上 下
27 / 50
ちゃんと「好き」だと伝えたい

7.「おれそんなこと言った記憶ねぇけど?」

しおりを挟む

 情けない俺の態度に呆れたのか、深いため息とともに身体を起こした各務くんがやっと体を解放してくれた。ただし、手は繋いだままである。

「あんたさ、自分はあおってくるくせにこっちが同じことすると過剰に反応するの酷くねぇ?」
「え?」
「デートって、わざわざ言葉にして言われると……照れるだろ?」

 正面に立つ各務くんは照れたように視線を外して、不貞腐れたように吐き捨てた。

「いや俺は耳元で話されたのがくすぐったいと言うか、ゾワってしただけで……」
「は?」
「あれ、ということは各務くんはデートって言われると照れるってこと?」
「……」

 無言は肯定ということだろう。なんという可愛さだろう。デートって言葉だけで照れるなんて。

 またもやニヤけてしまった俺の顔が気に入らなかったのか、各務くんは舌打ちをすると、ギロリと睨みつけてきた。

「デートって言葉が恥ずかしいんじゃないからな!」
「うんうん」
「あんた判ってないだろ……」

 呆れたように言う各務くんと繋いでいる手に俺はもう片方の手を添え両手で握る。

「あ、でも今後は人前では言わないようにするし、大丈夫だよ」
「あ? なんで?」

 各務くんが怪訝そうに目を細める。

「なんでって、この前他人に聞かれたら嫌だって言ってたでしょ。あの時は俺の配慮が足りなかったって反省し……」
「? おれそんなこと言った記憶ねぇけど?」

 各務くんの手を両手で握ったまま俺は首を傾げる。あれでも確かに「こんなところで言うな」って言ってたはずだけど。
 悩む俺と同じく、俺がデートに誘った時を思い出していたのか、各務くんが小さく「あれか……」と呟いた。そう多分各務くんが思い出したそれだよそれ。
 俺が視線を向ければ各務くんのなんとも表現しがたい微妙な顔があった。

「あれは……そうじゃなくて」

 あー…とかうー…とか言いつつ、各務くんは空いてる手で自分の頭を抱えている。俺は大人しく各務くんの言葉を待った。

「……単純に好きなやつに面と向かってデートに誘われたから、照れただけっつうか……いや普通言わねぇだろデート行こうって、改めて言うか? 今までそんな風に言ったことなかっただろ。だいたいあんたさ、自分が恥ずかしいこととか、平然と言ったりしたりしてる自覚ないよな? いい加減、自覚しろよ。こっちは対応に困るんだよっ!」

 覚悟が決まったかのようにギロリと眼光鋭く俺を睨みながら各務くんが強い口調で言い放つ。状況的には俺が脅されているようにしか見えないが、各務くんの言ってることはただただ可愛いだけである。だって俺の行動に反応し、照れて困惑しているんですと自己申告しているだけだ。とても可愛いと言わざるを得ない。
 それはさておき、具体的にどの行動が恥ずかしい行動なのか俺に自覚は勿論ない。しかし温泉旅行を無自覚に誘ったのは申し訳ないことをしたと思っているので、大なり小なり俺はやらかしているのだろう。一応迂闊なことはしないよう気をつけてはいるんだけど、各務くんの様子を見るに成果はなさそうだ。

 思わず思考の海に飲まれて固まってしまった俺に気付いた各務くんが、真っ赤になりつつもわたわたと慌てだした。キツく言い過ぎたと思ったのだろう。もちろん俺は怯えてなどいない。

「……各務くんって、本当にかわいいね」
「っ?!! ァア?」

 慌ててフォローしようとする各務くんにうっかり俺は考えていたことを口に出してしまい、本日一番低い声で威圧され鋭い視線で睨まれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

儀式の夜

清田いい鳥
BL
神降ろしは本家長男の役目である。これがいつから始まったのかは不明らしいが、そういうことになっている。 某屋敷の長男である|蛍一郎《けいいちろう》は儀式の代表として、深夜の仏間にひとり残された。儀式というのは決まった時間に祝詞を奏上し、眠るだけという簡単なもの。 甘かった。誰もいないはずの廊下から、正体不明の足音がする。急いで布団に隠れたが、足音は何の迷いもなく仏間のほうへと確実に近づいてきた。 その何者かに触られ驚き、目蓋を開いてさらに驚いた。それは大学生時代のこと。好意を寄せていた友人がいた。その彼とそっくりそのまま、同じ姿をした者がそこにいたのだ。 序盤のサービスシーンを過ぎたあたりは薄暗いですが、|駿《しゅん》が出るまで頑張ってください。『鼠が出るまで頑張れ』と同じ意味です。 感想ください!「誰やねん駿」とかだけで良いです!

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...