上 下
128 / 132
召喚魔法編

皇の影

しおりを挟む
「メリネア」

  俺はメリネアを真正面から見据える。

 「君はスキルについて何か知っているんだな」

  メリネアは何も答えない。ただ困ったような表情を浮かべるばかりだ。

 「スキルについて知っているという事は、メリケ国に勇者召喚の術式を教えた誰かについても何か知っているという事なんだな!」

  メリネアはダンマリを続ける。
  だが、やっぱり子供は強力なスキルを取得するという言葉から、勇者やメリケ国の人間が知らない情報を知っているのは確かだ。そしてそんな情報を知っている人間といえば、メリケ国に勇者召喚の術式をもたらした謎のローブの人物意外にありえない。
  そうだ、ただの召喚魔法なら国家規模で行ったりはしない。
  最初に勇者召喚を行った人物は召喚された異世界人がスキルを取得する事を知っていたのだ。
  そして子供が強力なスキルを覚えるというメリネアの言葉から、件のローブの人物は実験を行ったはずだ。複数の検体を召喚して、勇者として使えるかどうかを。
  ソレを確認したからこそ、ローブの人物はメリケ国に【勇者召喚】の術式だと売り込む事が出来た。
  スキルを覚えるから【勇者】なのではなく、スキルを取得する戦力を召喚できるから【勇者召喚】と名付けたのだ。
  それをメリネアが知っているという事は。

 「勇者召喚の召喚術式をもたらしたのは、ドラゴンなんだな」

  それが俺の下した結論だった。
  メリネアがため息を吐く。
  それは自分の失言を呆れるように。

 「私からは詳しく話す事は出来ないわ。そもそも私自身詳しく知っている訳じゃないし」

  イタズラがバレた子供のように目を逸らしながらも、メリネアは否定しなかった。

 「本気で知りたいのなら、私じゃなくて、他に聞くべき方が居るでしょう?」

  ドラゴンの王の娘であるメリネアが話せないって事は、それはより上位の存在から口止めされているからだろう。 
  言うまでもない。そんな相手はただ一人だ。

 「龍皇だな」

  メリネアは肯定しない。そして否定もしない。
  人間達の世界に勇者召喚なんて技術をもたらした理由は一体なんなのか。
  それを知るには、龍皇の住まう聖域、ドラゴンバレーに行くしかなさそうだ。

 「あ、そうそう。忘れてるかもしれないけど、ドラゴンバレーは人間立ち入り禁止だから」

 「…………あっ」

  そうでした。ドラゴンバレーはドラゴン以外侵入禁止じゃん。
  そんな所に入っていったら速攻抹殺されちゃいますよ!!!
 駄目じゃん!!
 まいったな。せっかく情報を手に入れるチャンスがめぐってきたと思ったのに。
  うーん、何かいい方法は……
 と、そこで俺のズボンを誰かが引っ張る。

 「ケンカは駄目」

  娘だった。
  喧嘩? ああ、そういう事か。
  俺がメリネアに詰め寄ったから喧嘩してると思ったのか。

 「ちがうよ。喧嘩なんかしていないよ」

  俺はしゃがみこんで娘と同じ視線に立ってから優しく話しかける。

 「ホント?」

 「本当だよ」

 「……わかった」

  なんとか信用してもらえたみたいだ。
  けどそうだ、ドラゴンバレーに行こうとするなら、娘を連れて行くわけには行かない。
  そうなると娘を一人にしてしまう危険がでてきてしまう。
  それはいかん。
  俺達が被害を被った勇者召喚を何故人間に教えたのか問い質したい気持ちはあるが、だからと言って娘をほうっておく訳にもいかない。
  せめてこの子が一人立ちするまでは離れる訳には行かないか。
  仮にメリネアに子守を任せたとして、俺がドラゴンバレーでドラゴンに殺されたら龍皇と話をする事はできても、その後はドラゴンの姿で子守をしないといけなくなる。
  そうなった場合、メリネアのように人間の姿を取る事が出来るならともかく、出来なければやはりドラゴンの姿で子守をしないといけない。少なくとも俺が憑依したドラゴンは人化の仕方なんて知らなかった。

 「メリネア、ドラゴンってのは皆人間の姿に変身できるのか?」

  しかしメリネアは首を横に振る。

 「いいえ、人化を使えるドラゴンは少ないわ。ドラゴンにとってわざと弱くなる人化には何の意味もないもの。精々が私のような変わり者達が人間達の世界に遊びに行く為位よ」

 「習得にはどれくらいかかる?」

 「さぁ? 早ければ50年くらい。遅ければ1000年くらいかかるんじゃないの? 私は200年位で習得したけれど」

  こりゃ駄目だ。後で人化を習得するのは無理そうだな。
  仕方ない。龍皇に話を聞きに行くのはまたの機会にしよう。
  取り急ぎは……そうだな、勇者達を地球へ返す事から始めようか。
  勇者達が居なくなればこの世界で勇者を利用する考えもなくなっていくだろう。

  そして、龍皇との面会の機会は意外にも早く訪れる事になると俺はすぐに知る事になる。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

処理中です...