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「ありがとうサム隊長。イース殿下に謝っていたと伝えてちょうだい。マーカスさんは命を懸けて止めてくれていたと、必ず伝えてね?」

「そりゃ無理だ。俺も一緒にいくからな」

「ダメよ!」

「もう手遅れだ。ウサキチ、俺の中にも相当入っている。今は気力で体内に閉じ込めているが、すでに内臓は浸食されている」

 ウサキチがパンパンになった腹を晒しながら頷いた。

「うん、今更出せないところまで行っちゃってるね。じゃあ一緒に行こうか、近衛隊長殿」

「ああ、そうと決まれば少しだが手伝おう。まだ俺は食えるぞ」

 頭の中で王宮のメンバーたちが叫んでいるが、何を言っているのか聞き取ることはできなかった。

「じゃあシューンを手伝ってやって。少し余力を残してやりたいんだ。食い終わったらあなたの魂を私に取り込むよ」

「承知した」

 そう言うとサムは気を失っても邪神を取り込もうとしているシューンの体を抱き上げた。
 
「重たいな……片手では無理だ」

 ウサキチがニヤッと笑う。

「今回は小さかったけど、粒子の質量は相当重たいからね。腹に溜まるんだ」

「ははは! 俺の食欲は侮れんぞ」

 そう言うとサムはまだガラスケースからはい出そうとしている粒子を鷲掴みにして口に放り込んだ。
 
「まずいな」

「うん、苦いだろ?」

「新婚の頃に愛妻が焼いたパンと同じ味だ」

「そりゃ……殺人的なパンだな」

「いや、あれはあれで旨かった。焦げたオレンジジャムと一緒に食ったんだが、なんと言うか素敵なマリアージュだったぞ」

「そうか。それは何よりだ。ところでその愛妻にはきちんと話してきたのか?」

「勿論だ。俺を誇りに思うと言ってくれたぞ? 羨ましいか?」

「ああ、心から羨ましいよ」

 ウサキチがニコッと笑った。

「サリー、そろそろだ。シューンから離れろ。巻き添えを食うぞ」

 サリーはシューンを力いっぱい抱きしめた。
 まるで前世で死んだ事故との時のように、片手でシューンの頭を抱え、もう一方の腕で体をギュッと抱き寄せる。

「断る! 母親の愛を舐めるんじゃないよ!」

 サリーの声にウサキチが眉を寄せた。
 ウサキチの横で、サムの体が崩れ落ちる。

「俺ももう限界だ。これが最後の一粒だな……殲滅で成功……だ」

 ウサキチの体がものすごい光りを放つ。
 その光に包まれたサリーの体に、途轍もないほどの衝撃が走った。

「シューン! しっかりつかまって!」

 ああ、これはあの日の繰り返しだ。
 サリーはそう思った。
 何とか目を開けると、シューンの笑顔が飛び込んできた。

「サリー? ダメじゃないか。兄上が悲しむよ」

「そうね、でも私はあなたのママだもの」

「ママ……お願いがあるんだ。ねえ、ママ。もう一度僕を産んで? 今度は勇者なんて面倒な子供には生まれないから。お願いだよ……ママ……」

 さらさらと金色の粒が二人を包む。
 サリーは体が軽くなっていくのを実感した。

「ああ……魂って重たいのね」

 それがマーカスが聞いた最後の言葉だった。
 ドンという音と共にイースが駆け込んできた。
 我慢しきれなかった彼は、自分の立場や責任など全てを放棄して馬を駆ったのだ。
 
「シューン! サリー! 戻れ! 戻ってくれ! 俺を置いて行くなぁぁぁぁぁぁ」

 マーカスは眩しすぎる光が放つ衝撃に耐えきれず、意識を手放していた。
 イースの頭にウサキチの声が響く。

「今回は勇者の体を残せそうだ。今までは塵になっていたからね。歴代の勇者の墓は空っぽだったんだよ。でも今回が最後だ。もう勇者は生まれない。勇者なんていう可哀そうな子供が必要ない国を作れよ? それが最大の供養だぜ?」

 だんだん小さくなっていく声を追うように、手を伸ばすイース。
 ぱぁっと一陣の風が吹き抜け、部屋に充満していた霧が空に吸い込まれた。
 イースの腕に残ったのはサリーとシューンの亡骸だ。
 サムは体が左半身が焼き爛れた状態で息絶えていた。

「俺を……置いて逝くなよ……一緒にいるって……仲間にするって言ったじゃないか」

 屋敷の外を固めていた兵士たちは、イースの絶叫を聞き、何が起きてしまったのかを察した。
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