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「鼻骨骨折していますね。それと肋骨にもヒビが入っています。鼻の方はすぐに手術を行いますが、肋骨は固定して様子を見るという方法になります」
「では入院ですか。私はこの子の保護者ではないので承諾書とかそういう類にサインをすることはできないのですが」
「親御さんとは連絡は?」
医師と父が同時に私の顔を見た。
「彼女の携帯で何度か連絡を入れているのですが……」
処置ベッドに横たわる葛城の手を握っていた深雪ちゃんが、心配そうな顔で見上げてくる。
「もう一度お母さんに連絡してみようね」
私は葛城の了承を得て、彼女の携帯電話を開いた。
「もしもし、沙也ちゃん? どうしたの?」
よかった、今度は出てくれた。
「あぁ、静香さん。私、洋子です。沙也さんが怪我をしてしまって、今病院にいるのですが」
横から父の声がした。
「代わろう」
そうだね、こんな時は大人同士の方が話は早いもんね。
「お電話代わりました。私は飯田洋子の父です。先ほどお宅のお嬢さんから連絡があり、病院に連れて行って欲しいという事でしたので、私が同行しました。状況を見て救急車の方が良いと判断し、私が要請して今病院に来ています」
『それは大変なご迷惑をおかけしてしまいました。ありがとうございます』
「先ほどからご主人にも連絡を入れているのですが、繋がらない状態です。お嬢さんは手術をする必要があるとのことで、承諾書が必要なのだそうです。先生に代わりますので、詳しいことは先生から聞いてください」
なんとも要領を得たテキパキとした対応だ。
意外と凄いな……父さん。
医師に電話を渡し、父は不安で泣き出しそうな深雪ちゃんの頭を撫でて、私を見た。
「家に電話を入れてくる。今日は遅くなるだろうからそのつもりでいなさい」
「うん、わかった。お父さん、ついてきてくれてありがとう」
「いや、逆についてきてよかったよ。この状況はお前ひとりではどうしようも無かった」
ふと壁の時計を見ると、すでに午後4時を回っている。
「深雪ちゃん、お昼ごはんは?」
深雪ちゃんが困った顔で首を横に振った。
「いつからお姉ちゃんはこの状態なの?」
「それは……」
どうやら言っていないことがあるようだ。
処置ベッドから葛城の声がした。
「洋子ちゃん、後で全部話すから。深雪ちゃんは知らないの。それより私って手術するの?」
「うん、鼻が折れているから手術するって聞いたよ」
「えっ! 私って鼻が曲がってんの? ちょっと見たい……でも手術するなら時間がかかるよね。洋子ちゃん、悪いけれど迷惑ついでに深雪ちゃんにご飯を食べさせてくれないかな。お金は後で払うから」
「うん、わかった。心配するな。鼻は後でゆっくり見ろ」
ありがとうと言って葛城は目を閉じた。
深雪ちゃんが葛城に駆け寄る。
目を閉じた顔に、どうやら不安を感じたようだ。
「お母様に同意をいただきましたので、手術の準備に入ります。手術と言ってもそれほど時間はかかりませんし、重篤な症状でもありませんので、そうですね……二時間くらいかな。局所麻酔なので、今日のうちに帰れますよ」
父が戻ってきて、医師が先ほどと同じ説明をしている。
頷いた父が私の側に来た。
「手術が終わるのを待って家に送って行こう。ただ、誰もいない状態というのは拙いなぁ。まだお父さんとは連絡が取れないのか?」
「うん、まだかかってこない」
看護師が二人やってきて葛城をストレチャーに乗せ換えた。
「行ってくるね」
葛城の言葉に頷くと、私の手をギュッと握った深雪ちゃんがしゃくりあげていた。
「深雪ちゃん、大丈夫だから。二時間くらいかかるんだって。その間にご飯を食べに行こうよ。お昼も食べてないんでしょ?」
俯いたままの深雪ちゃんを促がして廊下に出た。
「お父さん、深雪ちゃんに何か食べさせないと」
「そうだな。近くにファミレスがあっただろ? そこに行くか」
