66 / 66
66 最終話
しおりを挟む
そして一年の月日が流れた。
「どうもありがとうございました」
喪服の夫婦が参列者に礼を言っている。
泣きつかれているのか、二人の目は酷く落ち窪んでいた。
「伊藤さん……この度は……」
「ああ、藤田。忙しいのに悪いな」
「思ったより早かったですね。残念です」
「ああ、残念だ。残念だが苦しまなかっただけ救われたよ。静かに逝ったんだ。眠るように静かに……俺の腕の中で……優しい子だよ」
伊藤の横で妻が泣き崩れ、それを藤田の妻が支えた。
「二人で看取ってやることができた。ずっと毎日一緒にいられたんだ」
「そう……ですか……」
号泣する藤田の後ろから声がした。
「伊藤……言葉が無いよ」
「課長、お忙しいのにありがとうございます」
「いや、お前も辛いだろうが、奥さんのことちゃんとケアしてやれよ」
「ええ、二人ですから……もう二人だけですから……」
「ああ、そうだな。それにしても、どこで知るんだろうな。すごい花じゃないか」
「ええ、驚きましたよ」
泣き止まない藤田の肩を支えながら、課長と伊藤が供花の列を眺めた。
親族や勤務先からの花の横に、五組の供花が並んでいる。
「長谷部千代と市場正平。そして烏丸小夜子か。お? インドネシア大使館からも来てるじゃないか。後はサム・ワン・チェンか。なんともちぐはぐと言うかインターナショナルと言うか……」
「不思議な縁ですよね。うちの息子の顔を知っているわけでは無いのに、元華族や大富豪、果ては大使館とシンガポールからだ。あの宝石が繋いでくれたのかな」
「ああ、消されてしまった過去はもう戻らないよな……戻らないといえば、結局あの宝石ってどうなったんだろうな」
「どうでしょうね。もしかしたらエトワールの首輪にぶら下がっているかもしれませんね。妻の慰めになるなら猫でも飼ってみようかな」
「黒猫?」
「それも良いですね」
「……伊藤、落ち着いたら戻ってこい」
「はい、よろしくお願いします」
もう二度と痛みを感じなくて済む世界に旅立った息子を見送るように見上げた空には、まるで天国へ続く階段のような白い雲が一筋流れていた。
おしまい
「どうもありがとうございました」
喪服の夫婦が参列者に礼を言っている。
泣きつかれているのか、二人の目は酷く落ち窪んでいた。
「伊藤さん……この度は……」
「ああ、藤田。忙しいのに悪いな」
「思ったより早かったですね。残念です」
「ああ、残念だ。残念だが苦しまなかっただけ救われたよ。静かに逝ったんだ。眠るように静かに……俺の腕の中で……優しい子だよ」
伊藤の横で妻が泣き崩れ、それを藤田の妻が支えた。
「二人で看取ってやることができた。ずっと毎日一緒にいられたんだ」
「そう……ですか……」
号泣する藤田の後ろから声がした。
「伊藤……言葉が無いよ」
「課長、お忙しいのにありがとうございます」
「いや、お前も辛いだろうが、奥さんのことちゃんとケアしてやれよ」
「ええ、二人ですから……もう二人だけですから……」
「ああ、そうだな。それにしても、どこで知るんだろうな。すごい花じゃないか」
「ええ、驚きましたよ」
泣き止まない藤田の肩を支えながら、課長と伊藤が供花の列を眺めた。
親族や勤務先からの花の横に、五組の供花が並んでいる。
「長谷部千代と市場正平。そして烏丸小夜子か。お? インドネシア大使館からも来てるじゃないか。後はサム・ワン・チェンか。なんともちぐはぐと言うかインターナショナルと言うか……」
「不思議な縁ですよね。うちの息子の顔を知っているわけでは無いのに、元華族や大富豪、果ては大使館とシンガポールからだ。あの宝石が繋いでくれたのかな」
「ああ、消されてしまった過去はもう戻らないよな……戻らないといえば、結局あの宝石ってどうなったんだろうな」
「どうでしょうね。もしかしたらエトワールの首輪にぶら下がっているかもしれませんね。妻の慰めになるなら猫でも飼ってみようかな」
「黒猫?」
「それも良いですね」
「……伊藤、落ち着いたら戻ってこい」
「はい、よろしくお願いします」
