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第四章
103話
しおりを挟むまだ朝日も昇らぬ時間、俺はベッドから起き上がると身支度を整える。
とりあえずサテンドラの部屋を覗いてみよう、そう思い部屋の扉に手をかけた時、小さなノック音がした。
こんな朝なのか夜なのか判らない時間に誰だ?
俺はそう思いつつも静かに扉を開けると、そこに立っていたのはランタンを片手にもったサテンドラだった。
「サテンドラ!! お前っ……」
俺が声をかけようとすると、サテンドラは自分の口元に指をあてて、静かにするように身振りをする。そして俺にランタンを差し出してきた。
俺はランタンを受け取り、サテンドラの手元が明るくなるように照らすと「まだ寝ている人もいますし、今日も仕事があるのでこのまま私の仕事場にきてください」と黒板に書いた。俺が大きく頷けば、サテンドラは微笑み歩き出す。
サテンドラの後に続いて魔法転移の扉を通った先は温室だった。うちの屋敷にある庭園の温室よりもずっと大きいガラス張りの建物で、その中の木々の間を歩くと開けた場所に出た。
そこには大きな作業机を囲うように戸棚があり、ランタンがいくつも置かれていて、まだ日の出前だと言うのに十分明るい。これなら確かに朝早くから夜遅くまで作業が出来るだろう。
戸棚には乾燥した草花やいろんな色の液体が入った大小様々な瓶が置かれていて、机にはすり鉢だったり秤だったりガラスの試験管だったり、実験や精製に使うのだろう器具が置いてあった。他にも本やノートが端に山のように積んである。
サテンドラは俺からランタンを受け取り机に置くと、改めて俺に向き直った。
久しぶりに見たせいか、なんだか少し雰囲気が変わった気がする。
「お前、少し痩せたか?」
俺が思わず顔に手を伸ばせば、サテンドラは何度か瞬き、俺が触れるより前に黒板を手に取って「結構な重労働をしてましたからね」と書いて俺に見せた。
「王城ってどれだけ人手不足なんだよ。そうだ、お前ここに残るって本当なのか?」
さりげなく避けられた気がして、俺はサテンドラに触れようとした手を下ろし、一番確認したかったことを聞いた。
サテンドラは苦笑すると「カデルと他にも話したい事があります。お茶の準備をしますので少し待っていてください」と黒板に書いて、俺に見えるように机に置く。そして戸棚の横に置いてあった椅子を移動させれば、灰色のローブでざっとその椅子の埃をはらい机の傍に置いた。
一脚はすでに机の傍にあったので、俺のために椅子を用意してくれたんだと気付いた。
いつもだったら適当に座っててと言われるところだが、うちの庭園じゃないから気を使ってくれてるんだろう。
まあ、うん、リベルタースに戻らない理由はきちんと聞きたいし、ちゃんと話す時間が取れるなら俺は嬉しい。
「忙しいのに悪いな。……っと、机の上、少し片付けてもいいか?」
用意してもらった椅子に腰かけたら、ちょうど手の触れそうな位置に実験器具があった。
これはうっかり触って倒すぞ、俺。そう思ってサテンドラに聞くと、こちらに戻ってきて黒板に「壊さないように丁寧に、よろしくお願いします」と書いて木々の向こうに消えて行った。
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