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第四章

121話

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 俺は王城にこのまま残ることにした。
 サテンドラも残る、というかオルトゥス王が城に戻ったというか、なので俺のなかでは当然の選択だった。

 その話を皆にしたらミードミーも残ると言い、メリー殿とクリスティア姫が大喜びしていた。なんでも王城で本格的に婿探しをするらしい。
 たしかにヘルデよりは、ミードミーの理想の相手に出会えそうではある。

 父さんたちへの報告は、ネストに頼むことにした。

 サテンドラがオルトゥス王だということはさすがに父さんは知っていて、俺が兄上を苦しめていた魔法を迂闊にも食べてしまい、そのため王が傍に居ることになったという経緯も知っているんだそうだ。
 そしてエスカータの花嫁が来るときに、サテンドラは王城へ戻ることになっていた。
 だからサテンドラはうちの屋敷で他の人と必要以上に接点を持たなかった。居なくなった時に誰の印象にも残らないように人見知りを装っていたんだそうだ。
 
 ――…本来は人見知りでもなんでもないのに孤独でいたのかと思うと、なんだかすごく悲しくなった。
 これからは皆と一緒に食事が出来たらいいなって思う。

「お二人とも、綺麗ですね」
「ああ、そうだな」

 隣のミードミーに声をかけられて、俺はクリスティア姫とメリー殿……でなく、アーニャ殿を見る。
 サヴィトの家名は名乗らないと言っていたので、これからはメリー殿でなくアーニャ殿、サヴィト殿でなくジーク殿と呼ぶことにしたんだった。

 今日はクリスティア姫とハロルド、アーニャ殿とジーク殿の婚礼だ。
 婚礼は魔法転移の塔を小さくしたような建物で行われた。今は建物の外で出てくる二組の夫婦を皆で迎えているところだ。この魔法転移の塔に似た小さい建物が、ヒト族の国で神をまつる聖堂と呼ばれるものの一般的なサイズなのだそうだ。二階建ての建物くらいの高さがあるが一階建てで天井が高い、屋根の上には鐘のある塔がついている。
 その鐘が鳴り響く。
 ちなみにここは王城の内城壁の中だそうだ。魔法転移の扉で移動しているから、本当に位置感覚がわからないし、この城でかすぎないだろうか?

 クリスティア姫は白いドレスでアーニャ殿は薄水色のドレスだった。二人とも綺麗で、それをエスコートしているジーク殿は本当に王子様さながらのかっこよさだ。ハロルドもまあかっこいいけど、本当にクリスティア姫が好きで仕方ない、といった顔で見つめているので、なんというか見てるこっちが恥ずかしい。

 婚礼にはアーニャ殿やジーク殿の同僚となった王城の勤務者や、ドルミーレ伯爵とレフェクティオ伯爵が参加していた。
 アルトレスト伯爵はエリザベラ様と共に、自分の領地に戻ったそうだ。挨拶も何もできなかったけど……きっと彼女の前に俺は姿を現さない方がいいんだろう。俺のせいでこれ以上傷ついて欲しくない。

 オルトゥス王も当然参加しているが、なぜかサテンドラとして参加しているので、ネストとラッツェに捕まって酒を飲まされている。あいつら酒癖悪すぎないか……。

 そういえば、サテンドラの姿の時は甘い香りがしないって話をしたら、そもそもオルトゥス王から甘い香りはしないらしい。ただ兄上の糸からも同じ匂いがしたと伝えれば「魔法の匂い」かもしれないという話になった。

 俺は魔法は直感で使っていたので、理屈とか全く理解していない。
 だけどこれからはしっかり勉強しようと思う。

 ――…魔神オルトゥスよりも強くなって、サテンドラを守るために。

 具体的な方法はまだ思いついてないけど、とりあえず「花嫁」に代わる何かは早急に考えたい。
 クリスティア姫も話していた、魔族の王に嫁ぐのを恐れる姫たちや、昔の替え玉で犠牲になったエリザベラ様のことを思うと、200年に一度迎える今の花嫁の仕組みがいいとは思えない。

「まあ、単純に俺がもやもやするってだけだけど……」

 俺はエスカータの姫じゃないから絶対に「魔王の花嫁」にはなれないし。

「なにがもやもやするんだい?」

 甘い香りと俺の背に触れる手の感触に、ぶわっと全身の毛が逆立った。
 視線をネストたちの方に向けたら、案の定サテンドラが居ない!! ということは、間違いなく。

「遅くなってすまなかったね」

 オルトゥス王は俺を片手に抱き止めたまま、わざと耳もとで囁く。

「おく、れた挨拶はクリスティア姫たちにして来いよ…っ」

 俺は耳を抑えつつ、小声でオルトゥス王に文句をつける。一応サテンドラで挨拶はしていたから、クリスティア姫はオルトゥス王がこの場に居ない理由は知っていたわけだけど。
 とにかく至近距離は駄目だ。絶対、俺の顔は赤くなってる。
 慌てる俺の姿の何が楽しいのか、オルトゥス王はくすくすと笑う。

「そうなんだけど、彼等を見ていたらカデルを抱きしめたくなってね」

 嬉しそうな顔で言われてしまえば、俺は心臓が破裂しないよう冷静を保つのが精いっぱいだというのに、人目も気にせず俺の耳にキスを落とす。
 距離を取ろうとしたががっつり腰を抱かれて身動きが取れない。

 うう、魔法もだけど、こういう時の対応もできるように勉強しよう。

 その後なぜ俺とオルトゥス王も皆から「おめでとう」と祝福されたんだけど……、俺は深い事は考えないことにした。


ー 魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について・終 ー
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