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第四章

113話

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 随分長い間、眠っていた気がする。
 身体はふかふかしたものに包まれていて、とても暖かい。
 俺は重たいまぶたを持ち上げた。

 天井は見たことのないものだった。天蓋っていうんだっけ? ベッドを囲うように布が下がっていて、俺はなんだか大きいベッドに寝かされていた。

 指を動かしてみる、大丈夫そうだ。とにかく起き上ってみようと身体を起こす。

「……っつ」

 頭がぐわんっとしたが、起き上ってしまえばちょっと鈍痛がするくらいだ。動いたら気にならなくなるだろう。
 部屋を見回すがやはり見たことのない場所だ。俺がクリスティア姫の屋敷で借りている部屋よりもかなり大きい。白と紺で統一された家具はなんとなくリベルタース伯爵の塔に雰囲気が似ている気がした。

「……カデル!!」

 ぼんやりと部屋を見回していれば声がした。そう、見なくても声の主は、わかる。

「大丈夫か? 具合は悪くない?」

 オルトゥス王は部屋に入ってくるとベッドに近寄り、俺の手を取り引き寄せる。

 赤い瞳と綺麗な顔が目の前に……ち、ちかい!!!!!
 思わず俺は硬直した。寝起きにこれは心臓に悪い!

 アルトレスト伯爵もそれは綺麗な顔をしてるけど、オルトゥス王はまた別格だと思う。いや、単に俺の好みの顔ってこともあるんだろうけど。

 今までも王の顔は直視できなかったが、自分の気持ちを自覚すればさらに戸惑ってしまう。鼓動が早くなっていくのが嫌でもわかる。

「……カデル? 自分の名前、言える?」
「カ、デル・リベルタ……ス」
「うん、そうだね。ここがどこだかわかる?」

 俺は首を横に振る。それを見たオルトゥス王が息を飲むのがわかった。

「あ、いや、違う、多分王城なのはわかる。だけど……俺の部屋じゃない」
「……ああ、良かった。脳に損傷はなさそうだ」

 俺の答えに、はぁーっと大きく息を吐いてうなだれる姿は、オルトゥス王というよりは確かにサテンドだった。

「あ! そうだエリザベラ様は? まさか、殺してないよな?!?」

 森の屋敷でネストと対峙していたオルトゥス王を思い出し、俺は思わず問いかける。俺の慌てぶりにオルトゥス王は苦笑した。

「……処分したほうが良かった?」
「そんなわけ無いだろう、じゃなくてありません?」
「そう言うと思ったよ。エリザベラは自室で反省させている。監視にティシウスをつけているから下手なことはしないだろう」

 俺はほっと安堵の息をついた。ネストの時は俺が止められたけど、今回は気を失っていたからな。

「まったく君はどうして自分に危害を加えた相手を許せるんだか……」
「だって俺こうして元気だし、結果的に死んでないからいいかなって」
「そういう問題ではないと思うけどね」

 納得いかないと表情に現れてるオルトゥス王がなんとなく可愛い。
 あ、可愛いとか失礼かな? でもそう思ったから仕方ない。

「うーん、あ、オルトゥス王が助けてくれたから俺は恨んでないっていうのもあるかも、じゃなくてあります。ありがとうございます」
「……いっそ消してから助けたほうがよかったのか?」
「え?」

 深いため息とともにぼそりと呟いたオルトゥス王の言葉が聞こえず聞き返せば、身振りで何でもないと返事した。
 簡単な会話は表情と身振りで行う。サテンドラと俺の間の会話だ。

「オルトゥス王って……やっぱりサテンドラなんだな、じゃなくて、なんですね?」

 どことなく見知った姿に思わず呟いた俺の言葉に、サテンドラ…ではなくオルトゥス王は盛大にため息をついた。
 あれ? そんな呆れる様なことは言ってないと思うんだけど…。

「語尾を疑問形にするなら敬語にしないでいいよ。それだと喋りにくいだろう」
「ああ、そこか。じゃあお言葉に甘えて。ええっと、オルトゥス王って本当にサテンドラなんだよな? 兄上のことも思い出したけど、つまりあれってどういうことなんだ? あ、というか俺は魔法食べるの? それから…」
「カデル、とりあえず落ち着いて。順番に話すから」

 思わず前のめりになる俺の頭をオルトゥス王がぽんぽんと叩く。

 見た目も匂いも全然違うのに、目の前の人物がサテンドラだと何気ない仕草から認識できる。
 それはすごく不思議だけど、妙に安心できる感覚だった。
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