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第二章 領主の陰謀編

第19話 対決 領主軍!

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「すまなかった!!」

 村にやってくるなり、カッツ達は俺にむかって土下座をしてきた。

「え? 何が?」

「お前から貰った果物の事だ! アレを役人に奪われちまったせいでお前に迷惑をかけちまった!」

どうやら、カッツ達は役人にこの村の事を教えた事を謝りに来たらしい。

「役人からアレをどこで手に入れたのか教えろ、言わなければ罰として重い税をかけると脅されて、断れなかったんだ!」

 どうやらカッツ達は役人に脅されたせいでラシエルの果物の情報を漏らしてしまったらしい。
 確かにあれが原因で領主と事を構える事になってしまったが、正直同じように領主が原因で苦労してきたカッツ達を責める気にもなれない。

 自分達の利益の為に俺を売ったのなら怒るところだが、その辺りの事情に関しては、役人のリンゼ村から情報を得たという言葉の裏を取る為に、リジェが村の植物から情報収集をして確認した後だったのだ。
 結果、カッツ達は村を人質に取られたも同然で、やむを得ず情報を教えるしかなかったと分かった。

 まぁ領主の命令に平民が逆らえるわけないからな。
 もし逆らったら、罪人として捕らえれてしまう。仮に力づくで反抗しても、騎士団を投入されたら戦闘経験のない平民なんてひとたまりもない。

「相手が領主なんだ。仕方がないさ」

 俺はカッツ達を許す事にする。
 カッツ達の村の現状でこれ以上税が増えたら、それこそ子供を奴隷商人に売ってでも金を作らないといけなくなるからな。
 
「本当にすまねぇ。お前さんの助けになると誓ったのによう」

「申し訳ありません!」

 ソロムとエンドロも額を地面にこすりつけて謝罪してくる。

「気にするなって。アンタ等を恨んじゃいないさ」

「本当にすまねぇ。領主はあの果物を独占するつもりだ。悪い事は言わないから素直に渡した方が良いぜ。下手に抵抗したら捕まっちまうかもしれないからな」

役人達に殺されかけた事を知らないカッツ達は、俺の身を案じて世界樹を差し出した方が良いと言ってくる。
 まぁ彼等は事情を知らないからな。

「教えてくれて助かったよ。すぐに皆で対策を立てるから、カッツ達も役人に疑われない様に、暫くこの村には近づかない方が良い」

「……分かった。だが困ったらいつでも村に来てくれ。アンタ達は森のゴブリンを討伐出来た程の腕利きだ。ウチの村に逃げてきても仕事には困らない筈だ!」

 俺はカッツ達の善意に満ちた言葉に頷きながら、帰ってゆく彼らを見送った。

「カッツ達にはああ言ったが、世界樹であるラシエルを見捨てて逃げるわけにはいかない。領主軍とは全面対決しかないだろう」

 正直言って、正規の騎士団相手に勝てるかと言われれば、首を横に振らざるを得ない。
 だが、それでも俺はラシエルを見捨てる事なんて出来ない。
 これ以上大切なものを失うくらいなら、潔く戦って共に果てた方がマシだ!

「では、防衛戦の準備が必要ですね」

「ああ、そうだな。村の周囲に柵を作らないとな。まぁ騎士団相手にどの程度役に立つか分からんが」

 しかしリジェは首を横に振る。

「いえ、もっと本格的な城塞化を行います」

「城塞化?」

 それはどういう意味だ?

「相手は正規の訓練を受けた騎士団。それも先日戦った経験不足の新兵とはわけが違います。となれば、本格的な防衛機構が必要です。お母様にお願いして、村を守る為の資材を用意して頂きます」

 正直どこまでやるつもりなのか分からないが、戦いの指揮はリジェが取るわけだし、防衛にかんしても一任しよう。
 やるなら一人でも多く道連れにしてやるさ!

「ふふふっ、我が王に相応しい防衛施設を用意してご覧にいれましょう」

 そう言って、リジェは不敵に笑うのだった。

 ◆カンヅラ子爵軍騎士団長◆

「な、なんだアレは!?」

 領主様の命令でとある村を制圧に来た我々は、その光景に驚愕していた。
 何故なら、そこには村を丸々囲む立派な防壁が立てられていたからだ。

「ただの廃村制圧任務ではなかったのか!?」

「し、信じられん。つい一週間前は廃墟同然の村だったのだぞ!?」

 今回の任務の案内役としてついてきた役人が、驚愕に声を震わせる。

「これはどういう事だ? これはどう見ても廃村などではないぞ!」

 私は案内役に事情を説明させる。
 これでは明らかに話が違うではないか!

