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第四章
102話
しおりを挟むネストとラッツェが二日酔いから復活し、皆が集まった夕食の席で、クリスティア姫が「わたくし、オルトゥス王以外の方とも夫婦になりますの」と、当然のように一妻多夫を語りだしたのでネストが盛大に料理を吹き出していた。
魔法のことを秘密にするためだとは思うんだけど、 それでいいんですかクリスティア姫!??
俺は恐る恐るネストたちの様子を伺う。さすがに納得できないんじゃないかと心配になった。
特にミードミーは怒ったりしないだろうか……? オルトゥス王のことが好きだし、嫌な気持ちにならないだろうか?
「まさか、姫様がハロルドと……だと」
「ハロルド大出世っすね!」
「クリスティア姫はまさしく両手に花ですね。羨ましいです」
暴動が起きたらどうしようかとどぎまぎしながら皆を見守るも、ネストもラッツェもミードミーも、驚いてはいたがそれ以上の感情は無いようで拍子抜けするくらいあっさりと、どちらかと言えば好意的に受け取っていた。
これもクリスティア姫の人望のお蔭だろう。
「ふふ、婚礼の後からはハロルドも私付きの護衛になりますの。皆様まだこちらに滞在なさるようでしたら、是非ハロルドとも一緒に過ごしてくださいませ」
「どうしますか? カデル」
「え? …と、そうだな、特に急ぎの用はないけど、まあでも婚礼式後の話はまた今度決めよう」
突然話を振られ、考えることを後送りにして俺は答える。
いつサテンドラに会えるのか判らない。帰宅するのはサテンドラに会ってからにしたかったから、現時点で決めることが出来なかった。
夕食後は王城に来てから日課となっている、俺の部屋での情報交換という名の雑談をしてから、皆はそれぞれの部屋に戻っていった、はずだった。
「カデル、ちょっといいか?」
「ネスト? 別にいいよ。まだ寝ないし」
ノックの音で扉を開けると、部屋に戻ったはずのネストが立っていた。俺は部屋の中に再び招き入れる。
「もうすっかり二日酔いは良くなったんだな」
「……ああ」
「? どうかしたか?」
立ち話もなんだろうと思ったけど、ネストは部屋に入ったところで動く気はなさそうだ。なので俺もその場に立って話す。ネストが改めて訪ねてくるという事はラッツェ達に聞かれたくない話なんだろうか。
「お前、大丈夫か?」
「???? 何が??」
正面から見据えられ、ネストに真顔で心配される。が、俺は何を心配されているのかがわからない。
「何がって、さっきオルトゥス王に呼ばれて帰って来た時も真っ青だったし、夕食の時もうわの空だった。何かあったんだろ?」
う。さすがネスト、観察が鋭い。
確かにあったけど……ネストに話せることじゃない。
リベルターズで父さんの後を継ぐのはルード兄さんで決まっている。次点で兄さんと同い年のネストだ。
リベルタースはヒトの国と隣接しているし、ヒト族や弱い種族が多く住む地域なので団体での生活や秩序を重んじる。だからリベルターズ伯爵として必要な能力は強さだけでなく統制力や政治力……つまり頭脳も要求されるのだ。
だからこそ、俺が強くなりたいだけで伯爵になったら、ヘルデの街は大混乱になるだろう。
「えっと、大丈夫。あのさ、その、サテンドラがさ……ここに残るかもって聞いてさ」
「へぇ、サテンドラも大出世だな」
何も相談しないのはネストを心配させるだろう。俺はもう一つの心のつかえを話すことにした。
「うっ。そうだよな、出世だよな」
「そりゃそうだろ。お前そろそろサテンドラ離れした方がいいぞ?」
ううっ、周りから見ても俺はサテンドラに頼りきりなんだろうか。
「まあでも、それにしても急だな」
「っ!! だよな! 俺たちに挨拶もないし、水臭いっていうかさ」
「おれたちに何も言わないのはいつも通りだけど、カデルに無断ってのは気になるな」
「うーん、やっぱりそうだよな!!!」
もともと人付き合いは良くないサテンドラだが、俺に一言もないってやっぱりおかしいと思う。
「そうは思うけど……お前先走るなよ? ちゃんと確認しないで危険に突っ込む癖、そろそろ直さないと痛い目見るぞ」
ううう、その通り過ぎて耳が痛い。
思わず浮かんできたアルトレスト伯爵の姿に俺は首を激しく降る。
「とりあえずサテンドラに状況を確認してから、連れ戻す必要があれば手伝ってやる。一人で突っ走るなよ?」
「うう、ネスト。ありがとう」
「……ああ、もう置いていかれるのは嫌だからな」
そういうとネストは俺の頭を乱暴に撫でて、ちゃんと寝ろよ、と言い残し今度こそ自分の部屋に戻っていった。
メリー殿の話ではサテンドラは早朝部屋を出て行ったと言う。徹夜して待っていようかと思ったが、寝不足では冷静な判断もできなくなるだろう。
感情のままに「サテンドラと離れたくない」とか我儘を言ってしまうかもしれない。
「……明日の朝、待ち伏せるか。よし、そうしよう」
俺は気合を入れればすぐにベッドに潜り込み、眠りについたのだった。
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