我も病気も治り、失った体の一部すら再生するとんでもない代物らしい。
事情は知らねぇが、そんな薬を国王は求めていた。
まぁ王様だからな。長生きしたいとかそんな理由で薬を欲しがってるんだろ。
何でも治る薬だ。寿命を延ばしたって不思議じゃない。
まったく権力者って奴は強欲な生き物だぜ。
そしてババァの話では、過去に野生のダンジョンの最下層でエリクサー発見されたという情報があるとの事だった。
それも発見されるのは一つのダンジョンにつきたった一個だけ。つまり早い者勝ちだ。
へへっ、俺に惚れ込んでいるババァは俺に気に入られるために様々な情報を集めてくれたのさ。
まぉ俺は良い男過ぎるからな。ババァが貢ぎたくなる気持ちも分からなくはない。
そんな事情もあって、俺は他の連中が最下層に到達する前に探索を再開したかった。
「そうだ、いつ誰にエリクサーを奪われるかわかんねぇ」
「ええ、貴方の望みを早く叶えるためにも、速く探索を再開しませんとね」
エリクサーが欲しければ手段を選んでる暇はねぇか。それこそヤバい手段に手を染めても。
そうだ、貴族にさえなれば、都合の悪い事実をもみ消しにする事だって自由だ。
「ご安心を。そちらに関してはわたくし共の手の者がお手伝いいたしますので」
なおも決めかねている俺に対し、男が安心しろと笑みを浮かべる。
「我らだけでは妹君を確保したくてもあの魔法生物が邪魔をして阻止されてしまいますが、セイル殿の元仲間である貴方ならば、以前の件を謝罪したいという名目で近づくことが出来ます。仮にも元仲間ですからね。そして貴方が心底反省していると思わせ油断を誘えば、近く妹君を紹介してもらう事が出来るでしょう。その際に我々が囮となってあの魔法生物を誘いその隙に貴方が妹君を確保すれば……」
「はぁっ!? アイツに頭を下げろってのか!?」
ふざけんな! 誰がセイルなんかに謝るかよ! あの件はアイツが弱っちかったのが原因だろうが!
「そうおっしゃらずに。一時の恥を耐えれば、貴方は全てを手に入れる事が出来るのですよ」
「全て?」
男が落ち着けと言いながらセイルに頭を下げれば、俺が多大な利益を得る事が出来ると告げる。
「ええ、全てですとも。妹君を確保する事さえできれば、セイル殿に命じて件の魔法生物をレオン殿の命令に従うように命じさせることが出来ます」
「俺の命令に!?」
町の連中を操って俺を陥れたセイルの野郎を逆に利用できると聞いて俺の心は沸き立つ。
俺がアイツを良い様に使う事が出来る……
背中がゾクリとした。
俺に屈辱を味あわせたアイツを同じ目に、いや、それ以上の目に遭わせる事が出来ると聞いて。
「へ、へへ。良いじゃねぇか」
確かにあの生き物を自由に従えさせるというのは魅力的な話だ。
アイツ等町で暴れるクズ冒険者共を軽々と捕まえやがる力があるからな。
いや、なんならあの生物だけでダンジョンを探索をさせて俺は町で悠々自適に過ごすのもアリかもしれねぇ。
そしてあの生き物が発見したエリクサーを届けさせれば、労せずして俺は貴族になれるじゃねぇか!
へへっ、俺に恥をかかせたセイルを利用してダンジョンを攻略してやるぜ!
それだけじゃねぇ。俺を笑ったクズ冒険者共も町から、いやギルドから追放してやる!
「くくくっ、俺を敵に回した事を後悔させてやるぜセイルゥ」
だが、俺は気づいていなかった。
俺達の話をこっそり盗み聞きしている奴が居た事に。
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転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
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26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
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失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
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