15 / 63
15 暗転ふたたび
しおりを挟む
サーフェスはうれしそうな顔で答えてくれた。
「そうだよ、オオクニヌシはヤマトタケルの魂を半分に切り裂いたときに欠けたんだ。それを拾って祀っていたのが君の家系だ。君の家系はクサナギとオオクニヌシを鍛えた刀鍛冶を祖としてる。そしてオオクニヌシでヤマトタケルに切りかかったのが、刀鍛冶の妻であるミヤズヒメだ」
「いやいやちょっと待ってよ。ミヤズヒメってヤマトタケルの最後の妻じゃなかったっけ?」
「古代文献はそう記載しているね。ヒノモトの頂点たる血筋のスキャンダルは隠したかったのだろう」
「だめだ…頭がパニックだ。情報量が多すぎる」
「ははは!そりゃそうだろう。日本史がひっくり返るからね。でもこれが真実なんだよ。君は僕の言葉を疑っていないだろう?それはね、君の血の中に記憶があるからだ。ずっと受け継がれてきた細胞に刻まれた記憶だ。だから本能的に受け入れているんだね」
僕は顔を顰めて頭を抱えた。
お祖父様と山上教授は、そんな僕たちなどお構いなしに昔話に花を咲かせている。
みんな変だよ?緊張感というものをどこかに捨ててきたのだろうか。
サーフェスが咳ばらいを一つして口を開いた。
「まあそういうことで、よろしく頼むよ。魂の輪廻はさすがの僕たちも関与できないからね、当時の関係者がこの時代に揃ったということは、決着をつけろということだろうと思うんだ。この機を逃すとまた二千年位は待たなくちゃいけないからね」
お祖父様の顔が引き締まった。
僕の知らなかった顔だ。
なんと言うか…古武士?
「それでは私は早速研ぎに入りましょう。教授は神火を絶やさぬようにお願いします。結界は十重二十重に張りますが、鳥居前の守りはヤマタの一族を呼びましょう」
山上教授はコクコクと頷いた。
「うん、頼むよ。トオルを鍛える必要があるから僕たちはちょっと山に籠ろうかな」
僕はギクッとしてサーフェスを見た。
「僕が?鍛えるって…」
「そうだよ?君はアツタノミコとヤマタ一族の両方の血を受け継いだ唯一の人だからね。君にしかオオクニヌシは扱えないんだ」
「………終わったらゆっくり聞くよ。要するに僕も戦うんだね?ヤマトタケルと」
「そうだね。でも『僕も』ではなく『僕が』だ。それに…ん?この気配は…思っていたより早いな…伏せろ!来るぞ!」
サーフェスの声にお祖父様と教授は畳の上にへばりついた。
咄嗟に動けなかった僕に手を伸ばし、お祖父様が引き倒すようにして僕を抱え込んだ。
家中の建具がガタガタと小刻みに揺れ始めると、ふすまが強風で吹き飛び僕たちの頭の上を掠めるようにして庭に投げ出された。
「まだだ!動くなよ」
サーフェスの声も緊張している。
顔だけを少し動かして辺りの様子を伺うと、ふすまが無くなった広縁の外に濃い鼠色の霧が立ち込めていた。
「実体はないな。斥候だな…この程度の脅しで怯むとでも思ったか?侮られたものだ」
サーフェスが誰にともなく言っている。
僕は十分に怯んだが、それを口にできるような雰囲気ではなかった。
「トオル!時間が無い。戦い方は実戦で覚えてくれ!行くぞ!」
そして僕の周りは再び暗転した。
「サーフェス?」
闇の中で友の名を呼んだ。
「ここだ」
声が聞こえた方を向くが何も見えない。
「まずはこの暗闇を切り裂かねばならない。君の手に握られている剣を振り回せ」
「剣?」
「握ってるだろう?」
「え?あ…ああ、これ?これって剣なの?」
「そうだよ。神刀クサナギだ」
「ク!クサナギ!」
「唯の形代だから気にするな。さあ!振り回せ!」
僕は戸惑いながらもぶんぶんと右手に握っているものを振り回した。
振った軌跡が光りの線になっていく。
ただ振り回しても労力の無駄だと気づいた僕は、少しずつずらしながら同じ方向を何度も切り裂いた。
「おお!もうすぐ抜けられるぞ」
線でなく面にすることで体が入れそうな隙間を作ることに成功した僕は、その光りの方へ一歩踏み出した。
「うわっ!」
落ちる!そう思った瞬間何かが僕の体を包みふわっとした浮遊感を感じた。
「ゆっくり降りるぞ。降りたい場所を凝視することで方向は変えられる。ちょっとやってみるか?上を向いてみろよ」
僕はゆっくりと上を見た。
すると体が浮き上がった。
右を見ると右に、下を見ると下に体が進んでいる。
「凄いな…」
「そろそろ降りよう」
サーフェスの声が聞こえた。
「そうだよ、オオクニヌシはヤマトタケルの魂を半分に切り裂いたときに欠けたんだ。それを拾って祀っていたのが君の家系だ。君の家系はクサナギとオオクニヌシを鍛えた刀鍛冶を祖としてる。そしてオオクニヌシでヤマトタケルに切りかかったのが、刀鍛冶の妻であるミヤズヒメだ」
「いやいやちょっと待ってよ。ミヤズヒメってヤマトタケルの最後の妻じゃなかったっけ?」
「古代文献はそう記載しているね。ヒノモトの頂点たる血筋のスキャンダルは隠したかったのだろう」
「だめだ…頭がパニックだ。情報量が多すぎる」
「ははは!そりゃそうだろう。日本史がひっくり返るからね。でもこれが真実なんだよ。君は僕の言葉を疑っていないだろう?それはね、君の血の中に記憶があるからだ。ずっと受け継がれてきた細胞に刻まれた記憶だ。だから本能的に受け入れているんだね」
僕は顔を顰めて頭を抱えた。
お祖父様と山上教授は、そんな僕たちなどお構いなしに昔話に花を咲かせている。
みんな変だよ?緊張感というものをどこかに捨ててきたのだろうか。
サーフェスが咳ばらいを一つして口を開いた。
「まあそういうことで、よろしく頼むよ。魂の輪廻はさすがの僕たちも関与できないからね、当時の関係者がこの時代に揃ったということは、決着をつけろということだろうと思うんだ。この機を逃すとまた二千年位は待たなくちゃいけないからね」
お祖父様の顔が引き締まった。
僕の知らなかった顔だ。
なんと言うか…古武士?
「それでは私は早速研ぎに入りましょう。教授は神火を絶やさぬようにお願いします。結界は十重二十重に張りますが、鳥居前の守りはヤマタの一族を呼びましょう」
山上教授はコクコクと頷いた。
「うん、頼むよ。トオルを鍛える必要があるから僕たちはちょっと山に籠ろうかな」
僕はギクッとしてサーフェスを見た。
「僕が?鍛えるって…」
「そうだよ?君はアツタノミコとヤマタ一族の両方の血を受け継いだ唯一の人だからね。君にしかオオクニヌシは扱えないんだ」
「………終わったらゆっくり聞くよ。要するに僕も戦うんだね?ヤマトタケルと」
「そうだね。でも『僕も』ではなく『僕が』だ。それに…ん?この気配は…思っていたより早いな…伏せろ!来るぞ!」
サーフェスの声にお祖父様と教授は畳の上にへばりついた。
咄嗟に動けなかった僕に手を伸ばし、お祖父様が引き倒すようにして僕を抱え込んだ。
家中の建具がガタガタと小刻みに揺れ始めると、ふすまが強風で吹き飛び僕たちの頭の上を掠めるようにして庭に投げ出された。
「まだだ!動くなよ」
サーフェスの声も緊張している。
顔だけを少し動かして辺りの様子を伺うと、ふすまが無くなった広縁の外に濃い鼠色の霧が立ち込めていた。
「実体はないな。斥候だな…この程度の脅しで怯むとでも思ったか?侮られたものだ」
サーフェスが誰にともなく言っている。
僕は十分に怯んだが、それを口にできるような雰囲気ではなかった。
「トオル!時間が無い。戦い方は実戦で覚えてくれ!行くぞ!」
そして僕の周りは再び暗転した。
「サーフェス?」
闇の中で友の名を呼んだ。
「ここだ」
声が聞こえた方を向くが何も見えない。
「まずはこの暗闇を切り裂かねばならない。君の手に握られている剣を振り回せ」
「剣?」
「握ってるだろう?」
「え?あ…ああ、これ?これって剣なの?」
「そうだよ。神刀クサナギだ」
「ク!クサナギ!」
「唯の形代だから気にするな。さあ!振り回せ!」
僕は戸惑いながらもぶんぶんと右手に握っているものを振り回した。
振った軌跡が光りの線になっていく。
ただ振り回しても労力の無駄だと気づいた僕は、少しずつずらしながら同じ方向を何度も切り裂いた。
「おお!もうすぐ抜けられるぞ」
線でなく面にすることで体が入れそうな隙間を作ることに成功した僕は、その光りの方へ一歩踏み出した。
「うわっ!」
落ちる!そう思った瞬間何かが僕の体を包みふわっとした浮遊感を感じた。
「ゆっくり降りるぞ。降りたい場所を凝視することで方向は変えられる。ちょっとやってみるか?上を向いてみろよ」
僕はゆっくりと上を見た。
すると体が浮き上がった。
右を見ると右に、下を見ると下に体が進んでいる。
「凄いな…」
「そろそろ降りよう」
サーフェスの声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
もふもふ好きの異世界召喚士
海月 結城
ファンタジー
猫や犬。もふもふの獣が好きな17歳の少年。そんな彼が猫が轢かれそうになった所を身を呈して助けたが、助けた彼が轢かれて死んでしまった。そして、目が醒めるとそこは何もない真っ白な空間だった。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
スライムから人間への転生〜前世の力を受け継いで最強です
モモンガ
ファンタジー
5/14HOT(13)人気ランキング84位に載りました(=´∀`)
かつて勇者と共に魔王を討伐したスライムが世界から消えた…。
それから300年の月日が経ち、人間へと転生する。
スライムだった頃の力【勇者】【暴食】を受け継ぎいろんな場所を巡る旅をする
そんな彼の旅への目的はただ1つ!世界中の美味しいご飯を食べる事!
そんな食いしん坊の主人公が何事もないように強敵を倒し周りを巻き込んで行く!
そんな主人公の周りにはいつのまにか仲間ができ一緒に色々なご飯を食べて行く!
*去年の9月まで小説家になろう。で連載を辞めた作品です。
続きを書こうと気持ちになりまして、こちらで再開しようもおもった次第です。
修正を加えてます。
大きいのは主人公の名前を変えました。(ヒロインと最初の一文字が被っている為)
レアル→リューク
ラノベ専用アカウント作りましたー( ̄∀ ̄)
Twitter→@5XvH1GPFqn1ZEDH
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?
みずがめ
ファンタジー
自身の暗い性格をコンプレックスに思っていた男が死んで異世界転生してしまう。
転生した先では性別が変わってしまい、いわゆるTS転生を果たして生活することとなった。
せっかく異世界ファンタジーで魔法の才能に溢れた美少女になったのだ。元男は前世では掴めなかった幸せのために奮闘するのであった。
これは前世での後悔を引きずりながらもがんばっていく、TS少女の物語である。
※この作品は他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる