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魔族領編

ゴブリンの意思

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 勇者達の説得は成功した。彼等は俺の話を仲間の勇者達に伝えるといって帰って行った。
  とはいえ、まだまだ完全に信頼されている訳では無いだろうし、他の勇者達もいる。油断は出来ないだろう。最悪仲間を引き連れた勇者達に襲われる可能性だってある。
  そこは勇者達を信じるしかないが。
  そして……

「バグロム百人長……」

  ゴブリン達の説得だ。

 「バグロム百人長は魔族を裏切るのでござるか!?」

  ゴブリン隊は武器を構えてこそいないが俺に対して警戒の意思を隠そうともしていない。
  まぁ当然の反応だ、突然目の前で上司が敵と自分達のボスを殺す算段を取っていれば誰だって警戒する。 俺だって同じ立場だったら警戒するだろう。

 「それも説明する。まずは基地に戻るぞ」

 「……了解でござる」

  従ったのは、まだ俺が上司だからなのか、それとも仲間が居たほうが確実に俺を倒せると思ったからなのか。
  はてさてどっちやら。

  ◆

「それでは説明を求めるでござる」

  基地にたどり着いた途端、ゴブ之進達は殺気だった様子で俺に説明を求めてきた。
  基地で待機していたゴブリン達も一体何事かとやって来る。
  さーて、やりますか。

 「皆聞いてくれ。俺は勇者達と同盟を組む事にした!!」

 「「「ゴブッ!???」」」

  ゴブリンって驚くとこんな声をあげるんだな。

 「その理由は……ルシャブナ王子が魔王陛下に反旗を翻したからだ!」

 「ど、どういう事でござる!?」

  突然の事にブリ之助が動揺して俺に詰め寄ってくる。

 「一体どのような根拠があって、その様な恐ろしい事を仰るのですか!?」

  落ち着いたメイジであったおリンも、流石にこの状況には困惑を隠しきれていなかった。

 「お前達は不思議に思わなかったのか? ある日突然魔王陛下が病に倒れ、第一王子であるルシャブナ殿下が陛下の代理人となった事を」

 「それは第一王子なのですから当然でござろう?」

  ゴブ之進はそれの何処がおかしいのかと首をかしげる。

 「だが、その第一王子が陛下の推し進めていた平和路線を急遽侵略路線に変更したというのに、何の混乱もなく全軍が侵略路線に移行した事に対して何も疑問に思わなかったのか? 余りにもスムーズに事が進みすぎたとは思わなかったのか?」

  俺はゴブリン達に問いかける。
  そうなのだ、病で倒れたとはいえ、魔王が生きているというのにその意志を無視して路線を変更など出来るのだろうか? たとえ出来たとしても相応の混乱がある筈なのだ。
  だが、俺が憑依したバグロムの記憶には、そんな混乱の記憶は無い。

 「ですがそれは、軍隊が上官の命令に正しく従ったからではござらぬか?」

  そういやゴブリンは上官の命令には絶対服従の縦社会みたいな事言ってたな。

 「だが一番上の魔王様の命令を二番目の王子が捻じ曲げたんだぞ。だとすれば王子は命令違反をしている事になる」

 「た、確かに……」

  よしよし、コイツ等のコントロール方法が分かってきたぞ。とりあえず一番偉い奴の命令を盾にして言う事聞かせれば良いんだな。

 「俺は魔族の最高指導者である魔王様の意思を尊重する。勇者と協力して逆賊であるルシャブナ王子を拘束し、魔王様の提唱したこの世界の住人に迷惑をかけないで生きていく方針へ戻る事を宣言する! 反対するる者は前に出ろ!!」

  俺の宣言に対し、誰も前に出てこない。
  上官に従う事を良しとするゴブリン達も、最高権力者の方針が最優先である事は……

「反対でござる」

  ゴブ之進の言葉と共に背中に熱い感覚が走る。

 「ゴブ之進?」

 「拙者も反対でござる」

  俺に詰め寄っていたブリ之助の反対の声と共にわき腹が厚くなる。

 「反対でござる」

 「反対でござる」

 「反対でござる」

 「反対でござる」

 「反対でござる」

 「反対でござる」

 「反対でござる」 

  ゴブリン達が反対の言葉と共に俺の体に焼け付くような熱を与える。
  そこに至って俺は自分が体中を突き刺されていた事に気付いた。
  俺に反対するゴブリン達によって。

 「バグロム百人長……拙者達ゴンゴの森のゴブリンは、ルシャブナ王子に忠誠を誓ったのでござる。だから拙者達の殿はルシャブナ王子なのでござるよ」

  ……迂闊。魔族軍だから魔王に忠誠を誓っているかと思ったのだが、とんだ見当外れだった。
  コイツ等も強硬派の一員だったって訳か。
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