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母親の自室のドアをノックすると、父親であるブラッド侯爵がドアを開けた。
「お帰り、さすが我が娘だ。行動が早い」
「ただいま帰りました。だってブルーノが脅すんですもの。お母様の具合が悪いって」
母親がソファーから立ち上がり、両手を広げる。
「良く帰ってきたわ。とても会いたかったの。だから具合が悪くなっちゃったのね」
「まあ、お母様ったら。とてもお元気そうで安心しましたわ」
「あら、私はとても重篤な状態よ? ねえ、あなた?」
父親が笑いながら言う。
「ああ、とても大変だったんだ。きっとお前の顔を見たから治ったんだろうね」
三人で抱き合っていると、お茶のワゴンを押してブルーノが入ってきた。
「誰も近寄らないように言ってるから安心して」
そう言うと、さっさとポットを持ち上げる。
「ブルーノが淹れてくれるの?」
「不味くても良いなら喜んで」
ニヤッと笑うブルーノからポットを奪ったシェリーがお茶を淹れ始める。
「皇太子妃殿下自らとは恐れ多いね」
「そんな冗談は良いから、早く始めましょう」
両親と弟の前にティーカップを置き、シェリーは真剣な顔をした。
「どのくらい居られるんだ?」
父親の声にシェリーが答える。
「十日よ。宰相のシュライン様がもぎ取って下さったわ」
「ああ、第一王子殿下か。彼は温厚な性格だよね。あの苛烈な側妃の血が入っているとは思えないほどに」
「そうね、そういう意味では国王陛下の血が濃かったのかもしれないわ。陛下もとても温和な方だもの」
「問題は皇太子殿下だな」
ブラッド侯爵はティーカップを持ち上げた。
「知っていたのかい?」
アルバートの不貞行為のことだろう。
「ブルーノから聞かされるまで疑ってもいなかったわ」
母親が驚いた声を出す。
「それほど信頼し合える関係性を築けていたの?」
「私は……そのつもりだったわ。でも私の独りよがりだったみたい」
「相手はミスティ侯爵令嬢らしい」
「私は見たわけでもないし、侍女達からも何か言われたわけでは無いの。でもブルーノの話を聞いてから、疑わしい行動ばかりが目につくわ」
「そう……ではやはり噂は本当なのかしらね」
母親が頬に手を当てて小首を傾げた。
「ねえ、お母様。社交界でも噂になっているの?」
「ええ、さすがにあなたの耳には入らないでしょうけれど、かなりの貴族たちが同じことを言っているわ。皇太子殿下は元婚約者の離婚で焼けぼっくいに火が付いたんだって」
「それは……分かり易すぎるわ。バカね……きっとおバカさんなのね……可哀そうに」
シェリー以外の三人は微妙な顔をした。
「そこ?」
「え?」
絶妙に嚙み合っていないことが発覚したが、一番大切なことはシェリーの幸せだ。
そもそも王命で相思相愛の恋人と引き裂かれたシェリーだ。
燃えるような恋は無理でも、心穏やかな生活はさせてやりたい。
「ローズ様はもともと皇太子妃になる予定だったのだし、隣国とはいえ皇太子妃の経験もあるのだから、即戦力でしょ? なぜ私と離婚してあちらを正妃になさらないのかしら」
シェリーの疑問はもっともだ。
「それは我が家の後ろ盾を手放したくないという思惑だろうな」
「ああ、なるほど。ミスティ家は下降気味だものね」
「そうなんだ。あそこは跡継ぎが養子だからか、影響力が徐々に落ちていたんだ。それに焦ったのだろう、無理な外交を独断で進めて大きな損害を被った」
「なにそれ?」
「知らないのか? イーサンが戦争に行く羽目になった大元の原因だよ」
「知らないわ……どういうこと?」
父親はシェリーの紅茶を一口含んでから話し始めた。
「お帰り、さすが我が娘だ。行動が早い」
「ただいま帰りました。だってブルーノが脅すんですもの。お母様の具合が悪いって」
母親がソファーから立ち上がり、両手を広げる。
「良く帰ってきたわ。とても会いたかったの。だから具合が悪くなっちゃったのね」
「まあ、お母様ったら。とてもお元気そうで安心しましたわ」
「あら、私はとても重篤な状態よ? ねえ、あなた?」
父親が笑いながら言う。
「ああ、とても大変だったんだ。きっとお前の顔を見たから治ったんだろうね」
三人で抱き合っていると、お茶のワゴンを押してブルーノが入ってきた。
「誰も近寄らないように言ってるから安心して」
そう言うと、さっさとポットを持ち上げる。
「ブルーノが淹れてくれるの?」
「不味くても良いなら喜んで」
ニヤッと笑うブルーノからポットを奪ったシェリーがお茶を淹れ始める。
「皇太子妃殿下自らとは恐れ多いね」
「そんな冗談は良いから、早く始めましょう」
両親と弟の前にティーカップを置き、シェリーは真剣な顔をした。
「どのくらい居られるんだ?」
父親の声にシェリーが答える。
「十日よ。宰相のシュライン様がもぎ取って下さったわ」
「ああ、第一王子殿下か。彼は温厚な性格だよね。あの苛烈な側妃の血が入っているとは思えないほどに」
「そうね、そういう意味では国王陛下の血が濃かったのかもしれないわ。陛下もとても温和な方だもの」
「問題は皇太子殿下だな」
ブラッド侯爵はティーカップを持ち上げた。
「知っていたのかい?」
アルバートの不貞行為のことだろう。
「ブルーノから聞かされるまで疑ってもいなかったわ」
母親が驚いた声を出す。
「それほど信頼し合える関係性を築けていたの?」
「私は……そのつもりだったわ。でも私の独りよがりだったみたい」
「相手はミスティ侯爵令嬢らしい」
「私は見たわけでもないし、侍女達からも何か言われたわけでは無いの。でもブルーノの話を聞いてから、疑わしい行動ばかりが目につくわ」
「そう……ではやはり噂は本当なのかしらね」
母親が頬に手を当てて小首を傾げた。
「ねえ、お母様。社交界でも噂になっているの?」
「ええ、さすがにあなたの耳には入らないでしょうけれど、かなりの貴族たちが同じことを言っているわ。皇太子殿下は元婚約者の離婚で焼けぼっくいに火が付いたんだって」
「それは……分かり易すぎるわ。バカね……きっとおバカさんなのね……可哀そうに」
シェリー以外の三人は微妙な顔をした。
「そこ?」
「え?」
絶妙に嚙み合っていないことが発覚したが、一番大切なことはシェリーの幸せだ。
そもそも王命で相思相愛の恋人と引き裂かれたシェリーだ。
燃えるような恋は無理でも、心穏やかな生活はさせてやりたい。
「ローズ様はもともと皇太子妃になる予定だったのだし、隣国とはいえ皇太子妃の経験もあるのだから、即戦力でしょ? なぜ私と離婚してあちらを正妃になさらないのかしら」
シェリーの疑問はもっともだ。
「それは我が家の後ろ盾を手放したくないという思惑だろうな」
「ああ、なるほど。ミスティ家は下降気味だものね」
「そうなんだ。あそこは跡継ぎが養子だからか、影響力が徐々に落ちていたんだ。それに焦ったのだろう、無理な外交を独断で進めて大きな損害を被った」
「なにそれ?」
「知らないのか? イーサンが戦争に行く羽目になった大元の原因だよ」
「知らないわ……どういうこと?」
父親はシェリーの紅茶を一口含んでから話し始めた。
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