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第三章

99話

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 我が王と、二人っきり……だ。

 意識したら顔が赤くなってくる。平常心、平常心だ。

「そんなに怯えなくてもいい。なにもティシウスみたいに取って食おうというわけじゃない」

 !!!!? っなんでここでそれを思い出させるんですか!!!

 俺は更に紅潮した顔を隠すために俯き、膝の上でぎゅっと握りこぶしを作る。とにかく早くこの場を切り抜けよう。

「あ、あのぉ……なにか、ご用件がっありますか?!」

 やばい、意識しすぎて声が裏返る! うううう、恥ずかしい。

「用事がなく呼び止めたら迷惑だったかな?」
「え? いえ!! そんな事は無いです!!!」

 どことなくオルトゥス王の声が憂いをおびていた気がして、慌てて顔を上げて否定する。
 顔を上げれば透き通った柘榴の実のような、綺麗な赤い眼があった。その瞳は俺を見て微笑む。

 !!!!???
 目の前に、王が居る!!! しかも、俺に微笑んで……!!

「カデル?? 大丈夫かい? まだ具合が悪いのか……医長に往診させよう」
「あ、いえ!! 大丈夫です!! 本当に元気なので!!!!」

 俺にとっては極上の微笑みに、思わず頭に血がのぼってぶっ倒れそうになった。
 王が心配してくださる。優しい。かっこよくて強いだけでなく、優しいとかズルすぎないか?

「そう? それならいいんだけど……」

 そう言つつ伸ばした手が俺の髪に、耳に触れる。

「ひっ……!」 

 がたんっ! と再び俺の座っていた椅子が勢いよく倒れた。
 オルトゥス王に触れられ思わず俺は身を引き立ち上がったからだ。

 アルトレスト伯爵に感じたおぞましさとは違う、なんというか、すごく恥ずかしくていたたまれない。

 その様子に王は目を細めると、俺の倒した椅子を直す。

「あ……も、申し訳ありません!!!」
「驚かせたね、座って。……呼び止めた理由はちゃんとあるんだよ。森の屋敷で私が言った事、覚えているかい?」

 どうしよう、不快な気分にさせてしまっただろうか? 

 すこし先ほどよりも声のトーンが下がったオルトゥス王の様子に、俺はどうしていいか判らず、とりあえず言われた通りに椅子に座りなおした。

「……あ、えっと」
「ネストから君を助けた時。私は貸しにすると言ったんだ」
「はい、覚えています」

 昨夜そのことをアルトレスト伯爵にも言われた。「何か王から俺が頼まれるのではないか」と。
 まさか王が俺に頼み事なんて、と思ったけど本当だったんだ。

「次のリベルタース伯爵はカデルが継いでほしい」
「なんで、俺が? ……ですか?」

 思わず敬語を忘れて返事をしてしまい、慌てて取り繕う。

「君は強くなりたいだろう? 伯爵は、まぁ強いからなれるというのもあるけど、伯爵の称号といえばいいのかな、表現が少々難しいが、それには身体能力や魔力を飛躍的に向上させる力があるんだ」
「それも魔法、ですか……?」
「ああ、私が作った魔法だ。ルトラの強さを知っているだろう。彼もリベルタース伯爵になる前は君と同じか……いや、君よりも指揮はとれていたから戦力としては君よりも優秀だったが、個体での戦闘だったら君と変わらないくらいの強さしかなかったよ」
「まさか、父さんが……」

 俺と同じくらいの強さだったなんて……あんなに強いのに。
 俺は思わずごくりと唾を飲んだ。
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