「わ、私にも何が何やら。本当に一週間前にはあんな防壁など無かったのです!」

「そんな馬鹿な話があるか! あれほどの防壁を作ろうと思ったら何か月かかると思っているのだ!」

 確かにただ作るだけならもっと短い時間で作ることは出来る。範囲も村を囲むだけだからな。
 だがそれは設計、予算集め、材料の調達、人員集め、そして責任者の選定など全てが揃ったらの話だ。

「これだけの防壁を作れるものがただの村人である訳がない。間違いなく誰かの意図が動いているぞ!」

 領主様の言葉通りなら、この村には金の卵を産む鶏に等しい価値のある果物の樹があるらしい。
 そして領主様の目的もそれだ。
 となれば、この防壁を作ったのは領主様同様、その果物の樹を求める者達だろう。
 村を守る代わりに、果物を優先的に自分達へ卸すよう取引をしたというところか?
 それにしてもこの防壁に使われたであろう金額は相当なものだろうが……

「いや、考えても仕方ない。今はこの防壁を攻略する事を考えなければな」

 私は意識を目の前の戦いに集中させる。

「歩兵部隊は水堀を超えて壁に梯子をかけ内部に侵入せよ! そして門を制圧し内側から開くのだ! 弓兵隊と魔法部隊は歩兵隊の援護に回れ!騎馬隊と重装歩兵は待機だ!」

「「「「はっ!!」」」」

「よし! 進軍開始!」

 歩兵部隊が突撃を開始すると、敵の防壁の上に設置されたバリスタから一斉に矢が放たれる。

「ぐわぁぁぁ!」

「うわぁぁぁっ!」

 先頭の歩兵達の盾が容易く砕かれ、倒されてゆく。

「ひっ!? ひぃっ!?」

 練度の低い新兵達が悲鳴を上げて浮足立つ。

「臆するな! バリスタは固定する構造の問題から、防壁に肉薄すれば狙う事は出来ん! 急ぎ水堀を超えろ!」

「ひぃぃっ!!」

 死にたくない一心で、盾と梯子を抱えた歩兵達が走り出す。

「弓兵隊、魔法部隊、敵のバリスタを狙え!」

「「「はっ!」」」

弓兵達がたっぷり油の染み込んだ布が巻かれた火矢を放ち、魔法使いが火魔法を唱えて敵のバリスタを燃やす。

「「「「う、うぉぉぉぉぉ!」」」」

 脅威であったバリスタが容易に破壊された事で、歩兵達の士気が戻る。

「はははっ! 兵器運用の素人め! 火矢対策もしてないとはな! いかに強力なバリスタとて、燃えてしまえば無意味! 高価な兵器を燃やされる気分はどうだ!」

 敵拠点の兵器の破壊は戦略の基本だ。これで敵の防衛戦力は激げ……

「んん?」

 その時だった。敵の防壁の上で奇妙な動きが見えたのだ。
 燃え盛るバリスタが引っ込んだと持ったら、新しいバリスタが出てきたのだ。

「な、何!?」
 
 そしてあらかじめ弓を引いてあったのだろう。すぐに新しいバリスタの群れが歩兵部隊に対して矢を放った。

「ぐわぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃっ!」

「くっ! 怯むな! 進め! 弓兵隊! 魔法部隊! 早くバリスタを燃やせ!」

「「「はっ!」」」

 再びこちらの攻撃でバリスタが燃え出す。

「ふん、手間がかかる上に高価な兵器だ。もう予備はあるま……ってなにぃ!?」

 もう次は無いと思っていたら、更にバリスタのおかわりが姿を現した。

「ばっ、馬鹿な! 要塞を包囲しての一斉攻撃だぞ!? 一体何台のバリスタが燃えたと思っているのだ!?」

 私が指揮している方面から見えるだけでも既に10台以上のバリスタを燃やしている。
他の方面の防壁に設置されたバリスタも合わせれば、もう40台は燃やした筈だぞ!?

「一体何台のバリスタがあるんだ!?」

 燃やしても燃やしても、次々とバリスタが出てく為、歩兵達の足が鈍る。

「団長、油火矢が尽きました!」

「団長、魔法部隊の魔力消費が激しすぎます!」

「くっ! なんなのだ連中は!?」

 だがそこでようやく戦況に動きが見えた。

「歩兵部隊、水堀に到着しました! あの位置ならバリスタでは狙えません!」

「よし! ここから一気に逆転するぞ!」

 歩兵隊が堀に入ると、体が完全に水に沈み、歩兵が慌てて水面から顔を出す。

「つ、冷たっ!? なんだこの水の冷たさは!?」

「ふ、深い!? 足が全然付かないぞ!?」

 どうやら水堀はかなり深く冷たいらしく、歩兵達が悲鳴を上げる。
 だがそれでもバリスタの矢に当たって死ぬよりはましだろう。
 早く村の中に潜入するのだ!
 そう思った時だった。
 突然歩兵達が水堀に沈んだまま上がってこなくなった。

「な、なんだ?」

 息を止めて水中を移動しているのかと思ったが、それにしては長い。
 一体いつまで潜っているのかと思ったら、突然歩兵達が自ら姿を現した。

「ええい、何を遊んで……ん?」

 水中から姿を現したと思った歩兵達は、何故か水堀の淵に倒れそのまま動かなくなった。

「何だ? 何が起きているのだ?」

「だ、団長、アレを!」

 部下の一人が水堀の一角を指さす。

「何だアレは……!?」

 そこに見えたのは、水中に入った歩兵達を水堀の外へと押し出している奇妙な生き物だった。
 それは体をくねらせると水中へと潜っていき、歩兵達を担いで水上に姿を現す。
 その体は、上半身が人型で、下半身が魚の形をしていた。

「人……魚?」

 いや、人魚はもっとこう美しい生き物の筈だ。
 あれはなんというか、人魚っぽい何……か?

「いや違う! そうではない! まさか、アレが歩兵達を水中に引きずり込んで襲っていたのか!?」

 私の予想を肯定する様に、多方面に配置した部隊からも、水堀に侵入した歩兵達が全滅したとの報告が入って来た。

「ば、馬鹿な……我々は正規の騎士団だぞ!? 何故この様な廃村の制圧にこれほどまでの被害を出さねばならんのだ!?」

 結局、突撃した歩兵隊は防壁にたどり着く前に全滅するという凄惨極まりない結果に終わった。
 だが、絶望はそこで終わりではなかった。

「うわぁぁぁぁっ!?」

「ぎゃぁぁぁぁ!?」

 突如左右から悲鳴が聞こえてきたではないか。

「こ、今度は何だ!?」

「た、大変です! 敵騎兵の奇襲です!」

「騎兵の奇襲だと!? 馬鹿な! この開けた場所で何故騎兵の襲撃を許したのだ!?」

「そ、それが、敵は土の中に潜んでいたらしく、我々が防壁の攻略失敗に意識を奪われた瞬間、飛び出してきたのです!」

 土の中からだと!? ええい蛮族め!

「騎兵隊に対処させろ! 平民の騎兵など訓練された正規の騎士の敵ではないと思い知らせてやれ!」

「はっ!」

 不甲斐ない部下に命じると、騎兵隊が敵騎兵を迎撃するべく動き出す。
 すると敵の騎兵はすぐに街道から離れて逃げ出していった。

「追え! 連中に身の程を教えてやるのだ!」

 防衛戦の最中に外に出て戦うなど愚かにもほどがある。
 連中を捕らえて人質としてくれるわ!

「うわぁぁぁっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁっ!!」

 だが、街道に出た騎兵達からあがったのは、気合の雄たけびではなく、落馬の悲鳴だった。

「今度は何だ!?」

「た、大変です! 落とし穴です! 街道の外には大量の落とし穴が掘られていて、それに馬が落ちて騎兵達が全滅してしまいました!」

「ぜ、全滅だと!?」

「軽傷の者もいますが、馬はもうダメです。生きていても骨が折れてしまったものが多く、回復魔法で治療するには数が多すぎます!」

「人の治療にも足りんのに馬などに回復魔法を使えるか!」

 虎の子の騎兵隊が全滅だと!?
一体どれほどの損害になると思っているのだ!

