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ディグラード編

崩れ落ちる巨人

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 エルフが地下都市の中に侵入した。
  コレは由々しき事態である。
  しかも第三層となれば今達が居るエリアに近い。
  目的は間違いなく更に下の階層にある『井戸』だろう。
  俺としては井戸を破壊したいが、ここで俺が井戸に向かうのは明らかにおかしな行動だ。
  井戸周辺には何重にも配置された防衛隊が居る。
  ここはエルフ達を泳がせて俺は後ろから追ってきた振りをするのが良さそうだ。
  そうと決まればまずはイカヅチに乗り込んで……

「死ねドワーフ共!!」

  ◆

 いやー、死んだわ。
  俺は潜入してきたエルフの攻撃を受けて死んでしまったようだ。
  どうやらエルフ達は景色に合わせた色に変化する迷彩魔法を使ってここに潜入したらしい。
  更に迷彩魔法を使えない者達は源泉を破壊された事で、ヤケになって襲撃してきたフリをして派手に闘っていた。第三層まで攻めてきた連中はオトリのようでこっちが本命みたいだ。

 「この馬鹿でかい巨人はドワーフ共のマジックアイテムか!?」

  スサノオを見たエルフ達が驚きの声を上げる。
  ここで巨人用の鎧と言い出さない辺り、エルフ達もドワーフの事をよく理解していた。

 「こんなモノを森で使われたら厄介だ。2人ほどコレの破壊にまわろう。お前達はドワーフ共の『源泉』の破壊を頼む」

 「分かった」

  スサノオを起動するには魔力結晶が50個、約5年分の魔力を必要とする。仮に井戸の破壊に失敗した場合、こんな魔力をバカ消費するモノを残しておいたらせっかくエルフの里の魔法陣を破壊した意味がなくなるというものだ。
  エルフの森の魔法陣は召喚魔法の実力者が長い時間をかけて作り上げ、適切な時と場所を選んで作り上げた物。あれをもう一度大樹の中に作っても、同じ物は発動しない。異世界から無限に魔力をくみ上げるなんて異常なシロモノがそうそう簡単に機能する訳が無いからだ。
  ふさわしい時間と場所の選定と準備に相当な時間がかかる。
  だからドワーフが一方的に有利になるモノは破壊しておきたい。なるべく戦力が拮抗するようにしておきたいからだ。
  そこから察するに、恐らくではあるがドワーフの井戸も一度破壊してしまえば相当な時間がかかる筈だ。

  スサノオの傍へとやって来ると、周囲にはエルフ達の攻撃を受けて倒れたドワーフ達の姿がある。
  スサノオを守ろうとしたのかもしれない。
  悪いがコイツは破壊させてもらうよ。
  俺は仲間のエルフと共に爆裂魔法を発動させてスサノオの破壊を目論んだ。
  しかし……

「馬鹿な! 我々の魔法が通用しないだと!?」

  驚いた事に、俺達が放った魔法はスサノオを傷1つつける事が出来なかった。
  その表面を飾る真紅の色をした鱗上の装甲は、俺達の魔法など放たれなかったといわんばかりだ。
  ……真紅?
  俺は嫌な予感に慄きながらスサノオに近づきその装甲をじっと見つめる。
  そして気付いた。
  スサノオの装甲は赤い塗装かと思ったのだが、鱗状の透明な板が貼り付けられているではないか。
  否、鱗状ではない。コレは鱗だ!
  赤く透明な鱗。ルビーの鱗。
  俺はこの鱗を見た事がある。
  この透明な鱗を。

 『でも貰うばかりも悪いから時々古くなった鱗を与えているわ。彼等は私達の鱗を喜んで身に付ける不思議な風習があるでしょう?』

  そんな言葉を思い出した。
  間違いない、この赤い鱗は……

「宝石龍の鱗だ」

  俺の妻、宝石龍メリネアルテニシモアムエドレアの鱗だった。

  コレは破壊できんわ。
  鱗もよく見れば加工されておらず、そのままの形状で貼り付けてある。恐らく接着剤のようなものを使っているのだろう。
  なら間接狙いか? いや、そんな所を破壊しても意味がない。内部の重要部分を破壊しなけりゃすぐに修理されちまう。
  そうだ、コクピットからなら内部を破壊できる筈。
  俺はスサノオの正面に回ってコクピットを確認する。

 「よし、いける!」

  俺は整備の為に開けっ放しになっていたスサノオのコクピットに向けて爆裂魔法を放つ。
  鱗の無い内部の機構が破壊されていく。俺は更に数発の爆裂魔法を放って更に破壊していく。

 「コレだけ破壊すれば大丈夫だろう」

 「そうだな、先に源泉を探しに向かった仲間の下へ行こう」

  仲間のエルフが俺をせかす。
  とはいえ、イカヅチもまだあるし、破壊できる物は破壊しときたいんだよなぁ。

 「ああ。分かって……!」

 「どうした?」

  格納庫のある場所を見て動きを止めた俺を、仲間が訝しげに見る。

 「ああ、使えそうなモノを見つけたのさ」

  俺は格納庫の隅に積み上げられていたそれらの品を手にとって言った。
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