28 / 100
28
しおりを挟む
テーブルゲーム室で、護衛騎士からの報告を受けて笑いを嚙み殺していた時、再びドアが開き、湖畔の林に潜伏していた騎士が入ってきた。
ラランジェ王女一行を監視していたその者の報告を聞いたアレンが溜息を漏らす。
「結局、狐族も狸族も思考の傾向は同じなんだね。何がドラマチックだよ。バカバカしい」
「全くだ。俺をなんだと思っているのだろうな」
アラバスが苛立ちを隠さないで吐き捨てた。
「まあまあ、気を取り直して再開しよう。このままではアラバスの一人負けだ」
アラバスが片眉を上げる。
「お前たち、今日というハレの日を迎えた花婿を祝福しようという気は無いのか?」
ほぼ同時にアレンとトーマスが声を出した。
「「無いね」」
「フンッ!」
テーブルに置かれていたカードをアレンが集め、シャッフルを始める。
「なあ、本当に今日から夫婦の寝室を使うのか?」
チラッとトーマスを見てからアラバスが答えた。
「何処に目があるかわからんから一緒に部屋には入るが、内扉からマリアは自室に戻らせるつもりだ。ベッドに細工をしたら、俺も自室で寝るよ」
何も言わずにトーマスが小さく息を吐いた。
「失礼します。お耳に入れた方が良いと思いまして」
入ってきたのは先ほど花束を受け取った侍従の同僚だった。
「何事だ?」
「先ほどのバラに悪臭を放つ虫がおりました。故意なのか偶然なのかはわかりません」
アラバスが深いため息を吐く。
「やることがいちいち姑息だよなぁ。害は無かったか?」
「はい、健康被害は今のところございませんが、なんせ酷い匂いでして。受け取ったものは着替えさせております」
「もしかして、カメムシ?」
アレンが聞くと、侍従が頷いた。
「はい、体が緑色の小さいものがごっそりと潜んでおりました」
「うわぁ! 最悪! バラはどうしたの?」
侍従がアラバスの顔を見た。
「今は首元まで水に浸けて虫退治をしております」
「欲しいという者がいれば下げ渡せ。残るようなら焼却処分だ」
「畏まりました」
ふと思い出したようにアラバスが聞く。
「そう言えば、マリアは大人しかったなぁ。どうやって言い含めたんだ?」
トーマスが肩を竦めた。
「ラングレー夫人だよ『誰が一番お喋りを我慢できるかゲーム』だそうだ。マリアが言うには信じられないほどの豪華な褒美が出るらしい」
「なるほど、ゲームか。うまいこと考えたな」
感心するアラバスにアレンが顔を向ける。
「僕も兄たちもやらされてた。とにかく声を出したら負けなんだ。勝者は敗者の夕食メニューから、好きなものを一品強奪できる」
「夕食のメニュー? なかなかよく考えられたゲームだな。マリアの褒美ってなんだ? 信じられないほどの豪華な褒美とまで言うのだから、夕食の一品ではあるまい? 宝石かドレスだろうか」
トーマスがへにゃっと笑った。
「いや、今のマリアにとってはもっと素敵なものだよ」
「なんだ?」
「スミレの砂糖漬け。一瓶丸ごと貰えるらしい」
「安っ!」
三人は声を出して笑いながらゲームを再開した。
一方、初夜の準備という名目で部屋に戻ったマリアは、メイド達を大いに困らせていた。
「こっち! これがいいの!」
どうやら今日の夜着で意見の食い違いがあるようだ。
「マリア妃殿下、これは本当の初夜の日までとっておきましょうね」
「いやだっ! このピンクが好きなの!」
ゲームが終了し、見事スミレの砂糖漬けをゲットしたマリアがごねている。
「こちらは少々刺激的ですわ。これほどスケスケだと風邪をひいてしまいます」
「風邪? じゃあなぜ引き出しに入っているの?」
「それは……」
「だって風邪を引くようなお寝間着なんて意味がないじゃない?」
ラングレー公爵夫人の努力により、気を抜かない限り子供言葉は使わなくなっていた。
「えっと……もちろん意味はあるのですが……マリア妃殿下にはまだ早いと申しますか……」
しどろもどろの侍女に小首を傾げるマリア。
仲裁に入ったのはラングレー公爵夫人だった。
「まあ良いじゃないの。一緒に寝るわけじゃないのだし、寒いようならもう一枚羽織ればいいわ」
頷いた侍女は、マリアが放さない薄いピンクのスケスケセクシーベビードールのネグリジェとお揃いの下着を持ってバスルームへと向かった。
ラランジェ王女一行を監視していたその者の報告を聞いたアレンが溜息を漏らす。
「結局、狐族も狸族も思考の傾向は同じなんだね。何がドラマチックだよ。バカバカしい」
「全くだ。俺をなんだと思っているのだろうな」
アラバスが苛立ちを隠さないで吐き捨てた。
「まあまあ、気を取り直して再開しよう。このままではアラバスの一人負けだ」
アラバスが片眉を上げる。
「お前たち、今日というハレの日を迎えた花婿を祝福しようという気は無いのか?」
ほぼ同時にアレンとトーマスが声を出した。
「「無いね」」
「フンッ!」
テーブルに置かれていたカードをアレンが集め、シャッフルを始める。
「なあ、本当に今日から夫婦の寝室を使うのか?」
チラッとトーマスを見てからアラバスが答えた。
「何処に目があるかわからんから一緒に部屋には入るが、内扉からマリアは自室に戻らせるつもりだ。ベッドに細工をしたら、俺も自室で寝るよ」
何も言わずにトーマスが小さく息を吐いた。
「失礼します。お耳に入れた方が良いと思いまして」
入ってきたのは先ほど花束を受け取った侍従の同僚だった。
「何事だ?」
「先ほどのバラに悪臭を放つ虫がおりました。故意なのか偶然なのかはわかりません」
アラバスが深いため息を吐く。
「やることがいちいち姑息だよなぁ。害は無かったか?」
「はい、健康被害は今のところございませんが、なんせ酷い匂いでして。受け取ったものは着替えさせております」
「もしかして、カメムシ?」
アレンが聞くと、侍従が頷いた。
「はい、体が緑色の小さいものがごっそりと潜んでおりました」
「うわぁ! 最悪! バラはどうしたの?」
侍従がアラバスの顔を見た。
「今は首元まで水に浸けて虫退治をしております」
「欲しいという者がいれば下げ渡せ。残るようなら焼却処分だ」
「畏まりました」
ふと思い出したようにアラバスが聞く。
「そう言えば、マリアは大人しかったなぁ。どうやって言い含めたんだ?」
トーマスが肩を竦めた。
「ラングレー夫人だよ『誰が一番お喋りを我慢できるかゲーム』だそうだ。マリアが言うには信じられないほどの豪華な褒美が出るらしい」
「なるほど、ゲームか。うまいこと考えたな」
感心するアラバスにアレンが顔を向ける。
「僕も兄たちもやらされてた。とにかく声を出したら負けなんだ。勝者は敗者の夕食メニューから、好きなものを一品強奪できる」
「夕食のメニュー? なかなかよく考えられたゲームだな。マリアの褒美ってなんだ? 信じられないほどの豪華な褒美とまで言うのだから、夕食の一品ではあるまい? 宝石かドレスだろうか」
トーマスがへにゃっと笑った。
「いや、今のマリアにとってはもっと素敵なものだよ」
「なんだ?」
「スミレの砂糖漬け。一瓶丸ごと貰えるらしい」
「安っ!」
三人は声を出して笑いながらゲームを再開した。
一方、初夜の準備という名目で部屋に戻ったマリアは、メイド達を大いに困らせていた。
「こっち! これがいいの!」
どうやら今日の夜着で意見の食い違いがあるようだ。
「マリア妃殿下、これは本当の初夜の日までとっておきましょうね」
「いやだっ! このピンクが好きなの!」
ゲームが終了し、見事スミレの砂糖漬けをゲットしたマリアがごねている。
「こちらは少々刺激的ですわ。これほどスケスケだと風邪をひいてしまいます」
「風邪? じゃあなぜ引き出しに入っているの?」
「それは……」
「だって風邪を引くようなお寝間着なんて意味がないじゃない?」
ラングレー公爵夫人の努力により、気を抜かない限り子供言葉は使わなくなっていた。
「えっと……もちろん意味はあるのですが……マリア妃殿下にはまだ早いと申しますか……」
しどろもどろの侍女に小首を傾げるマリア。
仲裁に入ったのはラングレー公爵夫人だった。
「まあ良いじゃないの。一緒に寝るわけじゃないのだし、寒いようならもう一枚羽織ればいいわ」
頷いた侍女は、マリアが放さない薄いピンクのスケスケセクシーベビードールのネグリジェとお揃いの下着を持ってバスルームへと向かった。
1,111
お気に入りに追加
2,047
あなたにおすすめの小説
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
〈完結〉「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる