33 / 97
33
しおりを挟む
皇太子妃の無聊を慰めるために、旧友であるレモン・レイバート子爵令嬢が頻繫に訪れるようになった。
庭園の東屋や皇太子妃の私室で、お菓子の山を挟んで楽しそうに話している姿は、年相応の女性というより女学生のような雰囲気だ。
護衛騎士やメイド達は離れた位置から見守り、時には義兄であるシュラインや叔父であるサミュエルが加わることもある。
今日は珍しく庭園を散歩していた国王が飛び入り参加していた。
「シェリーはどんな学生だったのかね?」
国王の言葉にレモンが答える。
「お転婆な子でしたわ」
「それは想像できないな。シェリーは落ち着いた態度を崩さない淑女の鏡のような女性だと思っていたが?」
シェリーが肩を竦めた。
「国王陛下、それはきっと厳しい皇太子妃教育の賜物でございます」
国王の明るい笑い声が響く。
使用人たちは顔を見合わせて目を丸くした。
おそらく国王陛下も笑うんだなどと思っているに違いない。
そうシェリーは思った。
「いつまでも年寄りが邪魔をしてはいけないね。そろそろ行くよ。レイバート子爵令嬢、ゆっくりとしていきなさい」
「お気遣いいただき心より感謝いたします」
国王は立ち上がり、側近たちを引き連れて仕事に戻った。
ホッと胸を撫でおろすレモンは、シェリーに顔を近づけた。
「疑っているのでしょうか」
「まさかとは思うけれど用心するに越したことは無いわ。それにしても今日はあなたで良かったわ」
「今日はここに泊めていただき、明日兄と一緒に帰ることになっています」
「そうなのね。良かったら私の寝室に泊まらない? 続きの応接室で義兄様と叔父様を呼んでワインパーティーとかどう?」
「私の兄も呼びましょうか。兄の友人も来ているので」
「ああ、それは良いわね。用意させるわね」
シェリーは侍女を呼びワインパーティーを開催することを告げた。
「そういえばバラの花が散ったそうですよ」
シェリーは目を見開いた。
「いつ?」
「昨夜です。庭師は隠すと決めたようです」
「庭師の息子は騒ぐのではなくて?」
「息子は遠い国に仕入れに行っているので不在です」
「庭師は悲しんでいるのでしょうね」
「あのバラが散ったこととが主に知れることを恐れているので、少し動きがあるかもしれませんね。楽しみです」
そう言うとレモンは紅茶のカップに手を伸ばした。
薬漬けにされたローズが死んだ。
彼女が死んだことを国王が知ればどう動くだろうか。
「今日のパーティーのおつまみは何かしらね」
レモンが目だけシェリーに向ける。
「隣国から取り寄せた珍しい魚の燻製だと聞きましたわ」
「あら、それは楽しみね。四種類目かしら?」
「いえ、二種類目だと聞いておりますわ」
どうやらグリーナ王国の第二王子を取り込んだようだ。
シェリーはフッと息を吐く。
「今夜が楽しみね」
レモンが口角を上げた。
「妃殿下、私は兄のところに行ってまいりますわ。後ほどお部屋にお伺いいたします」
「ええ、わかったわ。私も残りの仕事を片づけてしまいましょう」
二人は立ち上がり東屋を出た。
その姿を回廊の端から見ていた国王は、側近を呼んで指示を出した。
「身元は?」
「間違いなくレイバート卿の妹です。学園を卒業後、領地に戻っておりましたが結婚相手を探すために王都に来たという本人の言葉通りの裏がとれました」
「フン! 何やら仕掛けがあるかと思ったが本当に旧友というだけか。アルバートは?」
「ミスティ侯爵邸に滞在してあられます」
「そろそろ操り人形になる頃だが、ミスティは何も言ってこんな」
側近は視線を下げた。
そんな側近を蔑むような目で見た後、国王は小さな声で言った。
「まあ良い。戻るぞ」
歩き出した国王の背中を、側近が慌てて追った。
庭園の東屋や皇太子妃の私室で、お菓子の山を挟んで楽しそうに話している姿は、年相応の女性というより女学生のような雰囲気だ。
護衛騎士やメイド達は離れた位置から見守り、時には義兄であるシュラインや叔父であるサミュエルが加わることもある。
今日は珍しく庭園を散歩していた国王が飛び入り参加していた。
「シェリーはどんな学生だったのかね?」
国王の言葉にレモンが答える。
「お転婆な子でしたわ」
