上 下
34 / 68

32 能力値

しおりを挟む
 私がそう言うと博士がゴクッと喉を鳴らして言いました。

「ああ、頼む」

 私の声を聴いた子供たちは、立ち上がって先ほどと同じように手を繋いで輪になります。

〈殿下?聞こえますか?〉

〈ああ、聞こえるよ。どこから説明しようか?う~ん、まずは君の疑問からだね〉

〈お願いします〉

〈ローゼリア、君には僕と同じテレパスの能力がある。僕の能力が十だとすると、君は五だ。そしてエスメラルダが二で、ジョアンとアレクとドレックがそれぞれ一というところだな〉

〈はあ、五ですか〉

〈そうだ五だ。私はこの能力だけだが、脳のほとんどをこの能力のために費やしている。彼らのテレパス能力は一と低いが、他の能力に脳のほとんどを使っているから仕方が無いんだよ〉

〈なるほど?〉

〈君は私の半分程度の能力を有していて、脳の半分程度をそのために使っている。通常我々のような者たちは、何か突出した能力を持ち、そのために脳のほとんどを費やすから、社会的活動に思考を割くことができない。でも君にはそれがない。だから普通人として暮らすことができているんだ〉

〈分かったような?分からないような?〉

〈まあいい。この会話はあとでエスメラルダに再生してもらえ。そして今彼らは手をつないでいるだろう?〉

〈はい〉

〈先ほど僕が言った彼らのテレパス能力値を足すといくつになるかな?〉

〈えっと…エスメラルダが二で…三人だから…五です!〉

〈遅いが正解だ。君も五だろう?要するに能力値が五あれば遠隔会話ができるんだ〉

〈なるほど。では私があの輪に入れば十になりますから、殿下と同程度の能力値になるということですか?〉

〈理論上はそうだね。来月からこちらに移ってくるのだろう?彼らは了承したから、それからいろいろ研究してみよう〉

〈わかりました。殿下?もう一つ聞いてもいいですか?〉

〈いいよ。なあに?〉

〈なぜみんな喋らないのですか?喋っても片言だし。でも本当はぜんぜん子供らしくないほどの語彙力を持っていますよね?〉

〈ああ語彙力という事なら、普通の大人以上にはあるだろうね。なんせ僕たちはそれぞれ持っている能力に必要な部分が通常より発達しているのだ。君は人の脳について勉強している?〉
 
〈していません〉

〈ではこちらに来るまでにしっかり頭に叩き込んでおきたまえ。メカニズムはその時にでも教えるよ。で、なぜ喋らないかっていう質問だったね〉

〈はい〉

〈簡単だよ。面倒だから〉

〈はぁ?〉

〈まあそう言うことだ。あとは彼らに任せるよ。この力を長く使うと眠くなるんだ。もう僕は寝るから。じゃあね〉

 それきり殿下の声は聞こえなくなりました。
 子供たちは手を放して再びソファーに座りました。
 サリバン博士は眉間に皺を寄せてじっとしています。

「エスメラルダ、お願いできる?」

 エスメラルダはとても可愛らしい顔でにっこり微笑んでから口を開きました。

〈ローゼリア、落ち着け。僕だ、サミュエルだ〉

「えっ?えぇぇぇ~!」

〈そこで口に出しても私には聞こえないぞ。頭の中で話せ〉

〈殿下?どこにいるのですか?〉

〈自室だが?〉

〈かなり混乱しています!っていうか頭が追いつきません!〉

〈そこにサリバン博士もいるのか?〉

〈はい〉

〈それは好都合だ。一旦ソファーにでも座って落ち着け〉

〈はい、わかりました〉

 彼らが持つテレパス能力値の話や、なぜ手をつないでいるのかなども全て、エスメラルダの口からサミュエル殿下の言葉として語られます。
 それは見事な、一言一句違わない再生でした。
 彼らがなぜ喋らないかの謎が解けた最後のところまで話し終わったエスメラルダが立ち上がりました。

 ほかの三人もそれぞれ自分の落ち着く場所に戻って行きます。
 じっと最後まで聞いていた博士がゆっくりと声を出しました。

「奇跡だ」

 博士はゆらゆらと立ち上がり、自分の執務室に消えました。
 博士、お気持ちは十分にわかります!
 私だって倒れそうなくらい混乱してます!

 それからの二週間はまさしく矢のように過ぎて行きました。
 何度か殿下から脳内連絡があり、管理側で必要なものは無いか聞かれました。
 もちろんその都度博士に相談して回答しています。

 子供たちには個別に聞いているそうで、こちらからは身ひとつで来いと言われました。
 そんなとんでもない事が日常的に起こっているのに、見た目は穏やかな時が流れているのです。

 この子たちを子供と分類してよいのでしょうか?
 私は寝る間も惜しんで脳についての文献を読み漁りながら、ふとそんなことを考えてしまいました。

 そもそも子供ってどういう定義でしたっけ?
 体の発達状態だけでは無いですよね?
 
 私が信じていた一般常識って思い込みだったような気がしてくる今日この頃です。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~

沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。 ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。 魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。 そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。 果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。 転生要素は薄いかもしれません。 最後まで執筆済み。完結は保障します。 前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。 長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。 カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...