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第二章 領主の陰謀編

第20話 悪辣なる策と救いを求める人々

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◆カンヅラ子爵◆

「騎士団が敗北しただとぉ!?」

 ボロボロになって戻ってきた騎士団長の報告を受けた儂は、怒りのあまり卒倒しそうになった。

「た、たかが平民相手に何をしておるか! それでも栄えある我がカンヅラ家の家臣か!」

「申し訳ございません。村は事前の情報とは異なり、強固な防壁に覆われた要塞となっておりました。あれは間違いなく何者かが後ろにで手を引いております」

「ええい、言い訳などいらん!」

 たかが平民の村も制圧できぬとはなんと情けない!

「すぐに倍の兵を率いて村を制圧しに行くのだ!」

 誰が後ろで糸を引いていようとも、数で押せば何とでもなるわ!

「旦那様、申し訳ありませんがそれどころではなくなりました」

 と、そこで部屋に入って来たトマスンが横やりを入ってくる。

「それどころとはどういう意味だ。我がカンヅラ子爵家のメンツに泥を塗られる事以上の問題があるとでもいうのか!?」

 そうだ、貴族の名に泥を塗られる以上の恥などある訳がない!

「領地の各地で魔物や盗賊が暴れまわり、近隣の村や町から大量の難民がこの町に流れ込んできました」

「難民だと!?」

 何だそれは、どういう事だ!?

「現在騎士団は難民達が町に入るのを阻止するために手いっぱいで、とても出撃どころではありません」

 儂の騎士団が難民ごときの為に動かせんだと!?

「ええい、力づくで追い返せ!」

「申し訳ございませんが、難民の数が多すぎます。ここで力づくで追い返そうとすれば、難民達が暴徒と化して町に襲い掛かります。最終的には騎士団が勝つでしょうが、無駄な被害が出て騎士団の運営に問題が出ます」

「難民ごときがなんと忌々しい! 大体何故魔物が暴れているのだ!」

「数年以上前から陳情のあった魔物達の件が、時間の経過と共に繁殖して増えた事で他の土地にも飛び火したとの事です。盗賊も同様の理由で規模を増して活動範囲を広げた模様です」

「何故そうなるまで放っておいたのだ!」

 儂は事態がここまで酷くなるまで放置された事に怒りを覚える。

「旦那様が命じられた事だからです」

「わ、儂がだと!?」

「はい。騎士団が出撃すると無駄な予算がかさむ。辺境の村などよりも中央への賄賂に使うかねの方が重要だと仰り、主要街道沿いの町の防衛以外で騎士団を動かす事を禁じられました」

「わ、儂が悪いとでも言うのか!?」

 馬鹿な! 騎士団は儂の物で、騎士団の予算も領主である儂の物だぞ!
 そもそもなぜ領主である儂が、たかが平民の為に予算を使ってやらなくてはならぬのだ!

「ですが現実問題魔物や盗賊をなんとかしませんと、他の町や村に飛び火します。そうなれば税の徴収が出来ないだけでなく、領内の運営が出来ない貴族だと中央から睨まれます」

「そ、それは困る!」

 せっかく中央で出世する為に賄賂をバラ撒いてきたのだ。
 ここで中央に睨まれたら、これまでの苦労が水の泡ではないか!

「ええい、何とかならんのか!」

「勿論ありますとも」

 儂の命令にトマスンが声を上げる。
 何だ、ちゃんと方法があるではないか!

「難民達を例の廃村に押し付けてはいかがでしょうか? あの村に行けば食料と住む場所にありつけると。連中も何の罪もない難民相手に武器を向ける事はできますまい」

「ほう? だが食料がないと分かれば難民がこの町に戻ってくるのではないか?」

「ええ、おっしゃる通りです。しかし難民達にはそれが分かりません。追いつめられた頭では、騎士団を退けた分厚い壁の向こうに大量の食料が隠されている筈だと思い込む事でしょう。そして自分達が受け入れられなければ暴徒と化して廃村に襲い掛かる筈です。これで廃村の者達が暴徒を始末してくれれば、我々の手を汚さずとも難民達を始末出来ます。そしてその際には、村が凶悪な盗賊団に襲撃されたとでもでっちあげれば、村に隠された例の果物の事を周囲に秘匿した状況で大戦力を投入する大義名分になります」

 そうか! 確かに女子供もいる難民共が皆殺しにされれば、廃村の連中に適当な罪状をおし付ける良い口実になるな!

