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第一章 世界樹との出会い編
第8話 戦力増強!
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その日遭遇した敵は、これまでとは明らかに様子が違った。
「今だ! 第一部隊突撃!」
「「「「!!」」」」
リジェの号令の下、果実兵達がゴブリンに奇襲をかける。
「グギャギャ!?」
今回遭遇したゴブリン達は前の戦いの倍の数だったが、こちらも新たに果実兵を増やしていたのでそこまで戦力に差はなかった。
数の上では。
問題は連中の中にホブゴブリンやゴブリンナイトといった上位種の数が増えていた事だ。
しかもこいつ等は奇襲したにも関わらず、こちらの動きに素早く対応した。
多少の混乱はあったものの、これまでの奇襲程の効果が感じられない。
「これはあらかじめ攻撃される事を想定していた立ち直りの早さですね」
「やっぱりか」
リジェは特に驚いた様子もなく、ゴブリン達の立ち直りの早さを評価する。
「敵の弓兵に注意せよ!」
リジェの言う通り、後方でゴブリンアーチャーが弓を構える。
粗末な弓だが、それでも飛び道具は危険な武器だ。
毒草の汁に浸した矢だったら命に係わる。
「果盾兵、前に!」
ゴブリンアーチャーが矢を放つと同時に、大きな盾を構えた果実兵、果盾兵が俺達を守る。
コイツ等は飛び道具や上位種の攻撃から俺達を守る為に生み出された防御専門の果実兵だ。
全身が固い殻に覆われているので、盾以外も非常に硬い。
まぁ、その分攻撃力は著しく低いんだが。
「突撃隊は敵の中腹に風穴を開けろ!」
果実兵達がリジェの手足の様に動きゴブリン達の群れを分断してゆくが、流石にゴブリンナイトクラスの相手はそううまくいかない。
「果弓兵部隊、上位種を攻撃!」
「「「!!」」」
弓を持った新たな果実兵、果弓兵達が、ゴブリンナイトに弓を放つ。
コイツ等は激化する戦闘を有利にする為にと、リジェから提案された飛び道具を使える果実兵だ。
果弓兵は細長い枝矢を放つことの出来る果実兵で、背中に矢筒型の細長い実を宿していて、この中の栄養を消費して無限に矢を放つ事が出来る。
普通の弓兵は矢が尽きたらそれまでだが、コイツ等は栄養豊富な土さえあれば、ほぼ無限に矢を生成できるというから凄い連中だ。
とはいえ、矢を放つことに特化した能力の反動で、コイツ等も接近戦に弱いという欠点が出来てしまったみたいだが。
果弓兵の一斉攻撃を受けて、ゴブリンナイト達の動きが鈍る。
「では我々も参りましょうか」
「ああ!」
さすがにゴブリンナイト辺りになると、今の果実兵達では心もとない為、俺とリジェが相手をする。
「はぁ!」
「せやぁ!」
「ギギャギャ!!」
ゴブリンナイト達に攻め込むと、果盾兵達が補助についてゴブリンナイトの反撃を受け止める。
「助かる!」
「!」
果盾兵が親指をグッと見せて気にするなというジェスチャーを見せてくる。
「だぁっ!」
お陰で俺達は危なげなくゴブリンナイト達を切り捨てる。
更に果実兵と果盾兵達が複数一組でゴブリンナイトに殺到していき、相手を封殺してゆく。
更に果弓兵達が、ゴブリンアーチャーに雨あられと矢を放つ。
果盾兵の居るこちらと違って、ゴブリンアーチャーは完全に無防備で、一方的に相手の数が減ってゆく。
こうして、上位種も併せて数十匹はいたゴブリン達の群れはそう時間をかけずに殲滅された。
「俺達の勝ちだぁーっ!」
「「「!!」」」
俺が勝鬨の声を上げると、果実兵達も各々の武器を掲げて勝利を喜ぶジェスチャーをしている。
「我が王、この辺りで一旦お母様の下へ戻りましょう。他の部隊も戦果を挙げて帰路についている様ですから、一度戦力の補充を行いましょう」
「分かった」
リジェから戦力の補充を提案されたので、俺達は一旦村に戻ることにした。
今日も朝から戦いっぱなしだったから、流石に疲れたしな。
◆
「おかえりなさいおにいちゃん!」
「ただいまラシエル」
「ただいま戻りましたお母様」
俺達が帰ってくると、ラシエルが俺達を出迎える。
やっぱり帰りを待っていてくれる人が居るって良いもんだなぁ。
「すぐにごはんをごよういしますね!」
俺達はラシエルが食事を用意してくれているあいだに、今後の方針を話し合う。
「戦力も増えてきてるし、この調子なら勝てそうだな」
