魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第三章

95話

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 白いガゼボには同じく白で統一されたテーブルと椅子があった。
 そういえばうちの庭にも母さんたちがお茶会をするためのガーデンテーブルがあったから、この椅子とテーブルも庭園でお茶会をする為のものなのだろう。
 テーブルにはこれまた白で統一されたティーセットが四客分用意されていた。

「私も今来たところだよ。今朝はゆっくり眠れたかいクリスティア」
「ええ、久しぶりに陽が昇ってもベッドにおりましたわ」
「そう、それは良かった。……カデルもゆっくり休めたかな?」
「え……っ!! は、え、あ、はいっ!!!!!!」

 きっとまた視界にも入れて貰えないだろう、と諦めていた俺は突然名前を呼ばれて、吃驚して、驚きのまま威勢よく返事をしてしまった。
 クリスティア姫がその様子にくすくすと小さく声を漏らして笑う。オルトゥス王も口元を抑えて横を向けば肩を震わせていた。

「ふふふ、カデル様、尻尾がびっくりして逆立ってますわ」
「はっ!! あ、すみません!!」

 俺は尻尾を掴み自分の腹に抑え込む。昨日はお前、俺の為に頑張ってくれたのに……今日はいつも通りだな。
 俺はあまりにも恥ずかしくて、心の中で尻尾に話し掛けながら俯いた。頬が熱い。絶対俺の顔は真っ赤になっているに違いない。

「うん、元気そうで良かったよ。どうぞ座って二人とも。ちょうどお茶が入ったところだ」

 優しい声に鼓動が早くなるのが判る。

 ……俺、喋っていいんだ。
 話していいんだ。

 どうにか落ち着こうとするが、あまりうまくいく気がしない。

 俺は顔を上げる事もできず、姫が席に座ったのを確認すれば、その隣の席に座る。

「今日は堅苦しいのは無しにしよう。そのほうがカデルも話しやすいだろう? クリスティアもそれでいいね?」
「もちろんですわ。カデル様、お顔をあげてくださいな」

 クリスティア姫とオルトゥス王が俺に気を使ってくれる。しかしこれは礼節を重んじて頭を下げているわけではなく、でもそれこそ恥ずかしいから顔を下げているというのは失礼になるのか?
 
「まあ、無理にとは言わないよ。カデルも彼なりに、私に顔向けしずらい理由もあるのだろうし」

 ぐるぐる考え動けないでいればオルトゥス王がフォローしてくれた。しかし優しい声だが内容は耳に痛い。ううう、耳も手で押さえてしまいたい。

 そんな気持ちを我慢していると、嗅ぎなれたハーブティーの香りがした。

「これって……!」

 サテンドラのハーブティーだ。

 俺が思わず顔を上げれば、こちらにティーカップを差し出しているオルトゥス王と目が合った。

「!!!!!!!!!!!???」

 俺は思わず立ち上がる。
 がたっと椅子が音を立ててしまい行儀が悪いと思ったが、そんな場合じゃない。

 王が、俺に、お茶を煎れている???!!

「どうかなさいましたの? カデル様」
「い、いや、え??! え? あの、お、オルトゥス王が、え??」
「私だってお茶くらいは煎れるさ」

 ええええええ? そりゃ、王だってお茶くらい煎れ……ないだろ? 王だぞ???? 魔族の頂点たるお方だぞ??

「好きでやってらっしゃることだそうですから、カデル様もお気になさらずにいただきましょう。今日も美味しいですわ」
「ありがとう、クリスティア」

 俺が直立して混乱してるのをよそに、二人は優雅に何の飾りもない白いカップを口に運んでいる。
 クリスティア姫を豪胆だといったロイド様の言葉がここにきてとても身に沁みた。

 俺は今度は音を立てないよう、静かに椅子に座り直しカップを手に取る。
 やはりサテンドラが良く用意してくれるハーブティーだ。
 蜂蜜を薄めたような色のハーブティーを一口飲むと、すっと心が落ちついてきた。俺はいつもサテンドラに助けて貰ってばっかりだな、とハーブティーを飲みながら改めて思う。

 ちょっと落ち着いてきたので俺は顔を上げて、オルトゥス王と視線が合わないように、王の首元あたりを見ることにする。

「落ち着いた?」

 王の声で再び心臓がぎゅっとなったが、俺は手元のハーブティーの香りで平常心を保つ。
 よし、なんとか耐えられそうだ。

「はい、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません」
「恥ずかしい……ああ、まあそうだね」

 なんだろう? 何か含みのある言い方……あ、昨夜の、こともあるから今のはそこまででもないってことなのかな?
 ちらりと視線が合わないように注意しつつ、オルトゥス王の様子を探ってみると、口元を抑えて視線をクリスティア姫へ向けていた。

 ああ、やっぱりそうなんだ。昨夜のは目もそむけたくなるようなものだっただろうし…………仕方ない。

 俺は知らずぎゅっとカップを握りしめていた手をほどき、自分の膝の上に両手を下ろした。
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