51 / 69
51
しおりを挟む
オーエンを先頭に総勢8人の大所帯だ。
裏庭で遊んでいた子供たちが、何事かと木の陰から覗いてみている。
「あっ! オーエン父さん!」
一人の子供が駆け寄ってきた。
すると他の子供たちも一斉に駆け出し、あっという間にオーエンを取り囲んだ。
みんな口々にオーエン父さんと呼んでいる。
「待て待て! 挨拶をしなさいといつも言っているだろう? 今日はクッキーを持ってきたから、みんなで食べなさい。私はお客様を案内するから邪魔をしてはいけないよ」
「はぁ~い」
一番年長の男の子が籠を受け取り、小さい子たちの手を引いて裏庭へ向かう。
オーエンはホッと息を吐いた。
「おい、ちょっと待て」
レガート侯爵の声がかかる。
子供たちはビクッとして立ち止まった。
「子供たちを並ばせろ」
オーエンが頷いて見せると、子供たちがバラバラと横並びになる。
馬を降りた侯爵が、一人ずつ子供の顔を確認し始めた。
「何事ですか?」
スミス牧師が教会から出てくる。
「ああ、牧師様。お客様です。何かお探し物があるそうで」
オーエンが口を開くと、スミス牧師が頷いた。
「お客様ですか。こんな田舎に探し物とは珍しい」
その間にも傭兵たちは教会の庭をうろつきまわる。
背丈の高い草の中まで探る念の入れようだった。
「お前、名前と歳は?」
レガート侯爵が端の子供に質問した。
「おいらはサムです。11歳です」
「お前は?」
どうやら全員に聞くつもりのようだ。
子供たちはおろおろしながらも、きちんと答えている。
そして侯爵の足がホープスの前に止まった。
「お前は?」
「僕は……スミスです。5歳です」
「ん? お前……おい! 領主!」
「はい! 何でしょう」
オーエンが慌てて駆け寄る。
「こいつ怪我をしている。見てやれ」
「あれ? 本当だ。どこにぶつけたんだ? ほっぺたが切れてるぞ」
「さっきね、鬼ごっこしてて木にぶつかっちゃったの」
「そうか、水で洗って薬を塗ろう。こっちにおいで」
オーエンがエスポの手を引いて、教会の方に歩いて行った。
スミスが後を追う。
「領主様、私がやりますので。領主様はお客様を」
「ああ、そうですね。お願いします」
オーエンはエスポをスミスに渡し、レガート侯爵の元に戻った。
最後の子供まで全て確認し終えた侯爵が振り返る。
「どいつもこいつも田舎臭い顔をしている。子供はこれだけか?」
「まだいますが、後の子たちはみんな親の手伝いで畑に出ています。歩けないほど幼い子は母親がおぶっているか、籠に入れられているかですが」
「もういい。教会の中を見せろ」
庭の探索を終えた傭兵たちも集まってくる。
レガートはオーエンを先頭に立たせて、教会の扉をくぐった。
小さな礼拝堂には、今にも壊れそうな木の椅子が十数個、無造作に並んでいる。
説教台の横でのろのろと箒を動かしているのは教会の下男だ。
「爺さん、いつもご苦労だね」
下男が顔を上げる。
「ああ、領主様かね。今日も差し入れかね? ありがたいねぇ」
下男は酷い猫背で、左足を庇うようにして腰を伸ばした。
傭兵の一人が下男に声を掛ける。
「おい、じじい。厠はどこだ」
「ご不浄なら外に出て左に回った小屋でさぁ。今は婆さんが掃除をしているんじゃなかったかな?」
よほど我慢していたのか、その傭兵は侯爵の許可も取らずに駆け出した。
他の傭兵たちはへらへら笑いながら見送っている。
「腹でも壊したか? 腐ってるもんでも食ったんじゃねえか?」
「それなら同じもんを食った俺たちも下してるだろ? 腹出してねたんだろうぜ」
それを聞きながら侯爵がチッと舌打ちをした。
「牧師さん、ここはあんただけかね?」
「いいえ、私ともう一人神に仕える者がおります。後は雑用をしてくれる老夫婦です」
「さっきの子供らは?」
「親が働いている時間はここで預かっています」
「孤児は?」
「何人かはおりますが……」
スミスが不安そうにオーエンの顔を見た。
オーエンが話を引き取る。
「流行り病で両親とも失くした子供がいますよ。先ほどの中で大きい子たちはほとんどそうです。あと何年かしたらどこかの商会にでも奉公に出す予定です」
「もう一人の神のしもべとやらはどこにいる?」
スミスが口を開こうとしたとき、厠へ行っていた傭兵が戻ってきた。
裏庭で遊んでいた子供たちが、何事かと木の陰から覗いてみている。
「あっ! オーエン父さん!」
一人の子供が駆け寄ってきた。