「いえ、まだ油断は禁物でしょう。敵の数はまだ多く、何よりまだ我々と刃を交えた事のない上位種のゴブリンが敵の本拠地には複数居ます。それらの実力が分からない状況で楽観視は出来ません。何より、敵が本格的に動き出しました。我々を殲滅させる為に編成したと思われる集団が複数森の中で活動を始めています」
これなら大丈夫かと思ったんだが、リジェはまだ油断は出来ないと楽観的な意見を否定する。
「向こうも本気になって来たか。ならこちらももっと戦力を増やす事に集中するか?」
「ええ、それが良いでしょう。我が王、我が王の知るゴブリンの種類を全てお教え願えますか?」
リジェからゴブリンについて質問され俺は自分がこれまでの冒険で戦ったゴブリン達を思い出してゆく。
「そうだな。ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンナイト、ゴブリンライダー、ゴブリンソーサラー、ゴブリンプリースト、あと戦った事は無いが、ゴブリンジェネラルとゴブリンキングか」
「戦った事のない相手に魔法を使えるゴブリンが居ますね。それにゴブリンジェネラルと言う事は、私と同じ指揮官種という事ですか?」
自分と同じ、という部分でリジェが微妙に嫌そうな顔をする。
「ああ、ゴブリン達が組織だった動きをするようになって、本来のゴブリンなら考え付かない行動をしたり、逆にゴブリンの習性を利用した作戦が通じなくなることもあるらしい」
「成る程、それらのゴブリンが戦場に出てくると厄介ですね」
だよなぁ。今までは食料を探しているゴブリンを不意打ちで狙っていたけど、本格的に戦う為に部隊を組んだ相手となると油断は出来なくなる。
「ゴブリンの上位種の怖いところは、単体で弱いゴブリンの唯一の強みである、数の多さを活用できる様になる事だからな」
「ええ、ですのでこちらもお母様に頼んで本格的に上位の果実兵を実らせてもらいましょう。幸い、十分な数は揃いました。次は質です」
「おお、遂に強い果実兵を産み出すのか!」
「はい。上位種の魔物はお母様の良い肥料になりますから、今後は質を重視するべきかと」
なるほど、上位種の魔物を肥料にした方が世界樹には良いんだな。
やっぱそっちの方が栄養が豊富なんだろうか?
「まず魔法の使える果実兵が欲しいですね。そして栄養多めの強果実兵も実らせてもらいましょう。そして一部を除いて他の果実兵達も栄養を補給して強化します」
おお、全体的な底上げを始めるわけか。
「ところで、強化しない一部の果実兵は何をするんだ? やっぱりゴブリン狩りか? それとも村の防衛か?」
「村の防衛は栄養補給中の果実兵達を土から出せば問題ありません。彼らにしてもらうのは、かく乱です」
「かく乱?」
「はい。特定の方向に向かった味方が帰ってこなかったと思われると、この村の場所がゴブリン達に知られてしまいます。もし現時点で我々の存在を危険視したゴブリン達が総攻撃をかけてきたなら、我々は圧倒的な数で押しつぶされてしまうでしょう」
た、確かに。ラシエルがこの場から動けない以上、俺達は逃げ場が無いのと同じだ。
ならこの村の場所を悟られる訳にはいかない。
「ですので、果実兵達には森の各所でゴブリン達に奇襲をかけさせます。敵も警戒を強めてきましたから、逃げられる可能性が高いでしょうが、寧ろそれによってこちらの正確な位置は判別しづらくなるでしょう」
うん、それならこちらも安心して戦力の補強が出来るな。
「ただ、万が一ゴブリン達の大群が偶然この村に向かって来た場合は、こちらも迅速な対応を取らなければなりません。相手がどう動くのかは我々でも分かりますが、敵を誘導する為には迅速な行動の出来る部隊が必要となります」
「騎兵みたいな戦力が必要って事か? けど森の中で騎兵は悪手じゃないか?」
馬に乗った騎兵が強いのは平地だ。
ぬかるみや森の中では逆に弱点になりかねない。
「ご安心を、我らは世界樹の化身ですから、森の中であろうとも十全に活動する事が出来ます」
と、リジェが誇らしげに胸を張る。
「分かった。リジェがそういうなら信じよう」
「ではその為にも、お母様にお願いしていただけますか?」
「あ、ああ、分かった」
うーん、それだけはいちいち面倒なんだよなぁ。
「ごはんをもってきましたよー」
話が一段落したところで、ラシエルが食事を持ってやって来た。
小さな両腕に抱えた大皿には、焼いた肉と野菜、それに果物がこんもり乗せられている。
ちなみにこの肉はラシエルが焼いたわけじゃない。前に俺が肉を焼くところを見たラシエルが、次からは最初から焼いた肉を実らせるようになったんだ。
いうなれば焼肉の実! もう何でもありだな世界樹!
ちなみにタレの実も実らせてくれた。ほんと凄いな世界樹!
「めしあがれ!」
ラシエルに促され、俺は採れたての焼肉をほおばる。
「……」
ラシエルが期待の眼差しを向けてくる。
「美味しいよ、ラシエル」
「っ! えへへ……」
俺に褒められて、ラシエルが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
いや本当に美味いんだよこの焼肉。果物なのに。
「我が王、お母様にあの話を」
「あ、ああ」
リジェに促されて、一端食事を中断する。
「なんのおはなしですか?」
「実は、また新しい果実兵を実らせてほしいんだ」
「あたらしいかじつへいですか?」
さっき俺が面倒だと言った事はこれだった。
実はラシエルは、俺が頼まないと実を実らせてくれないんだ。
自分の娘のリジェの頼みでもダメ。あくまで俺から頼まないといけないので、リジェから要請があった際は、俺が仲介して新しい実を実らせる事を頼む仕組みになっていた。
そんな訳で、俺は先ほどまでのリジェとの会話をかみ砕いてラシエルに説明する。
「なるほど、そういうことですか! わかりました、あたらしいかじつへいをみのらせますね!」
そういうと、世界樹の枝が俺の前にやってきて、いつものように実が膨らんでゆく。
そして新たな実が地面に落ちると、実はいつもの人型ではなく、四本足の馬の様な形になってゆく。
そして馬の頭の代わりに人型の胴体が生え、右腕には馬上槍の様な鋭い枝が生えてくる。
「このこはかばへい、どんなばしょでもすばやくこうどうできるかじつへいですよ!」
ラシエルによって果馬兵と名付けられた果実兵は、前足を上げて立ち上がると、槍を天にかざしてやる気に満ちたジェスチャーを俺に見せた。
「よろしくな果馬兵」
「!!」
うん、やる気に満ちていて頼りになるぜ。
見た目が完全に枝付きの面白野菜なのさえ気にしなければ……
「ともあれ、これで足の速い戦力が出来たな!」
「ええ、今後の作戦もやり易くなります」
リジェも満足気に頷いていたんだが、そこでラシエルがリジェの前に立った。
何故か不満そうな顔で。
「お母様?」
「リジェ」
そして声も不満そうだ。ラシエルがあんな様子を見せるのは初めてなので、俺もリジェも困惑してしまう。
「じじょうはわかりました。でもこれならごはんのあとでもよかったでしょう? おかげでせっかくよういしたやきにくがさめてしまったじゃないですか!」
「「へっ?」」
肉? あ、ほんとだ。話をしている間に肉が冷めてしまっていた。
「もう! おにいちゃんにはおいしいおにくをたべてもらおうとおもっていたのに!」
「す、すみませんお母様! こういう事はなるべく早く終わらせておいた方が良いと思いまして!」
真っ青な顔になったリジェは、慌ててラシエルに土下座し始める。
「いいですかリジェ! ごはんはおいしくたべないとだめです! こんごはごはんのさいちゅうにおしごとのはなしはきんしです!」
「わ、分かりましたーっ!」
こうして、俺の頼りになる将軍リジェは、食事を終えるまでの間、ずっとラシエルに頭を下げ続けていたのだった。
出来る女も母親には弱いもんなんだな。
「今だ! 第一部隊突撃!」
「「「「!!」」」」
リジェの号令の下、果実兵達がゴブリンに奇襲をかける。
「グギャギャ!?」
今回遭遇したゴブリン達は前の戦いの倍の数だったが、こちらも新たに果実兵を増やしていたのでそこまで戦力に差はなかった。
数の上では。
問題は連中の中にホブゴブリンやゴブリンナイトといった上位種の数が増えていた事だ。
しかもこいつ等は奇襲したにも関わらず、こちらの動きに素早く対応した。
多少の混乱はあったものの、これまでの奇襲程の効果が感じられない。
「これはあらかじめ攻撃される事を想定していた立ち直りの早さですね」
「やっぱりか」
リジェは特に驚いた様子もなく、ゴブリン達の立ち直りの早さを評価する。
「敵の弓兵に注意せよ!」
