上 下
35 / 61

34

しおりを挟む
「鼻骨骨折していますね。それと肋骨にもヒビが入っています。鼻の方はすぐに手術を行いますが、肋骨は固定して様子を見るという方法になります」

「では入院ですか。私はこの子の保護者ではないので承諾書とかそういう類にサインをすることはできないのですが」

「親御さんとは連絡は?」

 医師と父が同時に私の顔を見た。
 
「彼女の携帯で何度か連絡を入れているのですが……」

 処置ベッドに横たわる葛城の手を握っていた深雪ちゃんが、心配そうな顔で見上げてくる。

「もう一度お母さんに連絡してみようね」

 私は葛城の了承を得て、彼女の携帯電話を開いた。

「もしもし、沙也ちゃん? どうしたの?」

 よかった、今度は出てくれた。

「あぁ、静香さん。私、洋子です。沙也さんが怪我をしてしまって、今病院にいるのですが」

 横から父の声がした。

「代わろう」

 そうだね、こんな時は大人同士の方が話は早いもんね。

「お電話代わりました。私は飯田洋子の父です。先ほどお宅のお嬢さんから連絡があり、病院に連れて行って欲しいという事でしたので、私が同行しました。状況を見て救急車の方が良いと判断し、私が要請して今病院に来ています」

『それは大変なご迷惑をおかけしてしまいました。ありがとうございます』

「先ほどからご主人にも連絡を入れているのですが、繋がらない状態です。お嬢さんは手術をする必要があるとのことで、承諾書が必要なのだそうです。先生に代わりますので、詳しいことは先生から聞いてください」

 なんとも要領を得たテキパキとした対応だ。
 意外と凄いな……父さん。
 医師に電話を渡し、父は不安で泣き出しそうな深雪ちゃんの頭を撫でて、私を見た。

「家に電話を入れてくる。今日は遅くなるだろうからそのつもりでいなさい」

「うん、わかった。お父さん、ついてきてくれてありがとう」

「いや、逆についてきてよかったよ。この状況はお前ひとりではどうしようも無かった」

 ふと壁の時計を見ると、すでに午後4時を回っている。

「深雪ちゃん、お昼ごはんは?」

 深雪ちゃんが困った顔で首を横に振った。

「いつからお姉ちゃんはこの状態なの?」

「それは……」

 どうやら言っていないことがあるようだ。
 処置ベッドから葛城の声がした。

「洋子ちゃん、後で全部話すから。深雪ちゃんは知らないの。それより私って手術するの?」

「うん、鼻が折れているから手術するって聞いたよ」

「えっ! 私って鼻が曲がってんの? ちょっと見たい……でも手術するなら時間がかかるよね。洋子ちゃん、悪いけれど迷惑ついでに深雪ちゃんにご飯を食べさせてくれないかな。お金は後で払うから」

「うん、わかった。心配するな。鼻は後でゆっくり見ろ」

 ありがとうと言って葛城は目を閉じた。
 深雪ちゃんが葛城に駆け寄る。
 目を閉じた顔に、どうやら不安を感じたようだ。

「お母様に同意をいただきましたので、手術の準備に入ります。手術と言ってもそれほど時間はかかりませんし、重篤な症状でもありませんので、そうですね……二時間くらいかな。局所麻酔なので、今日のうちに帰れますよ」

 父が戻ってきて、医師が先ほどと同じ説明をしている。
 頷いた父が私の側に来た。

「手術が終わるのを待って家に送って行こう。ただ、誰もいない状態というのは拙いなぁ。まだお父さんとは連絡が取れないのか?」

「うん、まだかかってこない」

 看護師が二人やってきて葛城をストレチャーに乗せ換えた。

「行ってくるね」

 葛城の言葉に頷くと、私の手をギュッと握った深雪ちゃんがしゃくりあげていた。

「深雪ちゃん、大丈夫だから。二時間くらいかかるんだって。その間にご飯を食べに行こうよ。お昼も食べてないんでしょ?」

 俯いたままの深雪ちゃんを促がして廊下に出た。

「お父さん、深雪ちゃんに何か食べさせないと」

「そうだな。近くにファミレスがあっただろ? そこに行くか」

 病院から出ると、50mくらいのところにファミレスの大きな看板が見えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

もっさいおっさんと眼鏡女子

なななん
ライト文芸
もっさいおっさん(実は売れっ子芸人)と眼鏡女子(実は鳴かず飛ばすのアイドル)の恋愛話。 おっさんの理不尽アタックに眼鏡女子は……もっさいおっさんは、常にずるいのです。 *今作は「小説家になろう」にも掲載されています。

DARSE BIRTHZ。(ダースバース。)

十川弥生
ライト文芸
 これは世界の謎を解き明かす物語———。 2020年3月14日、日出国(ひいずるこく)上空に突如謎の球体が出現。それにより未知の化物、化(ローザ)が全国各地に現れ、街々は壊滅的な状況となった。そんな中、たった一人の男の登場により事態は収束の一途を辿る———。  時は流れ、化(ローザ)と交戦する一つの職業が生まれた。人はそれを化掃士(かそうし)と呼ぶ。 球体が現れた衝撃の理由とは———

心の交差。

ゆーり。
ライト文芸
―――どうしてお前は・・・結黄賊でもないのに、そんなに俺の味方をするようになったんだろうな。 ―――お前が俺の味方をしてくれるって言うんなら・・・俺も、伊達の味方でいなくちゃいけなくなるじゃんよ。 ある一人の少女に恋心を抱いていた少年、結人は、少女を追いかけ立川の高校へと進学した。 ここから桃色の生活が始まることにドキドキしていた主人公だったが、高校生になった途端に様々な事件が結人の周りに襲いかかる。 恋のライバルとも言える一見普通の優しそうな少年が現れたり、中学時代に遊びで作ったカラーセクト“結黄賊”が悪い噂を流され最悪なことに巻き込まれたり、 大切なチームである仲間が内部でも外部でも抗争を起こし、仲間の心がバラバラになりチーム崩壊へと陥ったり―――― そこから生まれる裏切りや別れ、涙や絆を描く少年たちの熱い青春物語がここに始まる。

夏の終わりに

佐城竜信
ライト文芸
千葉彰久は完璧超人だ。 ほりが深くて鼻筋の通った美しい顔をしている。高校二年生ながらにして全国大会への進出を決めたほどの空手の達人でもある。子供の頃から憧れている幼馴染のお姉さん、鏑木真理の手伝いをしていたから料理や家事が得意であり、期末テストでは学年3位の成績を取ってしまったほどに頭がいい。 そんな完全無欠な彼にも悩みがあった。 自分は老舗の酒屋の息子であるが、空手を生かした生計を立てるためにプロの格闘家になりたい、という夢を持っているということだ。酒屋を継ぐという責任と、自分の夢。どちらを選択するのかということと。 そしてもう一つは、思春期の少年らしく恋の悩みだ。 彰久は鏑木空手道場に通っている。彰久の家である千葉酒店と鏑木空手道場はどちらも明治時代から続く老舗であり、家族同然の関係を築いている。彰久の幼馴染千里。彼女は幼いころに母親の死を間近で見ており、たまに精神不安を起こしてしまう。そのため彰久は千里を大切な妹分として面倒を見ているのだが、その姉である真理にあこがれを抱いている。 果たして彰久は本当の自分の気持ちに気が付いて、本当に自分が進むべき道を見つけられるのか。 将来への不安を抱えた少年少女の物語、開幕します。

処理中です...