「何故敵は落とし穴に落ちんのだ!?」

「お、恐らくですが、敵はすべての落とし穴の位置を把握していると思われます」

「平民の騎兵がだと!?」 

 ありえん! 平民の騎兵が戦場の空気に飲まれずに罠の場所を完全に把握しながら馬を操作出来るだと!?」

「まさか敵は他の貴族の兵が偽装している正規兵か!?」

 これほどの被害を与えるなど、そうとしか思えん!

「い、いえ、それはないと思われます」

「何故そう言える!? まさかただの平民の方が我々正規の騎士団よりも優れているとでもいうのか!?」

「い、いえ、そういうわけでは」

「なら何だと言うのだ!」

「あ、相手は人間ではありません。人型をしていますが、明らかに普通の生物ではないのです。多分ですが何か魔法的な力で生み出された存在ではないかと」

「強力な魔法使いが後ろにいると言う事か?」

「恐らくは……」

 なるほど、そう考えると、多少は納得がいく。
 この廃村の主は、強力な魔法使いか。

「大変です! 周囲の地面から、敵の増援が次々に姿を現し我々に襲い掛かってきました! このままではわが軍は総崩れです!」

「おのれぇぇ! 撤退だ! 撤退して態勢を立て直すぞ!」

 撤退を指示した私は、即座に戦場から離れると、部下達が情けない声をあげながら、追いかけてくる。

「ま、待ってください団長ーっ!」

「おのれ平民め! 覚えておれ!」

 この屈辱、絶対に忘れんぞ!

 ◆

「て、撤退! 撤退だーっ!」

 ほぼ総崩れになった騎士団が遂に逃亡を始めた。

「か、勝ったのか?」

 撤退してゆく騎士団の姿を、ラシエルと共に世界樹の上から見つめる。

「お喜びください我が王。戦いは我々の圧勝です」

「あ、ああ……」

 リジェの言葉に、俺は現実感を感じられずにいた。

「領主の騎士団が手も足も出なかったなんて……」

 確かに俺達は騎士団の襲撃を警戒して色々と対策を立てた。
 だがここまで一方的な戦いになるとは思ってもいなかったのだ。

「リジェ達って本当に強かったんだなぁ」

 いまさらながらに、リジェ達の強さを実感する。
 俺達平民にとって、領主の従える騎士団とは力の象徴だ。
 町や村に危害を加える魔物の群れを、圧倒的な数と力で制圧する騎士団の迫力は凄い。

 この領地ではついぞ騎士団の活躍は拝めなかったが、イブンの親父さんに引き取られて他の領地へ行く機会が増えた俺は、他領の騎士団の活躍を何度も見た。
 その光景は正に圧巻で、この国の力の象徴を見ている気分だったのだ。

 だというのに、その騎士団がこうもあっさりと撃退されるなんて、信じられない思いだ。

「ふふっ、我が王にお褒め頂いて大変光栄ですが、実のところ敵の弱さもこの圧勝の理由です」

「敵の弱さ? でも領主の抱える騎士団はかなり強力な筈だぞ?」

「他の騎士団は分かりませんが、少なくとも今回戦った騎士団は圧倒的に経験不足でした。恐らくは訓練だけで碌に実戦を経験していないのでしょう。突発的な事態に対する対処が遅すぎました」

 そうだったのか。だがよく考えたら、それも当然なのかもしれない。
 かつて俺の故郷を襲った盗賊を無視した騎士団はきっとその頃から俺達の救いを求める声を無視してきたのだろう。
 現にカッツ達が森を占拠していたゴブリン達の討伐を陳情したにも関わらず、騎士団の出撃は却下されたらしいしな。
 
「身から出た錆って奴か」

「前回戦った相手は、あまりの未熟さに新兵かと思っていましたが、もしかしたらあれで正規兵だったのかもしれませんね」

 領主がもっと民の声を聞いて騎士団に実戦経験を積ませていれば、ここまで圧倒的な敗北を喫する事もなかっただろうに。

「それにしても、今回はラシエルが大活躍だったな」

 今回ラシエルは、村の防衛の為に様々な物を実らせてくれた。
 防壁を作る為のレンガや石材、跳ね橋、更に水堀を作る為のシャベルやその堀に入れる為の水まで用意してくれた。

「特にバリスタが次々と実っていくのは驚いたよ」

 今回の戦いでは、防壁の上にバリスタが大量に設置された。
 だがリジェはそれだけでは良しとせず、ラシエルに頼んで、バリスタが破壊された際は彼女に逐次バリスタの増産を頼んでいたのだ。