すると他の子供たちも一斉に駆け出し、あっという間にオーエンを取り囲んだ。
みんな口々にオーエン父さんと呼んでいる。
「待て待て! 挨拶をしなさいといつも言っているだろう? 今日はクッキーを持ってきたから、みんなで食べなさい。私はお客様を案内するから邪魔をしてはいけないよ」
「はぁ~い」
一番年長の男の子が籠を受け取り、小さい子たちの手を引いて裏庭へ向かう。
オーエンはホッと息を吐いた。
「おい、ちょっと待て」
レガート侯爵の声がかかる。
子供たちはビクッとして立ち止まった。
「子供たちを並ばせろ」
オーエンが頷いて見せると、子供たちがバラバラと横並びになる。
馬を降りた侯爵が、一人ずつ子供の顔を確認し始めた。
「何事ですか?」
スミス牧師が教会から出てくる。
「ああ、牧師様。お客様です。何かお探し物があるそうで」
オーエンが口を開くと、スミス牧師が頷いた。
「お客様ですか。こんな田舎に探し物とは珍しい」
その間にも傭兵たちは教会の庭をうろつきまわる。
背丈の高い草の中まで探る念の入れようだった。
「お前、名前と歳は?」
レガート侯爵が端の子供に質問した。
「おいらはサムです。11歳です」
「お前は?」
どうやら全員に聞くつもりのようだ。
子供たちはおろおろしながらも、きちんと答えている。
そして侯爵の足がホープスの前に止まった。
「お前は?」
「僕は……スミスです。5歳です」
「ん? お前……おい! 領主!」
「はい! 何でしょう」
オーエンが慌てて駆け寄る。
「こいつ怪我をしている。見てやれ」
「あれ? 本当だ。どこにぶつけたんだ? ほっぺたが切れてるぞ」
「さっきね、鬼ごっこしてて木にぶつかっちゃったの」
「そうか、水で洗って薬を塗ろう。こっちにおいで」
オーエンがエスポの手を引いて、教会の方に歩いて行った。
スミスが後を追う。
「領主様、私がやりますので。領主様はお客様を」
「ああ、そうですね。お願いします」
オーエンはエスポをスミスに渡し、レガート侯爵の元に戻った。
最後の子供まで全て確認し終えた侯爵が振り返る。
「どいつもこいつも田舎臭い顔をしている。子供はこれだけか?」
「まだいますが、後の子たちはみんな親の手伝いで畑に出ています。歩けないほど幼い子は母親がおぶっているか、籠に入れられているかですが」
「もういい。教会の中を見せろ」
庭の探索を終えた傭兵たちも集まってくる。
レガートはオーエンを先頭に立たせて、教会の扉をくぐった。
小さな礼拝堂には、今にも壊れそうな木の椅子が十数個、無造作に並んでいる。
説教台の横でのろのろと箒を動かしているのは教会の下男だ。
「爺さん、いつもご苦労だね」
下男が顔を上げる。
「ああ、領主様かね。今日も差し入れかね? ありがたいねぇ」
下男は酷い猫背で、左足を庇うようにして腰を伸ばした。
傭兵の一人が下男に声を掛ける。
「おい、じじい。厠はどこだ」
「ご不浄なら外に出て左に回った小屋でさぁ。今は婆さんが掃除をしているんじゃなかったかな?」
よほど我慢していたのか、その傭兵は侯爵の許可も取らずに駆け出した。
他の傭兵たちはへらへら笑いながら見送っている。
「腹でも壊したか? 腐ってるもんでも食ったんじゃねえか?」
「それなら同じもんを食った俺たちも下してるだろ? 腹出してねたんだろうぜ」
それを聞きながら侯爵がチッと舌打ちをした。
「牧師さん、ここはあんただけかね?」
「いいえ、私ともう一人神に仕える者がおります。後は雑用をしてくれる老夫婦です」
「さっきの子供らは?」
「親が働いている時間はここで預かっています」
「孤児は?」
「何人かはおりますが……」
スミスが不安そうにオーエンの顔を見た。
オーエンが話を引き取る。
「流行り病で両親とも失くした子供がいますよ。先ほどの中で大きい子たちはほとんどそうです。あと何年かしたらどこかの商会にでも奉公に出す予定です」
「もう一人の神のしもべとやらはどこにいる?」
スミスが口を開こうとしたとき、厠へ行っていた傭兵が戻ってきた。
129
お気に入りに追加
1,500
あなたにおすすめの小説
転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。
トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定
