愛すべきマリア

志波 連

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 再度円卓を囲んだのは、三人の国王と二人の王子、そして宰相と側近二人だ。
 女性陣はすでに部屋を出ている。

「時系列で初めから話してくれ」

 アラバスがカーチスに目を向けた。

「はい、あの日夜通し駆けてシラーズに到着した僕たちは、すぐに国王陛下に謁見を願い出ました。顔見知りになっていた大臣がすぐに対応してくれましたので、国王陛下には到着したその日のうちにお会いすることができました」

 シラーズ王とカーチスが互いに頷きあう。
 続けたのはシラーズ王だった。

「妹の再婚約の話もありましたし、どうにか戦争を終わらせることができないかと模索していた最中でしたので、私が直接出向くのが一番だと判断したのです。大臣たちは危険だと反対しましたが、この機会を逃しては民たちの苦しみを長引かせるだけだと思い、説得し留守を預けました」

「バッディ国王もそうだが、よく大臣が頷きましたね」

 ワンダリア国王の言葉に、バッディ王が頭を搔いた。

「要するに、私がまだ国王として浸透していないのですよ。呼び名は国王になりましたが、扱いとしては王太子というわけです」

 シラーズ王が頷いた。

「うちも同じようなものです。なんといってもカーチス殿下とアレン卿にお尻をひっぱたかれて初めて動いたようなものですから。王の首が挿げ変わったというだけで、内情は何も変わってはいません」

「それを良い方に変えるために行動なさったのですから、ご立派だと思います。今回は特に、ほんの少しの判断の遅れが、民の命に直結するような重大な局面ですからね。その行動力には心から感服いたしました。それでカーチス、矢を射かけられたのはどこだ?」

 王たちを持ち上げたアラバスが、そのままカーチスに話を振る。

「残念ながらわが国に入ってからなんだよね。国境を越えて三つの峠があるでしょう?」

 アレンが口を挟む。

「最初の峠は王家直轄地だったよな? 二つ目は確か……」

 アレンの声にトーマスが答える。

「我がアスター侯爵領だよ。飛び地になっていて、人もほとんど住んでいない土地だ。いるとしたら山羊か牛を飼っている民たちだが……あっ」

「どうした?」

「その飛び地の向こうはクランプ公爵領だ。街道は我が領だが、牧草地と谷を挟んだ向こうはクランプ家が所有しているはずさ」

 アラバスがアレンに言う。

「文官を呼んですぐに確認してくれ」

 頷いたアレンがドアへと急いだ。

「なあトーマス、お前の父親はどこにいる?」

「彼らは平民となってから忽然と消えた。全く分からないんだよ。だからバッディのお祖父様が消しちゃったんだろうって思ってたのだけれど」

 カーチスが言う。

「僕は彼らのことはよく知らないけれど、矢を射かけられた時、シラーズ王の回りを囲ませて、護衛達を先に走らせたんだ。僕と数人はその場に残り岩陰に潜んで様子を見たんだ。どの方角から射かけてきたのか確認する必要があったし、できれば捕縛したかったからね」

 アラバスが満足そうに頷いた。

「案の定というか、次の攻撃はすぐに来たんだ。方角はシラーズを背にして、街道の左側からだった。森が広がっていて、その中に身を潜めていると判断した」

「何人だった?」

 トーマスの声にカーチスが的確に答えた。

「一度に撃ってきた数は三つ。次の矢までの間に十ほど数えたから、人数は最低でも三人だと思う。連射が遅いことを考えると、間違いないだろう。しかもどんどん射程が短くなっていたから、退却しながらの攻撃していたのだと思う」

「追わなかったのか?」

「うん、シラーズ王の安全を優先した。でもね、落ちた矢は回収してきたよ。森で残留物を探したけれど、何もなかった」

「良い判断だ。矢は騎士が?」

「うん、分析させているよ。そろそろ結果が来るんじゃないかな」

 アラバスがカーチスを見た。

「気づかぬうちに成長したものだ。先程の褒美はマカロニからマカロンに変えてやろう」

 カーチスが目を細める。

「アリガトウゴザイマス?」

 三人の会話を聞いていたシラーズ王が口を開いた。

「心当たりがありそうですね?」

 アラバスが頷く。

「恐らくは、わが国の公爵家に繋がる者だと思います」

 ワンダリア王が声を出した。

「クランプは今どしているのだ?」

 アラバスの顔がピリッと引き締まった。


 I wish you a Merry Christmas!  志波 連
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