 つまり、先ほどの戦いでバリスタが燃やされた時に出てきたバリスタは、別の場所に置いていたバリスタを持ってきたのではなく、ラシエルがその場で実らせて配置したものなのだ。しかも矢が装填された状態で。
 こうする事で防壁上のスペースを圧迫せず、また再設置の為の手間も不要としない高速設置を可能としたのである。

「本当に助かったよラシエル」

「お役に立てて何よりです!」

 ラシエルに感謝の言葉を告げながら頭を撫でると、ラシエルが嬉しそうに誇らしそうに笑みを浮かべる。

「それに果魚兵も大活躍だったな」

水堀の中で元気に泳いでいる彼等を上から眺めながら、俺は彼らの予想外の活躍に驚いていた。
果魚兵、それはラシエルが新たに生み出した果実兵で、名前の通り下半身が魚になった人魚型の果実兵だ。
この戦いで分かったように、彼らは水中で無双の活躍を見せてくれた。

「我が王、果馬兵達も褒めてあげてください」

「ああ、果馬兵達も凄かったな」

 何しろ彼等は一週間前からずっと、街道脇の地面に埋まったまま待機していたのだ。
 まぁ元が植物なので苦しくないとの事だったが、流石に仲間が土に埋められる光景はなんとも言い難いものがあった。
 しかもその後に植えられた雑草達はすぐに根を下ろしずっと昔から草むらだったかのように偽装してしまったのだ。

「味方の掘った落とし穴に落ちないあの動きは本当に凄かったよ」

「お兄ちゃん、あれは落とし穴の上に生えた草達が果実兵に落とし穴の場所を教えてくれていたんですよ。ここは落とし穴があるよ、こっちはないよって」

「成る程、それで誰も落ちなかったんだな」

 あの華麗な戦い方の種明かしをされて、俺は改めて植物を味方につける事の出来るラシエル達の凄さを感じた。
 一見地味に見える力でも、使い方次第でトンデモナイ成果を上げる事が出来るんだな。

「我が王、次の襲撃に備え、新たな防衛の準備をするべきかと」

 と、勝利に浮かれていた俺にリジェが言葉をかけてくる。

「ああ、そうだな。この戦いは一回や二回で終わるものじゃないものな」

 この戦い、どうやって終わらせたものかな。
 もう領主を倒す事にためらいはない。

 十年前、俺の村を見捨てた騎士団で、俺達を襲ってきた領主。
 村を滅ぼした盗賊は見逃したくせに、自分に逆らった俺達領民には平気で手を上げる領主。

「ああ、時間が経って怒りが薄れたと思ったけど、違うな。ため込んでいただけだったんだ……」

 俺達を見捨てた領主が襲ってきたことで。
 勝てないと思っていた騎士団に勝利したことで。
 死を望んでいた自暴自棄だった俺の感情が蘇ってくるのを感じる。

 相手は雲の上の存在。どうしようもない相手だから、諦めるしかない。
 周りにそう言われて、恩人達に迷惑をかけたくないからと蓋をしてきた怒りと憎しみの感情が湧き出てくる。

 それと共に、冷たくなった妹の遺体の姿を、抱きしめた時に感じた寒さを思い出す。
 そしてその姿にラシエルが重なる。

「今度こそ……奪わせない」

 俺はラシエルを強く抱きしめると、縋る様に、吐き出すように言葉を紡ぐ。

「ラシエル、リジェ、果実兵の皆。俺に力を貸してくれ。今度こそ奪われないように!」

「……任せて下さいおにいちゃん。私はお兄ちゃんに全てを捧げます」

「我が王の望みのままに。この身は王に勝利を捧げる剣です。あらゆる敵を打ち倒す。幾千幾万の勝利を我が王に捧げましょう」

 ラシエルが、リジェが、

「「「「!!」」」」

 そして地上からは聞こえない筈の果実兵達が俺を見上げながら拳を天に突き上げる。

 その姿は、俺達に任せろ! と言っているようだった。

「……よし! 次の戦いも勝つぞ!」

「おーっ!」

「はっ!」

「「「「!!」」」」」

 小さな決意を胸に、俺達は次なる戦いへの闘志を燃やすのだった。
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