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第三章
101.5話 幕間3(後)クリスティア視点
しおりを挟む「嘘に決まっていますでしょう。ハリーが居れば十分ですわ」
「嘘、なのか?」
「そこでどうして、わたくしに取られるくらいならと奮起できませんの?」
「……それは昔、私が自分の気持ちを優先して、大きな失敗をしたからだ。だから強引にことを起こして苦しめたくない」
「そのお相手は、カデル様ですの?」
「? いや、違うよ」
「では無駄なご心配ですわ。それこそ前回の失敗のせいでカデル様をないがしろにしているのでしたら、カデル様に失礼です」
「蔑ろになんてしてないさ」
「そうでしょうか? わたくしには表面だけで接しているように感じます。貴族の付き合い方ですわね。腹の中を見せあわない、探り合いの関係。相手の弱点がなければ仕掛けられない、そうではなくて?」
わたくしの言葉にオルトゥス王が押し黙ります。
「あの方は、貴方の支配をうけません。本当に嫌な事は嫌と貴方に言うことが出来ます。貴方にとってはそれも救いなのでしょう? オルトゥス王、カデル様は苦痛も厭わず、欲しいものを掴もうと考える方です」
「ああ……そうだね。それは判ってる」
「カデル様のことです、伯爵にならなくても強くなると、仰ったのではなくて?」
「なんで、それを……っ?」
「わかりますわ、あの方はそういうお方ですもの。貴方の力ではなく自分の力で、貴方の隣に立ちたいと、そう考えてらっしゃるのではないでしょうか。だから魔族の王からの力添えは欲しくないのですわ」
「私の……となりに?」
「ええ」
「あんなに、怯えているのに?」
「そうですわね。高い崖の上に立つと身はすくみますが、そこからの景色を見たいと思う方も多いと聞きます。怯えて見えるからと、その気持ちを恐怖だけととるのは愚かですわ。少なくともカデル様は貴方にお会いしたくてここにいるのだと、わたくしは思っております」
そもそもカデル様のあれは怯えではなく羞恥なのですけど。
暗雲立ち込めていたオルトゥス王の雰囲気も少し明るくなった気がいたします。
もう、本当にうだうだ言わずに押し倒してしまえばいいのに。そういうところはティス様の手の速さを見習っていただきたいですわ。
これはカデル様の方を焚き付けて、王に告白させた方が話が早いかもしれません。
わたくしはお二人を恋人にするため大作戦を考えることにいたします。そんなわたくしをオルトゥス王は顔を上げて見ました。
「クリスティア……君、いま何か良からぬことを考えなかったかい?」
「まあ、オルトゥス王は勘が大変よろしいんですのね」
「君は可愛く無害な淑女でいてくれ」
「お断りいたします。わたくしも数少ない貴方の意志にそむける者ですもの。自由にさせていただきますわ」
わたくしの願いを叶えてくださったオルトゥス王が幸せになれるよう、わたくし、全力で応援いたします。
「オルトゥス王、一応確認させていただきますがサテンドラ様は夕食には戻られまして?」
「無理だ」
「そうだろうと思いましたわ。でもいつまでもカデル様に秘密を隠し通せるとお思いにならない方がよろしいかと」
「……わかっている」
隠し事は時間が経つにつれて言い出しにくくなるもの。ですが、生きてきた時間が違い過ぎるオルトゥス王には王のお考えがきっとあるのでしょう。
……決して嫌われたくなくて、話していないのではないと信じております。
わたくしはスカートをもたげて王に礼をすれば、自分の屋敷に戻ることにいたしました。
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