もう二度と痛みを感じなくて済む世界に旅立った息子を見送るように見上げた空には、まるで天国へ続く階段のような白い雲が一筋流れていた。
おしまい
13
お気に入りに追加
58
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
【完結】リアナの婚約条件
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
山奥の広大な洋館で使用人として働くリアナは、目の前の男を訝し気に見た。
目の前の男、木龍ジョージはジーウ製薬会社専務であり、経済情報雑誌の表紙を何度も飾るほどの有名人だ。
その彼が、ただの使用人リアナに結婚を申し込んできた。
話を聞いていた他の使用人達が、甲高い叫び声を上げ、リアナの代わりに頷く者までいるが、リアナはどうやって木龍からの提案を断ろうか必死に考えていた。
リアナには、木龍とは結婚できない理由があった。
どうしても‥‥‥
登場人物紹介
・リアナ
山の上の洋館で働く使用人。22歳
・木龍ジョージ
ジーウ製薬会社専務。29歳。
・マイラー夫人
山の上の洋館の女主人。高齢。
・林原ケイゴ
木龍ジョージの秘書
・東城院カオリ
木龍ジョージの友人
・雨鳥エリナ
チョウ食品会社社長夫人。長い黒髪の派手な美人。
・雨鳥ソウマ
チョウ食品会社社長。婿養子。
・林山ガウン
不動産会社社員
忘却の魔法
平塚冴子
ミステリー
フリーライターの梶は、ある年老いた脳科学者の死について調べていた。
その学者は脳内が爆弾でも仕掛けられたかのように、あちこちの血管が切れて多量の脳内出血で亡くなっていた。
彼の研究には謎が多かった。
そして…国が内密に研究している、『忘却魔法』と呼ばれる秘密に触れる事になる。
鍵となる人物『18番』を探して辿り着いたのは…。
失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話
本見りん
ミステリー
交通事故に遭った沙良が目を覚ますと、そこには婚約者の拓人が居た。
一年前の交通事故で沙良は記憶を失い、今は彼と結婚しているという。
しかし今の沙良にはこの一年の記憶がない。
そして、彼女が記憶を失う交通事故の前に見たものは……。
『○曜○イド劇場』風、ミステリーとサスペンスです。
最後のやり取りはお約束の断崖絶壁の海に行きたかったのですが、海の公園辺りになっています。
アナグラム
七海美桜
ミステリー
26歳で警視になった一条櫻子は、大阪の曽根崎警察署に新たに設立された「特別心理犯罪課」の課長として警視庁から転属してくる。彼女の目的は、関西に秘かに収監されている犯罪者「桐生蒼馬」に会う為だった。櫻子と蒼馬に隠された秘密、彼の助言により難解な事件を解決する。櫻子を助ける蒼馬の狙いとは?
※この作品はフィクションであり、登場する地名や団体や組織、全て事実とは異なる事をご理解よろしくお願いします。また、犯罪の内容がショッキングな場合があります。セルフレイティングに気を付けて下さい。
イラスト:カリカリ様
背景:由羅様(pixiv)
朱の緊縛
女装きつね
ミステリー
ミステリー小説大賞2位作品 〜トマトジュースを飲んだら女体化して、メカケとその姉にイジられるのだが嫌じゃないっ!〜
『怖いのなら私の血と淫水で貴方の記憶を呼び覚ましてあげる。千秋の昔から愛しているよ』――扉の向こうに行けば君が居た。「さあ、私達の愛を思い出して」と変わらぬ君の笑顔が大好きだった。
同僚に誘われ入ったBARから始まる神秘的本格ミステリー。群像劇、個性際立つ魅力的な女性達。現実か幻想か、時系列が前後する中で次第に結ばれていく必然に翻弄される主人公、そして全てが終わった時、また針が動き出す。たどり着いた主人公が耳にした言葉は。
アルファポリス第4回ホラー・ミステリー小説大賞900作品/2位作品
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きが気になる!
いつもありがとうございます。
最後までお付き合いくださいね。