病院から出ると、50mくらいのところにファミレスの大きな看板が見えた。
「では入院ですか。私はこの子の保護者ではないので承諾書とかそういう類にサインをすることはできないのですが」
「親御さんとは連絡は?」
医師と父が同時に私の顔を見た。
「彼女の携帯で何度か連絡を入れているのですが……」
処置ベッドに横たわる葛城の手を握っていた深雪ちゃんが、心配そうな顔で見上げてくる。
「もう一度お母さんに連絡してみようね」
私は葛城の了承を得て、彼女の携帯電話を開いた。
「もしもし、沙也ちゃん? どうしたの?」
よかった、今度は出てくれた。
「あぁ、静香さん。私、洋子です。沙也さんが怪我をしてしまって、今病院にいるのですが」
横から父の声がした。
「代わろう」
そうだね、こんな時は大人同士の方が話は早いもんね。
「お電話代わりました。私は飯田洋子の父です。先ほどお宅のお嬢さんから連絡があり、病院に連れて行って欲しいという事でしたので、私が同行しました。状況を見て救急車の方が良いと判断し、私が要請して今病院に来ています」
『それは大変なご迷惑をおかけしてしまいました。ありがとうございます』
「先ほどからご主人にも連絡を入れているのですが、繋がらない状態です。お嬢さんは手術をする必要があるとのことで、承諾書が必要なのだそうです。先生に代わりますので、詳しいことは先生から聞いてください」
なんとも要領を得たテキパキとした対応だ。
意外と凄いな……父さん。
医師に電話を渡し、父は不安で泣き出しそうな深雪ちゃんの頭を撫でて、私を見た。
「家に電話を入れてくる。今日は遅くなるだろうからそのつもりでいなさい」
「うん、わかった。お父さん、ついてきてくれてありがとう」
「いや、逆についてきてよかったよ。この状況はお前ひとりではどうしようも無かった」
ふと壁の時計を見ると、すでに午後4時を回っている。
「深雪ちゃん、お昼ごはんは?」
深雪ちゃんが困った顔で首を横に振った。
「いつからお姉ちゃんはこの状態なの?」
「それは……」
どうやら言っていないことがあるようだ。
処置ベッドから葛城の声がした。
「洋子ちゃん、後で全部話すから。深雪ちゃんは知らないの。それより私って手術するの?」
「うん、鼻が折れているから手術するって聞いたよ」
「えっ! 私って鼻が曲がってんの? ちょっと見たい……でも手術するなら時間がかかるよね。洋子ちゃん、悪いけれど迷惑ついでに深雪ちゃんにご飯を食べさせてくれないかな。お金は後で払うから」
「うん、わかった。心配するな。鼻は後でゆっくり見ろ」
ありがとうと言って葛城は目を閉じた。
深雪ちゃんが葛城に駆け寄る。
目を閉じた顔に、どうやら不安を感じたようだ。
「お母様に同意をいただきましたので、手術の準備に入ります。手術と言ってもそれほど時間はかかりませんし、重篤な症状でもありませんので、そうですね……二時間くらいかな。局所麻酔なので、今日のうちに帰れますよ」
父が戻ってきて、医師が先ほどと同じ説明をしている。
頷いた父が私の側に来た。
「手術が終わるのを待って家に送って行こう。ただ、誰もいない状態というのは拙いなぁ。まだお父さんとは連絡が取れないのか?」
「うん、まだかかってこない」
看護師が二人やってきて葛城をストレチャーに乗せ換えた。
「行ってくるね」
葛城の言葉に頷くと、私の手をギュッと握った深雪ちゃんがしゃくりあげていた。
「深雪ちゃん、大丈夫だから。二時間くらいかかるんだって。その間にご飯を食べに行こうよ。お昼も食べてないんでしょ?」
俯いたままの深雪ちゃんを促がして廊下に出た。
「お父さん、深雪ちゃんに何か食べさせないと」
「そうだな。近くにファミレスがあっただろ? そこに行くか」
病院から出ると、50mくらいのところにファミレスの大きな看板が見えた。
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