「更に万が一、廃村の者達が難民に食料を分け与えたならば、それはそれで好都合。廃村の備蓄を減らすことで長期間の籠城が困難になります。我々は難民が廃村の食料を食いつぶしている間に領内に広がった魔物を討伐する事で中央の追及を回避できます。そして改めて準備が整ってから備蓄を食い荒らされた廃村を攻撃すれば良いかと」

「成る程、それは名案だ! さすがはトマソン!」

 うむうむ、聞けば聞く程名案だ!
 これなら儂の懐は痛まずに廃村の連中にだけ被害を与えられる!

「よし、さっそく難民達を廃村に向かわせろ!」

「はっ!」

 ◆

「なんだこりゃあ」

 領主軍を退けたと思ったら、今度は大量の人がやって来た。
 
「魔物の襲撃で村が襲われました。お願いです、助けてください」

 集団のリーダーと思しき老人が防壁の上から見ていた俺達に救いを求めてくる。

「助けてって、なんでウチに来るんだ。助けを求めるなら領主の方だろ?」

 そうでなくてもここは街道沿いから外れた廃村だ。
 仮に村が滅びた事を知らなくても、他に大きな町があるだろうに。

「我々も領主様に助けを求めたのです。ですが領主様は魔物の討伐で忙しく、我々を養う余裕はないとの事で」

「だからってなんでウチに。ウチはただの廃村だぞ」

「し、しかし、お役人様からこの村なら食料も住む場所も用意して貰えると」

「はぁ!?」

 何勝手な事言ってるんだ役人!?

「我が王、恐らく領主は正面から我々と戦っても勝てない為、難民を押しつけて兵糧攻めにする事にしたのだと思います」

「な、何だってぇ!?」

 あのクソ領主! 難民を押し付けたのか!? なんて奴だ!
 見れば難民達は皆ボロボロで碌な荷物もなく、文字通り着の身着のまま逃げてきたのが分かる。

「これを追い返したりしたら……」

 大人はともかく、子供は間違いなく保たないだろう。
 それに彼らの目は、防壁の上からでも分かる程ギラギラしている。
 ここで断ったら、間違いなく暴徒になるのは明白だ。
 さすがに俺も何の罪もない彼らを戦いたくはない。

「ラシエル、彼等に水と食料を用意してもらえるか?」

「分かりました!」

 まずは食事だ。食事をすれば彼等も少しは落ち着いて話し合いが出来るようになるだろう。

「少しだが食事を用意する。中に入る事は許可できない」

「おおっ! ありがとうございます!」

「「「「わぁっ!!」」」」

 食事が出来ると聞いて、難民達が喜びの声を上げる。

 そしてしばらく経つと、跳ね橋がおり、門の中から出てきた果実兵達が難民達へ食料を配り始める。

「え? 何この生き物?」

「あ、ありがとうござい……ます?」

 初めて見る果実兵達に困惑しつつも、空腹には勝てないらしく食事を受け取る難民達。

「う、美味い! 久しぶりのまともなメシだ!」

「お母さん、このスープあたたかいよ!」

「ええ、良かったわね」

 よほど空腹だったのだろう。難民達は温かい食事をことのほか喜んでいた。
 そして夢中で食事を終えた彼らは、ようやく人心地付いた表情になる。
 良かった、これなら多少はまともな話し合いが出来そうだ。

「暖かい食事をありがとうございます」

 長が難民達を代表して感謝の言葉を述べると、他の難民達も慌てて膝を突いて感謝の言葉を述べてくる。

「「「「ありがとうございます!!」」」」

「いや、気にしなくていいですよ。それよりも詳しい事情を教えてくれませんか?」

 俺は新ためて彼等が難民となった詳しい事情を聞くことにした。
 何しろこの人数だ。ゆうに村数個分の人数がここに居る。

「実は……」

 長は自分達の村で起きた事、そして道中で合流した他の村の住人達が経験した事を俺に話始めた。

「……なんだそりゃ」

 長の話を聞き、俺は怒りと呆れにどんな声をあげて良いのか分からなくなる。

「そうした理由から、我々は故郷を捨ててはるばる領主様に直訴に参ったのです」

「そして領主にも断られてここにやって来たと」

 何だそりゃ。完全に領主の自業自得じゃん!
 今まで無視してきた領民の陳情が全部今回の件の原因なんじゃないか!

「っていうか、俺やカッツ達の村だけでなく、領内の村全部の陳情を無視してきたのかよ!」

 完全に領主の仕事をしてないじゃねぇか!
 とんでもないクソ野郎だな!
 改めて明らかになった領主のクソっぷりに、俺はため息も出なかった。

「改めて自己紹介をさせていただきます。私は領地の北にあるサイタンの村の村長をしておりましたジーオと申します」

「俺はセイルと言います。ジーオさん、他の村の村長さんは?」

「他の村の村長達は皆殺されてしまったそうです。ですので唯一の村長である儂が皆を纏めております」

 なるほど、この人がやるしかなかったのか。ちょっど同情するよ。

「セイルさん、この村の村長と話がしたいのですが、取り次いでもらえますか?」

「村長……ですか?」

 困った。この村の住人は俺達だけだから、村長なんていないんだよな。
 と思ったら、俺の横後ろに控えていたリジェが声を上げた。

「この村の主はこちらにおわす我が王です」

「ちょっ、おまっ!」

 何勝手に人を代表者にしてるんだ!

「なんと!? セイルさんが!?」

 俺が代表者と言われ、ジーオさんが驚きの声を上げる。

「お若いのに貴方が村長とは……」

「あー、以前村が盗賊に襲われましてね。その時に村長は無くなったんですよ」

まぁ嘘は言ってない。10年前の話だけどな。

「成る程、貴方がたもでしたか」

 ジーオさんが、いや彼だけでなく、難民達全員が、俺達も同じ身の上だと分かって空気が柔らかくなる。
 まぁこの村が被害に遭ったのは10年前なんだが、それでも領主が原因で被害を受けたという意味では同じだ。

「セイルさん、改めてお礼を申し上げます。貴方がたも辛いでしょうに、我々に暖かな食事を与えてくださった。貴方は我々の救い主だ」

 いや、それは言い過ぎだろ。

「この立派な壁は、貴方達の決意と覚悟なのですね。もう領主になど頼らない、自分達の力で村を守るという……」

「え? いや、別にそういう訳じゃ……」

 何か勝手に勘違いされちゃったよ!?

「セイルさん、改めて貴方にお願いがあります」

「お願い、ですか?」

 ジーオさんが、畏まった様子で俺を見つめてくる。

「どうか我らをこの村に住まわせてはくださいませんか?」

「え?」

 住む? この村で?

「我々は魔物の群れに襲われ、村を捨てて逃げてきました。今も故郷は魔物で溢れ、とても戻る事は出来ません。ですから、我々をこの村の住民にしてほしいのです」

「ええっ!?」

 村の住民にって、マジかよ!?

「あー、でもさすがにそれは……」

「勿論貴方がたにこれ以上迷惑をかけるつもりはありません。食料も住む場所も自分達で用意します。税も払います。ですから、我々も村の傍で暮らす許可を頂きたいのです」

「むぅ……」

 これは参った。ジーオさん達はこちらに迷惑をかけるつもりはないと言っているけど、どう考えてもそれは無理だ。

何しろ彼等は着の身着のまま、ここまでやって来た。
 家を建てる為の道具も、畑を耕す為の農具もない。
 生活する為に必要なものが何もない状況でだ。
 仮に受け入れたとしても、まともな生活が出来るようになるには、かなりの時間がかかるだろう。

 そもそも彼等には食料の備蓄が無い。
 一応ラシエル達のお陰で、再び森の恵みを得る事は出来るようになった。
 だが村数個分の人数を森の恵みだけで維持するのは不可能だ。
 すぐにゴブリン達が居た頃の様に、森ははげ山状態になってしまうだろう。
 それにそんな事になったらカッツ達リンゼ村の住人とトラブルになるのも間違いない。

 一応食料に関してはラシエルに頼むと言う手もある。
 彼等が自力で食料を確保できるようになるまで、ラシエルの援助して貰えれば、森の恵みを獲り尽くすことなく生活が出来るだろう。

だがこれだけの人数の食料を長期間ラシエルに頼り続けたら、ラシエルに……世界樹にどれほどの負担がかかるか分からない。
リジェに頼んで世界樹の肥料として魔物を討伐してきてもらう手もあるが、ゴブリンの集落を討伐してからというもの、近隣ではほとんど魔物の姿が見えなくなって平和そのものだ。
だから魔物を狩って肥料を確保し続けるのも現実的じゃない。
 難民達の境遇には同情するが、ラシエルに負担を強いてまで彼等を受け入れるわけには……

「お兄ちゃん」

「我が王」

 そんな風に悩んでいたら、ラシエルとリジェが俺に話しかけてきた。

「ん? どうした二人共」

「あのですね、私は、お兄ちゃんがしたいようにするのが一番良いと思います」

「お母様のおっしゃる通りです。我が王の成したい様になさってください。その上で問題があれば、我らにお命じください。王の命令を成し遂げる事こそ、我等家臣の喜びです」

「「「「!!」」」」

 ラシエル達だけでなく、果実兵達も任せろと胸を叩いている。

「……ラシエル、リジェ、皆」

 ラシエル達は、何も言わずじっと俺を見つめている。
 俺の言葉を待って。

「……俺はラシエルに無理を強いたくはない。でももし救う方法があるのならこの人達を救いたい。救えなかったこの村の人達の代わりにって訳じゃないけど……いやそうなのかな。ともかく俺はこの人達を……助けたい」

ああ、言葉にしたら自分の気持ちがはっきり分かった。やっぱり俺は見捨てたくないんだ。

「皆、力を貸してくれるか……?」

 俺が躊躇いながら頼むと、ラシエル達はにっこりと笑みを浮かべて頷いた。

「お任せください! お兄ちゃんが欲しいものは全て私が実らせます!」

「我が王の願いを阻む者は、我等が悉く切り捨てます。それがどのような命令であろうとも!」

「「「「!!」」」」

 皆の頼もしい言葉に、俺は胸が熱くなる思いだった。
 俺はジーオさんに、難民の皆に向き直ると、彼らに告げた。

「皆! 皆の願いは受け取った! だから俺は宣言しよう! 俺は貴方達をこの村の住人として受け入れる! 今から貴方達はハーミト村の住人だ!」

「「「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」」

 不安げだった難民達の顔が希望に染まり、溢れる感情が雄たけびとなって村中に響き渡る。

「あ、ありがとうございます!」

「よかった、ようやく安心して暮らせる場所が見つかったのね……」

「これで逃げながら魔物に怯えずに済むようになるんだ……」

 皆は口々に感謝の言葉や安堵の言葉を口にしている。

 戦闘経験もない彼等が、道中の魔物の襲撃に怯えながら移動するのは相当に不安だったことだろう。
 しかも逃げた先の町や村は彼等を受け入れてはくれず、こんな所まで逃げてくる事になったんだからな。

「さしあたっては食料と住む場所、それに生活必需品だが……」

「それは私が用意しますね!」

 ラシエルが任せろと手を上げるが、やはりそれは彼女の負担が大きい筈だ。

「けどこれだけの人数を養うとなると、ラシエルにも負担が大きいんじゃないか? 栄養も沢山必要だろうし、俺一人の時とはわけが違うぞ?」

 やはりラシエルに頼りすぎるのは不味いと思った俺が心配すると、ラシエルは大丈夫だと胸を張る。

「大丈夫ですお兄ちゃん。その問題は既に解決していますから!」

「解決している?」

 それはどういう意味だ?

「ではまずは村を拡張する為の準備をしましょう。皆の者!」

 リジェが手を上げると、果実兵達がずらりと整列する。

「難民たちの住む場所を確保する為、土地の整理せよ!」 

「「「!!」」」

 一斉に果実兵達が動き出し、作業を開始する。
 岩をどかし、木や雑草を掘り起こして別の場所に移動させてから、土地を慣らす。

「ス、スゲェ」

 難民達が驚くのも無理はない。
 普通これだけの作業をしようと思ったら結構な時間と労力がかかる。
 だが果実兵達はあまりある人員を使って、それらをあっという間に進めていったのだ。
 特に役に立ったのは、下半身が馬型の果馬兵達だ。
 彼等の馬力で次々と岩が運ばれていった。

「お母様、準備が出来ました。彼らが暮らす家をお願いします」

「へ?」

 リジェの奇妙な言葉に、思わず俺は声を上げてしまった。

「はーい! いきますよー!」

 ラシエルが声をあげると、世界樹の枝が難民達の家の建設予定地の上に移動し、巨大な実を実らせてゆく。

「な、何じゃあれはぁぁぁぁぁっ!?」

 長が目を丸くして驚いているが、正直俺にも何が起きているのか分からない。
 巨大な実は地面に近づくと、少しずつ四角い形へ変わってゆく。そして四隅に太く深い杭のようなものが生えると、一度上にあげられたと思ったら、そのまま一気に地面に叩きつけられた。
 長く太い杭が地面に埋まり、いくつもの巨大な四角い実が並ぶ。
 更に実はどんどん形を変えていき、遂には立派な家の形になった。

「完成です!」

 ラシエルの言葉をシメに実は枝から切り離され、残ったのは何十件もの立派な家。

「い、家が出来た?」

「な、何が起きたの……」

 目の前で起きた光景に、難民達が口を大きく開けてポカーンとしている。

「ええと、ラシエルに木材を用意して貰って家を作るんじゃなかったのか?」

 てっきり俺はそうするのかと。

「木材を用意するよりも、家を丸ごと用意した方が簡単ですから」

 簡単って……何?

「し、信じられん。木から家が生えた……!? セイル……さん、貴方達は……一体?」

 ジーオさんが、いや難民達が驚愕と恐れの混ざった目で俺達を見つめてくる。
 うん、正直いって俺が同じ立場でも同じ気持ちになるわ。
 そこでリジェが前に出て声を張り上げた。

「喜びなさい新たな住民達よ! 我が王は貴方達の為に住む場所を用意してくれました! これは貴方達への我が王からの慈悲です!」

「じ、慈悲?」

「その通りです! 着の身着のまま何も持たずに逃げてきた貴方達は、このままではまともな生活が出来ない。それ故我が王は貴方達に住む場所、生活に必要な品、そして食事の全てを用意してくださったのです!」

「す、全て?」

 難民達がどういう意味だとお互いに顔を見合わせるが、当然答えなんて出るわけがないし、俺にも分からない。

「まずは家に入ってみると良いでしょう」

「「「……」」」

 難民達がどうするよという顔になって、その視線は自然とジーオさんに向かって行く。

「え? 儂?」

 困惑するジーオさんだったが、やがて観念したのか、ため息を吐きながら家の中に入っていく。
 あの人、こうやって難民の長を押し付けられたんだろうなぁ。ちょっと同情する。

「……」

「おーい長、どうだった?」

 だが中に入ったジーオさんからは何の返事もない。

「お、おい。長どうしたんだよ? 見に行った方がよくないか?」

「い、嫌だよ。中に入って襲われたらどうするんだ」

 気持ちは分からんでもないが、俺達の前でする会話じゃないだろ。
 まぁそれだけ混乱してるんだろうなぁ。
 何せ目の前で家が生えたんだから。
 と、その時だった。

「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」

 家の中からジーオさんの驚愕の声が響く。

「お、長!? 生きてたのか!?」

「こ、ここここれはどういうことですかセイルさん!?」

 慌てた様子で家から飛び出した来たジーオさんは、片手にコップを、もう片手に野菜を持って俺に叫ぶ。

「家の中に入ったら、家具や食器、それどころか食料までありましたぞ!? 一体いつの間に用意されたのですか!?」

「家具だって?」

「食器?」

「食料!?」

 気味の悪さよりも好奇心に負けたのか、最初は若い男が、次いで年配の男が、最後に女性や子供が家の中へと入ってゆく。
 そして開きっぱなしのドアから、彼等が驚く声が聞こえてくる。

「本当だ! 家具がある!」

「家族全員分のベッドもあるわ!」

「凄い! 野菜だけじゃなく肉もある!」

 そこから聞こえるのは、興奮と喜びの声。

「セ、セイルさん……本当にこの家を私達にくださるのですか!?」

 興奮したジーオさんの声に、家の中ではしゃいでいた人達もおずおずと顔をだしてこちらを見てくる。
 本当にこれだけの施しをしてもらえるのかと。実は嘘なんじゃないかという怯えを見せながら。
 俺は視線だけをラシエルに向けると、ラシエルは静かに頷く。
 その目は、俺の好きにしろと言っていた。

「……ええ、その家と中の物は全て皆さんに差し上げます」

「「「「お。おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 難民達から再び歓喜の声が上がる。

「ありがとうございますセイルさん! いえ、セイル村長!」

「え?」

「「「「ありがとうございますセイル村長!!」」」」

 長だけでなく、難民達もそろって俺の前に出てきて土下座をしながら感謝の言葉を捧げてくる。

「おめでとうございます我が王。我が王に従う民が出来ましたね」

「おめでとうございますお兄ちゃん!」

「「「「!!」」」」

 難民だけでなく、ラシエル達まで俺を讃え始めたのだった。

「これ、マジで俺が村長をやる事になるのかな……」
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