「それは想像できないな。シェリーは落ち着いた態度を崩さない淑女の鏡のような女性だと思っていたが?」
シェリーが肩を竦めた。
「国王陛下、それはきっと厳しい皇太子妃教育の賜物でございます」
国王の明るい笑い声が響く。
使用人たちは顔を見合わせて目を丸くした。
おそらく国王陛下も笑うんだなどと思っているに違いない。
そうシェリーは思った。
「いつまでも年寄りが邪魔をしてはいけないね。そろそろ行くよ。レイバート子爵令嬢、ゆっくりとしていきなさい」
「お気遣いいただき心より感謝いたします」
国王は立ち上がり、側近たちを引き連れて仕事に戻った。
ホッと胸を撫でおろすレモンは、シェリーに顔を近づけた。
「疑っているのでしょうか」
「まさかとは思うけれど用心するに越したことは無いわ。それにしても今日はあなたで良かったわ」
「今日はここに泊めていただき、明日兄と一緒に帰ることになっています」
「そうなのね。良かったら私の寝室に泊まらない? 続きの応接室で義兄様と叔父様を呼んでワインパーティーとかどう?」
「私の兄も呼びましょうか。兄の友人も来ているので」
「ああ、それは良いわね。用意させるわね」
シェリーは侍女を呼びワインパーティーを開催することを告げた。
「そういえばバラの花が散ったそうですよ」
シェリーは目を見開いた。
「いつ?」
「昨夜です。庭師は隠すと決めたようです」
「庭師の息子は騒ぐのではなくて?」
「息子は遠い国に仕入れに行っているので不在です」
「庭師は悲しんでいるのでしょうね」
「あのバラが散ったこととが主に知れることを恐れているので、少し動きがあるかもしれませんね。楽しみです」
そう言うとレモンは紅茶のカップに手を伸ばした。
薬漬けにされたローズが死んだ。
彼女が死んだことを国王が知ればどう動くだろうか。
「今日のパーティーのおつまみは何かしらね」
レモンが目だけシェリーに向ける。
「隣国から取り寄せた珍しい魚の燻製だと聞きましたわ」
「あら、それは楽しみね。四種類目かしら?」
「いえ、二種類目だと聞いておりますわ」
どうやらグリーナ王国の第二王子を取り込んだようだ。
シェリーはフッと息を吐く。
「今夜が楽しみね」
レモンが口角を上げた。
「妃殿下、私は兄のところに行ってまいりますわ。後ほどお部屋にお伺いいたします」
「ええ、わかったわ。私も残りの仕事を片づけてしまいましょう」
二人は立ち上がり東屋を出た。
その姿を回廊の端から見ていた国王は、側近を呼んで指示を出した。
「身元は?」
「間違いなくレイバート卿の妹です。学園を卒業後、領地に戻っておりましたが結婚相手を探すために王都に来たという本人の言葉通りの裏がとれました」
「フン! 何やら仕掛けがあるかと思ったが本当に旧友というだけか。アルバートは?」
「ミスティ侯爵邸に滞在してあられます」
「そろそろ操り人形になる頃だが、ミスティは何も言ってこんな」
側近は視線を下げた。
そんな側近を蔑むような目で見た後、国王は小さな声で言った。
「まあ良い。戻るぞ」
歩き出した国王の背中を、側近が慌てて追った。
11
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
死ぬまでにやりたいこと~浮気夫とすれ違う愛~
ともどーも
恋愛
結婚して10年。愛し愛されて夫と一緒になった。
だけど今は部屋で一人、惨めにワインを煽る。
私はアニータ(25)。町の診療所で働く一介の治療師。
夫は王都を魔物から救った英雄だ。
結婚当初は幸せだったが、彼が英雄と呼ばれるようになってから二人の歯車は合わなくなった。
彼を愛している。
どこかで誰かに愛を囁いていたとしても、最後に私のもとに帰ってきてくれるならと、ずっと許してきた。
しかし、人には平等に命の期限がある。
自分に残された期限が短いと知ったとき、私はーー
若干ですが、BL要素がありますので、苦手な方はご注意下さい。
設定は緩めです💦
楽しんでいただければ幸いです。
皆様のご声援により、HOTランキング1位に掲載されました!
本当にありがとうございます!
m(。≧Д≦。)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる