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葛城が泣きながら話した内容は、三流ゴシップ記事のようなものだった。
姉の売り込みに人生をかけていた母親が、メジャーデビューをチラつかせたテレビマンと不貞関係を結んでしまった。
しかし、いつまでたってもデビューの話は来ず、いつの間にかテレビマンは姿を消した。
相当な金も渡していた母親は半狂乱となり、連絡された父親が迎えに行く羽目になる。
そして全てが明るみに出て、二人は離婚することになった。
まあ言ってみればここまではよくある話だ。
しかし葛城の話には続きがあった。
「お父さんが再婚したの。離婚したのが土曜日で、新しい奥さんと娘さんがうちに来たのが日曜日よ。今日にも入籍するんだってお父さんが言ってた」
「電光石火だねぇ……え? ちょっと待って。娘って言った?」
「うん、お父さんとその人の子供。お姉ちゃんによく似た可愛い子よ。深雪ちゃんっていってね、9歳なんだって。二学期から転校させたいから急いだんだって。来週中には引っ越して来るんだって」
「マジかよ……じゃあお父さんの方が先に不貞をしてたってこと?」
「そうだね。あの子が9歳ってことは、どんなに早くても10年前でしょ? 10年前っていえばお姉ちゃんが子供モデルで売れ始めた頃かな。ははは……でもあの頃はお父さんもお母さんも家にいて、ご飯もみんなで食べていたんだけどなぁ」
「あんた、いつから今みたいな暮らしをしてるの?」
「お姉ちゃんが『フルーツガールズ』に所属してからだから、3年前?」
「3年前っていえば中学2年?」
「うん、中学は給食があったでしょ? だから1日1000円でも余裕だったよ」
「いや、そういう問題じゃないと思うが……葛城、お前よく頑張ったな。よく生きてきた。うん、よくやった。うちの高校に入れたってことは成績もそこそこだったはずだもん」
「あの頃は勉強も楽しかったよ。でもいくら成績が良くてもお父さんもお母さんもお姉ちゃんも帰ってこないんだ。だから私がお姉ちゃんみたいに可愛くなったら、お母さんは私のことも構ってくれるでしょ? 可愛い娘が2人もいれば、お父さんも帰りたくなるでしょ?」
「葛城……」
「でも違ってた。私が可愛くなる必要なんてなかった。お母さんにはお姉ちゃんがいるし、お父さんには深雪ちゃんがあたんだもんね……私は要らん子だった。バカみたいだよね、新しい振付けや歌を覚えたって、見てくれるのはぽんちゃんだけなんだもん」
「ぽんちゃん?」
「うん、お姉ちゃんがくれた狸のぬいぐるみ。大きいんだよ」
「そうか……ぽんちゃんは良い奴だな。今度紹介でもしてくれ」
「うん、いいよ。明日、清掃業者さんが来るんだって。お母さんとお姉ちゃんが残していったものは全部処分するんだってお父さんが言ってた。私の部屋にある『フルーツガールズ』グッズも捨てなさいって……お父さんが……」
「清掃業者? どこの業者か聞いてる?」
「えっと……ソーソーセーソー? いや、ゾージョーセージョー?」
「昭三清掃だ。それはうちの会社だよ! 葛城はお姉ちゃんのものを捨てたくないんだね?」
「うん、全部とはいかなくても持っていたいものもあるんだよ。それに……お母さんとお姉ちゃんが一緒に写っている写真も……捨てたくない」
「わかった! 協力できるかもしれない。お前はすぐに帰って、どうしても残したいものだけを厳選して段ボールに詰めておいて。できるだけ厳選した方がいい。その段ボールには何か目印を……そうだな……」
「じゃあ洋子ちゃんの名前を書いておくよ。なんとかできるの? 本当に?」
「うん、頑張る。業者が来るのは明日だね?」
「明日の10時」
「わかった。今日はこのまま解散しよう。明日は勉強もお休みにして、お互い為すべきことをしよう。わかった?」
「う……うん、わかった」
すっかり泣き止んだ葛城を駅まで送って、私は急いで帰宅した。
まずは家事を全てこなし、ばあさんに文句を言わせない体制を整えた。
怒涛の掃除機掛けに驚いたのか、兄が3階から降りてくる。
「今日は早いな。ん? どうした? お前……泣いてる?」
「お兄ちゃん……葛城が……」
「おい! 洋子!」
私は掃除機のスイッチを切らないまま兄に抱きついた。
こんなことをするのは幼稚園を卒園して以来だが、なんと言うか兄という存在を実感したかったのかもしれない。
さすがにラノベの兄妹のように抱きしめてはくれなかったが、ただ泣き止むまで胸は貸してくれた。
泣き止んだ私をリビングに連れて行き、掃除機のスイッチを切ってから私の前に座る。
その手には夕べ煮出しておいた麦茶が注がれたコップが2つ。
「とりあえず飲め。うちの麦茶は旨い」
「うん、ありがと……」
「話す気になったら話せ」
私は兄に葛城のことを伝えた。
「なるほどな。で? お前はうちの会社が引き取った『洋子』と書かれた段ボール箱を確保したいんだな?」
「うん」
「しかし、業者が廃棄依頼を受けて引き取ったとしても、完全に廃棄処分されるまでは持ち主のものなんだ。勝手に持ち出すことはできない。合法的に持ち出すには、持ち主の許可があればいい。引き取る前に言質をとろう」
「どうやって?」
「まあ任せておけ。明日はお前も来い。俺も行くから」
「お兄ちゃん?」
「協力する代わりに条件がある。もっと夕食の肉率を上げろ」
「ラジャー!」
私たちは握手をして明日のミッション成功を麦茶で誓いあった。
姉の売り込みに人生をかけていた母親が、メジャーデビューをチラつかせたテレビマンと不貞関係を結んでしまった。
しかし、いつまでたってもデビューの話は来ず、いつの間にかテレビマンは姿を消した。
相当な金も渡していた母親は半狂乱となり、連絡された父親が迎えに行く羽目になる。
そして全てが明るみに出て、二人は離婚することになった。
まあ言ってみればここまではよくある話だ。
しかし葛城の話には続きがあった。
「お父さんが再婚したの。離婚したのが土曜日で、新しい奥さんと娘さんがうちに来たのが日曜日よ。今日にも入籍するんだってお父さんが言ってた」
「電光石火だねぇ……え? ちょっと待って。娘って言った?」
「うん、お父さんとその人の子供。お姉ちゃんによく似た可愛い子よ。深雪ちゃんっていってね、9歳なんだって。二学期から転校させたいから急いだんだって。来週中には引っ越して来るんだって」
「マジかよ……じゃあお父さんの方が先に不貞をしてたってこと?」
「そうだね。あの子が9歳ってことは、どんなに早くても10年前でしょ? 10年前っていえばお姉ちゃんが子供モデルで売れ始めた頃かな。ははは……でもあの頃はお父さんもお母さんも家にいて、ご飯もみんなで食べていたんだけどなぁ」
「あんた、いつから今みたいな暮らしをしてるの?」
「お姉ちゃんが『フルーツガールズ』に所属してからだから、3年前?」
「3年前っていえば中学2年?」
「うん、中学は給食があったでしょ? だから1日1000円でも余裕だったよ」
「いや、そういう問題じゃないと思うが……葛城、お前よく頑張ったな。よく生きてきた。うん、よくやった。うちの高校に入れたってことは成績もそこそこだったはずだもん」
「あの頃は勉強も楽しかったよ。でもいくら成績が良くてもお父さんもお母さんもお姉ちゃんも帰ってこないんだ。だから私がお姉ちゃんみたいに可愛くなったら、お母さんは私のことも構ってくれるでしょ? 可愛い娘が2人もいれば、お父さんも帰りたくなるでしょ?」
「葛城……」
「でも違ってた。私が可愛くなる必要なんてなかった。お母さんにはお姉ちゃんがいるし、お父さんには深雪ちゃんがあたんだもんね……私は要らん子だった。バカみたいだよね、新しい振付けや歌を覚えたって、見てくれるのはぽんちゃんだけなんだもん」
「ぽんちゃん?」
「うん、お姉ちゃんがくれた狸のぬいぐるみ。大きいんだよ」
「そうか……ぽんちゃんは良い奴だな。今度紹介でもしてくれ」
「うん、いいよ。明日、清掃業者さんが来るんだって。お母さんとお姉ちゃんが残していったものは全部処分するんだってお父さんが言ってた。私の部屋にある『フルーツガールズ』グッズも捨てなさいって……お父さんが……」
「清掃業者? どこの業者か聞いてる?」
「えっと……ソーソーセーソー? いや、ゾージョーセージョー?」
「昭三清掃だ。それはうちの会社だよ! 葛城はお姉ちゃんのものを捨てたくないんだね?」
「うん、全部とはいかなくても持っていたいものもあるんだよ。それに……お母さんとお姉ちゃんが一緒に写っている写真も……捨てたくない」
「わかった! 協力できるかもしれない。お前はすぐに帰って、どうしても残したいものだけを厳選して段ボールに詰めておいて。できるだけ厳選した方がいい。その段ボールには何か目印を……そうだな……」
「じゃあ洋子ちゃんの名前を書いておくよ。なんとかできるの? 本当に?」
「うん、頑張る。業者が来るのは明日だね?」
「明日の10時」
「わかった。今日はこのまま解散しよう。明日は勉強もお休みにして、お互い為すべきことをしよう。わかった?」
「う……うん、わかった」
すっかり泣き止んだ葛城を駅まで送って、私は急いで帰宅した。
まずは家事を全てこなし、ばあさんに文句を言わせない体制を整えた。
怒涛の掃除機掛けに驚いたのか、兄が3階から降りてくる。
「今日は早いな。ん? どうした? お前……泣いてる?」
「お兄ちゃん……葛城が……」
「おい! 洋子!」
私は掃除機のスイッチを切らないまま兄に抱きついた。
こんなことをするのは幼稚園を卒園して以来だが、なんと言うか兄という存在を実感したかったのかもしれない。
さすがにラノベの兄妹のように抱きしめてはくれなかったが、ただ泣き止むまで胸は貸してくれた。
泣き止んだ私をリビングに連れて行き、掃除機のスイッチを切ってから私の前に座る。
その手には夕べ煮出しておいた麦茶が注がれたコップが2つ。
「とりあえず飲め。うちの麦茶は旨い」
「うん、ありがと……」
「話す気になったら話せ」
私は兄に葛城のことを伝えた。
「なるほどな。で? お前はうちの会社が引き取った『洋子』と書かれた段ボール箱を確保したいんだな?」
「うん」
「しかし、業者が廃棄依頼を受けて引き取ったとしても、完全に廃棄処分されるまでは持ち主のものなんだ。勝手に持ち出すことはできない。合法的に持ち出すには、持ち主の許可があればいい。引き取る前に言質をとろう」
「どうやって?」
「まあ任せておけ。明日はお前も来い。俺も行くから」
「お兄ちゃん?」
「協力する代わりに条件がある。もっと夕食の肉率を上げろ」
「ラジャー!」
私たちは握手をして明日のミッション成功を麦茶で誓いあった。
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