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第三章
77話
しおりを挟む「その火傷、僕が診てあげるよ。一緒においで」
立ち上がり、すっかり元通りになった謁見の間から出ればアルトレスト伯爵に再び声をかけられた。
そういえば右手、結構血が流れてる。さっきは夢中だったから意識しなかったけど、こうなってくるとただれた皮膚が尋常でなく痛い。
「はぁ? そんなの自分で治しなさいよ!! そうよ!!! だから、アンタさっき何したのよ?」
「さっき……って?」
アルトレスト伯爵の横で、両手を腰に当てて黒髪の少女が憤慨したように俺に食ってかかる。
この子結局、オルトゥス王のなんなんだろう。伯爵たちとはまた違う、気がするけど「パパ」って呼んでなかったか?
「あたしの炎よ! あとなんでアンタなんかがあたしの命令を聞かないのよ!」
「炎は、ええと、魔法を奪えるって思ったから実行しただけで、良く判らないです。命令は聞きたくなかったから聞かなかったし聞く必要もないと判断しました」
「はぁ??! 何よそれ!」
「んーっと、エリザベラよりもカデルの方が魔法の才能があって、僕たちの命令は魔眼をもっているカデルやクリス姫には効かないってことだねぇ。魔眼の話はちゃーんと僕したよね? だから二人は騙せないよって教えたじゃないか」
「あたしはずっとパパの代わりをしてきたのよ! 知ってる人以外、誰にもバレなかった! それがこんな犬と小娘に見破られるなんて思うわけがないでしょ!!!!」
そういうとエリザベラ様は俺の頬をまた平手打ちしようとした。ので、その手首を掴んで止める。
「なっ!!!」
「……いやもう、クリスティア姫を守る必要もないし、無駄に殴られる必要ないかなって」
「どうせアンタ、自分の方がパパに愛されてるからって調子に乗ってるんでしょう! さっきなんてぜーんぜん見ても貰えなくて可哀想にね……って、いたぁあああい!! 放しなさいよ!」
エリザベラ様の手首をつかんだまま俺は首をかしげる。思わず掴む手に力が入ってしまったらしく、エリザベラ様がジタバタ手を振りほどこうとしたので力を少し緩めた。
「えっとぉカデル、エリザベラはオルトゥスの娘だから、一応大事にしてあげてね」
アルトレスト伯爵が俺の疑問に気付いてくれたのか、教えてくれた。
なるほど、そう言われてよく見ると、確かにクリスティア姫に少し似ている気がする。きっと何番目かのエスカータの姫と我が王の娘、なんだろう。オルトゥス王に娘がいるとか妻がいるとか聞いた事はなかったけど、単純に俺の勉強不足、知識不足なだけなのかもしれない。
新しい花嫁のクリスティア姫に嫉妬したからさっきのような行動にでたのか。子どもが親を取られるのは、それは悲しいよな。なんかすとんと賦に落ちた。
俺はエリザベラ様の手を放す。
「失礼しました、叩いてもいいですよ。それでエリザベラ様の気が済むならどうぞ。だからこれ以上クリスティア姫とオルトゥス王の邪魔はしないでください」
「はぁあああああ??? アンタほんとに! 大嫌い!!!!!」
エリザベラ様はそういうと、なんと俺の腹にヒールをめり込ませてきた。
小さな体だから体重が全部のっても俺が転ぶとか、そんな事にはならないけど、結構痛い。
俺に蹴りを入れればエリザベラ様はやはり足音荒く、廊下にヒール音を響かせながら立ち去って行った。
よろけた俺と、そんな俺を後ろから支えてくれたアルトレスト伯爵が取り残される。
「内臓だいじょーぶ?」
「……多分。そこまでひ弱じゃないです」
「ま、とりあえず医薬室にいこう。ここで治してもいいけど暫く滞在するなら使う事もあるかもだし、場所を案内するよ」
何だか妙に普通で優しいアルトレスト伯爵の行動に不気味さを感じるが、たぶん、これは憐れんでくれているんだろう。
オルトゥス王に声どころか視界にすら入れて貰えなかった俺への気遣いは、先ほどのことが俺の気のせいでなく現実なのだと知らしめてくれているようで、とても居心地が悪かった。
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