2024.6月下旬コミックス1巻刊行
2024.1月下旬4巻刊行
2023.12.19 コミカライズ連載スタート
2023.9月下旬三巻刊行
2023.3月30日二巻刊行
2022.11月30日一巻刊行
寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。
しかも誰も通らないところに。
あー詰んだ
と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。
コメント欄を解放しました。
誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。
書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。
出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。
古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。
まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。
ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。
ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです
風見ゆうみ
恋愛
「ごめん。婚約を解消してほしい。彼女に子供が出来たんだ」
「……彼女…? 子供…?」
7日に一度のデートの日。
私、アンジェ・ティーノ子爵令嬢は、婚約者であるハック・エルビー伯爵令息に、満席のカフェの中で、そんな話をされたのだった。
彼が浮気をしたのは全て私のせいらしい…。
悪いのはハックじゃないの…?
※ベリーズカフェ様にも投稿しています。
※史実とは関係なく、設定もゆるゆるでご都合主義です。テンプレ展開ですので、さらっとお読みください。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良いものとなっています。
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
【完結】嫌いな婚約者を抱いたら好きになってしまったらしい
ユユ
恋愛
王命で決まった婚約者が嫌いだった。
王子と浮気する婚約者に腹が立った。
自分は高貴な女ですと言わんばかりの顔を
歪ませ屈伏させたかった。
だが屈伏させられるのは俺の方だった。
* 作り話です
* 男性主人公です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
皆まとめて婚約破棄!? 男を虜にする、毒の花の秘密を暴け! ~見た目だけは可憐な毒花に、婚約者を奪われた令嬢たちは……~
飛鳥井 真理
恋愛
このところ社交界では、ひとりの女性が噂になっていた。曰く、お相手のいる殿方に思わせぶりな態度を取っては手玉に取る毒花のような人だと、清楚な見た目に騙されてはいけないと。実際、パートナーがいるにも関わらず、噂の女性に夢中になる恋人や婚約者たちが続出しているらしく、令嬢や貴婦人たちの苛立ちは増すばかり……。
そしてついに、ランスフォード公爵邸にて催された夜会で、シルヴィアーナ・バーリエット公爵令嬢は、婚約者であるランシェル・ハワード第一王子に婚約の解消を告げられてしまうのだった。しかも、その場で婚約を解消されるのは彼女だけではなかったようで……?
※2022.3.25 題名変更しました。旧題名:『 見た目だけは可憐な毒花に、婚約者を奪われた令嬢たちは…… 』
※連載中も随時、加筆、修正していきます。話の進行に影響はありません。
※ カクヨム様、小説家になろう様にも掲載しています。
※2022.2.28 執筆再開しました。
続きを読みに来てくださった皆様、また、新たに読みはじめてくださった皆様、本当にありがとうございます。とてもうれしく、執筆の励みになっております。
※第14回 及び 第15回 恋愛小説大賞 奨励賞 受賞作品 (作品への応援、ありがとうございました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる