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第三章

81話

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 王城に来てからの日課となっていた俺の部屋での集会が済めば、明日に備えてしっかり寝ろよ、と釘を刺してネストたちは自分たちの部屋に戻っていった。

 しんと鎮まった部屋に一人になると、急に何とも言い難い気持ちに襲われる。
 不安とか心配とか恐怖とか、そう言ったモノとは違う、と思う。

 俺はベッドに仰向きで寝転がると、既に数え終えてしまった天井に描かれている小さな花模様の数を数え始める、でもすぐにそれもやめ、ごろんと横向きに寝返りをうった。

 明日、晩餐で我が王とクリスティア姫の姿を見ることになるだろう。俺は父さんの代わりに伯爵として二人に近い位置で控えることになる、とセルドレット殿から伝えられている。
 父さんが用意してくれた衣装はそのまま着用していいそうだが、それに足して伯爵位を表す片肩マントとかブーツ、ベルトなど指定されている衣装を身につけなければならない。
 準備は手伝ってくれると言われているのでそこに不安はなかった。あと礼儀作法なども付け焼き刃だが教えてもらえたので、リベルタース伯の名を汚さないで済むと思う。

「父さん、これ判ってて絶対に服を用意したよな」

 ウェスペルの森の屋敷のことといい、晩餐会のことといい、ちゃんと教えておいてほしかった。こういう時に頼りになるサテンドラも今は傍にいない。
 小さい時から何かあれば博識のサテンドラに聞けばどうにかなった。サテンドラは父さんと王城へ行くこともあったからずっと俺の傍にいたわけじゃないし、今回みたいに数日会わないことだって今までで何度もあったけど。
 ……―― 正直凄く心細い。サテンドラに会いたい。

「いやいや、いつまでも頼ってたら駄目だ……」

 子どもじゃないんだから、サテンドラ離れしないと。
 そんな事を考えながら、ふと包帯の巻かれた右手を見る。

 明日、エリザベラ様も出席するんだろうか。
 エリザベラ様がオルトゥス王とクリスティア姫を祝う事は……出来ないだろう。さすがに晩餐会で暴れる事は無いと思うけど、クリスティア姫に危害が及ばないよう気をつけないといけない。

「あ、いや、もう俺は気にしないでいいのか」

 俺は身体を起こしてベットに座った。
 そうだ、もうクリスティア姫のことはオルトゥス王が守ってくださる。だから、俺は、もう。

「必要ない」

 言葉にすると、ひどく気持ちが落ち込んだ。
 また会えたなら子どもの時の記憶のように、優しく声をかけてもらえると自惚れていた。現実では俺は相手にもされなかった。

 今までの王との記憶は、もしかしたら俺が勝手に夢見た妄想だったのかもしれない。

「いや、さすがに、それは……」

 もやもやとした気持ちが体の中をぐるぐるとする。なにが俺の気持ちをこんなに落ち込ませるんだろう。

「ああああああああ! やっぱ考えても判らないし!! 俺にこういうのは向いてない!! そういう時は情報だ! 情報収集しよう!!」

 俺は気合を入れると、ベッドから飛び起きる。部屋の衣装棚に置いてあった剣を取れば、とりあえず素振りをすることにした。
 もちろん室内でやることじゃないが、夜の庭で剣をふるってなんていたらそれこそ不審者だ。部屋の中だがここは十分すぎるほど天井は高いし広い。素振りする位なら全く問題だろう。

 幸いなことに、情報源はある。それを使わない手はない。
 明日の夜、アルトレスト伯爵の部屋に行こう。

 俺は素振りをしてすっきりしてきた思考でそう決心すると、その日はぐっすり寝ることが出来た。
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