リジェの言う通り、後方でゴブリンアーチャーが弓を構える。
粗末な弓だが、それでも飛び道具は危険な武器だ。
毒草の汁に浸した矢だったら命に係わる。
「果盾兵、前に!」
ゴブリンアーチャーが矢を放つと同時に、大きな盾を構えた果実兵、果盾兵が俺達を守る。
コイツ等は飛び道具や上位種の攻撃から俺達を守る為に生み出された防御専門の果実兵だ。
全身が固い殻に覆われているので、盾以外も非常に硬い。
まぁ、その分攻撃力は著しく低いんだが。
「突撃隊は敵の中腹に風穴を開けろ!」
果実兵達がリジェの手足の様に動きゴブリン達の群れを分断してゆくが、流石にゴブリンナイトクラスの相手はそううまくいかない。
「果弓兵部隊、上位種を攻撃!」
「「「!!」」」
弓を持った新たな果実兵、果弓兵達が、ゴブリンナイトに弓を放つ。
コイツ等は激化する戦闘を有利にする為にと、リジェから提案された飛び道具を使える果実兵だ。
果弓兵は細長い枝矢を放つことの出来る果実兵で、背中に矢筒型の細長い実を宿していて、この中の栄養を消費して無限に矢を放つ事が出来る。
普通の弓兵は矢が尽きたらそれまでだが、コイツ等は栄養豊富な土さえあれば、ほぼ無限に矢を生成できるというから凄い連中だ。
とはいえ、矢を放つことに特化した能力の反動で、コイツ等も接近戦に弱いという欠点が出来てしまったみたいだが。
果弓兵の一斉攻撃を受けて、ゴブリンナイト達の動きが鈍る。
「では我々も参りましょうか」
「ああ!」
さすがにゴブリンナイト辺りになると、今の果実兵達では心もとない為、俺とリジェが相手をする。
「はぁ!」
「せやぁ!」
「ギギャギャ!!」
ゴブリンナイト達に攻め込むと、果盾兵達が補助についてゴブリンナイトの反撃を受け止める。
「助かる!」
「!」
果盾兵が親指をグッと見せて気にするなというジェスチャーを見せてくる。
「だぁっ!」
お陰で俺達は危なげなくゴブリンナイト達を切り捨てる。
更に果実兵と果盾兵達が複数一組でゴブリンナイトに殺到していき、相手を封殺してゆく。
更に果弓兵達が、ゴブリンアーチャーに雨あられと矢を放つ。
果盾兵の居るこちらと違って、ゴブリンアーチャーは完全に無防備で、一方的に相手の数が減ってゆく。
こうして、上位種も併せて数十匹はいたゴブリン達の群れはそう時間をかけずに殲滅された。
「俺達の勝ちだぁーっ!」
「「「!!」」」
俺が勝鬨の声を上げると、果実兵達も各々の武器を掲げて勝利を喜ぶジェスチャーをしている。
「我が王、この辺りで一旦お母様の下へ戻りましょう。他の部隊も戦果を挙げて帰路についている様ですから、一度戦力の補充を行いましょう」
「分かった」
リジェから戦力の補充を提案されたので、俺達は一旦村に戻ることにした。
今日も朝から戦いっぱなしだったから、流石に疲れたしな。
◆
「おかえりなさいおにいちゃん!」
「ただいまラシエル」
「ただいま戻りましたお母様」
俺達が帰ってくると、ラシエルが俺達を出迎える。
やっぱり帰りを待っていてくれる人が居るって良いもんだなぁ。
「すぐにごはんをごよういしますね!」
俺達はラシエルが食事を用意してくれているあいだに、今後の方針を話し合う。
「戦力も増えてきてるし、この調子なら勝てそうだな」
「いえ、まだ油断は禁物でしょう。敵の数はまだ多く、何よりまだ我々と刃を交えた事のない上位種のゴブリンが敵の本拠地には複数居ます。それらの実力が分からない状況で楽観視は出来ません。何より、敵が本格的に動き出しました。我々を殲滅させる為に編成したと思われる集団が複数森の中で活動を始めています」
これなら大丈夫かと思ったんだが、リジェはまだ油断は出来ないと楽観的な意見を否定する。
「向こうも本気になって来たか。ならこちらももっと戦力を増やす事に集中するか?」
「ええ、それが良いでしょう。我が王、我が王の知るゴブリンの種類を全てお教え願えますか?」
リジェからゴブリンについて質問され俺は自分がこれまでの冒険で戦ったゴブリン達を思い出してゆく。
「そうだな。ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンナイト、ゴブリンライダー、ゴブリンソーサラー、ゴブリンプリースト、あと戦った事は無いが、ゴブリンジェネラルとゴブリンキングか」
「戦った事のない相手に魔法を使えるゴブリンが居ますね。それにゴブリンジェネラルと言う事は、私と同じ指揮官種という事ですか?」
自分と同じ、という部分でリジェが微妙に嫌そうな顔をする。
「ああ、ゴブリン達が組織だった動きをするようになって、本来のゴブリンなら考え付かない行動をしたり、逆にゴブリンの習性を利用した作戦が通じなくなることもあるらしい」
「成る程、それらのゴブリンが戦場に出てくると厄介ですね」
だよなぁ。今までは食料を探しているゴブリンを不意打ちで狙っていたけど、本格的に戦う為に部隊を組んだ相手となると油断は出来なくなる。
「ゴブリンの上位種の怖いところは、単体で弱いゴブリンの唯一の強みである、数の多さを活用できる様になる事だからな」
「ええ、ですのでこちらもお母様に頼んで本格的に上位の果実兵を実らせてもらいましょう。幸い、十分な数は揃いました。次は質です」
「おお、遂に強い果実兵を産み出すのか!」
「はい。上位種の魔物はお母様の良い肥料になりますから、今後は質を重視するべきかと」
なるほど、上位種の魔物を肥料にした方が世界樹には良いんだな。
やっぱそっちの方が栄養が豊富なんだろうか?
「まず魔法の使える果実兵が欲しいですね。そして栄養多めの強果実兵も実らせてもらいましょう。そして一部を除いて他の果実兵達も栄養を補給して強化します」
おお、全体的な底上げを始めるわけか。
「ところで、強化しない一部の果実兵は何をするんだ? やっぱりゴブリン狩りか? それとも村の防衛か?」
「村の防衛は栄養補給中の果実兵達を土から出せば問題ありません。彼らにしてもらうのは、かく乱です」
「かく乱?」
「はい。特定の方向に向かった味方が帰ってこなかったと思われると、この村の場所がゴブリン達に知られてしまいます。もし現時点で我々の存在を危険視したゴブリン達が総攻撃をかけてきたなら、我々は圧倒的な数で押しつぶされてしまうでしょう」
た、確かに。ラシエルがこの場から動けない以上、俺達は逃げ場が無いのと同じだ。
ならこの村の場所を悟られる訳にはいかない。
「ですので、果実兵達には森の各所でゴブリン達に奇襲をかけさせます。敵も警戒を強めてきましたから、逃げられる可能性が高いでしょうが、寧ろそれによってこちらの正確な位置は判別しづらくなるでしょう」
うん、それならこちらも安心して戦力の補強が出来るな。
「ただ、万が一ゴブリン達の大群が偶然この村に向かって来た場合は、こちらも迅速な対応を取らなければなりません。相手がどう動くのかは我々でも分かりますが、敵を誘導する為には迅速な行動の出来る部隊が必要となります」
「騎兵みたいな戦力が必要って事か? けど森の中で騎兵は悪手じゃないか?」
馬に乗った騎兵が強いのは平地だ。
ぬかるみや森の中では逆に弱点になりかねない。
「ご安心を、我らは世界樹の化身ですから、森の中であろうとも十全に活動する事が出来ます」
と、リジェが誇らしげに胸を張る。
「分かった。リジェがそういうなら信じよう」
「ではその為にも、お母様にお願いしていただけますか?」
「あ、ああ、分かった」
うーん、それだけはいちいち面倒なんだよなぁ。
「ごはんをもってきましたよー」
話が一段落したところで、ラシエルが食事を持ってやって来た。
小さな両腕に抱えた大皿には、焼いた肉と野菜、それに果物がこんもり乗せられている。
ちなみにこの肉はラシエルが焼いたわけじゃない。前に俺が肉を焼くところを見たラシエルが、次からは最初から焼いた肉を実らせるようになったんだ。
いうなれば焼肉の実! もう何でもありだな世界樹!
ちなみにタレの実も実らせてくれた。ほんと凄いな世界樹!
「めしあがれ!」
ラシエルに促され、俺は採れたての焼肉をほおばる。
「……」
ラシエルが期待の眼差しを向けてくる。
「美味しいよ、ラシエル」
「っ! えへへ……」
俺に褒められて、ラシエルが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
いや本当に美味いんだよこの焼肉。果物なのに。
「我が王、お母様にあの話を」
「あ、ああ」
リジェに促されて、一端食事を中断する。
「なんのおはなしですか?」
「実は、また新しい果実兵を実らせてほしいんだ」
「あたらしいかじつへいですか?」
さっき俺が面倒だと言った事はこれだった。
実はラシエルは、俺が頼まないと実を実らせてくれないんだ。
自分の娘のリジェの頼みでもダメ。あくまで俺から頼まないといけないので、リジェから要請があった際は、俺が仲介して新しい実を実らせる事を頼む仕組みになっていた。
そんな訳で、俺は先ほどまでのリジェとの会話をかみ砕いてラシエルに説明する。
「なるほど、そういうことですか! わかりました、あたらしいかじつへいをみのらせますね!」
そういうと、世界樹の枝が俺の前にやってきて、いつものように実が膨らんでゆく。
そして新たな実が地面に落ちると、実はいつもの人型ではなく、四本足の馬の様な形になってゆく。
そして馬の頭の代わりに人型の胴体が生え、右腕には馬上槍の様な鋭い枝が生えてくる。
「このこはかばへい、どんなばしょでもすばやくこうどうできるかじつへいですよ!」
ラシエルによって果馬兵と名付けられた果実兵は、前足を上げて立ち上がると、槍を天にかざしてやる気に満ちたジェスチャーを俺に見せた。
「よろしくな果馬兵」
「!!」
うん、やる気に満ちていて頼りになるぜ。
見た目が完全に枝付きの面白野菜なのさえ気にしなければ……
「ともあれ、これで足の速い戦力が出来たな!」
「ええ、今後の作戦もやり易くなります」
リジェも満足気に頷いていたんだが、そこでラシエルがリジェの前に立った。
何故か不満そうな顔で。
「お母様?」
「リジェ」
そして声も不満そうだ。ラシエルがあんな様子を見せるのは初めてなので、俺もリジェも困惑してしまう。
「じじょうはわかりました。でもこれならごはんのあとでもよかったでしょう? おかげでせっかくよういしたやきにくがさめてしまったじゃないですか!」
「「へっ?」」
肉? あ、ほんとだ。話をしている間に肉が冷めてしまっていた。
「もう! おにいちゃんにはおいしいおにくをたべてもらおうとおもっていたのに!」
「す、すみませんお母様! こういう事はなるべく早く終わらせておいた方が良いと思いまして!」
真っ青な顔になったリジェは、慌ててラシエルに土下座し始める。
「いいですかリジェ! ごはんはおいしくたべないとだめです! こんごはごはんのさいちゅうにおしごとのはなしはきんしです!」
「わ、分かりましたーっ!」
こうして、俺の頼りになる将軍リジェは、食事を終えるまでの間、ずっとラシエルに頭を下げ続けていたのだった。
出来る女も母親には弱いもんなんだな。
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そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
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アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
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