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34 ジョアンの懸念と第三王子

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〈遅くなった。母上がどうしても一緒に来るといって聞かないので手間取ってしまった。申し訳ない〉

「皇后陛下、第三王子殿下にご挨拶申し上げます」

 皇后陛下は博士の挨拶を笑顔で制し、子供たちに視線を向けました。
 子供たちは立ち上がり、皇后陛下の前に進み出て正式な礼を始めました。
 やればできる子!

「ごめんなさいね、どうしても皆さんに会ってみたかったの。みんな澄んだ良い目をしているわね。でもなんだか空気が緊迫しているけど?何かあったの?」

〈ローゼリア、母上に博士と一緒にあそこのソファーに座って待っていて欲しいと伝えてくれ〉

「はい、わかりました」

〈どうでも良いが、私たちとは脳内で会話しないと独り言を口にしているバカだと思われるぞ?〉

〈あっ!気を付けます〉

 私は少し頬に熱を感じながら博士の前に行きました。

「博士、サミュエル殿下が皇后陛下と一緒にソファーでしばらく待って欲しいと仰っています」

「ああ、そうか。分かった。では皇后陛下、あちらでお茶でも如何ですか?少々子供たちで会議があるようですし、内容はエスメラルダが一言一句漏らさず報告してくれますから」

「一言一句漏らさず?それが彼女の能力なのね?凄いわね」

 そう言いながら皇后陛下はソファーに落ち着かれました。
 博士が侍女にお茶の用意をするよう指示をして、私を手招きされました。

「ローゼリア、何事だ?」

「私にも分からないのですが、何か重大な事が始まるようです」

「では君もここで座って待つしかないな」

「そうですね」

 私が座ろうとするとジョアンが叫びました。

「ローゼリア!こっち」

 私は参加するようです。
 皇后陛下と博士と主任に会釈をして、私は子供たちのところへ行きました。

〈ローゼリア、前にも言ったが、君を媒介することで私たちは接触しなくても会話ができるんだ。だからここに座って中継地点に徹してくれ〉

〈中継ですか〉

〈そうだ。手をつないでいたら作業ができないだろう?〉

〈わかりました。頑張ります〉

 ジョアンとアレクとドレックは、私が指示された窓際の長椅子に座ると、それぞれの場所に戻り、作業を始めました。
 アレクはひたすらノース国の地図を壁いっぱいに描き、ドレックは何冊もの文献をものすごいスピードで捲っています。

 ジョアンは自分のスペースで額に手をやって何やら瞑想を始めました。
 私を挟んでエスメラルダとサミュエル殿下が座りました。

〈さあ、始めよう。やっと一同に会することができた。ジョアンから改めて説明してもらおうか。研究所とここでは時々途切れてしまって正確には把握できていないんだ〉

〈分かった。時間が無いから前置きはしない。ここ数年の気温の変化と雨量の増加、そして森林資源の減少率を考慮すると、今年中に大規模な台風が連発すると思うんだ〉

 ジョアンの発言に私は肩をビクッとさせてしまいました。

〈連発か〉

 深刻な声でサミュエル殿下が答えました。

〈ああ、連発だ。それも短期間の間に発生する。それにより地盤の緩いところは土砂災害を起こすだろう。特にノース国沿岸部が危険だ。あそこは切り立った崖になっているが、地盤は弱い。崩れると一気に崩落して大波を起こす〉

〈我が国にも影響があるのか?〉

〈我が国だけではなく、沿岸部を持つ近隣諸国は海面上昇によって影響を受ける。しかも海路が安定しないから輸出入にも影響が出る〉

〈物価の上昇か〉

 なんだか物凄い高度な話になっています!
 覚えきれません!ああ、エスメラルダがいるから覚えなくていいのですね。

〈ローゼリア!波動を乱すな。なるべく平常心でいてくれ。なんなら紅茶でも飲むか?〉

〈いいえ、大丈夫です〉

〈では続けよう。私は立場的にジョアンの説に備えて国を守らねばならないが、君たちには是非協力してもらいたいと考えているのだがどうだろうか〉

〈私は良いよ?いつも通りだし〉

〈俺も良いよ〉

〈僕も〉

〈ありがたい。君たちが協力してくれるなら五百人体制と同じだからな。ああ、ローゼリアも入れるから五百十人か?〉

 どうやら私は十人分の能力認定のようです。

〈アレク、ノース国の地図は?〉

〈ノース国はできているよ。後は近隣諸国の沿岸部を書き足せば、正確な距離が把握できる〉

〈ジョアン、この地図があれば大波の影響度合いも計測できるか?〉

〈海底地形にもよるし、崩落する土砂量にもよるから正確には難しいが、近似値なら出るよ。後はワンド地質研究所のブレーン待ちだ。あそこならノース国の地質データを持っているはずだ〉

〈三日か?〉

〈ローゼリアによると三日の距離らしいから、飛ばせば二日だな。それよりドレック、一番危険だと思われる個所の海から見た絵は無いかな〉

〈あったよ。え~っと、ノース大百科地理編…でもこれは国立図書館の貸出禁止本だな〉

〈すぐに手配しよう。ジョアン他にも必要な文献があるか?〉

〈ノース国の過去災害記録全般が欲しいな〉

 その声を聴いたドレックが言いました。

〈ああ、それならもう書き出してある。右側の壁だ。文献として残っている百五十年前のものから書き出しておいたよ〉

〈わかった。では今日のところはここまでか?あとは作業だけだな。ではエスメラルダはあそこの大人たちに今の会話を聞かせてやってくれ。私とローゼリアも同席しよう〉

〈アレクとドレックとジョアンも一緒に座ってお茶にしない?〉

〈〈〈時間が惜しい〉〉〉

 あっさりと断られてしまった私は、サミュエル殿下とエスメラルダに手を引かれ、皇后陛下達が待つソファーに向かいました。

私たちの前に紅茶が配られ、エスメラルダが一口飲んでのどを潤したあと立ち上がりました。

「エスメラルダ、ちょっと待って。博士も主任もメモの用意をしてください」

 二人は慌ててポケットからノートを出して、ペンを構えました。
 エスメラルダは殿下の顔をちらっと見た後、ゆっくりと口を開きました。
 その恐るべき内容に大人たちは啞然として、口をポカンと開いています。
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